「必然の未来」はもう目前。NTT、VC、CFOを経てローカル5Gで『産業インフラ』を再発明する理由 - ISL Networks CEO 井上 拓也
次世代モバイルインフラ「ローカル5G」を武器に、日本の社会課題解決に挑む株式会社ISL Networks。同社を率いるのは、NTT、独立系VC、IoTスタートアップCFOという多彩なキャリアを持つ井上拓也氏。大企業からベンチャーキャピタル、そしてスタートアップ経営の最前線まで、異なる立場で新規事業と向き合い続けた彼が、なぜ今、ローカル5Gの領域で起業し、自ら「必然の未来」と語る産業変革のインフラを構築しようとしているのか。その軌跡と、ISL Networksが描く未来像を伺いました。
プロフィール
- 氏名: 井上 拓也 (いのうえ たくや)
- 役職: 株式会社ISL Networks 代表取締役 CEO
- 経歴:
- NTT(後にドコモへ転籍)にて新規サービスの企画を担当、パリ駐在中は国際事業に携わる。その後、R&D戦略投資部門にて新技術探索や投資委員会の運営を担う。
- NTTドコモ・ベンチャーズではスタートアップとの共創を目的としたインキュベーションプログラムの立ち上げを主導。
- トヨタ系ファンドにて海外ベンチャー投資を担当、3年間で国内外11社・総額50億円超の投資を実行し、5社の社外取締役を歴任。
- 産業向けIoTベンチャーにて取締役副社長COO/CFOとして参画。コロナ禍においても3年間で2桁億円の資金調達、大手企業4社との資本業務提携を実
- 2022年、久保田氏と共に株式会社ISL Networksを共同創業、CEOに就任。
目次
【キャリアストーリー】 大企業、VC、スタートアップCFO。それぞれの立場で見た「新規事業」のリアル
大企業での学び:若手時代の大きな裁量と、管理職のジレンマ
VCでの視座:世界の優秀な起業家との出会いと、プレイヤーへの渇望
スタートアップCFOのリアル:「ヒリヒリ」した資金繰りと、ナンバー1への道
【現在の事業】 ローカル5Gで産業DXを加速。世界最先端技術で社会課題に挑む
ローカル5Gとは?:「有線を無線化」がもたらす産業変革
ISL Networksの挑戦:技術ハードルを下げ、社会実装を推進
次なる一手:世界最先端の「産業用5G」でグローバル市場へ
CEOとしての役割:「技術以外、すべてやる」共同創業者との二人三脚
【組織文化・働き方】 フルリモート、最先端技術、そして「一緒に飲んで楽しい」仲間
技術とビジネスの両輪で:フラットな組織とスピーディな開発
求めるのは「共感」と「主体性」
【ビジョン・将来展望】 人口動態が示す「必然の未来」に、次世代の産業インフラを
目指すは「産業インフラ」のデファクトスタンダード
人口動態が示す「必然の未来」:2027年からの変革期に備える
社会課題解決の最前線で、まだ見ぬ市場を切り拓く興奮を
【キャリアストーリー】 大企業、VC、スタートアップCFO。それぞれの立場で見た「新規事業」のリアル
大企業での学び:若手時代の大きな裁量と、管理職のジレンマ
ーーまずは、これまでのキャリアについて教えていただけますか? 新卒でNTTに入社されたんですね。
井上:はい、新卒でNTTに入り、その後ドコモに移りました。ドコモでは約10年間、エンジニアリング部門や新規事業部門など、様々な部署を経験しましたが、一貫していたのは「新規事業の創出」というテーマでしたね。
ーー新規事業にはご自身で希望されたのですか?
井上:希望しました。もともと学生時代、大学院でインターネットが普及し始めた頃から、新しい技術やプラットフォーム、グローバルな事業展開に強い興味があったんです。「せっかくこの時代にビジネスをやるなら、インターネットを使った新しいことをしたい」と。それで、それが実現できそうな会社としてNTTグループを選びました。入社後も、iモードの海外展開など、手を挙げて新しい事業に関わらせてもらいました。
ーー大企業での経験で、特に印象に残っていることはありますか?
井上:若手の頃は、若くても大きな仕事や予算を任せてもらえたのが面白かったですね。海外にも行かせてもらいましたし、本当に色々なことを学ばせてもらいました。社会人としての基礎を築けたと思います。
一方で、管理職になると、組織運営や社内調整といったミッションが増えてきて、「自分が本当にやりたいこと」に直接時間を使うのが難しくなる側面も感じました。もちろん組織を優先するのは当然なのですが、もっとプレイヤーとして事業を推進したいという思いが強くなっていきましたね。
VCでの視座:世界の優秀な起業家との出会いと、プレイヤーへの渇望
ーーその後、独立系のベンチャーキャピタル(VC)に転身されていますね。
井上:はい、トヨタ系のVCで、海外、特にアジアやアメリカのベンチャー企業への投資を担当しました。世界中の本当に優秀な人たち…大企業で経験を積んで脂が乗ったタイミングで起業するような人たちと、様々な分野で一緒にビジネスについて考えられたのは刺激的でした。日々学ぶことばかりで、リスペクトできる方々と出会えたのは大きな財産です。
ーーVCならではの難しさはありましたか?
井上:VCはあくまで投資家であり、事業のプレイヤーではないんですよね。もちろん事業のステークホルダーの一員ではありますが、最終的な事業執行の意思決定や実行の責任は経営者が負います。アドバイスはできても、自分で汗をかいて事業を動かすことができない。元々プレイヤー志向が強かった私にとっては、そこにもどかしさを感じる部分がありました。「やっぱり自分で事業をやりたい」という思いが再燃した時期です。
スタートアップCFOのリアル:「ヒリヒリ」した資金繰りと、ナンバー1への道
ーーそして、投資先のIoTベンチャーにCFOとしてジョインされた。
井上:ええ、ご縁があって。副社長のような立場で、財務戦略から事業開発、資金調達まで幅広く担当しました。特にコロナ禍での資金調達は厳しく、20億円近く集めましたが、本当に何度もバーンアウトの危機がありました。キャッシュが尽きるかもしれないという緊張感とプレッシャーは、経験した者にしか分からない凄まじさがあります。「こんなに大変なんだ」と痛感しましたね。60〜70人の社員の生活がかかっているわけですから。
ーーその経験から学んだことは何でしょうか?
井上:スタートアップは、良くも悪くも「トップ(社長)がすべて」だと感じました。私はCFOとして全力を尽くしていましたが、最終的な意思決定者は社長です。後ろに誰もいない立場で、全ての責任を負う。その重圧と覚悟は、ナンバー2とは全く違う。もし自分が本当に実現したいビジョンがあるなら、自分でリスクを取って起業するしかない。そう強く思うようになりました。
ーーそれがISL Networksの創業に繋がるのですね。
井上:はい。これまでの大企業、VC、スタートアップでの経験、特に通信分野での知見を活かしながら、本当にやりたい新規事業を立ち上げようと決意しました。そして、大学院時代の旧友であり、技術のエキスパートである久保田(現CTO)と、このISL Networksを立ち上げたんです。
[写真1] 共同代表の久保田氏と北海道にて
【現在の事業】 ローカル5Gで産業DXを加速。世界最先端技術で社会課題に挑む
ローカル5Gとは?:「有線を無線化」がもたらす産業変革
ーーISL Networksが注力する「ローカル5G」について、詳しくない方にも分かるように教えていただけますか?
井上:簡単に言うと、工場などの産業現場で使われている「有線LANを無線化しましょう」という話です。有線を無線にすることで、例えばドローンやAGV(無人搬送車)のような移動する機器が自由に動けるようになりますし、工場のレイアウト変更も容易になり、コスト削減にも繋がります。
ーーWi-Fiとの違いは何でしょうか?
井上:産業現場では、有線と同レベルの通信品質(安定性、低遅延など)が求められます。機械を止めずに動かすためには、途切れたり遅れたりしては困るわけです。Wi-Fiではその品質を担保するのが難しいケースが多い。そこで「無線でありながら有線並みのクオリティ」を実現できる5G技術が必要になります。それを企業や自治体が自社の敷地内で独自に構築・利用するのが「ローカル5G」です。
ーーなるほど。デスクトップPCがノートPCになって働き方が変わったようなイメージでしょうか?
井上:まさにその通りです。無線化によるモビリティ向上と自由度の高さが、生産性向上やコスト削減に直結します。これが産業分野で起ころうとしている変化です。
ISL Networksの挑戦:技術ハードルを下げ、社会実装を推進
ーーローカル5Gには課題もあると聞きます。
井上:はい。もともと通信キャリア向けに開発された技術なので、「導入コストが高い」「技術的に難しい」「専門のエンジニアがいない」といった課題があり、特に日本では社会実装が遅れていました。
そこで我々はまず、「使いやすく、低コスト」なエントリーモデルの製品を昨年リリースしました。オープンソースソフトウェア(OSS)を活用し、高度な専門知識がなくても導入・運用できることを目指したものです。OSSを商用レベルの品質で製品化できたのは、我々の技術力があってこそだと自負しています。
ーー安価だと品質が心配、という声はありませんでしたか?
井上:意外かもしれませんが、そこを懸念されることはほとんどありませんでした。実際にデモを見ていただいたり、ラボで検証していただくことで、納得していただけています。
[写真2] 初めてのイベント出展時の自社ブースにて
次なる一手:世界最先端の「産業用5G」でグローバル市場へ
ーーそして、今年の春には新製品をリリースされるとか。
井上:はい、次は「産業用5G」と呼ばれる、よりハイスペックな製品です。製造業や交通・モビリティ分野など、より高度な機能が求められる現場向けのものです。実装しようとしている技術の中には、グローバルで見てもまだ製品化されていないような、世界最先端レベルのものも含まれています。
ーーまさに、世界と戦える製品ですね。
井上:はい、世界でもまだ製品化できていない新技術を搭載予定です。この製品を通じて、ローカル5Gを本格的な産業インフラとして普及させていきたいと考えています。まさに今、この開発のためにエンジニア採用を強化しているところです。
CEOとしての役割:「技術以外、すべてやる」共同創業者との二人三脚
ーーCEOとして、井上さんご自身は日々どのような業務を?
井上:共同創業者の久保田(CTO)が技術のトップなので、私はそれ以外の経営全般ですね。ファイナンス、ガバナンス、人事・採用、営業、事業戦略などです。ただ、意思決定は必ず二人で行います。技術的なことであってもビジネス的なことであっても、必ず両者で議論し、合意の上で進めます。これは創業時に決めた、我々の根幹となるルールです。
[写真3] 共同創業間での対話
ーーそのルールはなぜ重要なのでしょうか?
井上:スタートアップが失敗する大きな理由の一つに、創業者同士の不和があります。「俺の方が頑張っている」とか「意見が合わない」とか。真剣であればあるほど、ぶつかることは当然あります。だからこそ、最初に権限・責任・インセンティブを完全に平等にすること、そして意思決定は必ず二人で行うことを決めました。無用な対立で時間を使いたくないですからね。これはVCやCFO時代の経験から学んだことです。
【組織文化・働き方】 フルリモート、最先端技術、そして「一緒に飲んで楽しい」仲間
技術とビジネスの両輪で:フラットな組織とスピーディな開発
ーーISL Networksならではの組織文化や働き方の特徴は何でしょうか?
井上:まず、CTOの久保田とCEOの私が、技術とビジネスそれぞれのバックグラウンドを持ちながら、対等な立場で経営していることですね。そして、創業以来完全フルリモートで運営しています。コミュニケーションは主にチャットツールで行い、情報共有には特に気を配っています。
ーーエンジニアにとっての魅力は何だとお考えですか?
井上:大企業の研究所レベルの最先端技術に、企画から開発、実装、そして顧客への提案まで一気通貫で関われることだと思います。通常は分業されがちなプロセスを、ベンチャーならではのスピード感で、すべて体験できる。お客様との打ち合わせにエンジニアが同席することも珍しくなく、その場で技術的な課題解決や提案ができるので、お客様からも非常に喜ばれます。これは大きなやりがいに繋がるはずです。
求めるのは「共感」と「主体性」
ーーどんな方と一緒に働きたいですか?
井上:うーん、端的に言うと「一緒に飲みに行きたいと思える人」ですかね(笑)。もちろん、スキルや経験は重要ですが、このフェーズのスタートアップでは、価値観が合わないと、しんどい時に一緒に乗り越えられないと思うんです。我々がやろうとしていること、目指している世界観に共感してくれるかどうかが、根本的に大事だと考えています。
ーー具体的には、どのような資質を求めますか?
井上:大事にしていることは3つあります。
- 事業への共感: 我々の技術やビジョン、解決しようとしている社会課題に「面白い」「意義がある」と感じてくれる方。
- 主体性・プロ意識: ベンチャーなので、手取り足取り教える余裕はありません。自ら学び、考え、行動できる方。自分の仕事に責任を持てる方。
- コミュニケーション能力: フルリモートなので、積極的に情報共有し、チームとして連携できる方。建設的な議論ができる方。
特に営業・ビジネス開発職の方であれば、大手企業のエンタープライズ営業経験や、通信/IoT分野でのビジネス開発経験があると、スムーズにご活躍いただけると思います。
【ビジョン・将来展望】 人口動態が示す「必然の未来」に、次世代の産業インフラを
目指すは「産業インフラ」のデファクトスタンダード
ーーISL Networksの今後の展望について教えてください。
井上:短期的には、先ほどお話しした新製品を成功させることに全力を注ぎます。これを軸に、プロダクト中心のビジネスモデルへと移行していきたい。中長期的には、ローカル5Gを核とした次世代の「産業インフラ」を構築し、提供していくことを目指しています。
ーー「産業インフラ」とは、具体的にどのようなイメージでしょうか?
井上:少子高齢化による労働力不足は、日本の産業界が直面する、避けては通れない課題です。人が減っていく中で、どうやって生産性を維持・向上させるか。答えは、ロボットやドローン、AIなどを活用した自動化、つまり産業DX(デジタルトランスフォーメーション)しかありません。そして、それらを実現するための基盤となるのが、柔軟で高品質な無線通信インフラ、すなわちローカル5Gだと考えています。
人口動態が示す「必然の未来」:2027年からの変革期に備える
ーーなぜそれが「必然の未来」だと?
井上:これは人口動態を見れば明らかです。日本の生産年齢人口は確実に減少し続けます。これはもう確定した未来です。労働力が減れば、企業は否応なく自動化・省人化を進めざるを得なくなります。その時、必ずローカル5Gのような新しい産業インフラが必要になる。この流れは、コロナ禍で飲食店の配膳ロボットやリモートワークが一気に普及したように、あるトリガーによって爆発的に加速すると考えています。そのトリガーが「労働力不足の深刻化」であり、本格化するのは2027年~2030年頃だと予測しています。
ーーその未来に向けて、今準備をしているのですね。
井上:その通りです。その変革期が来た時に、企業が本当に導入しやすい価格・性能・使いやすさを備えた製品とソリューションを提供できる存在になっていたい。我々の競合は大手通信機器メーカーになりますが、ベンチャーならではのスピード感とコスト競争力、そして最先端技術へのキャッチアップ力で勝負を仕掛けていきます。我々が作っているのは、単なる通信機器ではなく、日本の未来の産業を支えるためのインフラそのものなのです。
社会課題解決の最前線で、まだ見ぬ市場を切り拓く興奮を
ーー最後に、ISL Networksに興味を持った方へメッセージをお願いします。
井上:我々が取り組んでいるのは、ローカル5Gという新しい技術を使って、日本の大きな社会課題である労働力不足に立ち向かい、産業の未来を形作っていく、非常にチャレンジングで、かつ社会的意義の大きな仕事です。
まだ新しい市場なので、すぐには理解されなかったり、地道な努力が必要だったり、大変なことも正直あります。しかし、自分たちが考えたこと、作ったものが世の中に受け入れられ、社会を変えていく手応えは、何物にも代えがたい喜びです。
もし、私たちのビジョンや事業に少しでも「面白そうだな」「共感できるな」と思っていただけたなら、ぜひ一度カジュアルにお話しさせてください。ウェブサイトやこの記事だけでは伝えきれない、現場の熱量や可能性を感じていただけると思います。
あなたの経験や情熱を、未来の産業インフラを創るという大きな挑戦にぶつけてみませんか? 一緒にまだ見ぬ市場を切り拓いていける仲間と出会えることを、心から楽しみにしています。