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教えて吉田先生!これからの健康経営を考える!4.メンタル不調って何ですか?

全20回シリーズでお伝えしています「教えて吉田先生!これからの健康経営を考える」。前回は「産業医って何をするの?」を語ってもらいました。今回は「メンタル不調って何ですか?」をお送りします。

インタビューは2020年4月6日に都内にて行われました。

――― メンタル不調とはどのようなものでしょうか?

体と心はお互いに影響を及ぼし合っている、と言うことはイメージが付くと思います。それを「心身相関」と呼び、よりメンタル寄りに顕在化してきたもの、例えば、大きな心配事があって夜寝付けない、焦りの気持ちが強まり仕事が手につかない、といったことが初期のメンタル不調です。このレベルであれば、どなたでも経験があると思います。

それがもう少し進むと、考えがまとまらない、同じ文章を読んでいても頭に全然入らない、悲観的な方面にばかり気持ちが引っ張られて自分を責めてしまう、などがメンタル不調の代表的な症状になります。2大精神病として気分障害と並び称される、統合失調症という別の病気になると、例えば、自分の電話が盗聴されているといった被害妄想などを呈しますが、これもメンタル不調です。なので、気分や精神に関する不調の全てを、メンタル不調と呼んで構わないと思います。

――― メンタル不調に対して、産業医はどのように対応するのですか?

歴史的には、産業医の仕事に占める精神疾患への対応の割合は、現在ほどは大きくありませんでした。前回の軍医の話で言えば、昔は軍隊における結核やコレラやマラリアのような、職場の感染症対策が大きな仕事でした。しかし戦後、医学の進歩や衛生状態・国民の栄養状態の改善につれ、次第に労働災害対策や生活習慣病などの慢性疾患対策が中心となり、バブル経済後はメンタル不調になってきた、という流れです。

今後は職場のがん・いずれは認知症対策も課題に

これまで職場の労働災害や生活習慣病対策は十分に機能し、成果を上げてきたと考えますが、少子高齢化と労働人口の減少・人生100年時代を迎え、長く健康に働くことや幸福に社会参加することに価値が見出されるようになると、職場が労働者に提供するサービスとしては、メンタル不調とがんサバイバー社員への職場復帰支援が重要になってくると思われます。がんに関しては、概ね50代半ばまでは女性の罹患が多く、その後急速に男性のがん罹患ケースが増えることが知られています。ちょっと古いフレーズですが「一億総活躍時代」を迎え、労働者に占める女性や高齢社員の割合がますます増えるますので、職場のがん対策の重要性もいっそう増していくことでしょう。

またこれは半分冗談のような話ですが、日本でもいずれ年齢による一律の定年退職が撤廃されると、長期的には職場の認知症対応が求められるのでは?とも考えています。

既に、ビジネス誌などでは高齢経営者の認知機能障害が経営リスクになりうる、という特集が組まれています。認知症の中核症状である記憶障害や判断力の低下は、経営者にとっては間違いなく「不都合な真実」でありますが、こういったデリケートな問題もいずれ産業医が扱う時代が来るかも知れませんね。

――― 企業にメンタル不調の方は、どのくらいいるのでしょうか?

一般的に、全労働者の約2%が、うつ病状態のまま就労していると言われています。そして、その2%のうち、治療を受けている人は半分以下と推測されています。本人もメンタル不調の自覚がない・あるいは認めたくない、周りからも不調とは見なされていない、という方が過半です。このような方をどうやって見つけていくか、どのように専門家に繋いでいけるかが課題です。

2015年に50人以上の事業所で義務化されたストレスチェック制度では、約10%の社員が高ストレス判定となりますが、厚労省のデータでは、実際に産業医の面接指導を受けた社員は、0.6%に留まります。そもそも残念なことに、義務化されたとはいえ、労使共にメリットを実感しにくい現行のストレスチェック制度の実施率は、昨年のデータでは既に低下の兆しです。その点が、私がパルスサーベイに期待する理由でもあります。

――― 最近、テレワークのようにオフィスにおらず遠隔で働く方も増えていると思いますが、遠隔での勤務によりメンタル不調は増えていくのでしょうか?

職場の人間関係から離れて仕事ができ、通勤負担も軽減されるので、やってみたら楽だったという人、あるいは、職場の親しい人たちと顔を合わせられなくなり、適度な雑談もできないのでストレスが溜まるという人、双方の声を聞きます。一概にストレスが増えるか減るかは本人の性格傾向や働き方の特性にも左右されるでしょうが、オンとオフのメリハリがなくなり、通勤や社内の歩行が多少なりとも運動機会になっていた人にとっては運動不足も相まって、かなりストレスが溜まるものと推測されます。

とはいえ、テレワークが浸透し、職場での対人接触が減り、上長からの業務指示や指導のログが全て残るようになると、ハラスメントも今までほどは起こりにくくなるのではないでしょうか。その点は明るい展望を持っていますが、ポストコロナの働き方を考えると、ITやAIを活用した次世代型の成果主義が台頭すると思われ、ビジネスパーソンにとってはますます気が抜けない時代となるか、週の労働時間が半分になってハッピーな時代となるか、は現時点で不透明ですね(笑)。

(聞き手:株式会社スーツ 代表取締役 小松 裕介)

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