1999年にテレビ朝日に入社し、アナウンサーとしてプロレス実況やバラエティ、ニュース番組などを担当。その後、29歳で報道局へ異動し、警視庁担当の社会部記者、政治部記者、ニューヨーク特派員などを経験。約20年にわたって、国内外のニュースを追い続けてきた中丸徹さん。
2025年9月、長年勤めたテレビ朝日を退職し、メディアジーンへ。現在は動画メディア『インサイダ』を手がけています。
なぜ、テレビからWebメディアへ移ったのか。そこで目指す「中メディア」とは何なのか。そして、どんな仲間とこれからの動画メディアをつくっていきたいのか。メディアジーン採用担当が、中丸さんに話を聞きました。
マスでも個人でもない「中メディア」をつくりたい
▲ニュース番組、社会部記者、政治部記者などニュースを追い続けてきた中丸さん
──中丸さんがテレビ朝日に入社した1999年は、今とはまったくメディア環境が違いましたよね。
そうですね。当時、動画を広く届けられるメディアって、ほぼテレビしかなかったんです。テレビ局には大きな取材力や交渉力があって、社会への影響力も大きかった。
一方で、ちょうどインターネットが広がり始めた時期でもありました。当時は静止画を表示するだけでも数秒かかるような時代でしたけど、「そのうちネットで動画がサクサク流れるようになったら、テレビの強みは少なくとも半分くらい失われるだろうな」と思っていました。
──20年以上前から、Web動画の可能性を感じていた。
そうですね。テレビがなくなるとは思っていませんでしたけど、動画を見る場所がテレビだけではなくなることは想像していました。
実際、その後のテレビの現場も変わってきました。以前ならできた取材が、予算の問題で難しくなることもある。それに、テレビは多くの人に届けるメディアなので、広く見てもらおうとするほど、テーマや表現が少しずつ“丸く”なっていくところもあります。
一方で、今はSNSがあって、個人もメディアになりました。誰でも自由に発信できるのはおもしろいことですが、裏取りされていない情報や、専門性が担保されていない情報も大量に流れています。
そこで、「テレビか個人か」の二択ではなく、その間に何かあってもいいんじゃないかと思ったんです。
──それが「中メディア」ですか。
はい。僕は勝手に「中(ちゅう)メディア」と呼んでいます(笑)。
マスメディアが長年培ってきた取材経験や裏取り、正確性は持っている。でも、マスメディアほど大づかみではなく、一つのテーマをもっときめ細かく、深く掘り下げることができる。そういうメディアがあってもいいと思っています。
Webだから、知恵を「残せる」
──その考えと、メディアジーンでやろうとしていたことが重なった。
そうですね。Webで動画をやりたいという思いは以前からありました。
テレビで取材をしていると、面白い話を10個聞けても、放送できるのは1個か2個だったりします。残りの話もおもしろいのに、時間がないから使えない。それってすごくもったいないんです。
Webなら、それをもっと残せると思いました。
──「アーカイブ」ということですね。
僕はそこにWebの大きな可能性があると思っています。
今は興味のないテーマでも、数カ月後、数年後に自分の状況が変わって必要になるかもしれない。そのとき、日付付きでちゃんとした情報が残っていれば取り出せる。
昔、百科事典がやっていたようなことを、人のおしゃべりとして残せるんじゃないかと思っています。
動画って、公開した瞬間の再生回数だけで評価されがちですけど、それだけではない。必要になったタイミングで見つけてもらえる知恵を少しずつ蓄積していきたいんです。
『インサイダ』は「バズらせにいかない」
──『インサイダ』の動画づくりを一言で表すとしたら?
「バズらせにいかない」ですかね。
もちろん、たくさん見られるのはうれしいですし、ビジネスなので収益化も必要です。ただ、それを一番の目的にはしたくない。
今は、どうやったらクリックされるか、再生されるかというアテンションの競争になっています。でも、アテンションを取りにいくことと、きちんと取材して知恵を残すことが矛盾するときがある。そのとき、僕らはアテンションを優先しなくてもいいと思っています。
──「できるだけ多くの人へ」ではない。
必要な人に、必要なサイズで届けばいい。今は、一人の人間が一生かけても見きれないくらいコンテンツがあります。だから、メディアの役割は情報を増やすだけではなく、「選ぶ」ことにもあると思うんです。
情報が多すぎて何を見ればいいかわからない人に、「困ったらここを見てください」と言える場所になる。派手だからではなく、信頼できるから選んでもらう。メディアジーンが大切にしてきた「オーセンティック」という考え方を、動画でも実践していきたいですね。
3人だから、企画から撮影まで全部やる
──現在、動画チームは何人くらいなんですか。
ほぼ3人です。だから、本当に何でもやります。企画を考えて、リサーチして、ゲストに連絡して、構成を考えて、撮影して、編集のディレクションまでやる。編集の一部は外部にお願いしていますが、素材を渡して終わりではありません。
取材内容を全部確認して、「この話を先にしたほうがいい」「この人のおもしろさはここだよね」と考えて、編集方針まで組み立てます。
──企画はどんなふうに生まれるんでしょう。
企画会議は週に1回ありますが、それ以外でもSlackに気になったニュースを投げたり、ブレストしたりしています。
「最近、ディズニーランドのチケットが高くなったよね。何が起きているんだろう」とか、「みんなこの部分ばかり話しているけど、本当は別のところが重要なんじゃない?」とか。日常の小さな疑問から企画が始まることも多いです。
メンバーの年齢やキャリアも違うので、同じニュースを見ても引っかかる場所が違う。それをフラットに持ち寄れるのがおもしろいですね。
──長くテレビの報道現場にいた中丸さんがいると、若いメンバーは緊張しそうです。
どうなんでしょうね(笑)。でも、僕は「自分が長くやってきたから正解を知っている」とは思っていません。
テレビで培った取材の仕方や裏取りの考え方は伝えられます。でも、Web動画の正解を僕が持っているわけじゃない。『インサイダ』には、まだ完成した型がありません。だから「こうしたほうが良いんじゃないですか」とメンバーに言ってもらったほうがいい。
僕がテレビでやってきたことと、若い人が持っているWebやYouTubeの感覚を組み合わせたほうが、新しいものができると思っています。
「見た人生のほうが、気づきが一つ多い」動画を
──これまでにつくった中で、『インサイダ』らしいと感じる動画はありますか。
2026年のサッカーワールドカップを前に制作した、「サッカーW杯がアメリカ化している」というテーマの動画ですね。
利益を追求するサッカー界の変化や、アメリカとヨーロッパのスポーツビジネスの違いを専門家の方に聞きました。
公開したときはまだそこまで大きく語られていなかったテーマでしたが、実際にワールドカップが始まると、動画で話していたことが次々と現実に起きたんです。
そのとき、「こういうものをつくりたかったんだな」と思いました。
その動画を見なかった人生と、見た人生を比べたときに、見た人生のほうが世の中を見るときの気づきが一つ多い。それでいいんです。僕らの動画が、世界を見るための補助線になればいいと思っています。
求めているのは「自分から楽しめる人」
▲テレビ朝日時代、ナイロビにて。
──新しく入る方には、どんなことを期待していますか。
Web動画やテレビ番組で、企画や演出をしてきた方は合うと思います。僕が動画で大事にしているのは、情報だけじゃないんです。出演者がどんな顔で話しているのか、どんなテンションなのか、その場にどんな空気が流れているのか。そこまで動画には映っています。
だから、「この人をどう見せたら、この話の面白さが一番伝わるんだろう」と考えることが大事です。
──こんな人にきてもらいたいという人物像は?
一番大事なのは、自分から楽しめる人ですね。
少人数なので、「あなたはここだけやってください」という働き方ではありません。逆に言えば、いくらでも口を出せます。「この撮り方、もっとこうしたらいいんじゃないですか」「このゲストなら外で撮ったほうが面白くないですか」とか。
僕に対しても「それ違うと思います」って言ってもらいたいです。次に入る人のアイデアが、そのまま『インサイダ』の形になる可能性があります。
二度とない時代の、その瞬間を記録する
──最後に、これからチームに入る方へメッセージをお願いします。
ニュースの仕事って、すごくおもしろいと思っています。二度とない時代の、その瞬間に立ち会えるんですよ!
今起きていることは、来年にはもう過去になっている。
その瞬間に誰かに話を聞いて、何が起きているのかを考えて、それを表現して記録する。そこに関われることが、ニュースの仕事の一番おもしろいところだと思います。
僕はテレビ朝日で長く報道をやってきました。でも、今度はWeb動画という場所で、新しい形のニュースをつくってみたい。『インサイダ』はまだ小さなチームです。だからこそ、次に入ってくれる人の興味やアイデアが、新しい企画や動画の形になる。
完成された場所に入るのではなく、一緒につくる。そういうことを楽しめる人と、今という時代を記録していきたいですね。
▲【編集長中丸の質問コーナー】もぜひご覧ください。テレビ朝日時代のエピソードも聴けます。