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FLUX誕生の経緯とアドテク業界が抱える課題(後編)

インタビューの前編では、アドテクノロジー領域に参入した理由やパブリッシャービジネスにこだわる理由を話してきました。後編となる本記事では、アドテクノロジーのように参入障壁のある領域で成長していくための、テクノロジーとサービスについてお話しさせていただきます。

なぜオープンソースをカスタムして使っているのか

齊藤:
 ヘッダービディングの実装にはいくつかの方式がありますが、FLUXが使っているのはオープンソースのPrebid.jsですよね。自社のプロダクトをオープンソースをカスタムして使うようになった理由を教えていただけますか?

平田:
 逆にオープンソースだったからこそチャンスを感じていました。「誰でも使えるけれど難しくて誰もが使いこなせるものじゃない」というところが、僕らがそもそもビジネスに参入できた要因だと思うんですよね。
 あとは「初期の開発コストが非常に安い」ことも挙げられます。だからこそ、スタートアップの僕らでも比較的簡単に参入できた。日本で活躍している大きなプラットフォームを提供するスタートアップ企業のようなリスクはそんなに負っていないですね。
 ただ、そうしたことで「他社との差別化をどうするか」というところが課題になりました。そこに関しては、正直なところ技術的な差別化を大きくは出せないので、サポートの速さと深さというところで置き換えていくことにしました。

齊藤:
 「技術的な差別化は出せないものの、お客様にとって使いやすくなるような柔軟性のある対応力をサービスの設計に組み込んでいくのが重要だった」ということですね。その中で今、ヘッダービディングにはJavascript(Prebid.js)の方式やServer to Serverの方式、があると思います。それらはどういった違いがあるのでしょうか。

平田:
 Prebid.jsの方式はFLUXに頼らなくてもできる人はできます。 一方で、Server to Serverは誰もができるものではないです。PrebidサーバーやTAM(Tranceparent Ad Marketplace)もServer to Serverですし、Open Bidding(OB)という名前に変わったGoogleのExchange Bidding in Dynamic Allocation(EBDA)も全部Server to Serverです。
 TAMに関してはAmazonのサーバーなのでAmazon側でないといじれませんし、Amazonと代理店契約しなければ売れません。OBも同じくGoogleでなければ売れません。
 PrebidのServer to Serverはオープンソースなのでお金と労力と技術力があれば基本誰でもできますが、現状、1パブリッシャーがそこに対応する価値はありません。かつServer to ServerのPrebidに関してはやっぱりアメリカが先行しているという話が前述の通りで、これまで日本の事業者は一社も対応していませんでした。
 そんな中、FLUXがやることが決まったことによって日本のビッター達が「FLUXがやるなら頑張ろう」という風に言ってくれて、日本で良い潮流を巻き起こせたかなと思っています。ただ、アメリカでトップでやってきている人たちよりも僕らはお金もリソースも少ないので、すぐにそこのレベルへ到達するのは難しいですし、Server to Serverには技術の差がある程度明確に出てきてしまうものがあるので、日本のラッパー事業者がしっかりとビッダー事業者の開発を手伝ってあげることが必要になってきます。
 実際、FLUXもServer to Serverをより良いものにしていくべく協力をしていくことが現状できているかなと思っていますし、さきほど言った通りFLUXがやることによってビッターの人たちが参画するという潮流を巻き起こせたということと、ローカルなビッター達に対してローカライズされた仕様にできているところは我々の優位性があるのかなと思います。

齊藤:
 パブリッシャーがServer to ServerとPrebid.jsを採択する時にそれぞれの違いはどう捉えておくとよさそうでしょうか?

平田:
 違いは難しいですね。 単純に現状の市場だと、違いというよりは「AMPとアプリをやるのであればサーバーサイドを使ってください。 そうでなければクライアントベースを使ってください」というだけです。
 今後の話をしていくと、Prebid.jsは結局ブラウザにjsを貼っているだけなので、各ベンダーがクッキーシンクをブラウザと連動できますが、今後Server to Serverになった時にFLUXのサーバーを介さないといけないという状況が起きてくると、その形式というのが担保されるものではなくなります。そのような時のためにも、各ビッダーたちがどれだけFLUXと連携をとっているのかが重要ではないかと思っています。
 今後ポストクッキーも含めてどういう広告配信の構造になっていくか分からないので、Server to Serverはやはり情報をリッチに与えられるほうが強いです。たとえばそのIDやコンテキストをいかにサーバー経由で連携して情報を渡してあげられるかなどが勝負かと思っていて、今後の状況を見て着手していくべきなのかなと考えています。ビッダーを持っていないからこそ他社に情報を共有できると言いますか、ひいてはパブリッシャーの収益を最大化するために、極論「渡していいものは全部渡してあげたい」というところでしょうか。

パブリッシャーは「技術的な差がプロダクトの良し悪しに影響する」と感じている?


齊藤:
 ヘッダービディングという領域では「技術力の差がプロダクトに影響しづらい」というメッセージはある種の啓蒙活動にも繋がりますよね。こういった活動自体はパブリッシャーからどのような評価を受けているのでしょうか。

平田:
 まずパブリッシャーからの評価で言うと、「FLUX側の解釈の具合がどのくらいあるのか」という点においては評価をいただいているのかなと思います。たとえばパブリッシャーからなにか要望をいただいた際には、自分たちがもともとパブリッシャー側の人間だったからこそ汲み取れる意図というものがあります。すると、経験的に「このパブリッシャーさんがこういうことを言っているから、こういう対応をしよう」とスムーズにメンバー間で共有しながら対応できます。
 ベンダー側に関していうと、僕らは基本的にはパブリッシャーの立場からベンダー側に話を投げかけているので、先回りして「パブリッシャーにとっては、それはこれくらいないと困りますね」という話がしやすい。結果的に、「FLUXってパブリッシャーのことをよくわかってるよね」という評価に繋がっているのかなと思います。
 あとはServer to Serverもそうですし、細かいところの対応力や適応力には強みがあると思っていて、「こういうものが欲しい」と言われたら「じゃあ作るので1週間待ってください」と経験則で回答して対応することができる。ベンダー側のペインポイントにもうまくカバーできている部分もあるかなと思います。

今後の開発で更に力を入れていく部分

齊藤:
 今後はどのようなポイントに注力していく予定でしょうか。

平田:
 基本的には開発、特にPrebidの配信周りに力を入れます。 あとはパブリッシャーが自身で欲しい情報を簡単で効率的に取得できるような管理画面を提供できるようにしたり、自社だけではなくてビッターがServer to Serverの開発をしたい時に、パブリッシャーの状況やFLUXのセールス状況を見てサポートしていける部分はあるかなと思います。
 物事を軽量化しようという取り組みは業界全体として必ず常に走っているもので、中長期的にはprebidサーバーでも軽量化への動きをしていくフェーズになるのかなとも考えています。つまり質を担保しつつ速さも求めていく動きであり、これは会社としては前提にある考えだと思っています。
 これに関しては「ルールの範囲内でどこまで出来るか」という話だと思うので、攻められるところまで攻めていって広告の単価をより上げてあげることができればいいのかなと考えています。

ヘッダービディングが市場に普及し始めた今がまだスタートライン。今後の展開とは?

齊藤:
 ヘッダービディングにおいてようやくFLUXの市場認知が取れてきたとは言え、まだまだ会社としてはスタートラインという中で、パブリッシャー向けソリューションとしてはどのようなことを提供していこうと考えていますか?

平田:
 事業をアドテクに絞る必要はないと思っているので、その他にもパブリッシャーの広告担当として必要とされるものは提供していきたいです。媒体の広告担当者が抱えている業務はネットワーク広告の収益を上げることだけではないので、そこを理解した上で、全てのかゆいところに手が届くような存在になっていくのが今後の展開かなと思います。もっというと、パブリッシャー側の会社自体に対して、Salesforceのようにいろんな角度からソリューションを提供できればと考えています。

サービスの提供を通して感じるお客さんの大きな変化

齊藤:
 サービス開始当初と直近とで、お客様にはなにか変化はありましたか?

平田:
 全体的な戦略の話をパブリッシャーさんからいただくことが多くなってきました。当初はアウトソース的な立ち位置になるケースが多かったのですが、徐々に「これ教えて、あれ教えて」と頼りにしてくださるパブリッシャーさんが増えてきた印象があります。たとえばあるお客様では、もともとは外部に委託していて収益も自分たちでは月に1回しか見ないという状況から、毎週枠別に分析されるようになりました。
 僕の担当するパブリッシャーさんでは、アドサーバーのタグ発行や配信構造の組み方などについて疑問を持って投げかけていただくことが増えたかなと思います。あとは新しいプロダクトが世の中に出てきた際に、それに関する話題をお客さんから持ちかけられるようになってきたかなという気がします。営業的な収益の上げ方ではなく「技術的なアプローチで上げられないか」という相談を受ける回数も増えてきました。

齊藤:
 すごくいいことですよね。FLUXのラッパーソリューションを使っていただく中で、パブリッシャーさんのアドテクへの主体性が増して、結果的に自分の事業と向き合ったり業界トレンドへの情報感度が高くなったりしている状況は、FLUXが行なっている啓蒙活動に通じているのではないでしょうか。

今後のFLUXとしての展望


齊藤:
 最後に、今後のFLUXの展開と平田さんの想いを教えていただけると嬉しいです。

平田:
 会社としてどのようなことやっていきたいかと言うと、パブリッシャーさんの負担を減らしながら豊かにして、パブリッシャーさんにしかできないことに注力してもらえる状態をつくるべきだな、と。
 結局パブリッシャーのことを1番知っているのはそのパブリッシャーに所属している方々であって、僕らがパブリッシャーのユーザーに向き合った仕事や編集に向き合った仕事ができるかと言われたら、基本的にはできない。
 パブリッシャーのやるべき仕事って、ちゃんと全体を把握して戦略を練ることだと思うんです。そういうところに注力してもらえるように、その他の技術提供のところは任せてもらうと言うか、プロダクトを通じてサポートしていける会社であったらいいのかなと思います。
 あとは、日本の今のアドテク業界全体の知識レベルを上げて活性化していくことだったり、多くの人がアドテクに対して主体性をもって関わるのが当たり前になるように啓蒙と環境整備をしていくというか、そういうところを目指せばいいのかなと僕は思っています。


いかがでしたでしょうか?

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