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【FLUX誕生の経緯とアドテク業界が抱える課題(前編)】

アドテクノロジー領域のスタートアップとして立ち上がったFLUX。
FLUXのヘッダービディングソリューションは、プロダクトをリリースしてから約1年半で300以上のメディアに導入されています。パブリッシャー出身で共同創業者の平田は業界の現状にどのような課題を感じていたのか、ニッチな領域でどのように勝ち筋を見つけたのか。創業から今までの経緯の詳細をインタビューしました。

スタートアップとしてアドテクノロジー領域に参入した理由

齊藤:
 FLUXのヘッダービディングをご導入いただいた媒体は、2020年8月時点で300を超えるほどに成長を遂げましたが、そもそもFLUXがアドテクノロジー領域に新規参入することになったきっかけについて教えていただけますか?

平田:
 僕はFLUXを立ち上げる前はカカクコムに勤めていて、個人事業主でもアドテク領域で仕事をしていく自信があったんですが、仕事を通じてさまざまな企業からメディアビジネスに関する相談を受けるうちに、その裏に見える企業課題を解決するために独立してコミットしていきたいと考えるようになりました。カカクコムの中の一人という「メディアの人間」ではなくて、「アドテクの人間」としてバリューを発揮していきたいと思ったんです。
 そんな中、実は僕が手伝っていたメディアの一つに中学時代に同じ塾に通っていた永井(現FLUX CEO)が当時勤めていた会社があって、アドテクノロジー領域の課題やそれを解決するアイデアをお互いに話していくうちに「それ面白いじゃん」と話が膨らんでいきました。彼もそのアイデアを形にして一つの会社として伸ばしていく自信を持っていたので、「一緒にやろう」という話になりました。

齊藤:
 カカクコムから独立してパブリッシャーのアドテク領域での支援をするキャリアも目指せてはいたけれど、もっと踏み込んで業界における課題を根本的に解決するために永井さんと一緒に会社を立ち上げた、ということですね。

平田:
 でも、会社を立ち上げる時はアドテク一本でやるつもりも、ヘッダービディングへのこだわりもありませんでした。ただ、当時の日本のパブリッシャーはヘッダービディングの独自実装をしているところも少なく、プレイヤーもあまり多くなくて、そこに対してパブリッシャーは課題を感じていることがわかってきたので、「これでいこう」という決断に至りました。

齊藤:
 会社としてヘッダービディングないしアドテクノロジーのサービスをやるとなったときに、意思決定が難しいところはありましたか?

平田:
 何にせよビジネスが立ち上がらないと会社として成り立たない中で、「ペインポイント」「ペインの大きさ」の観点から僕が市場を見極めて、最終的に永井がヘッダービディングにどれだけの可能性があるかを判断しました。
 僕としてもカカクコムで積み上げてきた経験の中で、「現場の最前線・最先端でやっている人にはヘッダービディングが必要だ」と誰よりも研ぎ澄まされた感覚と自信があったので、始めるプロダクトに懐疑点はなかったです。

齊藤:
 マーケットのサイズよりも、まずは明確なペインポイントが見えているアドテクノロジー領域に入っていった。そして会社としての意思決定における定性的な側面を平田さんが、 定量的なものを永井さんが、キャッチボールしながら作っていったということですね。

パブリッシャーのアドテクノロジービジネスにこだわる理由


齊藤:
 先ほどはアドテク業界に参入した理由を聞いたのですが、平田さんがパブリッシャーサービスにすごく強い思い入れがある理由を知りたいです。

平田:
 日本の広告業界は代理店モデルが主体なので、結局そのままだと業界全体が遅れてしまって、いつまでも業界自体のレベルが上がっていきません。
 日本とアメリカのアドテク企業の時価総額を比べたら何百倍、何千倍も違うと思います。言語や人口を考えると単純比較はできませんが、この領域ってアメリカが圧倒的に進んでいて、日本はものすごく遅れている部分が結構あると感じています。とはいえ、参入障壁も低くはないので本格的な参入もどんどん遅れていく。そんな状況で、アメリカのアドテクが国内にどんどん入ってきた時、例えば「ヘッダービディングって良いものらしい」とようやく気付いた時には、日本のアドテクの西洋化が進んでしまっていました。ヘッダービディング領域はPrebidという規格があり、Open Sourceでアメリカでアドテク企業が作っているものを流用しているだけという実態になったことから危機感を抱くようになりました。
 あとは、やはり「自分がパブリッシャー側にいたから」というのが一番大きいです。この領域に身を置くことで成長させてもらったからこそ、恩返しの意味も込めて国内のアドテクの水準を上げなければならないという想いが強いですね。

齊藤:
 ご自身のキャリアとして、「パブリッシャー企業でリーディングカンパニーに参画し、ロールモデルとして業界に貢献する」という選択肢もあれば、「自分たちがソリューションの会社をやる」という選択肢もあったと思うのですが、どうして後者を選んだのですか?

平田:
 日本のアドテク業界全体を良くしたいと考えたときに、自分で会社をやっていくことが最も大きなインパクトを与えられるんじゃないかと考えたからです。もちろんそれなりに大変なんだろうけど、プロダクトを作って出してあげることが最も業界に貢献できるんじゃないかなと判断しました。

日本の広告業界の課題と日本でパブリッシャーサービスが普及していない、遅れてしまう理由

齊藤:
 日本と海外のアドテク業界には大きな差があるという話でしたが、プロダクトあるいは国自体の商慣習にはどのような違いがあるのか教えていただけますか?

平田:
 こういう言い方をすると印象が悪いかもしれませんが、まず日本だとネットワーク広告に興味がある人がそもそも少ないし、良いイメージを持っている人も多くないという実態があります。なので、そこに力を入れようとしないし、難しいものだと思っている。
 さらにもう一つ挙げると、スペシャリストが少ないですよね。「もともと営業職で広告を売っていた人たちが異動してアドテク担当になりました、そこでなんとなく仕事をして3年後に別の部署に異動しました」といった状況が続けば、知見は貯まりません。
 本来アドテクの仕事って、エンジニアのビジネス寄りの人、もしくはビジネスのエンジニア寄りの人がやるべきポジションかなと思っていて、そこを充てれば今の100万の売り上げが120万にもなるのに、その事実が出回っていない。「とりあえずネットワーク広告とかAdSenseを貼れば収益が上がるもの」という理解になってしまっている人が多い気がします。

齊藤:
 外資のソリューションベンダーも徐々に日本に参入してきてはいたものの、それらが日本ではうまくハマっていないというか、浸透していない理由はなんなのでしょうか。

平田:
 「プロダクトが自分たちのメディアに合ってるかがわからない」という点と、「考え方が日本に合っているかどうかが分からない」という点、そして結局は「日本にエンジニアがいない」という話かなと思っています。そもそも日本にはアドテクに詳しい人があまり多くはないので、お互いに情報をうまく伝え合うことができないということが少なからず起きていました。

齊藤:
 外資のプロダクトをそのまま日本に持ってきても、その良さや重要度が日本ではなかなか伝わらないのが現状だ、と。

平田:
 そうですね。「それってこういうことできますか? こうしたいのですが、どうですか?」という話をしても、結局「本国に確認します」と返されてしまう。

齊藤:
 日本でのネットワーク広告へのリテラシーについて、「広告を掲載していれば収益が入ってくる」というレベルの認識をされている側面があると言ってましたが、これって日本でPMPが普及していなかったり、プログラマティックダイレクトと呼ばれるようなものが普及していなかったりする理由の一つでしょうか。

平田:
 概念として存在していることは知っているけれど、自分ゴトとして捉えている人が少ないことが原因ではないかと考えています。
 各プラットフォームを使えば、自分たちの広告枠がオープンオークションでどのドメインから買われているか、どの広告主から買われているか、どうして買われているかということの分析を全てのパブリッシャーで全ての人たちができるわけなのですが、実際に日本でやっているパブリッシャーって数えるほどしかいないのではないでしょうか。
 日本の代理店も、プログラマティックダイレクトを売るマインドがないんですよね。それは”鶏と卵”の問題なので、片方が売ろうと思ってもパブリッシャー側が理解しなければ売れないし、というところかなと思います。

齊藤:
 総じて、パブリッシャーの体制や知識といったところを含めて、主にアメリカとはかなりギャップがある。かつ、アメリカから日本に入ってきているソリューションベンダーもプロダクトを日本に最適化させることができていないので、根本的な底上げには繋がっていないということでしょうか。

平田:
 そういうことですね。

非常にニッチな領域で見つけ出した勝ち筋

齊藤:
 実際に日本発のヘッダービディングを立ち上げてお客様の獲得に力を入れていく中で、どのようにして市場に受け入れられていったのかを教えていただきたいのですが。

平田:
 アドテクへのリテラシーがまだあまり高くない、たとえば「純広告の営業をしながらネットワーク広告をやっています」みたいなパブリッシャーさんが初期のお客様でした。それから「やってみてください、収益上がるんで。上がらなければお金いりません。」っていうコミュニケーションを取り続けていったところ、「ヘッダービディングはよく分からないが、売上が上がるならやってみたい」というパブリッシャーさんとのお取引にシフトしていけたので、比較的スムーズにお客様を増やすことができました。
 その後「大手企業にはどうアプローチをしていくべきか」を考えていた矢先に、逆に大手企業様のほうから声をかけていただけるようになったので、それは自信になりましたね。

齊藤:
 FLUXは先行者ではなかったですし競合もいたと思うのですが、そんな中でFLUXが大手企業様に「試しに使ってみようか」と思っていただけた理由は何でしょうか。

平田:
 海外の場合はプロダクト重視のケースが多いかと思うのですが、日本の場合はそのプロダクトを創り上げているメンバーのこともしっかり見てくれることが多いので、古き良き日本らしいコミュニケーションというか、人と人との信用・信頼をもとにビジネス展開ができたかなと思います。 あとは実装部分で、他の業者とのコミュニケーションまで巻き取ることができたことも評価をいただいていたと思います。

齊藤:
 そういう意味では、平田さんをはじめとしてパブリッシャーやアドテクノロジー業界において信頼のあるメンバーがいて、しっかりそのメンバーが対面でサポートしてくれるという体制が日本ではとても受け入れられたということですね。

どのような競合が存在したのか。そしてそれらにFLUXが勝てると思った理由とは?

齊藤:
 アドテク領域だと、外資にしろ国内にしろシェアの大きい企業がいくつもあると思うのですが、それら競合と差別化できていたポイントはどのあたりになりそうでしょうか?

平田:
 ベンダーさんによって差別化ポイントは異なりますが、FLUXの場合は柔軟な対応力もそうですし、あとは知識量や技術力には自信を持ってコミュニケーションを取っていましたね。

齊藤:
 ソリューションのビジネスモデル、透明性 、ポジショニングといった観点だと、他とどういった違いがありますか。

平田:
 それらでいうと、結局我々は媒体出身の社員が多いので、ユーザーが何をして欲しいか細かく理解できたという点は大きいと思います。だからこそ、顧客レベルに合わせて商品のカスタマイズの幅を持たせられる自信がありました。
 事業者さんによっては「うちのラッパーを入れたらこちらで全部やっておくので一切触れないで大丈夫です。マージンもこちらで入れてお支払いいたします」というところや、逆に「ラッパーは提供するので自由に使ってください」みたいなところもある中、FLUXは「どこまでやりたいですか?」とニーズをしっかりヒアリングして掴んだ上でサポートしますし、「やりたくないところはこちらで巻き取りますよ」と寄り添っていったところだったかなと。

齊藤:
 今のマージンの話に関連して質問なのですが、国内でヘッダービディングを提供している他の事業者さんはSSPを持っていたり自社でデマンド案件を持っていたりすることが多い中、FLUXはそういったものを持たずにラッパーソリューションのみでビジネスをしているかと思います。このような透明性の高い体制について、パブリッシャーさんからの評価はどうですか?

平田:
 大手企業様からは評価が高かったですね。中小メディアのお客様からはオペレーションの部分の評価が高かったです。あとは、中小のパブリッシャーさんに関しては技術力の高さを評価していただくことが多いです。

齊藤:
 お客様の種別だったりリテラシーのレベルだったりで刺さるポイントが変わってくる状況の中、いずれもFLUXは受け入れられやすかったということでしょうか。

平田:
 そうですね。ポジション的には初期段階では「アドテク会社」というより「アド周りのことをやってくれる下請け会社」というようなイメージを持っていただけていたと思います。なんでもやってくれるし知識量もあって使い勝手がいい会社だな、っていう。

齊藤:
 かゆいところに手が届くようなプロダクトとサービスレベルを持っていたということですね。

なにをきっかけに広まりを見せたか

齊藤:
 サービスを開始してから約1年半が経った2020年8月時点で、300のパブリッシャー様にご契約をいただけました。どのタイミングで急速に伸びたのでしょうか。

平田:
 まずはFNNさんが2019年7月にプレスリリース( https://www.fujitv.co.jp/fujitv/news/20195280.html )を出してくれて、これがけっこう大きかったと思っています。ほかにもGDO(ゴルフダイジェスト・オンライン)さんと東洋経済さんにご導入いただいたことは個人的に大きな影響があったと思います。
 これら3社はもともと担当者さんと仲が良かったこともありますが、ちょうどPrebidが難しくなってきて保守管理に関してはお金を取るか取らないかという業界全体の波が起きていたタイミングでFLUXが乗り換えの選択肢に入るようになったのは一つの転機にはなったと思います。

齊藤:
 その3社がFLUXを選んでくださったポイントについて教えてもらえますか?

平田:
 「できることとできないことを明確化してくれ」と言われた時に、できないことがなかったんですよ。あとは、他の会社よりも余計に仕事を巻き取れる社内体制が整っていました。ポジション的にもSSPの人たちが多いので、それ以外の競合SSPのID発行だとかリセラーアカウントの提供だとかの武器が多く、 かつ技術的な信頼度がありました。

お客様がFLUXを使い続けてくれている理由

齊藤:
 新規のお客様の伸びはもちろんですが、解約の件数は過去1件(インタービュー時点)に留まっています。99%以上のお客様がずっとFLUXを使い続けてくださっている理由はなんでしょうか。

平田:
 難しい質問ですね。というのも、「もし自分があのお客さんの立場だったら自分が欲しいと思うものを提供しきれているか?」と聞かれたら、必ずしもそうではないからです。これは自分としてもかなり苦しいポイントではあるものの、それでもマイナスポイントを圧倒的に凌駕できるプラスポイントがFLUXにはあって、支持してくださっているのかなと。もちろん会社のフェーズがあるので、事業規模や社員数に合わせてプロダクトアップデートしていくつもりです。現在はある程度「ヘッダービディングをやるとしたらFLUXしかないな」っていうところまで来たように思います。
 「FLUXを入れたことで収益は上がるし、FLUXを使わない必要は特にないだろう」という判断をしてくださっているメディアさんも少なからずいらっしゃいますし、大手企業さんに関してはFLUXの経験豊富なメンバーと定期的にコミュニケーションを取ることで、懸念事項があればいつでも相談できる安心感に価値を感じていただけるというか、そういう人材を準備できている点がFLUXが解約されない理由かなと思います。

いかがでしたでしょうか?

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