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人気コラムシリーズ:新規事業になる課題とならない課題(ビジネスは万能か?)

unlockでは、新規事業にまつわるコラムを、かなり不定期に書いています。unlockの新規事業に対する考え方を知って頂くために、ここWantedlyでもunlockの人気アクセス記事をご紹介します。

1.“負”を見つけるアプローチの主流化

国内外問わず、昨今のスタートアップ界や新規事業の教科書的な文書にも「負に着目する」「解決すべき課題は何か?」という言葉が並んでいるのをよく目にする。

こういったことを考えることは、新規事業を成功する事業を作る上で非常に重要なことは疑いの余地はないだろう。実際、失敗した新規事業において、その失敗要因として「思ったよりニーズがなかった」ということがよく挙がる。米国のスタートアップの撤退要因も第一位が「ニーズがなかった」である。


出典:CB Insights 2019 "Top 20 Reasons Startups Fail"

<主流化した要因>

新規事業を作る際、負や課題からといった”需要起点”ではなく、技術シードを起点にしたアプローチなどの”供給起点”でも成功例は多い。したがって、新規事業は必ずしも”需要側”を考えることから始まるわけではない。

その一方で、「需要」はその実態を正しく捉えることが難しい。

自身や自社が開発したり保有している供給物は、安定供給のための量産化や品質維持のための体制、コストの問題はあるものの、そういった変数がある程度自分たちのコントロール下にある。つまり供給物の多くは「こちら側」である。しかし需要側は、サービス提供者である自社から見れば、基本的に「向こう側」なのだ。

たとえ「こういう製品サービスがあったら自分なら使うのに!」と思うことであっても、他人が同じようにそう思うかは案外確信を持ちにくく、またその渇望度合いや金銭的許容度もバラバラであり、更にはアンケート調査を行ったとしても、その回答と実際の行動が異なることも多く、供給側より需要側は捉えがたいことが多い。

実際、すごい性能や特許をもった製品が思ったより売れないという事例に枚挙にいとまがないことも、需要の実態を捉えることの難しさを表していると言えるだろ。

また、一般的にゼロからスタートすることが多いベンチャーやスタートアップは「何もない」場合が多い。したがって否が応でも需要側にフォーカスせざるを得ないこともあり、「負を見つけるアプローチ」が声高に叫ばれ、主流化しているのも容易に納得できる。

<「ビジネスは社会問題の解決が使命」という流れ>

負を見つけるアプローチの主流化のもう1つの要因として、近年の起業ブームもあるだろう。今や東大発ベンチャーが大学発ベンチャーに占める社数で最多を占め、ドロップアウトした人などが一発逆転をかけて行うものといった、かつての起業のイメージは過去のものとなって久しい。

そうした学生をはじめ若手ベンチャー起業家は「ビジネスは社会課題を解決するもの」と主張し、自社の商品サービスの特徴に加えて、自社の活動に社会的な意義を強調する。松下幸之助氏や本田宗一郎氏の時代からこうした精神は当然主張されていたはずだが、ここ10年ほどの傾向を見るにつけ、そういったビジネスの使命を全面に主張する流れがそれ以前よりも強まっているように感じる。

2.ビジネスの限界

しかし、ビジネスというアプローチによる問題解決法は万能ではない。例えば、国連が定義する世界の問題には下記のようなものがある。

貧困、水、医療アクセス、飢餓/栄養不足、紛争、難民、自然災害、人身売買、児童買春、児童労働、海洋プラスチックごみ、大気汚染、ジェンダー格差、人種差別、地球温暖化、気候変動、異常気象、識字率問題、森林破壊、土壌汚染、ヒートアイランド現象、放射能問題、所得格差、密猟、タックスヘブン、自殺、児童虐待、ハラスメント、LGBT、ワーキングプア、資源の枯渇、砂漠化、GAFAへの規制、人口増加、食糧問題、食品ロス、干ばつ、HIV、感染症、コロナウイルス…等

これらが全て、株式会社を主体とするビジネスという手法で解決されるだろうか。

上記に挙げた問題の多くは、課題としてとらえるには粒度が大きすぎるため、それをブレイクダウンした問題であればビジネスが解決した、または解決に一部寄与していたり、現在解決を試みている最中の問題もあるだろう。

しかしビジネスが、その性質上、収益を生まなければならないものである以上、やはりビジネスという問題解決法は万能とは言えないだろう。

そういった意味では、「負や課題に着目する」アプローチで何か解決すべきものを見つけたとしても、やはり新規ビジネスになる課題とならない課題が存在するはずである。

3.新規事業になる課題かどうかの分岐

それではようやく本題。

新規事業になりやす課題となりにくい課題の傾向を挙げ、次にそれを分ける要素についてご紹介したい。

<新規事業になりやすい課題>

  • 既に民間で商品やサービスとして存在する領域に関する課題
    ※他にもありますが続きはコンサルティングで!

<新規事業になりにくい課題>

  • 公共性の高い課題(例:公共インフラ全般、福祉など)
  • 免許・許認可が必要な領域の課題
    ※他にもありますが続きはコンサルティングで!

<分岐となる要素>

1.想定ターゲットから必要売上を確保できるか?

やや身も蓋もない結論になるが、まずはこれが分岐になるだろう。「必要な売上」をどう考えるか?これもまずは一旦普通の考え方をする。

必要売上(=単価 × 数 × 頻度) > 損益分岐(固定費 + 変動費)

極端な例ではあるが、例えば、アフリカのインフラ未整備エリアで不衛生な水を飲んでいる人が数千万人いるという社会課題がある。公共性が高い課題ではあるものの、需要側のニーズも非常に強いにもかかわらずビジネスに関わる人々がこの問題を解決しないのは、まず上記の不等式の結果がネガティブだったからとも言える。

日本のひとり親世帯の貧困や教育格差の問題なども同様の構造と言えるだろう。

また意外と見逃しがされる傾向にあるのが、単価が低いビジネス。数や頻度が大きいビジネスを作ることができれば、立派な売上が立つ。特にSaaSなどのネット系サブスクビジネスなどにおいては、変動費も少なく、SNS等を活用して営業やマーケティングの費用を少なくすることができれば十分に成立する事業も多い。

2.別の方法で必要売上(または資金)を確保できるか?

必要売上が損益分岐を上回らない場合でも、下記のような方法でクリアできる場合もある。

1. 別のターゲットから必要売上を確保

2. 寄付を募る

3. 政府や自治体から助成金を得る

1は広告で収益を生むという手法がよく使われる。GAFAであるGoogleやFacebookは利用料が無料だが、企業広告で収益を上げている。この手法で世界有数の企業になるほど実は強力なマネタイズ手法なのだ。世の中にあふれる様々な「無料」は、別の誰かから収益を得ている。

2は、NPOなどが主に活用する手法。寄付をする側も損金計上できるといった税法上の理由もある。有名なNPOの公開された財務諸表を見ると、収益の約半分以上が寄付であり、中には有名な外資系金融機関出身のファンドレイザー(寄付金調達担当)を置いているNPOもある。

3はいわゆる助成金・補助金事業ともいわれるもので、代表的なものが、高齢者向け住宅や、太陽光発電などだろう。こういったものは政府援助の分、必要売上のハードルは下がるが、法改正などで制度そのものが変わり、一気に事業として立ち行かなくなるまたはうま味が急減することもよくあるので注意が必要。

4.公共性の高い課題は新規事業にはならないのか?

公共性の高い課題でも新規事業になるものはある。いわゆるBtoG(=Goverment)領域といって、政府や自治体を相手にビジネスをする方法だ。

また、行政が行っている業務を民間が行う場合も大きなビジネスとなるケースが多い。古くはヤマト運輸やリクルートの求人事業(職安のリプレイス)などが挙げられる。

一般的に、法律の変わり目は「ゲームチェンジ」となる性質から、公共性の高い事業を含め、新規事業を立ち上げる機会となる場合が多い。

そういった情報に着目したり、上記で挙げた別のターゲットからの必要売り上げの確保することで一般的にはビジネスになりにくい公共性の高い課題であっても新規事業として成立させられることもある。

5.新規事業になる課題の見つけ方

コツは、上記で挙げたように「既存ビジネスに着目」すること。なぜならすでにマーケットが存在し、ビジネスが生じているから。

しかし既に身の回りには、便利なものや解決済みの課題があふれている気がするし、既存のビジネスに着目することは「新規事業」という名前になんだか逆行していて、何も面白みがないように感じるだろうか?重要なのは観かただ。

大衆が日常使いするモバイルデバイスが、ガラケーからスマホに移行する際、既に満ち足りていたニーズであったキャリアメール(i-modeメールなど)をLINEが、ヤフオクをメルカリがリプレイスした。

コロナ禍で大ブレイクを迎えているZOOMも、その誕生の10年以上前から、誰もが知っていて、しかも無料で使える世界的なサービス・Skypeがあったのだ。

こういったものをどうやって見つけるか?はまた別の機会に。

6.重要: 課題や負から始まるものだけがビジネスではない

最後にこれをお伝えしておかなければならない。冒頭でも触れたように新規事業は何も課題から始めるアプローチだけから生まれるわけではない。

プロダクトアウトと言われる、「これ面白いじゃん」「こういうのが欲しいんだよね」といったものを作るところから始めたり、技術のタネ(シード)から考え始め、結果その製品やサービスが市場のニーズと合えば立派なビジネスとなる。

この話も始めるとまとまった話になるのでまた別途。

いずれにしても、課題は負は捉えがたく見誤りやすいので注意が必要だが、必ずしもそこから始めることだけが新規事業ではない。

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