こんにちは。ADVATECで音声AIカルテ生成サービス「コエカル」の開発責任者をしている田丸です。
私は薬剤師として医療現場を経験した後、エンジニアに転身し、コエカルをプロトタイプの段階から開発してきました。
医療現場を離れた私が、なぜ今も医療のためのプロダクトに向き合い続けているのか。今回は、その背景にある経験や思いを綴ってみたいと思います。
目次
- 好きだった仕事と、消えていく時間
- 「気をつけます」で終わる現場
- 薬剤師を辞めて、コエカルを作り始めた
- 作る力だけでは、届かない
- 最初の壁は、音声認識の精度だった
- プロダクトは全員で創る
- 記録が、診療を支える医療AIアシスタントになる
- 先生の声を、聞かせてください
- 一緒に創る仲間も、探しています
好きだった仕事と、消えていく時間
2018年から2022年まで、急性期病院の薬剤師として働いていました。
病棟での服薬指導や持参薬の確認、疑義照会といった日々の業務から、TDM(治療薬物モニタリング)や抗がん剤の投与設計まで、仕事は幅広く、どの場面でも数千種類の薬剤の相互作用や併用禁忌、投与量を瞬時に判断することが求められます。
私は、この病院薬剤師の仕事そのものは好きでした。
ただ、一日を振り返ると、3分の1ほどはカルテ記載に消えていました。
ほかの事務処理も合わせると、薬剤師としての本質的な仕事に使えていた時間は、2割ほどしかなかったと思います。
「何のために薬剤師になったんだろう」と思いながら働いていました。
「気をつけます」で終わる現場
現場では、人の認知限界を超えた情報処理をこなし続けることが前提になっています。
それでもミスが起きると「注意不足」として個人が責められ、対策は確認作業の追加で終わる。
抜本的な解決策になっていないことがほとんどでした。
例えば、検査値の異変を見落としたインシデントが起きたとき、再発防止策は「毎回、検査値のシートにチェックをつける」ことでした。
確認の負担がひとつ増えるだけで、見落としを生んだ構造は変わらない。こうしたインシデントと、形骸化したチェックルールが、現場には数えきれないほど散らばっていました。
ミスへの対策はすべて「人の注意と時間」で支払われ、その時間がまた、本質的な仕事を削っていく。
これは薬剤師だけの課題ではありませんでした。
隣を見れば、医師も看護師も、同じ構造の中で、記録や事務に時間を取られていました。
専門職として積み上げてきた知識と技術が、書類仕事の隙間でしか発揮されない。この状況を、変えたかった。
業務フローの見直しや自動化を、内側から提案したこともあります。
でも、返ってくるのは決まって同じ言葉でした。
予算がない、人が足りない、「今までこうやってきたから」。それが、現場としては現実でもありました。
だったら自分で作れるようになって、外側から道具を持ち込めばいい。
そう思って、薬剤師を辞めました。
薬剤師時代、次の挑戦に背中を押してくれた仲間たち
薬剤師を辞めて、コエカルを作り始めた
とはいえ、薬剤師だった私に、プログラミングの経験はありませんでした。
最初は本で独学しようとしましたが、わからないことを聞ける人が周りにおらず、速攻挫折。
スクールで要点を教わり、あとは自分で書きながら覚えていきました。
その後は友人が営むSaaS企業で経験を積み、やがて自分の会社を立ち上げて、大学病院のデータ解析システムから業務システムまで、いろいろなものを受託で開発しました。
その間も、医療プロダクトを作りたいという思いは消えず、ずっとアイデアを考えてはいました。
ただ、医療は参入障壁が高い領域です。診断や治療に踏み込むものは個人では作れませんし、中途半端な道具を現場に持ち込むわけにもいきません。なかなか踏み出せずにいました。
転機は2023年末頃でした。世の中の音声認識エンジンの技術が成熟してきて、実用的な精度で文字にできる時代が近づいている。これなら、医療の中核には触れずに、記録という課題から入れる。チャンスだと思いました。
受託開発の合間に、コツコツ、コエカルのプロトタイプを作り始めました。
課題の切り口はいろいろありましたが、医療者の時間を最も奪っているのはカルテ記載でした。
そして、記録のもとになる情報は、診察室の会話の中にすでにあります。
音声認識から入るなら、会話がそのまま仕事の中心にある医師の診察が、一番相性の良い場所でした。
診察の会話を文字起こしして、カルテの下書きに変換する。
薬剤師時代の自分が一番欲しかった「記録に時間を奪われない働き方」を、まず医師向けの道具として形にしました。
作る力だけでは、届かない
プロトタイプがある程度形になったとき、大学時代からの友人である池田(現・ADVATEC代表)に相談しました。
医療系のSaaSをやりたい、いまこういうものを考えている、と。
すると池田も、ちょうど医療の分野で事業をやりたいと考えていたところでした。身近な人の通院に付き添う中で、医療現場の課題を肌で感じていたそうです。
返ってきたのは「うちの会社で一緒にやろうよ」という言葉でした。
コエカルを、医療機関に長く使ってもらうサービスに育てるには、作る力だけでは足りません。
それを広げ、事業として伸ばす力がいる。営業をはじめ、事業を動かす力の強い池田たちと組むほうが、コエカルは遠くまで行ける。
そう考えて、2025年5月、私はADVATECに参画し、コエカルは会社のプロダクトになりました。
最初の壁は、音声認識の精度だった
診察中の医師と患者さんの会話を音声認識で文字起こしして、SOAP形式の診療録に自動変換する。コエカルは、そういうサービスです。
シンプルに聞こえますが、ここで最初の壁にぶつかりました。
診察室の環境は、一つとして同じではありません。
医療機器の動作音や周囲の話し声、マスク越しのくぐもった声、話し手とマイクの距離。そして、一般の音声認識が苦手とする薬剤名や専門用語。
汎用の音声認識をそのまま使えば、「だいたい合ってる」文字起こしにはなります。ただ、医療の記録では「だいたい合ってる」は使ってもらえません。修正の方が手間がかかってしまうからです。
現場で満足のいく精度が出せず、売れない時期が続きました。
スーツを着てクリニックへヒアリングに行き、先生の話を聞いて、帰ってきてコードを書く。それをひたすら繰り返しました。地味な仕事です。
潮目が変わったのは、2025年の12月頃でした。
大学時代の恩師である内科医の先生に見せると、「この精度なら紹介できる」と、広島の総合病院を紹介してくださいました。
デモを試した先生方からも、「精度に驚いた」「これなら診察に集中できる」という声をいただくようになり、この頃から本導入へ進むクリニックも一気に増えていきました。
地道な作業が、信頼に変わった瞬間でした。
だから今でも、派手な機能より基本の「記録の正確さ・処理の速さ」を大事にしています。
プロダクトは全員で創る
プロダクトは、ソフトウェアだけではありません。
クリニックに通って課題を持ち帰る営業も、現場の声を毎日受け止めるカスタマーサクセス(CS)も、プログラムを書くエンジニアも。
カスタマーサポートの対応の速さや、先生ごとにカルテの型を合わせる細かな調整も。
全てがサービスであり、プロダクトの一部になっています。
営業やCSが現場で聞いた声は、すぐに社内で共有されます。内容によっては、その日のうちに仕様を話し合い、小さな改善ならすぐに反映することもあります。
何気ない一言や率直な声でコエカルを磨いてくれる現場の先生たちも、創り手の一員です。
記録が、診療を支える医療AIアシスタントになる
これからのコエカルが目指すのは、記録を作った、その先です。
過去の記録や検査値を診察の場に呼び出して、思い出す。
アレルギーや記載漏れを、その場でチェックする。
アセスメントの組み立てをアシストする。
他職種と情報を共有し、紹介状を作成する。
診察の前に、久しぶりに来院した患者さんの経過をカルテで遡って追い直す。
この作業も、コエカルならサポートできます。
医療者なら誰もが知っている、この細かな時間の積み重ねを、コエカルで支えたいと考えています。
書く時間は文字起こしが減らし、探す時間・まとめる時間・確認する時間はアシスタントが支える。カルテは、1回限りの書いて終わりの書類ではなく、より良い診療を創るための土台です。
先生の声を、聞かせてください
コエカルは、医療現場から生まれて、現場の医療従事者と一緒に磨かれてきたプロダクトです。これからも、その思想は変わりません。
診察室のことはもちろん、病棟や薬局のことでも。「こういう機能が欲しい」という形になっていなくても構いません。
愚痴や、ちょっとした違和感のままで大丈夫です。現場で困っていることを是非聞かせてください!
一緒に創る仲間も、探しています
コエカルの挑戦は、音声だけでは終わりません。
検査値や過去の記録など、医療現場に眠るさまざまなデータを、最新のAI技術で診療に活かしていく。記録で診療を支える未来の実現は、まだまだこれからです。
医療現場には、解きがいのある課題がまだいくらでもあります。この挑戦を面白いと思える人と、一緒に解いていきたいと思っています。
自分の作ったものが数日後には診察室で動き、先生の声がそのまま返ってきます。
スタートアップなりのハードシングスもたくさんありますが、一番のやりがいになると思います。
興味を持っていただけた方は是非お話しましょう!