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富士吉田のハーブとSARUYAを繋ぐ芳醇な関係

SARUYAのラウンジにはいると、壁にズラリと並んだボトルが目に留まるかもしれない。これらのボトルは、すべてハーブティ。SARUYAに宿泊したお客様はこれらを自由に淹れて飲むことができる。「YUZU」「KUROMAME」など日本の素材をメインとしたブレンドばかりなので、海外からの宿泊客にも新鮮な体験になるだろう。

これらのハーブティをブレンドしたのは、下吉田を拠点にハーブの生産と商品開発などを行う『HERBSTAND』だ。代表の平野優太さん・真菜実さん夫妻が、4年前に富士吉田市に移住して以来、富士北麓の水を使いオーガニックのハーブを育てている。HERBSTANDの畑はSARUYAから歩いて15分ほど。行ってみると20ヶ所ほどの区切られたスペースに様々なハーブが植えられている。ここで育てられているのは60種類ほどだが、山に自生している植物や、一般には雑草とされるものからも使えるものを採取して出荷するというから扱う種類は膨大だ。平野さんにとって、役に立たない植物などないらしい。


堆肥はハーブそのものの葉や枝を使う植物性を採用している。一般的に堆肥というと、家畜の糞などを使うイメージだが、この場所はかつて江戸幕府に献上するほどの薬草(ハーブ)の採取地だった地域。富士北麓から流れる適度なミネラルを含む軟水と富士山の火山灰を含む栄養価の高い土があれば、強烈な肥料を与えずとも、あえて植物性の優しい堆肥でじっくり育てたほうがしっかりとした香りをもつハーブになるという。

優太さんは自然療法に詳しいお母様の影響で小さい頃から自然やハーブに親しんでいたというが、自身の生き方を決定づけたのは、ロードトリップに出かけたニュージーランドでの体験だ。滞在先のホストファザーが、仕事の休憩やランチタイムになると、庭先のハーブをガサッと摘んでザサっと洗い、お湯をかけただけでハーブティを淹れてくれたことに感動した。ニュージーランドでは街のいたるところにハーブショップがあり、薬ではなく植物を使ってセルフケアをする習慣が根づいている。そんな様子を目の当たりにして、日本でももっと日常的にハーブを取り入れた生活を提案したいと考えるようになった。

ただ、ネックになるのは価格の違いだ。無農薬のハーブを日常に取り入れるには価格が高すぎてしまう。日本ではハーブ農園は各地にあるものの、品種ごとに特化しているケースが多く幅広い品種を扱う生産者は少ない。手に取りやすい価格を実現するには、国産無農薬でありながらも、ある程度の規模で幅広く生産する体制が必要になる。当初はハーブティやモヒートの販売をおこなっていた平野さん夫妻だが、生産現場からこの状況を変えなければならないと考えるようになり、気がつけば畑の人になっていたというわけだ。


SARUYAではそんなHERBSTANDがブレンドしたハーブティを常時13〜14種類用意している。その土地にある自然の力を信じる平野夫妻の姿勢は、富士吉田の街や建物のありのままを魅力と考えるSARUYAの想いとも重なった。海外からの宿泊客が多いことから、和の素材を中心にブレンドをしてもらい、飲み比べを楽しめるようにした。「RYOKUCHA」や「YUZU」など比較的馴染みのあるものから、「SHISO」や「KINMOKUSEI」など日本人でもちょっと驚くものまであり、ついつい手にとりたくなる。長旅から疲れて到着した時や思いっきり観光に勤しんだあとなどは、コーヒーも悪くないが、胃にやさしく効能も期待できるハーブティは癒される。

今年は、そのなかから人気の3種類を選んで商品化もおこなった。「柚子」「金木犀」「チャイ」をメイン素材に、レモングラスやジンジャーなどをブレンドしてバランスよく仕上げている。6角形のクラフト素材のパッケージもなんともかわいく、新たな富士吉田土産にもなるかもしれない。(SARUYA Hostelラウンジで販売中。各1500円)今後も、SARUYAに宿泊してHERBSTANDの畑で農作業に参加する共同プログラムなどを予定している。


HERBSTANDの畑で平野さんに嗅がせていただいたハーブは、どれも個性的だがどこかで嗅いだことのあるような、懐かしさがあるものも多い。旅先で食べたあの料理や、あの時飲んだカクテルの香りの主はこれだったのか…と次々と記憶が蘇る。ハーブが料理の主役になることはなかなかなくとも、どの料理にも欠かせない、まさに「スパイス=薬草」。香りは意外なほど思い出に深く入り込んでくるので侮れない。富士吉田での体験は、香りとともに記憶に刻まれて、ある時ふと思い出すことがあるだろう。その時はまたこの町に戻ってきてほしい。

著者プロフィール

Yumi Igarashi

山梨県在住。リゾートホテルの運営会社に10年在籍し、軽井沢、石垣島、福島を経て数年前からフリーランスで、ホテルの運営アドバイザー、ライターなど。SARUYAとの関係は、もはやきっかけは忘れましたが、なんやかんやとお仕事を手伝ったり遊びに来たりで、出入りしているいわゆる“関係人口“のひとりです。

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