株式会社ポルティ CTO 田中友也
東芝で9年間勤務後、個人事業主として不動産×データ分析の領域で活動。2011年頃から賃料査定アルゴリズムの開発を手がけ、ポルティには創業期から参画。
今回お話を伺ったのは、CTOの田中友也さんです。代表の平さんとは19歳差。東芝を退職後、10年間にわたり個人で不動産データの分析に取り組んできた異色のキャリアを持っています。なぜ「技術の切り売り」を辞めて、スタートアップに飛び込んだのか。AI時代のエンジニアの価値とは何か。そして、これからの開発組織に必要な人材について、じっくり語っていただきました。
インタビュー中、印象的だったのは田中さんの淡々とした語り口。感情的な盛り上がりを見せるタイプではないのですが、技術やデータの話になると、言葉に熱がこもります。自分の強みも弱みも、組織への向き合い方も、すべてフラットに語ってくださる姿勢が印象的でした。
東芝を辞めて、10年間「兼業主夫」をしていた
田中さんのキャリアは、少し変わった経緯をたどっています。
大学ではコンピューターサイエンスを学び、新卒で東芝に入社。9年ほど勤めた後、個人事業主として独立しました。きっかけは、家庭の事情だったといいます。
「妻がフルタイムで働いているんですが、、すごく忙しいし、休みづらい職種なんですよね。子供も小さかったし、何かあったときに僕が対応できないと厳しい。会社でずっと働き続けるのは不可能ではないけれど、活躍するのは難しいなと。活躍できない状態で働くのはプライドが許さないので辞めました。それから10年間、半分は兼業主夫みたいな感じでしたね」
もう一つの転機は、不動産投資との出会い。東芝時代に子供が生まれ、将来のことを考えていたタイミングで、たまたまブックオフで不動産投資の本を手に取ったそうです。
「読んでみたら、『これだ』と思って。サラリーマンのうちに融資を受けて不動産投資を始めて、それがあったから会社を辞めても生活できた。妻も働いていたので、収入としては大丈夫という状態ではありましたね」
その不動産投資の経験が、後にポルティでの仕事につながっていきます。
賃料査定アルゴリズムとの出会い
個人事業主として働く中で、田中さんは賃料査定のアルゴリズム開発に取り組み始めます。2012年頃のことです。
「当時、賃料を査定してくれるサイトはあったんですけど、試してみると全然トンチンカンな数字が出てくる。自分だったらもっと精度の高いものが作れるぞ、と思って」
不動産の知識と、データ分析の技術。両方を持っていたからこそ見えた課題でした。
「最初は、自分が使うためというより、『自分の技術を使ったらこういうことができるよね』という感覚が強かったです。誰にどう役立つかとか、マネタイズとか、あまり考えていなかった。面白そうだったから、というのが一番の理由ですね」
その後、不動産テック企業から依頼を受け、査定エンジンの開発に携わることに。そんなことをしている時に出会ったのが、現在ポルティ代表の平さんでした。
19歳下の起業家に賭けた理由
平さんとの出会いは、少し変わった経緯だったそうです。
「私が個人事業主として運営している賃料査定サイトへの問い合わせでいきなり、『SUUMOのURLを入れると、相場価格よりいくら安いかが表示されるサイトを作りたい』という相談があって。僕も暇ではなかったですけど、もしかしたら何か跳ねるかもしれないから、やってみよっかなと。そしたら、その人が『マーケティングに詳しい友達がいるから連れてきます』と言って、連れてきたのが平さんだったんです」
当時、平さんはまだ大学生。田中さんとは19歳の差がありました。
「でも、全然大学生には見えなかったですね。頭の回転も速いし、言っていることも切れる。彼とだったら一緒に仕事をしてもいいかなと思いました」
その後も、外部のエンジニアとしていくつかの仕事を続けていた田中さん。しかし、あるとき違和感を覚えるようになったといいます。
「自分の技術と時間を切り売りしているだけだな、と感じるようになって。それがどうも嫌だったんですよね」
そんなタイミングで、平さんから起業の誘いがあった。
「だったら、この若くてバイタリティにあふれた平さんに賭けてみる方が面白いんじゃないかと。それで、ポルティに参画することにしました」
不動産×データ分析の「二刀流」
CTOとして、田中さんが自認する強みは「不動産×データ分析」の掛け算です。
「賃料査定のアルゴリズムを作るとき、機械学習のテクニックそのものより大事なのは、賃料が決まる要素の理解なんです。例えば『南向きの方が好まれる』とよく言われますけど、実際にデータを分析してみると、地域によってはそうでもないこともあります。その理由もしっかり考えてみると納得の行く理由があったりする。そういうノウハウが、10年以上データを見てきた中で自分の中にたまっています」
統計や機械学習ができるだけの人には、その解釈ができない。一方で、不動産業界に詳しいだけの人にも、データからその知見を引き出すことはできない。
「データも読めるし、不動産のことも詳しいし、仮説があったときに自分で分析できる。その掛け算が強みなんだと思います」
この強みの土台には、自身の不動産投資の経験がある。
「実際に物件を持ってみないと、業界の動き方とか、誰がどういう利害で動いているかって、なかなか分からないんですよね。それは投資をやっていたからこそ身についた肌感覚だと思います」
AI時代に、エンジニアの価値はどこにあるか?
インタビューの中で、田中さんは「コードを書くこと自体は好きじゃない」と話していました。意外な発言ですが、AI時代のエンジニア像を考える上で示唆的です。
「ロジックを考えることは好きなんです。出てきたデータの意味を考えるのも好き。でも、それを実際にコードに落とすのは、正直ちょっと重たい作業で」
そこにAIが登場したことで、状況が一変したといいます。
「今は『こういうことやりたい』と言えば、AIがコードを書いてくれる。統計的な技術も、『こんなことやりたいんだけど』と聞けば、『こういう手法があります、特徴はこうです』と教えてくれる。本当に羽が生えたみたいな感覚で、自分の長所が引き伸ばされている感じがします」
一方で、AIの普及によってエンジニアに求められるものも変わってきていると感じているそうです。
「昔はコードさえ書ければお金をもらえた。でも今は、しっかりビジネスのことを考えて、何を作るかを考えないと、競争力が生まれない時代になってきている」
コードを書く力に加えて、システム全体を俯瞰する力がより重要になってきている——田中さんはそう考えています。
「システム全体としてどうパフォーマンスを担保するか、ネットワークの仕組みがどうなっているか、ビジネスとのつながりがどうなっているか。そういう視点を持っているかどうかが、これからはもっと大事になってくると思います」
事業を理解し、チームを動かせる人と働きたい
現在、田中さんは採用活動にも携わっています。技術的なことにじっくり向き合う時間を確保しづらい状況ではありますが、だからこそ一緒に働く仲間を見つけることの重要性を感じているといいます。
「本当に一人でいいから、エンジニアのリーダーがいれば話が違うんですよね。そうすれば、僕はもう少し技術的な探求に集中できる。理想としては、僕がラボ的に動いて——アルゴリズムの研究や新しい技術の検証をしながら——現場の開発チームと連携していく形ですね」
田中さんが思い描くのは、ラボと開発チームが相互に補い合う組織。ラボ側が一方的に「これを入れろ」と指示するのではなく、事業やプロダクトのことを理解した上で、「この技術、ここに使えるんじゃないか」と提案していく関係性だといいます。
「赤間さん(デザイナー)と一緒にUXの話をしていると、『このシーンでこういうデータがあったらお客さんに刺さるよね』みたいなアイデアが出てくるんです。ああ、確かにそうだよなって思うことがいっぱいある。だから、ラボ発信で押し付けるんじゃなくて、事業やプロダクトのこともちゃんと理解した上で、必要なところに技術を差し込んでいく。そういう動き方が一番いいんだろうなと思います」
では、どんな人を求めているのでしょうか。
「事業全体を理解した上で、エンジニアチームをマネジメントできる人ですね。視野が広くて、いろんなバランスを取りながらうまく回せる人。コードが書ける人は、探せばいます。でも、リーダーとしてという人は、そんなに多くない」
技術力だけでなく、事業理解とカルチャーマッチ。その両方が求められるという。
「思い描いたものとは違う」、それでも面白い
最後に、事業への向き合い方について聞きました。田中さんは正直に、「最初に思い描いたものとは、だいぶ違う」と話します。
「最初は、自分の技術をメインにして、それをどう売っていくかという感覚だったんです。でも、出資を受ける前後で、平さんが『不動産業界のここを変えていくんだ』と言い出して(笑)。僕の技術とは直接関係ないところに踏み込んでいったんですよね」
ただ、平さんの話を聞くと、事業としては正しい方向だと思えたそうです。
「確かに、事業的にはその方が正しいよなって、素直に思ったんです。だから、本来僕が得意としているデータの分析とかは一旦置いといて、まあ頑張ってみますか、という感じですかね」
空き家という領域も、正直なところ、田中さんの得意分野ではなかったといいます。
「僕の得意なところって、データがあってなんぼの話なので。田舎とか、築年数が古すぎる物件って、データ的に扱いづらいんですよね。変数のイレギュラーが多すぎて。だから、あまり考えないようにしていました」
それでも、事業の方向性には納得している。
「事業として面白いし、やろうとしている目的も面白い。めちゃくちゃ不満があるわけじゃないんです。最初に思い描いたものとは違うけど、それはそれで面白いな、という感覚ですね」
自分の技術起点と、事業として正しいこと。その両方を見ながら、田中さんはポルティの開発を支えています。