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SARUYAで使うタオルや寝具には大切な価値観が込められている、という話

SARUYAに一度でも泊まったことがある人なら気がつくかもしれません。「あれ?なんか寝心地がいいなぁ」と。その理由は、使われている寝具にあるかもしれません。

SARUYAのふとんカバーや枕カバー、それからバスタオルには、リネン(麻)の生地が使われています。(※すべての客室ではありません。)リネンは、通気性や吸汗性が高く寝具にとても向いている素材なのですが、コストやシワになりやすいことなどから、実際にホテルで使用されることはあまりありません。では、なぜSARUYAで?

これらのアイテムは、同じ富士吉田市内で3代続く織物メーカー「テンジンファクトリー」さん(以下「テンジンさん」)の制作によるもの。もともとSARUYA代表の八木がテンジンさんの広告デザインなどを手がけていた縁があったのですが、2017年頃、新たにリネン寝具のシリーズをはじめるにあたり、その快適性を実際に体験してもらいたいとお申し出いただき、SARUYAにご提供いただくことになりました。

リネンは快適な眠りに欠かせない素材


リネンは快適な眠りに欠かせない素材

ところで、そもそも「リネン」という呼び方は、「ホテルリネン」「テーブルリネン」など、ファブリック類全般を指す時にも使われますよね。ホテルや病院で「リネン室」のような表記を見かけたことがある人も多いのでは。たしかに、ホテルや病院で使われるファブリックは、コットン、ポリエステル、シルクなど様々な素材が使われますが、総称として「リネン」と呼ばれます。これは、歴史的にファブリックと言えばリネン(麻)が一般的だったから。はじめにファブリック=リネンという呼び方が定着し、その後にコットンの大量生産が可能になったり、化学繊維が登場してきたことで種類が多様化したのです。それほどリネンは歴史が長く、生活に馴染んでいたのですね。最近では、リネンは夏のオシャレなファッション、贅沢な素材というイメージかもしれませんが、あらためて見直してみると、寝具やタオルに向いている点がたくさんあります。

リネンの繊維は中が空洞で空気を多く含みます。その空気が温度調節機能を果たすので、夏は涼しく冬は温かく感じられます。吸水性は綿の3倍と言われ、よく水や汗を吸ってくれるだけでなく、乾くのも早いので、生乾き臭がしにくいのも利点。そして、大切に使えば100年もつと言われるほど丈夫で、使うほどにむしろ風合いが増してくるのも特徴です。ちなみに、厚みがないのでクローゼットにしまった時に嵩張らないのも、個人的にはとても推したいポイントです。

いろいろ利点だらけにも関わらず、一般的なホテルなどであまり見かけないのは、大量生産しにくい分コストがかかり、縮みやすい、シワになりやすいといった難しさがあるから。SARUYAは、全10室に満たない小さな宿。シーツやタオルをスタッフが洗濯機で洗い、中庭で干すことができます。さらに、あえてアイロンはかけずに、ナチュラルな風合いを残したままご提供することで、リネンの採用を実現させました。


シャトル織機が生み出す時代を超えたものづくり

テンジンファクトリーさんの工場はSARUYAから車で5分ほどの場所にあります。工場に着くと、建物の中からはカチャンカチャンとリズミカルな音が聞こえてきます。全国有数の織物産地である富士吉田には他にも多くの織物工場があり、織機の音が聞こえてくることはよくあるのですが、それらと比べてもゆっくりとしたリズムに感じられます。その理由は、使われている「織機の回転数」にありました。

織機(しょっき)とは、言わずもがな縦糸と横糸をパタパタと組み合わせて布にしていく機械のこと。機械の前に人が座って、木のバーを前に倒しながらパタパタと布を織っていくところは観光地などで見たことがあるかもしれませんが、一部の伝統工芸を除けば、当然ながら大量に流通しているものは自動化されています。テンジンさんで使われている織機は「シャトル織機」と言って、今では製造されていない昔ながらのもの。この機械が動く速度が「1分間に約100回転」と“超低速“なんです。近年一般的になったレピア織機だと、1分間に約300回転、早いものだと1000回転なんてものもあるそうなので、シャトル織機がとても遅いということがわかります。1000回転ともなると、音も轟音。とてもカチャンカチャンという音を楽しむ余裕はなさそうです。

テンジンさんでは、リネンの寝具をはじめるにあたり、あえてこの古いシャトル織機を導入しました。すでに製造が終わった機械ですが、富士吉田市内で廃業した工場から譲り受けたそうです。速度が遅くなれば、その分製造効率はさがりコストもかかります。しかし、回転が速い織機はどうしても糸を強く引っ張ってしまうため、できあがった布が硬く平面的になってしまい、素材がもつ独特の風合いは失われてしまいます。1分間に約100回転という、あえて遅い織機を使うことで、糸と糸の間に余裕を生み、リネンのもつ柔らかい肌触りや機能性を高めるのです。

寝具に使用する糸は、ヨーロッパ産を使用しています。麻の栽培地域は世界中に分布していますが、そのうち寝具やタオルなど肌触りを重視するアイテムに適した品種は、主にフランスやベルギーなどヨーロッパ以北の寒冷地で栽培されるためです。このような工夫の積み重ねによってつくられるアイテムは、触って心地いいのはもちろんですが、眠りの質にも影響するもので、例えば「リネンのパジャマに変えたらぐっすり眠れるようになった」といった声もあるそう。

“大切に使えば100年もつ“リネンとSARUYAに共通するもの

SARUYAでも、テンジンさんのふとんカバーやバスタオルを使用するようになり、お客様からは非常にご好評をいただいています。なかには、「購入したい」というだけでなく、「工場を見学したい」ひいては「富士吉田の織物産業のことをもっと知りたい」という方も。単に品質を評価してくださっただけでなく、ものづくりの姿勢や、SARUYAと地域産業の関係性にまで興味を示してくださったのであれば嬉しいことです。

冒頭で、「2017年頃、新たにリネン寝具のシリーズをはじめるにあたり、その快適性を実際に体験してもらいたいとお申し出いただき」と書きましたが、実のところ、テンジンさんからお申し出いただいたのか、SARUYAから「使わせてほしい」と言ったのか、お互い定かではないのです。それくらい、自然にスムーズにはじまったということ。ご縁があったこと、品質が確かだったことはもちろんですが、大量生産ではない意味のあるものを使うということが、SARUYAにとってはごく自然すぎる選択だったのかもしれません。

丁寧に作られたものを丁寧に使う。
シャトル織機のように淡々と日常を紡ぐ。
時代を超えて普遍的なものを大事にする。
SARUYAが無意識に大切にしていた価値観が、テンジンさんのリネンには込められています。

今では、青空の下で白いシーツやタオルがたなびく様子は、SARUYAを象徴する景色のひとつになりました。大切に使えば100年もつリネンと同様、ホテルも大切に受け継がれれば、100年でも200年でも続いていきます。SARUYAははたして…と、ぼんやりと思いを馳せながら、今日も中庭で揺れる白いタオルを眺めています。

著者プロフィール

Yumi Igarashi

山梨県在住。リゾートホテルの運営会社に10年在籍し、軽井沢、石垣島、福島を経て数年前からフリーランスで、ホテルの運営アドバイザー、ライターなど。SARUYAとの関係は、もはやきっかけは忘れましたが、なんやかんやとお仕事を手伝ったり遊びに来たりで、出入りしているいわゆる“関係人口“のひとりです。

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