はじめまして。一般社団法人日本マタニティフード協会の代表をしている、山本一樹です。
わが家には5歳と2歳の娘がいて、妻はいま3人目を妊娠中です。女性の多い家の中で、少し肩身の狭い思いをしながら、楽しく暮らしています。
おしゃれに関心の高い娘たちに服を選んであげると、「パパ、それ上下合ってないよ」と言われます。テレビにお相撲さんが映ると、2歳の娘が「パパみたい」と指をさします。だいたいそんな感じの父親です。
今日は、そんな私と妻が5年前に始めた仕事の話を書きます。社会課題に立ち向かった人の話ではありません。自分の家の中で困ったことを、自分たちの仕事にした。そうしたら、同じことを感じていた人たちが集まってくれた。そういう話です。
始まりは、妻に怒られた日でした
妻が1人目の子を妊娠していたころ、妻のために買って帰った食べ物で、怒られたことがあります。良かれと思って選んだものが、妊婦さんは控えたほうがいい食品でした。
調べればわかったはずです。でも調べても、ある記事ではOK、別の記事ではNG。どれが正しいのかわからない。
いちばん大変だったのは、もちろん妻です。妊活のころから授乳期までの約2年間、ずっと食事に気を遣い続けていました。ただ、隣にいる私も困っていました。何を買って帰ればいいのかわからない。力になりたいのに、なり方がわからない。
コロナ禍の中、つわりの重かった妻が言いました。
「どうして妊婦の食事って、こんなに大変なんだろう」
そこから夫婦で、「もっとこうだったらいいのに」を出し合うようになりました。2021年3月、2人で協会を立ち上げました。
私たち2人は、いわゆる「優秀な人」ではありません
私は特別な学歴があるわけでもなく、新卒で入ったテレビ番組の制作会社は、1年続かずに辞めました。そのあとはフリーランスとして、オーガニック系のお店の店長をしたり、食品会社の新しい事業を手伝ったり。世の中の一般的なレールには、うまく乗れないまま仕事をしてきました。
妻は専門学校を出て、ブライダルのスタイリストになりました。2年目には副店長を任されていましたが、いわゆる大企業でのキャリアがあるわけではありません。
勉強ができて、大きな会社に勤めて、という意味での「優秀さ」を、私たちは2人とも持っていません。あったのは、自分たちが困ったことを誰も解決しようとしないなら、自分たちでやってみよう、という思いだけでした。
仕事は、人生でいちばん長く使う時間だから
私には、個人的に決めているテーマがあります。
ライフステージごとに自分が感じた課題を、起業を通じて解決していく。
創業のころのメモを見返したら、まったく同じ言葉が書いてありました。5年間、ここは変わっていません。
理由は単純です。仕事は、人生の中でいちばん長い時間を使うものです。だったらその時間が、自分の人生や、家族の毎日と地続きであってほしい。自分で選んだ道を、自分で良くしていきたい。
妊活、妊娠、育児というステージにいたから、この仕事になりました。
娘たちが大きくなれば、また別の課題に出会うのだと思います。
立ち上げのころ、食品業界の友人に相談したら「対象が10ヶ月しかないし、少子化で縮む市場。正直厳しいと思うよ」と言われました。その通りだと思います。ただ、私たちは市場の大きさから出発したのではなく、自分たちの生活から出発していたので、やめる理由にはなりませんでした。
行き先は変えず、行き方を変えた
最初に描いた事業は、外れました。
当初の構想は、飲食店のメニューを栄養価計算して「この一食で葉酸が1日の3分の1摂れます」と認定する仕組みでした。栄養が豊富なものに印をつける、足し算の発想です。しかり、コロナ禍で外食需要が減っている時期でもあり、方針を変えざるを得ませんでした。
たくさんの妊婦さんと話す中で、困りごとはそこではないとわかってきました。「何を足せばいいか」の前に、「これは食べて大丈夫なのか」がわからない。だから発想を逆にしました。妊婦さんが避けるべきものが入っていなければ認定する、引き算の発想です。これがいまのマタニティフード認定です。
社内でよく、ハワイの話をします。東京からハワイに行きたいと決めたら、行き方はいくらでもある。飛行機でも、船でも、極端に言えば泳いででも。でも行き先を決めていなければ、行き方をいくら知っていても意味がない。
行き先は「妊婦さんが食で悩まなくていい世界」。
行き方は、ダメなら何度でも変える。いまもその繰り返しです。
私は理屈で考え、妻は人の気持ちを見る
協会は、いまも妻と2人で経営しています。
私はどちらかというと、理屈で考えるほうです。妻は、人と人とのつながりや、人の気持ちに目を向けるのが得意です。私が「仕組みとしてはこれが正しい」と組み立てたものに、妻が「それ、受け取る側はどう感じるかな」と返してくる。
そして妻は、協会にとっていちばん身近で、いちばん率直なユーザーでもあります。新しいサービスも、商品も、まず妻がひとりの消費者としてどう思うか。そこで通らないものは、だいたい世の中でも通りません。
服の上下は娘たちに、事業の上下は妻に、チェックしてもらっているようなものです。
形にしてくれたのは、仲間と、企業の皆さんです
人を雇うつもりは、もともとありませんでした。
ある日、一人の女性が訪ねてきました。「女性のためになることがしたくて、前の仕事を辞めてきました。子どもが1人いて、いま妊娠中です。でも、働かせてください」と。
人にお仕事をお願いするということが、そこから始まりました。
その後、営業のプロ、マーケティングのプロ、システムをつくれる人、お店づくりが得意な人、管理栄養士さん。私たち2人が持っていない力を持った人たちが、次々と加わってくれました。いま協会を動かしているのは、ほとんどが育児中のメンバーです。有明と府中のお店で、お客さんから「何か新しいの入った?」と声をかけてもらえる関係をつくったのも、店頭に立つスタッフたちです。
そしてもう一つ。「家族のために良いものを届けたい」と考える多くの企業さんが、協会に参加してくださいました。何の後ろ盾もなかった私たちの背中を押し、一緒に形をつくりながら、企業さんの側にもきちんとメリットが生まれるやり方を、ともに探ってきてくださった。
私がやってきたのは、考えていることを言葉にして、掲げ続けたことくらいです。それが形になったのは、集まってくれた人たちのおかげです。これは謙遜ではなく、ただの事実です。
2ヶ月のワンオペと、ホテルの3日間
最近のことを少し。
妻の3人目のつわりが長く続いて、約2ヶ月、私が1人で娘2人を見ながら仕事をしていました。ちょうど府中の新しいお店のオープンが重なった時期です。オープンの前後は、娘たちと3人でホテルに3泊して、そこから現場に通いました。
乗り切れたのは、娘たちがびっくりするくらい協力してくれたことと、メンバーが支えてくれたおかげです。あの2ヶ月、私は人生でいちばん素直に、周りに「助けて」と言えていたと思います。
保育園の送り迎え、洗濯、急な発熱。その合間に仕事をする毎日がどういうものか、頭ではなく体でわかりました。協会のメンバーの多くは、これを何年も続けている人たちです。
正解ではなく、選択肢を
協会が掲げているのは、「家族の笑顔につながる安心な選択肢をあつめる」ことです。私は、これを本当に実現したいと思っています。
つわりの症状が一人ひとり違うように、育児にも、夫婦の形にも、生き方にも、唯一の正解はありません。誰かに正解を突きつけられるより、それぞれの理想に合った答えを、自分で選べるほうがいい。
私は、「今日一日を、自分の意思で選んで過ごせた」と思える人が増えることが、幸せにつながると考えています。何を食べるか、何を使うか、どう働くか。小さな選択の積み重ねが、その人の一日をつくるからです。
だから私たちは、膨大な情報と商品の中から、安心して選べるものを集めておく。「これでいいや」ではなく、「これがいい」と選べるように。妊婦さんに無料でお届けしている「ハッピーマタニティBOX」も、妊婦さんを応援したいと手を挙げた企業さんの商品を集めた、その入口の一つです。
近所の大きなスーパーには、ペットフードの広い棚があります。ベビーフードの棚はその半分くらい。マタニティフードの棚は、まだありません。私が育った長野の人口1万人ほどの町のスーパーにも、いつかその棚が当たり前にある。そうなったらいいなと思っています。
5年前は妻に怒られ、いまは娘たちに服のダメ出しをされています。家の中で教わったことを、仕事にしている。たぶんこれからも、そうやって続けていきます。