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全ての原点はバイオリン。アドビの若き執行役員はなぜビジネスの道を選んだのか?

小さな頃に抱いた夢を、大人になっても抱き続けられる人は、一体どれほどいるでしょうか。人生の途中で新たな選択肢に出会って道を変えることもあれば、願った夢が叶わずに終わる。そんな人生だってあるかもしれません。

今回お届けするのは、3歳でバイオリンと出会い、音楽一筋の人生を歩んでいたアドビ執行役員の小沢のエピソード。今となっては、100名近くのコンサルタントを束ね、ビジネスマンとしてキャリアを歩んでいますが、これまでの人生では紆余曲折がありました。

現在、アドビでマーケティングソリューション「Adobe Experience Cloud」のコンサルタントをまとめている小沢。「バイオリンも、今の仕事も、すべてつながっている」と語る小沢ですが、彼はなぜ、キャリアの過程にアドビを選んだのでしょうか。そして、音楽が彼の社会人生活にもたらした影響とは……?

音大卒業後、NYで小さな音楽家が誕生した


【小沢匠】アドビグローバルサービス統括本部 プロフェッショナルサービス事業本部 執行役員 事業本部長

小沢にとって、今のキャリアにつながる最初の決断は、高校卒業後に進学した武蔵野音楽大学の中退でした。日本で基本的なクラシック音楽の知識を習得したのちに、アメリカ・ボストンに留学。バークリー音楽大学に入学します。

小沢「アメリカに留学して、ジャムセッションの魅力に惹かれていきました。その場で音による会話が生まれる感覚がすごく好きでした。今のコンサルティングビジネスにおいても、クライアントやコンサルタントとの会話によって新たなアイデアが生まれる感覚がジャムセッションと似ていると感じています

大学での専攻はフィルムスコアリング、いわゆる映画音楽の作曲でした。音楽や効果音のない映像に対して、感情を揺り動かす音を加えるためのノウハウを習得。大学卒業後は、そのままNYに渡り、映画音楽の作曲家として音楽の道に進みます。

小沢:「売れない作曲家でした。お金が本当になくて、家賃を支払うたびに手元の資金が底をつくような状態で。なんなら、アメリカの銀行って、預金残高がゼロでもお金を引き出せる仕組みだったんです。気がついたら、1万ドル近くの借金を抱えていました」

NYのマンハッタンにある色々な大学をめぐり、掲示板に「Need music for your film?」と書いた自分の携帯電話番号付きのメモ書きを貼り付ける日々。未来の映画監督たちの目に留まることで、仕事につながらないかと考えた末の選択でした。その行動は、その後、実を結びます。

小沢:「僕が音楽を担当した映画が、NYのローズシアターで上映されて賞を獲得したんです。映画の世界って不思議なもので、作品が賞を獲ると、音楽も賞を獲得できちゃうことがあるんですよ。なんにしろ結果を初めて残せたことで、その後はだんだんと仕事がいただけるようになっていきました」

そのうち1案件0ドルだった報酬が200ドルに、400ドルに、ついには1,500ドルに。ぐんぐん報酬は上昇。そんな矢先、小沢は大きな決断を迫られることに。選ぶに選びきれない、仕事か、はたまた家族か、という選択でした。

小沢:「仕事が軌道に乗ったタイミングで母に電話をしてみたら、どうにも様子がおかしくて。気になってこっそり実家に戻ったら、実は、父が末期ガンだったんです。せっかく仕事がうまくいくタイミングだからと、僕にはずっと黙っていたそうでした。父はデザイナーだったので、クリエイターとして働く人間の気持ちがわかったんでしょうね」

家族とは離れた地で夢を追いかけるか、家族のそばにいるか。小沢が選んだのは、家族と過ごす時間でした。

小沢:「本気で音楽を続けるならこの選択ではなかったのでしょうけどね。当時は、帰国することしか思いつきませんでした。日本に戻って、新たな職場を探していました」

初めてのビジネスには戸惑った。一流になるためにアドビへ

日本帰国後、NYでのツテをたどって、NHKに出向していた小沢。教育テレビの音響素材を制作していました。同時期、看病を続けていたお父様の他界を機に、「お金を稼ぐ=ビジネス」という切り口から仕事を考えるように。

小沢:「父はデザイン会社を経営していました。経営にあたって残していた多額の借金は、利子すら返せないほどに膨れ上がっていて。僕自身が基本給を上げることと、土日も働ける環境を作らなければと考えるようになったんです。そこで、休日はバイオリンのブローカー(売買時の仲介人)としても働くようになりました」

基本給の向上は、転職によって実現しました。当時流行っていた着メロの企画者として、エムティーアイ(「music.jp」)に転職。実は生まれて初めて、WindowsのPCに触れました。制作側ではなくマーケティングの企画側として、学ぶことの多い日々でした。

小沢:「エムティーアイの『サウンドデザイナー』という募集職種が、まさか企画者だとは思わずに転職したので戸惑うことばかりでした。それでも、広告出稿、キャンペーン、アフィリエイトなど、全体の予算をどういった施策に振り分けるとレバレッジが効くのかと考えていく過程がすごく楽しかったですね。数年経験するうちに、今度はDeNAが同領域では成長性が高いことを知って。さらに学びたいと考えて転職を決めました」

いわゆるメガベンチャーへの転職。これまでとは、またしても異なる経験の連続でした。「毎日怒られていましたよ。だんだん慣れましたけれどね」と、小沢も笑みをこぼします。音楽で必要だった地道な基礎練習の積み重ねは、ビジネスでも変わりありませんでした。

小沢:「今思えば当時の上司が、ビジネスの基本的なマインドを教えようとしてくれていたんです。毎朝、会社に行くと『今日はなにをするの? 優先順位は?』と、確認を徹底してくれて。小さな仕事をひとつずつ覚えて、その重なりによって複雑な仕事ができるようになることを実感しました。また、DeNAでは『モバゲー』内のコンテンツ分析と社内コンサル業務などを行なっていたので、データが人を説得する材料となることを一番知った時期でもありましたね」

その後、小沢にとっては大きなきっかけが訪れます。それが、ソーシャルゲームのブームに乗ってリリースした「怪盗ロワイヤル」の企画参画でした。ゼロイチでゲームを生み出す経験を積み、メンバー全員で取り組み無事に大ヒット。ところが、小沢の中に芽生えたのは喜びではなく反省でした。

小沢「数字を扱うマーケターは、空前絶後のヒットを出すのではなく、仮説をもとに算出した数字の近似値で着地させるスキルがなくてはなりません。しかし、僕にはそのスキルが足りなかった。マーケターとしては、三流だと思いました。そう教えてくれた当時の上司に本当に感謝してます」

一流になるために、多くのデータを扱える場所へと軸足をずらす決断をしました。その結果たどり着いたのがアドビです。当時アドバイスしてくれた転職エージェントから「一番高い山に登りなさい。今のキャリアなら、アドビが一番だと思う」と言ってもらったことが、最終的な決め手でした。

アドビを離れても一生面倒を見ると決めた人しか採用しない


アドビに入社後、コンサルタントとして活躍したのちにマネージャーにキャリアチェンジ。小沢が入社したタイミングでは5名だったコンサルタント部隊も、8年経過した今は100名近くの組織へと変貌を遂げました。そんな今、マネジメントをする立場として、採用したメンバー全員への愛情を忘れないことを最も大切にしていると語ります。

小沢「マネージャーになったとき、シドニーにいた当時の上司からかけてもらった言葉をずっと覚えているんです。それが「Never say “I”.」ーー”I”ではなく”We”と言うこと。マネージャーになることは、そういうことだと。そして、アドビで働いているか否かは関係なく、自分が採用した人は、一生面倒を見る覚悟で採用しなさいと

好きな人たちのために働く。小沢のモチベーションの源泉は、いつでも人にあります。それは、マネージャーを経験する中で培われたものでした。アドビ全体が掲げる「給与はメンバーへの投資である」という考え方も、小沢にとっては大きな軸になっています。

小沢:「メンバーに対する期待への投資、それが給料と考えています。アドビの給与水準は比較的高いんです。でもそれは、まるでVCとスタートアップのような関係性だから成り立っている関係性です。そして、その金額に関しても働くメンバーの家庭事情やライフスタイルなどとも相談しながら決めています。暮らしありきのコミュニケーションを取ることで、人のモチベーションは高く維持できますからね」

今後、これまでのキャリアを踏まえて、小沢自身はエグゼクティブコーチになることをキャリアのゴールとして定めています。音楽家としての資質、マーケターとしての資質、プロフェッショナルマネジメントの資質など、数々の素養を蓄えて、ひとつのキャリアを見据えて歩むことを決断しました。

それでも、小沢の根底にあるのは「バイオリンも、今の仕事も、すべてつながっている」という、変わらない想い。観客、そして顧客に対してスタンディングオベーションが起きるほどの感動を届けること。音や言葉で織りなす、セッションの空気感こそ、小沢が求め続ける感動体験なのです。

プレイヤーとして音楽やコンサルティングに携わったあの頃と、まるで指揮者のようにチームをまとめ、お客様に感動する体験を届ける今。環境は違えど、小沢にとっては、今の環境も「最高のパフォーマンスを届けるステージ」であることは変わりません。そうして届く賞賛の声こそ、小沢にとっての何よりの原動力となるのでしょう。

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