京都・二条城の近く。路地裏に佇む一軒の京町家で、私は今、毎日着物を着て抹茶を点てています。 目の前にいるのは、欧米豪を中心とした海外ゲストたち。彼らは体験を終えると、驚くほど高い満足度でチップや追加料金を支払い、笑顔で帰っていきます。
株式会社OHINERI 代表の酒井です。
以前のストーリーをご覧になった方は、「あれ? デジタルチップのアプリ(SaaS)をやってたんじゃないの?」と思われたかもしれません。 その通りです。私たちはつい先日まで、観光業の待遇改善を目指すITサービスの開発に全力を注いでいました。
しかし、2025年11月現在。 私たちのメイン事業は、この「茶道体験店舗」の運営へと、劇的に姿を変えています。
市場の歪みを見つけ、最も勝率の高い領域へリソースを集中させた、戦略的な「事業転換」をしました。
なぜ私たちがデジタルを捨て、あえて労働集約的で泥臭い「リアル店舗」へ舵を切ったのか。 その裏にある「勝算」と、これから入社するあなたに任せたい「仕組み化」のミッションについてお話しします。
■ 「綺麗なビジネス」では、課題は解決できなかった
創業時の想いは、今も変わっていません。
「日本の観光業の価値を高めたい」。その一心でデジタルチップアプリを作り、1年間走り続けました。
しかし、直面したのは「PMFの壁」でした。 アプリの導入店舗は増えても、文化の壁は厚く、利用率は伸び悩む。 「良いことをやっている」という自負はありましたが、ビジネスとしての成長曲線は、正直に言って描けていませんでした。
投資家との壁打ちでも、シビアな議論が続きました。 「このままSaaSを続けて、本当に市場を変えられるのか?」
私は現場(ホテルや旅館)に足を運び続け、徹底的に顧客の声を聞き直しました。 そこで見えてきたのは、アプリの機能不足ではなく、もっと根本的な「顧客の渇望」でした。
外国人観光客が求めているのは、スマホの中の決済手段ではない。 「日本でしか味わえない、濃密でリアルな原体験」だったのです。
■ 勝機は「3,500施設の空白」にあった
リサーチを進めると、京都の観光市場にある巨大な「需給ギャップ」が浮き彫りになりました。
- 需要: 京都市内には約3,500の宿泊施設があり、毎日数万人の外国人が泊まっている。しかし、彼らの多くは「明日何をするか」を決めていない。
- 供給: 「京都らしい体験」の受け皿は圧倒的に不足している。特に「英語対応」「プライベート空間」「当日予約可」を兼ね備えた施設は皆無に近い。
ここに、勝機がありました。
SaaS事業で築いた「ホテルとのネットワーク」という資産を、アプリ販売ではなく「送客チャネル」として転用すればどうなるか? 自社で最高品質の「体験コンテンツ」を作り、そこにホテルから送客してもらえば、広告費ゼロで集客できるのではないか?
私たちが1年間、泥臭くホテルを回り続けたからこそ見えた、再現性の高い「勝ち筋」でした。
■ 1ヶ月で証明された「仮説」
2025年9月。私たちは「茶道体験」へのピボットを決断しました。 そこからの動きは、スタートアップとしてのスピードを最優先しました。
物件取得から内装、オペレーション構築、OTA(旅行予約サイト)への掲載までを短期間で完遂。 そして10月にオープンするやいなや、仮説は数字として証明されました。
TripAdvisorやGetYourGuide経由で予約が殺到。 SaaS時代には苦戦していた「収益化」が、初月から達成できたのです。 ホテルへの飛び込み営業も、SaaS時代とは反応が違います。「こういう体験施設を探していたんだ!」と、パートナーとして歓迎されるようになりました。
■ 目指すのは「お茶屋」ではなく「体験のプラットフォーム」
私たちは「京都で人気のお茶屋さん」を目指しているわけではありません。
私たちが作ろうとしているのは、「体験版スターバックス」のようなスケーラブルなブランドです。
まずは京都でドミナント展開し、勝ちパターンを確立します。 その後、東京、大阪、福岡、北海道……と全国へ展開。
「OHINERIに行けば、その土地の文化を安心して体験できる」というインフラのような存在を目指します。
そして、店舗網という「リアルな接点」を持った後、再び「テクノロジー」を掛け合わせます。 顧客データを活用した送客システムや、予約プラットフォームなど、リアルのアセットがあるからこそ作れる強固なテック事業へ発展させる構想を持っています。
今回のピボットは、その壮大な構想に向けた「最初の一手」となります。
■ あなたに任せたいのは、泥臭い事業開発と仕組み化
現在、この事業は急成長していますが、中身はまだカオスです。 私自身が現場で走り回り、泥臭い営業と接客でなんとか回している状態です。
だからこそ、今、「事業開発(BizDev)」のプロフェッショナルを求めています。
あなたに期待しているのは、私がやっている現場仕事を肩代わりすることではありません。 この泥臭い現場を、「誰がやっても回る仕組み」へと昇華させることです。
- 再現性の担保: 属人的な営業や接客をマニュアル化し、質の高い店舗を量産するスキームを作る。
- アライアンス戦略: ホテルや旅行会社との提携を組織的に広げ、自動的に集客できるパイプラインを構築する。
- 新規事業の企画: 「茶道」に続く第二、第三のコンテンツ(寿司、書道、ツアー等)を企画し、PL(損益)を設計する。
私たちはスタートアップとして、Jカーブ(急成長)を描くための組織を作ります。
今のOHINERIには、整ったデスクも、洗練された研修もありません。 あるのは、「確実に収益が上がるビジネスモデル」と、「それをどこまでも広げられる空白のマーケット」だけです。
「SaaSもいいけど、手触り感のあるリアルビジネスを、ロジックでスケールさせるほうが面白そうだ」
そう感じていただける方。 一度、二条の店舗でお話ししませんか? 美味しいお茶を点てて、お待ちしています。