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みんながエコバッグを使いはじめたのをみて「スポーツをする人を増やす」アプローチを考えてみました。

GODAI note編集部です。

7月1日から、コンビニやスーパーのレジ袋の有料化がスタートしました。
それを境に、エコバッグを持参する人をあちこちで見かけるようになりました。

これまで「エコバッグを使いましょう!」というかけ声はそれなりにあったと思いますが、大半の人は当たり前のようにレジ袋を使っていたように思います(私もです)。
タダ同然に使っていたレジ袋が2円、3円になるだけで、こんなにも人の行動は変わるものなんですね。

ここでふと思ったのですが、スポーツ庁は、「成人の週1回以上のスポーツ実施率をを65%程度にする」という政策目標を掲げています。

それだけスポーツや運動をしない人にとって、体を動かすのは心理的なハードルが高いもの。健康政策と環境政策は、「やりたくないこと、面倒なことに人を誘導する」という点で似ています。

「エコバッグを使う人」が増えたように、「スポーツを日常的に行う人」は、増やせるのでしょうか?

強制的アプローチと自発的アプローチ

環境分野における政策によくみられるアプローチには「強制的アプローチ」「自発的アプローチ」の二つがあります。

「強制的アプローチ」は、文字どおり強制的に、一律に従わせる手法です。法律で規制する、罰則を設けるなどがあります。

もうひとつの「自発的アプローチ」は、強制的にではなく、その人が自発的に選択するよう誘導するというものです。
ここでは、人を達成したい目標に導くための「誘因」を設計する手法がとられます。これを経済学用語で「インセンティブ」といいます。

インセンティブは、いわば「アメとムチ」。レジ袋の有料化は、「レジ袋を使いたければおカネを払ってね」とすることで、「それならエコバッグを使おうかな……」という方向に人々を導く「ムチ」のインセンティブです。
反対に、エコバッグを利用するごとにポイントがたまっておトクになるような制度なら、「アメ」のインセンティブになります。
(今回のレジ袋の有料化も、従来の「アメ」のインセンティブでは十分に目標を達成できないという判断だったのかもしれません)

この「インセンティブ」は、「人間は経済合理性にもとづいて行動・選択する生き物」という前提をとります。損得を適切に判断でき、自分が得だと思う選択を取ることができる、ということですね。
私の職場のスタッフ(主婦)も、「コンビニで3円のレジ袋を買うより、100均で100枚入りのゴミ袋を買ったほうがオトク」と言っていたので、この前提は正しいといえるような気がします。

スポーツをする人を増やす「インセンティブ」とは?

では、このような環境政策で用いられるアプローチを、「スポーツをする人を増やす」という目標に当てはめるとどうなるでしょうか。

まず、「強制的アプローチ」としては、「毎週〇キロ以上走っていない人には課税負担を重くする」「1日の歩数が1000歩未満の人は罰金」など一律のルールを設けることが考えられます。
これはどうみても現実的ではありませんね……。

次に、「自発的アプローチ」として、「歩いた歩数ごとにポイントがたまる」などの「アメ」のインセンティブを設計する方法があります。
このアプローチは、現に多くの自治体で採用されています。

こういったアプローチは(細かい数字はわかりませんが)周囲で参加しているという人も聞くので、一定の成果を挙げているとは思います。
が、インセンティブがそれほど強くないので、もともと運動に関心のない人を誘導するにはもう少し後押しが必要かもしれません。
「5キロ走ってきたら千円あげますよ」と言われればよろこんでランニングシューズに履き替えるのですが……(笑)。

人間はそもそも「賢くない」生き物?――行動経済学アプローチ

でも、それでは自治体の財政が持たないので、少し異なるアプローチを考えてみましょう。

先ほど、インセンティブの設計には「人間は経済合理性にもとづいて行動・選択する生き物」という前提がある、という話をしました。
しかし、現実には、人間はついつい非合理的な選択をしてしまうもの。「タバコ・酒がやめられない」「つい甘いものに手が伸びてしまう」「無駄遣いとわかっているのにポチってしまう」――誰しも身に覚えがあるでしょう。

このように「そもそも人間は賢くない生き物」という前提を置いているのが「行動経済学」という学問です。
この行動経済学、2016年にシカゴ大学のリチャード・セイラー教授がノーベル経済学賞を受賞して、注目を集めました。

セイラー教授が提唱したのは「ナッジ」という概念です。
(ナッジ(nodge)とは「肘でちょんとつつく」という意味)

オランダ・アムステルダムの「スキポール空港」のトイレの事例が有名です。男性用の小便器に小さなハエの絵を描いただけで、トイレの汚れが80%も減少したそうです。
男性トイレの利用者は、無意識のうちに「目の前のハエに命中させよう……」と導かれてしまったということです。

このナッジは、とりわけ「自制心」の問題が関わってくる場面で有効だと、セイラー教授は著書『実践 行動経済学』のなかで言っています。

自制心の問題が生じる可能性が最も高いのは、選択と結果にタイムラグがあるときだ。一方の極端にあるのが「投資財」とでもいえるものである。運動、歯のフロッシング、ダイエットなどがこれに当たる。投資財の場合、コストはすぐに発生するが、便益は後から生じる。ほとんどの人はやる量が少な過ぎるという過ちを犯す。

スポーツ、運動といった「投資財」は、投資に対する効果がみえにくいし、効果が出るまでタイムラグがある。なので、自制心がはたらきにくい。ここに、ナッジが必要とされる余地があるということですね。

「スポーツをする人を増やす」ナッジ・アプローチ

スポーツ・運動といった「自制心」を伴う行動に対して、ナッジは具体的にどう活用できるでしょうか。
『実践 行動経済学』を参考に、スポーツ・運動分野で使えそうなナッジ・アプローチをいくつかピックアップしてみました。

➀フィードバックを与える
「効果をみえる化する」というフィードバックは、とても有効なナッジ・アプローチであり、実際に運動やダイエットの分野ではよくみられます。
食事管理アプリ「あすけん」は、その日に食べたものを記録すると、「あすけん健康度」という100点満点で評価がフィードバックされます。つい、高得点をねらって「たんぱく質が足りないから豆腐を追加しよう」という行動を促されます。

「よい結果」をフィードバックするアプローチもあれば、「悪い結果」をフィードバックするアプローチもあります。
タバコの警告表示(2020年4月からパッケージの50%以上の表示が義務付けられたそうです!)は、「悪い結果」のフィードバックの一例ですね。

➁誓い合う
ある機関にお金を預けて、一定の期日までに目標を達成することに同意し、目標を達成すると預けたお金が戻ってくる、という事例があるそうです。
この仕組みをグループで行う場合は、グループ全員のお金をプールして、目標を達成した人の間で分け合います。達成できなかった人は受け取ることができません。

これと似た事例に、無担保で小額の融資を行う貧困層向け金融サービス「マイクロクレジット(マイクロファイナンス)」があります。その特徴のひとつは、グループを作って、そのグループ間で定期的な返済を誓い合うというものです。その結果、高い返済率が維持されるのです。

ダイエットなどは、やらなきゃいけないとわかっているけど、辛いからつい怠けてしまいがち。継続には強い自制心が求められます。
このようなケースでは、共通の目標を持つ人たちでグループを組み、運動や食事の目標を共有しながらダイエットを進める、この「誓い合う」アプローチは効果がありそうですね。

別の欲求に導かれて、“いつの間にか“運動しちゃった?

➂“いつの間にか”運動してしまう
先ほど紹介した「ハエ」のトイレの事例では、利用者は「トイレを汚さないようにしたい」という欲求を持っているわけではありません。
「目の前のハエに命中させたい」という別の欲求(くだらないですが、これが人間というものですね)が、「“いつの間にか”トイレがキレイになっていた」という成果をもたらしています。

スポーツ・運動の分野においても、この“いつの間にか”運動してしまうアプローチはとても有効だと思います。

前出のスタッフは、横浜DeNAベイスターズの熱狂的なファンです。彼女は、スタジアムで観戦してベイスターズが負けた日は「お布施が足りない!」といってその足で公式グッズのショップに駆け込むそうです(笑)。
その「ベイスターズを応援したい!」という欲求をうまく運動に結び付けられるようなナッジを与えられると、運動に無関心な人も巻き込めそうですね。
運動した分だけ「チケットを優先的に入手できる」「公式グッズが割引購入できる」という、インセンティブとの組み合わせも有効かもしれません。

まとめ

以上の考察(というレベルではありませんが)を、次のようにまとめてみました。

・スポーツや運動を積極的にしない層に、日常的にスポーツ・運動をしてもらうには、経済的な動機付けのインセンティブが有効だが、それだけでは限界がある
・運動など、選択と結果にタイムラグがあり人の「自制心」の問題が生じるケースでは、「人間はそもそも非合理的な生き物」という前提に立つナッジ・アプローチが有効
「➀フィードバックを与える」は、運動の投資効果のタイムラグを縮める効果があり、実際に広く使われているアプローチ
「➁誓い合う」は、ダイエットなど強い自制心が求められる場合に有効なアプローチ
「③“いつの間にか”運動してしまう」は、「運動」ではなく別の欲求に誘導し、結果として「運動させる」目的を達成させるアプローチ

方向性はわかっても、そのための方法論がなかなか設計できないのがナッジ・アプローチの難しいところ。
エコバッグのようにはなかなかいきませんが、これからも地道に考えてみたいと思います!


「GODAI note編集部」より転載

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