整備士として約30年のキャリアを持つ笹森工場長と、高校卒業後に自動車の知識がほとんどない状態から入社した福村さん。
年齢も経験も大きく異なる二人をつないでいるのは、「まずは自分でやってみる」という共通の姿勢です。
見ているだけでは、技術は身につかない。
失敗を恐れず手を動かし、分からなければ調べ、先輩に聞く。
墨田SSで受け継がれる技術と育成の考え方、そして「整備の並木盛」のこれからについて、二人に語っていただきました。
目次
第1章 30年の経験と、ゼロからのスタート
ーーー まずはお二人の経歴から教えてください。笹森工場長は、整備士として約30年のキャリアをお持ちなのですね。
笹森工場長:
はい。整備士としては約30年になります。
並木盛自動車には2020年に入社しました。
それ以前は、メルセデス・ベンツの整備を長く経験し、中古車を扱う会社でも働いていました。
ーーー 長く輸入車を整備してこられましたが、メルセデス・ベンツからボルボへ移る際に戸惑いはありましたか。
笹森工場長:
最初は、マニュアルの構造や見方が違ったので戸惑いました。
ただ、そこは慣れていくしかありません。
車種やメーカーが変われば、考え方や作業方法も変わります。
これまでの経験を生かしながら、ボルボのやり方を覚えていきました。
ーーー 現在は、自動車整備士2級とボルボの社内資格レベル3をお持ちですね。
笹森工場長:
はい。
レベル3まで取得しています。
今は、自分自身がさらに資格を増やすというより、若手が資格を取得し、技術を身につけられるように支えることに力を入れていますかね。
ーーー 福村さんは、2022年に高校卒業後すぐ入社されたのですね。
福村さん:
はい。
入社した時は、自動車についてほとんど分からない状態でした。
高校は葛西工科高校 デュアルシステム科にいましたが、整備士として必要な知識や技術は、入社してから一つずつ覚えていきました。
双方のこれまでの歩みについて語り合う笹森工場長と福村さん
第2章 最初は、何を聞けばよいかも分からなかった
ーーー お互いの第一印象を教えてください。
笹森工場長:
高校を卒業して、すぐ社会人として入ってきたので、最初は緊張しているのだろうなと思いました。
優しそうで、大人しそうな印象でしたね(笑)
ただ、仕事以外の世間話をすると普通に話してくれました。
仕事については、分からないことが多すぎて、「何を質問すればいいかも分からない」という状態だったのだと思います。
ーーー 福村さんから見た笹森工場長の印象はいかがでしたか。
福村さん:
話しやすくて、相談しやすい人だと思いました。
最初は職場の年齢層が高く、自分の父親と近い年代の方も多かったので緊張しましたしどう接すればよいか分からなかったです(笑)
でも、笹森工場長をはじめ、皆さんが気軽に話しかけてくれました。
そしたら、話してみるとアニメなど共通の話題もあって、1〜2カ月くらいで馴染めたと思います。
ーーー 年齢差があっても、日常の会話があることで相談しやすくなったのですね。
福村さん:
そうですね。
普段から会話があるので、仕事で分からないことがあった時にも聞きやすかったです。
細部に渡り丁寧にサポートする笹森工場長
第3章 一人で工場を守った時期と、仕事を覚える苦労
ーーー 笹森工場長が、これまで並木盛自動車で特に大変だった時期を教えてください。
笹森工場長:
福村さんが入社する前は、メカニック2名で仕事をしていました。
その中で、もう一人が体調不良などで離れる時期があり、私一人で対応したことがあり、その時は少し応えましたね。
以前働いていた工場では、メカニックが5〜6名いましたが、墨田SSは規模が違いますので、一人になった時は流石に大変でした。
ーーー どのように乗り越えたのでしょうか。
笹森工場長:
フロントスタッフに協力してもらいました。
また氏次部長には、『無理に急いでミスをすると、余計に時間がかかるし、お客様に迷惑がかかるので、確実に1台ずつ仕上げていきましょう。納期やお客様への説明はこちらで調整するので、焦らず確実に作業してください』とアドバイスももらえたので、助かりましたね。
整備はメカニックだけで完結する仕事ではなく、店舗全体で連携し、確実にお客様へ車をお返しすることが大切だと改めて感じましたね。
ーーー 福村さんは、入社後どんなことに苦労しましたか。
福村さん:
何より仕事を覚えるまでが一番大変でしたね。
何も分からない状態だったので、「まず何をすればいいのか」から考えなければいけませんでした。
作業のやり方だけではなく、順番や周りとの合わせ方も分からなかったです。
チームで仕事をしているので、自分だけ取り残されないように、必死に覚える努力をしました。
自信を持って作業に取り組む福村さん
第4章 「失敗してもいいから、まずやってみる」
ーーー 笹森工場長は、当時の福村さんにどのような声をかけていたのでしょうか。
笹森工場長:
最初は、分からないから手を出さない、失敗したくない、という気持ちがあったと思います。
ただ、作業は見ているだけではなかなか覚えられません。
そこで、「失敗してもいいから、まず自分でやってみないと覚えないよ」と伝えました。
もちろん、まったく見たことのない作業をいきなり任せるわけではありません。
一度見たことがある作業なら、まずやってもらう。分からなければ聞いてもらう、という進め方で、指導をしました。
ーーー マニュアルの調べ方も教えたそうですね。
笹森工場長:
はい。
最初にマニュアルの見方を何度か教えました。
その後は、自分でマニュアルを見て、まずやってみる。
分からない部分があれば聞く。
その繰り返しで、自分から調べて動けるようになってきました。
ーーー 福村さんは、「まずやってみる」と言われた時、どう感じましたか。
福村さん:
「やるしかない」と思いましたね。
最初は不安もありましたが、実際に自分で手を動かさないと覚えられません。
もちろん、わからないことは工場長に聞けば優しく教えてくれるので、安心して作業できていました。
今は、分からなくてもまず考え、やってみることが自分の行動の基本になっています。
ーーー 笹森工場長ご自身も、若い頃の経験からその育成方法を身につけたのでしょうか。
笹森工場長:
そうですね。
以前の職場でも、後輩が入ってきた時に、まず作業を見せ、その後本人にやらせていました。
できないところがあれば手伝う。
その経験から、こちらがすべてやってしまうより、本人が自分でやった方が成長は早いと感じています。
第5章 新車整備を任される若手と、経験を伝承するベテラン
ーーー 福村さんは、現在どのような仕事を任されていますか。
福村さん:
新車の納車前整備や、ディーラーオプションの取り付け、取り付け後の動作確認などを担当しています。
新しい車に関する作業は、かなり任せてもらえるようになりました。
ーーー 笹森工場長から見ても、安心して任せられる存在になっていますか。
笹森工場長:
新車に関する作業は、ほとんど任せています。
むしろ、新しい車や新しい部品については、福村さんの方が詳しい部分もあります。
高校卒業で入社した頃と比べれば、かなりできることが増えました。
これからが本当のスタートだと思いますが、将来的には整備部門の中心になってほしいと期待しています。
ーーー 福村さん自身は、今後どのような技術を身につけたいですか。
福村さん:
新車の作業はある程度できるようになりましたが、年式の古い車や、イレギュラーな不具合はまだ分からないことが多いです。
テスターにエラーが表示されない故障や、異音などの診断もあります。そうしたケースにも対応できるようになりたいです。
ーーー 診断には、経験が必要なのでしょうか。
笹森工場長:
やはり必要ですね。
テスターをつなげば答えが出るものばかりではありませんし、考えられる原因を洗い出し、一つずつ仮説を潰していくことが必要になります。
音や感触など、経験によって分かることもあります。
その部分は、実際の作業や日常の会話の中で伝えていきたいと思っています。
第6章 AI・電気・コンピューターの時代にも、人の技術は残る
ーーー 現在、福村さんが挑戦している資格について教えてください。
福村さん:
ボルボのG1資格と、電気自動車に関する資格の取得を進めています。
その次に、年内から2級整備士の勉強も始まります。
会社からも資格取得を後押ししてもらっているので、取得して仕事で貢献できるようになりたいです。
ーーー 今の自動車整備では、電気や配線の知識が重要になっているのですね。
笹森工場長:
はい。
今の車は、故障診断の多くが電気系統に関係しています。
配線図を読めること、電気の流れを理解できることが重要です。
一方で、トレーニングだけではすべてを学べません。
私自身が経験してきたことを、若手にできるだけ伝えるようにしています。
ーーー AIや自動化が進む中で、整備士という仕事はどう変わると考えていますか。
笹森工場長:
コンピューターや電気の知識は、今後さらに必要になります。
ただ、最終的に車を見て、触り、判断し、整備するのは人だと思っています。
車の整備は、AIだけですべて完結する仕事ではないですし、常に進化しているものですので、勉強し続ける必要はありますが、身につけた技術は年齢を重ねても活かすことができる。
自動車ディーラーだけでなく、運送会社やタクシー会社など、整備士の資格や技術を必要とする場所はあります。
この仕事は、手に職をつけ、長く働ける仕事だと思います。
最終チェックは二人でダブルチェック
こうして福村さんの成長を笹森工場長は確実に実感している
第7章 「整備の並木盛」を、次の世代へ
ーーー 墨田SSのこれからと、お互いへの期待をお聞かせください。
笹森工場長:
私は、これから若手の育成に力を入れたいと思っています。
福村さんには、この会社で長く経験を積み、将来的に整備部門の中心になってほしいです。時には厳しいことも言いますが、さまざまなことに挑戦してほしいと思っています。
「整備の並木盛」と言っていただけるのであれば、その技術や姿勢を次の世代につないでいくことが、自分の役割だと思っています。
ーーー 福村さんは、どんなメカニックを目指していますか。
福村さん:
今は、できる作業をもっと増やしたいです。
古い車や難しい診断、イレギュラーな作業にも対応できるようになりたいと思っています。経験を積み、どんな車でも幅広く見られるようになりたいです。
ーーー 最後に、整備士を目指す学生の皆さんへメッセージをお願いします。
笹森工場長:
昔の「自動車整備士」という言葉には、汚い、大変といったイメージを持つ方もいるかもしれません。
ですが、今のメカニックには、電気、コンピューター、故障診断など、幅広い知識が必要です。
勉強を続けなければいけませんが、その分、AIには代替されない一生使える技術が身につきます。
少しでも車や機械に興味があれば、まず仕事の話を聞いてほしいと思います。
大変なこともありますが、それ以上のやりがいがあります!
福村さん:
最初はできないことばかりでも、努力して続ければ、少しずつできるようになります。
以前は時間がかかっていた作業が、経験を積むことで短い時間でできるようになる。
その変化を自分で感じられる仕事です。
優しく指導してくれる工場長や先輩もいるので、まずはやってみること。
努力は裏切らないと思います。
編集後記
「失敗してもいいから、まず自分でやってみる」
笹森工場長のこの言葉を受け、福村さんは「やるしかないと思った」と振り返りました。
技術を教えることと、本人が自分の手で経験することは違います。
先輩がすべて代わりに作業すれば、その場の仕事は早く終わるかもしれません。しかし、それでは次の世代に技術は残りません。
一度見た作業を、自分でやってみる。
分からなければマニュアルを調べる。
それでも分からなければ、先輩に聞く。
墨田SSでは、その繰り返しによって技術が受け継がれています。
30年のキャリアを持つ笹森工場長と、知識ゼロから新車整備を任されるまで成長した福村さん。二人の間にあるのは、単なる上司と部下という関係ではありません。
経験を渡す人と、それを受け取り、次の仕事に変えていく人。
その積み重ねが、「整備の並木盛」という看板を、次の世代へつないでいくのだと思います。
100年を超える伝統あるサービスショップを支える師弟に今後も期待!
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