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珍味・偏愛路線を突き詰めて、新しい価値を提供していく 岡田崇×糀屋総一朗対談3  引用先:ローカルツーリズムマガジン

https://note.com/localtourism/n/n6a6cd88c9fc5  引用先:ローカルツーリズムマガジン


一つひとつの積み重ねこそ重要

糀屋総一朗(以下、糀屋):今僕はローカルの仕事をしているんですが、宿泊業界や旅行業界でも卓越したもの、美しいデザインやかっこいい建築みたいなものが称賛されるじゃないですか。でもいきなりそこを目指せるわけでもないし、何より巨大な資金もない。そういう状態になっている自分が嫌で落ち込んだりすることもあったんですよ。

岡田崇(以下、岡田):意外。糀屋さんでもそんなこと思うんですね。

糀屋:めちゃめちゃ思いますよ! それで先日、國學院大學助教の町田樹さんの「スポーツにおける感動の意味」という記事をたまたま読んで、「まさにこれだな」と。「感動を与える」という言葉への違和感から、町田先生の「一つひとつのプレーの積み重ねが文化になる」という言葉がとてもいいなと響いて。宿泊の事業をやる時、感動以外にも違う軸を考えないといけないんだろうなと思ったんです。

最近だとNOT A HOTELとか、すごくセンスいいし、NFTを取り入れたりとかして「今」っぽい動きをしてますよね。でもそこをベンチマークにして僕らが追い求めてしまうと、多様性がなくなってしまうし、やる側が「ああ、俺がやってるのはこれ以下だからもう全部ダメだ」と疲弊してしまってもう何もできなくなる、という事態にも陥ってしまうと思うんです。だからそうじゃないなにか違う価値観がないといけない。そうじゃないといろいろなものが生み出されなくなってしまって多様性もなくなってしまうなと改めて感じました。

岡田:従来の「かっこいいもの」って画一的じゃないじゃないですか。例えば大人気のアイドルが「マス」、多くの人達にうける「かっこいい」だとしますよね。でも渋みのきいた俳優も「かっこいい」のは間違いないんです。変にマスと張り合わないで、「若作りしません」とかやらないことを決めたほうがいいですよね。どうしてもみんな積み重ねる傾向があって、あれもやろう、これもやろう、としてしまいがちなので……。

糀屋:僕もその傾向があると思います。

岡田:24時間働き続けるのなんて無理だし、すぐ疲弊しちゃいます。だから僕はいろんな再生プロジェクトに入る時に「まずやらないことを決めましょう」と言うんです。僕と糀屋さんのいろんな能力の差って、もちろん得意不得意分野はあるにしても、10倍とかではない。例えば「MINAWA」を僕が運営したとしても、変わらずできると思うんです。だから結局、リソースの配分になるんじゃないかな? と。積み重ねる、スポットライトを当てる。多様性において自分がどこを目指すのか、何が「偏愛」なのか、何を珍味にするのか、突き詰めて考えたほうがいいと思います。

だから糀屋さんがアートファンドに取り組んでいるのはすごくいいと思うし、大島だったら人の良さ、絶景、神々しさみたいなものがすごくいいと思います。NOT A HOTELは彼らなりの良さがあるけど、「NOT A HOTEL的なもの」は彼らに任せておいたらいいと思うんです。僕は糀屋さんは、もっと偏りを出していいというか……

糀屋:なるほど。

岡田:僕は日本に帰ってきた時に「毎日みんな同じ格好して満員電車に乗って、何が楽しいんだろう」って思ってたんですよ。今だとマスクですね。ただ、少しずつそれが変わってきてるんじゃないかなと。多様性、偏りはトレンドになってきてると思います。

糀屋:もっと、偏愛路線に行ってもいいってことですよね。

岡田:いいと思いますよ。ただ、「ブレずにやる」ということはもっと重要かなと。

糀屋:たしかに。

全員がスターにならなくてもいい

岡田:僕は今コンサルティングとか支援の立場なので、大成功させるとかっていうのは僕の力じゃないんです。僕は「なるべく失敗しないやり方」をアドバイスするだけで、選ぶ、偏愛ぶりを色づけるのは事業者さんだと思います。珍味が珍味になるのか、普通の味になるのかは事業者さんマターになるのかなと。

糀屋:そうですよね。僕もそう思います。

岡田:失敗しないからといって成功するわけでもないんですけどね。ただ、失敗したら終わっちゃうので。だからある一定のリスクを排除するためにはアドバイスはします。

ただ、大島の神々しさとかそういうものがある日突然バズることもあるんですよ。でも「たまたまバズる」ことを期待していてもそれが確実に起きるわけじゃないので、ブレずに偏愛ぶりを突き詰めていくことでいつかなにか実っていくんじゃないかなと思います。

糀屋:ありがとうございます。最近NOT A HOTELを見て意気消沈してたんですよ。「いいなあ。これ俺がやってたかもしれないのに」みたいな……(笑)。だけど今日改めて岡田さんと話して、「誰も彼もが卓越したことをやらなくてもいい」と思えました。

大谷翔平やイチロー……スタープレーヤーってたくさんいますけど、全員がそこを目指さなきゃいけないのか? というとそうでもないし。

岡田:バントの神様・川相昌弘もいますからね。

糀屋:スターになれないからといってネガティブかというとそうではない。それよりも先程の記事にもあった、「一つひとつのプレーの積み重ね」がないと競技は成り立っていかない。そういう視点から見ると、目立たない一つひとつのプレーはネガティブどころか「ないと困る」、本質的な価値だったりもすると思うんですよね。

岡田:糀屋さんから見てNOT A HOTELは何がすごいんですか?

糀屋:施策の速さがすごいですね。やりたかったことがトントンと進んでいる感じがあるなと。

岡田:それだと、どちらかというとお金の話ということですかね。

糀屋:あとは作っているもののディテールもかなりこだわっているなと感じます。

岡田:反対に、顧客側の目線だったら何がすごいと思いますか。

糀屋:NFTのくじで365日のうちランダムである1日の宿泊権が当たる、という企画をやっていて、それをみんながSNSでシェアしたりして盛り上がったりしているのを見て、ああいう動きを創出させるところの技みたいのもすごいなと思ったりします。

岡田:新しい技術を絡めたマーケティング手法、企画といったところですね。ビジネススキームであればロケーション、規模問わずできることはありそうですね。まだまだチャンスはあると思うし。糀屋さんってとても頭がいいし、ビジネスの脳ですよね。

糀屋:でもこのローカルの事業においては全然ですけど……。でも先日、当社にジョインしてくれた元ヤフーの藤牧さんが「音と旅と株式会社」という関連会社を作って、「音」を基軸にしてホテルの部屋をプロデュースしていこうと考えているんです。音に偏愛する部屋みたいな。

岡田:それはすごくいいですね! 面白いと思います。糀屋さんだからできる世界ってあるなと思ってるので、どんどん突き詰めてほしいなと思います。

もっと偏愛を出せる宿がほしい

岡田:なんか、押し付けがましいことが多いんですよね、旅館とかレストランって「ああしろ。こうしろ」みたいな。押しつけがましくないところはリピートするんですけど、そういうところを見つけるのが難しかったりするんですよね。4つ星、5つ星のようないいホテルはフルサービスだけど、ロビーにビーサンで降りていけないとか……。でも軸はもっと偏愛度合いで作れるんじゃないかなと思うんですよね。

いま、僕でも「いいホテル」が見つけられないんですよ。そのマッチングがもっともっとできればいいのになと思います。例えば、サウナだと「サウナイキタイ」というサイトがあって、ものすごく細かく検索できる。あれってサウナがとにかく好きな方が熱量を持ってレビューを書いたり、サイトを作ったりもしてるからなんですよね。でもホテルってあまり偏愛っぷりを出せないなという印象です。

糀屋:たしかに、スタンダードを考えちゃいますね。

岡田:もっとうまくマッチングができればいいのになと思いますね。そこをうまくマッチできれば、押しつけがましくなく自分の好きな価格とそれなりのしつらえのところに泊まれる。それって一番ハッピーになると思います。そのマッチングができやすい環境になると、宿ももっと個性を出しやすいのかなと思います。

コロナで「住む」と「泊まる」の間が多様になりつつあるので、それはすごくいいことだと思います。いま、簡易宿泊所や民泊、旅館などの施設数がすごく増えてるんです。これから地方の駅前にあったような箱型の旧態依然としたホテルは厳しくなっていくんじゃないかなと。10時チェックアウトとかも本当に嫌だし。勝手な都合ばっかり押し付けられて……トイレと一緒のお風呂だったら湯船いらないんじゃないかなとか。どこに行っても同じだから「選べない」。もっといろんなものがあってもいいし、ニッチでいいと思います。

糀屋:やっぱり偏愛ですね。地方でなにかやる時にキーワードになっていくのかなと改めて思います。

岡田:偏愛がビジネスになるし、偏愛が面白いって思いますけど、まだそのあたりは道の途中だとは思います。

糀屋:やっぱり自分の信じた道をブレずにやっていこうと思えました。今日はありがとうございました!

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