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なぜ風洞を小型化しようと思ったのか

日本風洞製作所は代表のローンが九州大学在学中に立ち上げたベンチャー企業です。なぜ、風洞を小型化して、誰でも使えるものにしようと思い立ったのか。きっかけは意外にも不純な動機でした。

現代表のローンは中高生の頃から早起きが大の苦手でした。実家では家族に叩き起こされることで辛うじて通学はできていましたが、大学での一人暮らしではそうもいきません。毎日のように1限の授業に間に合うことに苦戦し、かなりの数の単位を落としてしまいました。当時、ローンは九州大学の伊都キャンパスというド田舎のキャンパスに通っていました。あまりに田舎なもので、周囲にアパートなど無いため、最寄り駅(最寄りで徒歩たったの55分!はたして最寄りといって良いのか)の近くのアパートから自転車で通っていました。コースは何の障害物もない田圃道。海風の関係上、通学時間帯には向かい風、下校時間帯にも向かい風になるという、自転車には非常にキツイ5kmの通学路でした。所々に無意味な信号があることもあり、入学当初は2万円の安いロードバイクで20~25分ほどかかっていました。

通学時間に25分かかるということは当然、1限が始まる25分以上前には起きなければいけないということです。しかし、ローンには1分でも長く寝ていたいという強い願望がありました。そこでローンが目をつけたのは自転車の「空気抵抗」です。ある本では、ロードバイクを40-45km/hで漕ぐときのパワー(ペダルを小漕ぐ力)の85%以上は空気抵抗として消費されていると書かれていました。50km/hにもなると、90%以上のエネルギーが空気抵抗となります。そこで、空気抵抗を究極まで減らせば、もっと短時間かつ少ない労力で1限に間に合うことができる。つまりもっと寝ることができる!と考えました。

この当時、ローンは風洞試験装置を使って風力発電の研究をしており、自らの設計・製作した風洞試験装置を持っていました(この話はまた後で)。そのため、いつでも風洞試験が自由に実施できる非常に稀な環境にありました。そこで、自分の風洞で自転車・搭乗者に対して様々な試験を行い、徐々に空気抵抗の原因の洗い出しを行っていきました。もちろん、学生の小遣いは限られているので、最も少ない費用で最も空気抵抗を削ることができる装備から順番に買い揃えていきました。

まずは体にピッタリフィットしたウェア(ウェアは着替える時間のロスを考えても、着たほうがタイムが短くなるほど効果が大きい)、シューズ、そしてヘルメット、次にホイール、フレーム、最後にTTハンドルなど。自らの風洞でフォームや装備品の組み合わせ、横風時の装備などを検証し、通学タイムはみるみる短縮されていきました。最終的に通学タイムは常時7分台(平均42km/h※信号多数のため、実際には50km/h以上出している)となり、1限の前に寝ることができる時間を18分近く伸ばすことができました。早く寝ればいいという話ですが、朝の1分は夜寝る前の1時間よりもありがたい、という感覚は早起きが苦手な方なら理解していただけるかと思います。

さて、ローンは通学時間を削ることに成功したわけですが、この空気抵抗をギリギリまで削る風洞試験による検証・研究のプロセスがあまりにも楽しく、熱中していました。しかし現実はどうでしょう。風洞試験装置は大企業や大学に数台しかない貴重な装置。その中でも自転車用に使用できるのは国立スポーツ科学センターにある1台のみ。他のスポーツ競技との共有施設である上、国際ランキングが高い順に予約を入れ替えるシステムのため、自転車競技のために風洞を使用できる人間は国内では年に数人しかいません。挙句の果てに、日本代表チームは国内であまりに試験の予約が取れないことから、ヨーロッパで風洞試験を行うなど。自転車のトップアスリートですら年に1回使えるかどうかの風洞、もちろんセミプロや、ましてや一般人が使うことはほぼできません。

自転車のエアロ性能を風洞で磨き上げるのがいかに楽しいかを知ってしまったローンは、なんとか風洞をより手軽なものにできないか考え始めました。その時、ローンは風洞試験装置の開発において、風洞の全長を短縮する研究も行っていました。

「そうだ。この技術を使って超小型の風洞をつくって、誰でも風洞をつかえる・楽しめるようにしよう!」

これが弊社の設立の原点となりました。朝に一分でも長く寝ていたいという不純な動機が、創業動機に繋がった瞬間でした。その後、様々なビジコンなどでビジネスモデルを揉まれに揉まれ、最終的に十分な資金を獲得し、在学中に日本風洞製作所はスタートしました。


ちなみに今でも代表取締役のローンは朝に弱く、基本的に午前中は商談を入れたがらないスタイルを貫いております。そのため、会社もフレックスタイム制。朝に弱い社員でも歓迎するスタイルは創業ストーリーからきています。

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