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世界の中心で、変化を肌で感じる若者は、今こそアメリカ大陸へ行くべきだ

今、世界は大きな変化を迎えようとしている。だが日本でニュースを見ていても、世界の話はどこか遠いことに感じてしまうだろう。一方、日々の暮らしにおいてもこの変化を実感できるのが、世界の中心と言えるアメリカである。アメリカ大陸での生活は価値観を大きく変える経験になるはずだ。今回の座談会には、社外取締役 吉川欣也がアメリカから、取締役CSO 九頭龍雄一郎が日本から、そしてまさに今カナダでのチャレンジをスタートしたエンジニア康育哲が参加し、アメリカの動向から、海外でチャレンジする価値について語った。

アメリカが“冬支度”を始めている

吉川 2022年も後半になって3Qの業績が公表されましたが、Googleやマイクロソフトをはじめとするメガテック企業の売上が鈍化していることが見えてきました。特にGoogleはWeb広告事業を掌握していますから、全体的に企業の広告出稿が止まり始めていることを察知して、新規事業やエンジニア採用を停止したのでしょう。かつては、インテルなど半導体企業の生産調整から景気を判断していましたが、今その指標となっているのがこれらの企業ということです。シリコンバレーではいろいろな企業が、これからリーマンショック以上に悪化するのではないかと“冬支度”を始めています。

具体的に言うと、ベンチャーキャピタルなどが投資をセーブするようになりました。手持ちのキャッシュでできる限りいいスタートアップに投資するために、どこがベストなのかを見極める「我慢大会」のようになっています。どこも同じ状況なので、焦って投資する必要もありません。こうなると、ダメな会社が一度つぶれて、全体的にきれいになるんじゃないかと思います。一方で、起業家マインドのある人は常にやりたいことがありますし、数千万から1億でやれるところは常に動いています。最近は、サステナブルや人の権利を守るためのセキュリティ、フードロス、ウェルビーイングなどのテーマが注目を集めていて、これからは技術そのものよりも、人にテクノロジーをどう使うか・人間の課題をどう解決するかが中心になりそうです。

https://www.bloomberg.co.jp/news/articles/2022-10-25/RKBSPJDWRGG001

https://www.nikkei.com/article/DGXZQOGN1488U0U2A011C2000000/

https://toyokeizai.net/articles/-/625439

康 カナダにもスタートアップ企業は多くあり、バンクーバーなどではAIやWebセキュリティなどで先行する企業も見られます。特に数年前からはシリコンバレーでのコスト高騰などを受けて、カナダに移動してスタートアップを立ち上げるケースも多いと聞きました。

九頭龍 アメリカが冬支度を始めているという話ですが、日本はさらに悪化する一方だと感じています。私が2011年に渡米したときは円高でしたが、それでも日本の給与は安いと思っていました。そこから10年経ってもほとんど給与が上がっていません。経済成長も明らかに日本が劣っていて、しかもこの円安です。ポジティブな変化はなく、差はひらくばかりです。

「先進国の真似をして打って出る」かつての日本と同じ意識を

九頭龍 こういうことを言うと嫌がられますが、60~70年代に日本が世界に向けて持っていた意識が必要になっていると思います。先進国の真似をして、さらに良くして打って出る、ということですね。当時は今よりも為替事情が厳しく、日本製で出す意味が大きかったとは思いますが、それを真似しなければならない時代になっています。

海外では、資本力のある企業が大きなお金を動かして、日本の100倍の人員を注ぎ込んでいて、そのなかで戦うことになるので、誰でもできることではありません。ですが、そこで勝ち残れたら、海外で確実にビジネスが成立しますし、大きな意味があるでしょう。

吉川 今、日本では円安が騒がれているけれど、アメリカにいるとアメリカで完結しているので世界のことなんて気にしていないと分かります。ただ、日本は70年代の円が安かった時代のように攻めれば、いい話も出てくるでしょうし、必ずしもネガティブな要素ばかりではないでしょう。特にスタートアップには常にチャンスがあります。

九頭龍 日本のエンジニアが技術力で負けているとは思わないので、できることはありますよね。先日もこの話をしましたが、私自身、日本では大ざっぱな方だと思っていたけれど、シリコンバレーのグローバルで雑多ななかに入ると「緻密で口うるさい人間」になります。B to Bビジネスでは信用や信頼が重要ですし、日本のエンジニアのきめ細かさなどは強みです。このところずっと言われているDXも本来、日本が強い分野だと思います。

たとえば、タスク管理ツールひとつとっても数多くのサービスや製品が出ていますが、イマイチだなと思うものも少なくありません。シリコンバレーで何百億も出資を集めていてもこのクオリティなのかと思う製品もなかにはあります。つまり、もっといいものができるかもしれないのに、チャレンジしていないだけなんです。この状況を打破したときには、すごく強みのあるプロダクトを世界に向けて出せる可能性は十分あります。それこそ、かつて日本が製造業で世界に恐れられ始めた時期と同じことを、IT業界で起こせるのではないでしょうか。

経済の変化を肌で感じられることの価値

九頭龍 2nd Communityでは現在カナダ拠点設立を目指していますが、会社として考えれば必ずしも海外拠点がマストとは思っていません。今はオンラインですべて解決しますし、実際、今日も吉川さんがアメリカにいるのか、日本にいるのか分からないまま声をかけていますし。

ただ、2nd Communityでは、アメリカやカナダの現状を“肌感覚”で理解するために受託開発案件の獲得を目指しています。そのときのフックとして現地拠点は大きな意味があると考えています。

吉川 個人レベルでの話をすると、アメリカの力は実際に住んで体感してみるといいと思います。やはりアメリカは世界“最強”の国で、将来どこに住むか分からなくても、一度見る価値は大きいです。経済が強い国にいた方が、現状の“ヤバさ”を肌で感じられますから。日本で暮らしていると「世界経済が悪化しそうな気配がある」と聞いても、本当かなという感覚かもしれませんが、こちらだと日常生活でもその気配が感じられます。この雰囲気を感じるには現地で生活するしかありません。

康 実際にカナダに来て、日本よりも物価が高いことなどは実感しています。たとえば、マクドナルドをUber Eatsで頼むとしても、日本とは全然値段が違います。

オンラインですべて解決するというのも事実で、実際私はカナダで日本の2nd Communityの仕事をそのまま続けています。ただ、経済の変化を受けて生活がどう影響を受けるか、なにがどこから変わっていくかは現地で暮らしているから分かるのではないかと思います。私はまだ現地に馴染むのに精いっぱいですが、これからいろいろなことが見えてくるのではないかと楽しみです。

日本とは違う、シリコンバレーが持つ強さ

吉川 日本は、失われた20年とも30年とも言われますが、これがそのまま“失われた50年”になることも十分あり得ます。だからこそ、若い人こそ絶対に世界を見ておくべきです。

たとえば、シリコンバレーではスタートアップのレイオフ状況などのデータが共有されていて、スタートアップが投資を受けるには、「同じ業種でこれだけレイオフが出ているのに、なぜ自分のところは大丈夫なのか」をロジカルに説明することを求められます。逆に、これだけの人がレイオフされているのに、なぜ優秀な人材が来ていないのかということも聞かれます。こういったデータをみんなが共有していることがシリコンバレーの強さで、このなかでどうこの嵐を抜けるかを話せることが良さですね。この環境を実際に見ることは大きな経験になるでしょう。

九頭龍 こういうデータは、投資する立場の吉川さんだから入手できるものと思うかもしれませんが、シリコンバレーにいると1エンジニアにも回ってきます。それが日本との大きな違いです。

吉川 かつては日本でも景気が悪い時代世界に出稼ぎに出ていましたが、今はもっと簡単に海外に行ける時代です。格安航空を使えば、東京からSan Joseまで片道3~4万円ほど。年末などはもう少し高くなりますが、下手すると国内より安いレベルなので、やる気次第でチャンスはいくらでも作れます。こうやって世界で活躍する若い人たちが外に出る支援をするのが、これからの私の仕事ですね。

「行ってから考える」でもいい。自由に動けるのは若者の特権

九頭龍 どういう人が海外に向いているかというと、なにか壁にぶち当たったときに、自分で考えて乗り越える素養がある人だと思います。私がシリコンバレーに行ったときは非効率なことをたくさんして、サポートがあればしなくて済んだ苦労もたくさんしましたが、そういった事態を楽しめる気持ちも大切です。日本が嫌いで、別の可能性を模索することを大切にしたいというメンタリティでいいと思います。

2nd Communityでカナダに行ってもらうとしても、会社にどう貢献できるかとかは、正直あまり気にしていなくて、その人が成長すれば、巡りめぐって最終的にメリットになると考えています。情けは人のためならず、ですね。

康 カナダ拠点でどう活動していくかはまだ手探りですが、逆に言えば、いろいろと自由に動くこともできます。2nd Communityというバックアップや、ダメだったときに戻れる場所を確保しながら海外でチャレンジできるのは、かなりいい条件と言ってもいいのではないでしょうか。今は、円ベースで給与が出ていますが、これからカナダ支社を設立し、現地案件を受注できればドルベースでの給与にしたいと考えていますし、スキルなどにあわせて給与面を交渉することも可能です。こういったスタンスの会社が後押ししてくれるのは心強いです。

吉川 私はシリコンバレーでコンサルタントをしていますが、“どこで”語るかは思った以上に重要です。都内でシリコンバレーについて語るより、シリコンバレーにいた方が、説得力があるでしょう?「カナダで3年頑張りました」となればそれだけでも箔がつくでしょうし、給料が上がるかもしれません。「レバレッジを効かせるために、一度チャレンジする」でもいいんですよ。

もちろんそれだけではなくて、カナダの大学でAIなどを学んでもいいですし、現地に行ってから次のチャンスを探してもいい。柔軟に考えられるのは若い人の特権です。

九頭龍 理系的な考え方ですが、ある問いに対して答えを探索するときには、正解がありそうな方向に少しずつ進めていくより、まずはダイナミックに進んで、そこから調整する方が効率的とされています。人生も同じで、まずは一気に大きく飛躍してチャレンジした方が効率的だと私は思っています。ダメなら戻れば大丈夫ですし、海外が気になるなら、今こそチャンスなのではないでしょうか。

プロフィール

吉川欣也

起業家・投資家・株式会社REPUBLI9代表。日本インベストメント・ファイナンス(現大和企業投資)、独立系のシンクタンクを経て、1995年にデジタル・マジック・ ラボ(DML)を設立。Apple、Fedex、ファミリーマート、プリンスホテルなど大手企業のWEB構築やコンサルを手がける。DMLの社長・会長を歴任し2001年退社。1999年に米国San Joseに設立した IP Infusion 社(次世代ネットワークソフトウエア開発)を創業、2006年に同社を5千万ドルでAccess社に売却。その後、Miselu((米国San Francisco)) / Golden Whales (米国San Mateo)の創業者兼 CEOを経て、2019年11月に株式会社REPUBLI9を創業。著書『テクノロジーの地政学 シリコンバレーvs中国、新時代の覇者たち』(日経BP社)の共著者など

九頭龍 雄一郎

エンジニア・経営者・株式会社2nd-Community/CSO。東京工業大学大学院 電気電子工学(修士)。日本の大企業からシリコンバレーのスタートタップまで多種多様な千尋の谷に落ちた経験を持つ。株式会社2nd-Community/CSOの他、株式会社ClayTech Founder/CEO、監査役DX株式会社 Co-founder/CTO, 株式会社スイッチサイエンス取締役、東北大学客員教授、東京工業大学非常勤講師、武蔵野美術大学非常勤講師、他複数社の顧問などを務める。

康 育哲

システムエンジニア。北京化工大学大学院修了。博華科技株式会社(中国・北京)にて機械診断システム開発、横河電機株式会社中国子会社(中国・北京)にて産業自動化システム開発、FuturMaster(中国・北京、本社フランス)にてサプライチェーン管理システム開発を担当。2016年来日でゼータ株式会社にて企業向けの受託開発および自社AI製品の開発に参画。2020年2nd Communityに入社、お問合せチャットボットやSQSQシステムの開発を担当。2022年8月よりカナダへ移住。

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