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カスタマージャーニーマップはどう使う?「幸せハンス」と「わらしべ長者」で考えるマップの役割

童話をカスタマージャーニーマップにすることで、役割を考えてみました

こんにちは、UXディレクターの川北です。A.C.O.ではユーザーリサーチをする際、ユーザーを理解するために、カスタマージャーニーマップなどのツールを取り入れています。ユーザーの体験をマップとして可視化することは、物事を客観的に分析して全体像の把握をしたりチームメンバーが共通の認識を持つためにとても有効な手段です。

しかし、マップで可視化すると満足感があるため、仕事をした気分になってしまったり、そもそもの目的を見失ってしまうことがあります。マップは次のステップへの1つの手段で、マップを元に考えて分析をして発見のために役立てるものですが、実際にどのような役割があるのでしょうか?

本記事では2つの物語「幸せハンス」と「わらしべ長者」それぞれをカスタマージャーニーマップに可視化し、マップの役割について考えてみたいと思います。物語を分析するシリーズの第2弾です。*1 前回の記事:IA(情報設計)視点でみる、赤ずきんはなぜ花畑に寄り道したか?

まず、「幸せハンス」と「わらしべ長者」のストーリーをそれぞれマップにし、次にそのマップを使って実際に分析をしていきたいと思います。

2つの物語を比較するためにカスタマージャーニーマップを作ろう

今回は「幸せハンス」と「わらしべ長者」の2つの物語を選びました。どちらも「物を交換する」ことがテーマですが、ストーリーの展開は全く異なっています。ではこの2つの物語がどのように異なるのかを見ていきましょう。

「わらしべ長者」は、みなさんもよくご存知の通り、日本のおとぎ話です。


<わらしべ長者のあらすじ*2 >–––––––––––––––––––––––––––––––––––––––––––––––––

ある貧乏人の男が、観音様から「初めに触ったものを、大事に持って旅に出なさい」とのお告げをもらい、男は偶然1本のわらしべに手を触れ旅に出ます。通りがかった男の子がわらしべを欲しがるので、わらしべを男の子に譲り、男はお礼にみかんを受け取ります。

さらに歩くと、男は喉が渇きに苦しんでいる娘に出会います。男はみかんを譲り、布を手に入れます。次に侍に出会います。侍の愛馬が急病で倒れてしまい、町で布を手に入れるはずができなくなっていました。男は侍が困っていたので、手に持っていた布と馬を交換します。男が馬に水を飲ませると、馬は元気を取り戻し、旅を続けます。道を進んでいくと、大きな屋敷に行き当たります。屋敷の主人は、男に屋敷の留守を頼み、代わりに馬を借りたいと申し出てきます。

主人は3年以内に帰ってこなかったら、屋敷を譲ると男に言って旅立っていきました。3年待っても主人は旅から帰って来ることはなく、男は屋敷の主人となり、裕福な暮らしを手に入れました。

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もう一方の「幸せハンス」はグリム童話です。働き者のハンスは賃金でもらった銀のかたまりを色々な物と交換していきます。最後には全て失ってしまいますが、ハンスは失ってしまったことを幸運に感じるという物語です。


<幸せハンスのあらすじ*3 >–––––––––––––––––––––––––––––––––––––––––––––––––

働き者の青年ハンスは、7年もの間、出稼ぎに出てせっせと働きました。ある日ハンスは故郷へ帰ることを決め、主人から労働の賃金として大きな銀の塊をもらいます。

ハンスは重い銀の塊を背負って歩いていると、向かう途中で馬に乗った人が目に入ります。馬に乗った人はとても快適そうで、ハンスはうらやましくなり、銀の塊と馬を交換してもらいます。 馬に乗って故郷へ向かっていると、次は牛を連れている羊飼いに出会います。馬よりも牛乳やバターやチーズを出してくれる牛の方がいいと思い、馬と牛を交換します。しかし、牛は乳を出さない雌牛だったと知ります。そこに、肉屋が豚を連れているのを見て、豚なら腸詰めが作れるだろうと思い、交換をします。

今度は白いガチョウを抱えた田舎者に出会い、豚が盗まれたものかもしれないと聞き、豚と引き換えにガチョウを手に入れます。 次に研ぎ屋の旦那と出会い、砥石があれば商売繁盛する話を聞き、砥石とガチョウを交換します。

ハンスはまた歩き出しますが、重い砥石を持って歩くのに疲れ、喉が渇き、川の水を飲んでいた拍子に砥石が川の底へと落ちてしまいます。

ハンスの元には何もなくなりましたが、あらゆる問題から解放されたことを幸運だと思い、故郷へ帰りました。

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2つの物語の違いを知るために、可視化して比較してみました。物語には共通するものとして時間軸があります。それぞれの主人公の行動を時間軸を用いて可視化していけば比較することができそうです。 そこで今回はカスタマージャーニーマップのフレームワークを利用し2つの物語を比較していきます。カスタマージャーニーマップは本来、時系列で顧客の行動を可視化するために利用されるツールです。カスタマージャーニーマップについて詳しく知りたい方は、*4 こちらの記事をご覧ください。

2つの物語を読みながらカスタマージャーニーマップ を作成します。まず、ステージを交換前、交換中、交換後の3つに分けました。それぞれの物語に登場する人物や物を配置し、主人公の思考を追加しました。本来であればインタビューをしてリアリティをもたせたいですが、今回は、物語にあるテキストから引用して作成しています。

カスタマージャーニーマップを作成してみることで、ふたりの主人公がそれぞれのシーンごとに、どんなイベントが起こったのか、そのときにどんな思考をしたのか、結果としてどのような行動をとったのかがわかりやすくなりましたね。

そしてカスタマージャーニーマップを作成していく中で、幸せハンスの方では外的要因がハンスの思考に影響していることがわかりました。物を交換する前に、ハンスの心を動かす外的要因が生じているので、これも追加しました。それでは次のセクションからカスタマージャーニーマップをもとに、ふたつの物語を分析してみることにしましょう。

カスタマージャーニーマップから、物語を分析しましょう

【気づき1】モチベーションによる交換の意思決定プロセスの違い

主人公が物を交換する時の気持ちをマップに追加して比べてみると、動機に違いがあることに気づきました。

「幸せハンス」は「自分の欲望」が動機で、わらしべ長者は「相手のニーズ」が動機です。幸せハンスとわらしべ長者は逆の動機になっていることがわかります。また、意思決定の方法と考えると、幸せハンスは、自分の意思で物事を決めていっています。一方、わらしべ長者は、相手からの要求がないと交換が成立しておらず、利他的行動となっています。

【気づき2】人をとりまくまわりの状況に視点を変える

2つ目の気づきは、”物の変化”が重要なのではないかということです。マップを見ると主人公が進んでいくフローと物が交換されていく2つのフローがあります。まずは物が交換されていくフローだけを取り出してみます。

わらしべ長者の場合:わらしべがみかんに、みかんが布に、布が馬に、馬が家と畑に変化していきます。幸せハンスの場合:銀の塊が馬に、馬が牛に、牛が豚に、豚がガチョウ、ガチョウが石に変化していきます。

わらしべ長者の場合は、1本のわらしべから物の価値がどんどん高くなります。反対にハンスの場合は、銀塊から最後には石になり、物の価値は低くなります。

私たちは物語を読む時、主人公に焦点をあてていますが、交換されていく物を主にして捉えてみると物の視点から物語を考えることができます。なぜ、わらしべからみかんになり、みかんが布になったのか、わらしべが最終的に家と畑になるまでには一体どのような変化が起こったのかなど、物の流れを中心に考えると、新たな視点が見つかるのではないでしょうか。

例えば、物が魅力的でなければ交換しなかったのではないか。そこから、物はどのように魅力的だったのだろうか、どのような色をして、どのような形だったのか。そう考えると物語の中をもっと楽しむことができそうです。

マップとして可視化することで新しい気づきができる

2つの物語をカスタマージャーニーマップとして可視化することで、新しい気づきが得られました。ふたつの物語とも、主人公が道中にさまざまな人に出会い、物を交換していくというストーリーは共通しています。ただしカスタマージャーニーマップを作成し分析することで、”モチベーションによる交換の意思決定プロセスの違い”と、”人をとりまくまわりの状況の違い”に気がつくことができました。

今回のマップの役割は2つです。

  • 2つの物語を比較する
  • 可視化することで、視点を変える

サービスのカスタマージャーニーマップ を作る時にも2つの役割は活かすことができます。

例えば、同じサービスでも異なるペルソナがある場合に行動や思考を比較し、どこが違うのか同じ点はあるのかを知るために使用できます。また、ユーザーが利用する前後の文脈からどのようなプロダクトであればもっと使いやすくそのタイミングに適したプロダクトやコンテンツになるのか、今まで気づかなかった新しい気づきを得ることができます。

カスタマージャーニーマップのフレームをベースに、色々な場面で応用して取り入れていけると活用の幅が広がりそうですよね。ぜひ取り入れてみてくださいね。


Illustration

  • 宇佐美 朋子(Tomoko Usami)
    イラストレーター/練り込み陶芸家。静岡生まれ群馬育ち東京在住。一児の母。 イラストレーション誌 The Choice 第117回(グルービジョンズ 選)第148回(山本タカト 選)ともに入選。 本の挿絵や装丁画を中心にイラストを描き、個展やグループ展で作品発表を行う。 2008年頃から練り込み陶器の制作をはじめ現在ではイラストと平行して作家活動を行う。
    宇佐美 朋子Webサイト


注釈



WRITER

川北 奈津(NATSU KAWAKITA)
MANAGER / UX DESIGNER / INFORMATION ARCHITECT

静岡大学情報学部卒業。情報科学芸術大学院大学(IAMAS) メディア表現研究科修士課程修了。作品制作・展示活動、広告制作会社勤務を経て、現在に至る。UXデザイン、情報設計担当。UX/IA部マネージャー。

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