元講談社のベテラン漫画編集者が、IT業界で新たなマンガ市場を切り拓く。オリジナル漫画レーベル「ジヘン」立ち上げ秘話

スマートフォンアプリの企画開発を手がけるNagisaが、2017年4月8日、満を持して本格青年漫画レーベル「ジヘン」を創刊します!「ジヘン」は、無料の漫画アプリ「マンガZERO」内で公開され、今後毎月2回のペースで作品が更新されていきます。

社内に漫画編集部を立ち上げ、漫画編集者の採用や作家の発掘など、まさにゼロからのスタートだった「ジヘン」。今回は、マンガ事業部責任者で取締役の井上大紀と、ジヘン編集者の鹿島拓也二人へのインタビュー形式で、「ジヘン」立ち上げ秘話をお届けします!

漫画アプリ市場が過熱してく中、差別化を図るため、早い段階でオリジナル漫画の構想を持っていた


まずは井上さんに、オリジナル漫画の構想を描き始めた頃のお話をおうかがいできますか?

(井上)はい。オリジナル漫画を作ろうと思った一番の理由としては、他社との差別化です。「マンガZERO」という漫画のプラットフォームアプリを約2年間事業展開していく中、競合の参画も増え、市場の過熱を感じていました。ZEROの掲載作品が、他社の漫画アプリでも掲載されていて、今後もそれが増えていくことが予想される中、ZEROでしか読めない作品を増やしていくことが絶対的に必要になってきました。出版社との交渉力を増し、ZERO限定の作品を提供してもらう方法もありますが、中長期的に考えた時にやはり自社で作る完全オリジナル作品を持つべきだと考えました。

もともとスマートフォンアプリプレイヤーであるNagisaで、「漫画を作る」という新しいチャレンジに踏み出したんですね。

(井上)これまで様々なスマートフォンアプリを開発し、プロダクト作りの実績を積む中で、その中身であるコンテンツの重要性については兼ねてから認識していましたし、他事業部では既にコンテンツ制作の実績はありました。なので流れとしては自然だったし、「マンガ事業部もそのフェーズに来たな」っていう感じでしたね。

外注での漫画制作も進めていたが、、、


では実際、ゼロからの漫画制作はどのように始めたのですか?

(井上)外注での漫画制作と社内での漫画編集部創設と、並行して始めました。それが2016年1月頃だったかと思います。編集部創設は採用に時間がかかるのは目に見えていたので、まずは外注で漫画制作を請け負っている会社に依頼をし、漫画制作にとりかかりました。ただ、外注で進めていた数作品は、結局完成に至りませんでした。

外注が上手くワークしなかった理由はどこだったんでしょうか?

(井上)外注の場合、「納品」というゴールがあるんですけど、僕たち側からしたゴールは「面白い漫画を作ること」で、後者を追求しようとすると際限がないんです。ストーリーや絵のクオリティを追求しようとすればする程、手直しの回数も時間も重ねることになり、外注先がそれにどこまで付き合えるか。先方も商売ですし、この辺りに温度差を感じ始めてしまいました。それでやはり、同じビジョンとモチベーションを持ち続けられる編集部を社内で創設することに、より注力するようになりました。

それで2016年7月に、鹿島さんが編集者としてjoinされるわけですね。採用の際に重視したポイントはどこだったんでしょうか?

(井上)一番重視したのは、とにかく漫画作りにおける経験が豊富な「漫画を作るプロフェッショナル」であること。僕たちに、「漫画を作るとはどういうことなのか」という根本的なところから教えてくれる人を求めていました。僕たちはアプリのプロではあるけれど、そこは全くの素人でしたから。それと同時に、僕らITベンチャーの考え方や事業戦略にアレルギーなく理解をしてくれる人、という点も重要でした。優秀な編集者ほど出版社が離さないので、採用は簡単ではありませんでしたね。

本質的な漫画作りがここで出来るのかを問いたかった


私も鹿島さんとの出会いは本当に奇跡だったと思っています…!鹿島さんは、この募集を目にした時どう感じられたんでしょうか?

(鹿島)求めていたものがやっときたか、という感じでした。自分は講談社で14年程漫画編集に携わっていて、モーニングやイブニングを担当していたんですけど、(下げ止まりはあるにせよ)紙は衰退の一途を辿り始めたことは肌で感じていた。絶対にWEB等のITの分野への進出は必要だと思い、講談社を出てITベンチャー2社でオウンドメディアの編集長として立ち上げを手がけたりしていましたが、自分はいつか漫画の世界に戻ることは決めていたので、いつか来るその日のために、出版社との関係を続けたり、漫画学校の講師をする等、紙とWEBのバランスをとり続けていました。そんな中このアプリ発の漫画レーベル立ち上げのプロジェクトを知り、ようやく!という気持ちでしたね。

(鹿島)井上さんと初めてお話をした時、「漫画をゼロから作り出したい」という気概を感じました。漫画編集の知識は持っていないにしろ、IT×漫画のビジョンを明確に持って、編集部を作りたいという意志を強く持っていることが伝わってきて、是非とも組みたいな、と思いました。

(井上)初回でしたけど、2時間くらい話し込みましたよね!結構真剣に、漫画作りについて意見を交わしました。鹿島さんに会うまでは、出版業界に長くいた方だし、年齢も(Nagisaのメンバーに比べて)上だし、固い方かなーと思っていたんですけど、第一印象はすごい若いなと(笑)見た目もそうだし、中身もITベンチャーにいらっしゃっただけあってフランクで柔軟性も感じられたし、この人となら0から編集部を立ち上げられるかもと感じました。

漫画編集部の立ち上げ時代。ITと出版の業界の違いを痛感。


それで2016年7月に、鹿島さんがNagisaにjoinしてくださったんですよね。違う業界での漫画編集の業務のスタートはいかがでしたか?

(鹿島)このタイミングで、これくらいの数の作品を出していきたい、という事業部の戦略を聞けば聞くほど、これは即動かないとヤバい、絶対に間に合わない、って焦りました。IT業界の人たちが引く時間軸と制作数と、自分のような編集との間で、圧倒的な感覚のズレがあったんです。普通漫画を作るのって、ゼロからコミュニケーションをとる作家さんと作るのであれば、3~5年かかる。かなり密にコミュニケーションをとってきた作家さんですら、半年〜1年かかるものなんですよ。

あれ…?でも鹿島さんが入社してから今回のレーベルの立ち上げって1年もないですよね…?

(鹿島)1年未満ですが、4月に5作品を出します。漫画編集の先輩に言わせると「異常だ」と(笑)4月に出すのはまず5作品ですけど、今実働している作家さんは23人程います。

23人!鹿島さん一人でですか?!

(井上)実働してるのは23人ですけど、コンタクトをとっている作家さんで言うともっといますよね。

(鹿島)「ジヘン」で書いてもらうための畑は耕しておかないといけないですから。作家さんが重い腰を上げて仕事をしてくれるまでのコミュニケーションの部分って、めちゃくちゃ長いんですよ。人気でひっぱりだこの作家さんは、各出版社が順番待ちをしてる。それをどううちで描いてもらえるかの戦略を立てるわけです。

その作家さんたちは全て、鹿島さんのこれまで培ったネットワークからつなげているんですか?

(鹿島)これまで関わった作家さんはもちろん、編集仲間や専門学校、全国のコミケとか、あらゆるところからつなげています。結局、信頼がすべての業界なので、誰かしらからつなげてもらって、接点を作ってから口説きにかかります。

お互いがITと漫画編集の間に立ち、歩み寄りをしていこうと決めた


井上さんも、編集業務には関わっているんですか?

(井上)僕自身も編集の現場にどんどん入って、作家さんや編集について学ばせてもらい、出版業界への理解を深めていきました。今後Nagisaが本格的に漫画を作っていくにあたり、役員レイヤーである自分が本質的な漫画作りの現場を学ぶ必要性を強く感じたんです。他にも校了作業を手伝ったり、専門学校に作家さんのアシスタント探しをしたり、事務みたいなこともしています。

(鹿島)そうやって井上さんがこっちの業界の仕事の進め方を理解してくれるように、自分もIT業界の人の仕事の振り方とかを学び、お互いがIT側の人間と漫画編集との間に立って歩み寄りをしていこう、というのは井上さんと話しましたね。

具体的には、どういう部分で感覚の歩み寄りが必要だと感じたのでしょうか?

(鹿島)たとえばスケジュールの感覚。漫画ってスケジュールがあってないようなものなんです。今から案を練りはじめて、いつまでにこれだけ納品するっていうことが、最初の時点では読めない。作家さんは、ひとつの作品を描くために自分の全エネルギー、全財産、全時間を費やしますから、そんな作家さんに、ビジネスライクに「このスケジュールでやってください」「はいわかりました」とは行かないんです。どちらかというと芸術家のような仕事です。

スケジュールを引いて、そこから逆算していくやり方に慣れている私たちからすると、感覚のギャップは確かにありますね。

(井上)これは実際の編集作業を経験する中で気付いたのですが、ベンチャーと漫画作りでは「効率化」という概念の有無が一番大きいなと思っていて。ITの業界ではテクノロジーや柔軟な発想、時にはお金を使って効率化を図り、時間軸を早めていくことが常識ですが、作家さんたちに「効率化」なんて概念はない。いいものを、どれだけ時間と労力をかけてこだわりきれるかなので、その結果時間軸は大きく変わる。KPIやスケジュールという話ではないんですよね。

とは言え、この短期間でレーベルの立ち上げに至ったのは、どういう方法を取ったんですか?

(鹿島)その辺は編集のノウハウになってくるので、詳しくは企業秘密です(笑)ただ、作家さんのクリエイティビティを出来る限り損ねない方法で、僕の方でサポートをしてきました。今後作品も増えて、作家さんも増えて、さらに編集も増えていけば、やり方も変わってくると思います。ただ今は創刊の時期なので、多少の無理はしないといけないと思ってやってきました。

講談社の名刺では出会えなかった作家さん達との出会い

作家さんたちの反応はどうだったんでしょう?

(鹿島)体良く笑顔で断られることは沢山ありましたよ(笑)「今は忙しくて…」とか「もう少し編集部組織ができたら…」とお断りされたり。でもそこは、色々な知り合いを当たったり、全国のコミケを回ったりして、とにかく沢山の作家さんと会い、理解と興味を示してくれる人を探しました。作家発掘のため、それこそ何万という作品も見てきました。そこで出会えた方で「ジヘン」に合いそうな作家さんに名刺を渡しても、9割9分やってくれないんですが、地道に口説き落として行くしかありません。

でもそういった出会いの中で、「ITの世界だとしても、紙の業界の漫画の作り方を理解している編集がついてくれるのであれば、勉強させてもらいたい」と言ってくれる新人さんが出てきたんです。彼らが同じく言うのは、「僕らに紙の業界に行ける力があると思っていなかったので、恐縮です」と。僕からしたら、行ける力は持っているのに。でもこれは新しいマッチングだな、と思いました。業界としてはITというライトな入り口ではあるけれど、中にいる人間は経験を積んでいて、きちんとしたノウハウを勉強できる、というのが魅力に映ったんですね。きっと彼らは、講談社の名刺を渡しても連絡はくれなかったと思います。そういう能力者を見つけられたことも、「ジヘン」の価値だと感じています。

創刊はまだまだ道半ば。来年の今頃、ようやく真価が問われる


本当に沢山の困難を乗り越えながら、今回のレーベル創刊に至ったんですね。創刊間近ですが、今のお二人のお気持ちを聞かせてください。

(井上)編集者の採用から始まり、ようやくここまで来たかという感慨深い気持ちと、まだまだ道半ばで浸っている場合じゃない、という気持ちと、両方ですね。鹿島さんがうちに来てくれて、途中喧嘩みたいなこともしながら(笑)、ようやくここまで来たか、とは思うんですけど、これが僕たちのすべてだと思われるのはすごく嫌。4月のオープンを皮切りに、今後さらにレーベルが大きく成長し、素晴らしい作品がジヘンから創出されるイメージが僕ら二人の中でできていますから。アプリの場合はリリースがひとつのゴールであり成果物なんだけど、本当にここからですね。

(鹿島)僕はほとんど後者ですね。感慨深いとかよりも、まだまだ道半ばだと。

(井上)鹿島さんはそうかもしれないけど、ぼくはやっぱり3割くらいは(感慨深さが)ありますよ(笑)

(鹿島)前に井上さんと話してたんですけど、おそらく来年の今頃に、レーベルの作品がなんらかの形でまとまると思うんです。電子書籍とか。その時に作家さんたちを招いて懇親会をやりたいと思ってるのですが、その時が一番こわい。

怖い、なんですか?嬉しいではなくて?

その時が、要するに作家さん達から僕たち編集部に対しての通信簿なんです。出版業界で作品を描いている人もたくさんいるので、1年間やってきた上で、僕たち編集の働きやレーベルのブランド力などを比較され、どう評価してくれるのか。それは怖いことでもあるけれど、真摯に受け止めなきゃいけないと思っています。そこからようやく、他の出版社さんたちと同じ目線に立てるし、レーベルのブランド力も増してくるはず。

ブランド力が増してくれば、さらに作家さんも増えてきますよね。それと同時に、「ジヘン」発の人気漫画家さんが生まれてくれば、嬉しいですね!

(鹿島)そうですね。それができて初めてレーベルって言えるんじゃないかなって思います。

今日は沢山のお話を聞かせていただき、ありがとうございました!


今回のインタビューを通し、私自身が一読者として「ジヘン」の作品を読むのがとても楽しみになりました。編集部のお二人や、作家さん達のたくさんの熱意が詰まった「ジヘン」に、みなさまも是非期待していてくださいね!

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