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風洞の小型化までの道のり

自転車屋におけるほどコンパクトでかつ、人間がすっぽり収まるほど吹き出し口が大きな風洞の開発は前例がないこともあり、難関の連続でした。風洞をコンパクトにする上で、大きな問題が2つあります。

問題1 短距離で整流すると膨大なエネルギーを消費する

風洞を短くするのは実はとても簡単です。あくまで、「短くするだけ」であれば簡単です。巨大な圧力損失(金網など、風の抵抗になるものを大量に並べて強引に気流を均一にする)をかけて強引に気流を拡散、整流すれば良いだけです。しかし、これは次の問題に繋がります。

問題2 その膨大なエネルギーを賄えるだけのエネルギー源は?

前の問題で、強引に気流を整流すると、膨大なパワーを必要とします。通常の風洞の10~100倍のパワーを投入しなければいけなくなります。そうなると、とてつもなく大きなモーターが必要となり、その電源は間違いなく高圧受電するほかなく、専用の受電設備など、設備はどんどん大掛かりになります。また、モーターが大きくなると、風のとおり道が小さくなってしまう問題があります。例えば、みなさんが日頃お使いの扇風機のモーターだけが10~20倍のサイズになったのを想像してみてください。風が通る道はありますか?普通の風洞でこれをしてしまうと、吸気口がモーターで埋まってしまうため、モーターだけ別の場所に置く必要が出てきます。そうすると動力を伝達するためのシャフトやチェーン、ベルトなど、設備がどんどん大きくなっていきます。

弊社でも、創業当初はなんとかパワーでゴリ押ししようとしていました。モーターではあまりにも大きく、重く、そして供給しなければいけない電源が大きくなるため、「エンジン」という選択肢を真面目に検討しました。エンジンは軽く、非常に小さな体積で莫大なエネルギーを生み出すことができます。航空機などで電動のものが殆どないのも頷けるほど、エネルギー密度が高いのです。しかしながら、エンジンは回転数をモーター並に安定させることが難しい問題や、変速などの問題があり、風洞での採用例は殆どありません。この欠点に対し、ローンは学生時代、少ない研究費でハイパワーな風洞を作らなければいけなかった際にマニュアルトランスミッションのバイクエンジンに軽自動車用のトルクコンバーター、巨大なフライホイールと自動速度制御システムを組み合わせることで、モーター並みの速度安定性を達成した実績があったため、この案が当初採用されました。

当初はスーパーカブのエンジンを150ccにボアアップした上で電動式のターボチャージャーを搭載したものを動力源として検討し、テストベンチなども製作しました。当然、室内で風洞を使用するためにエンジンの爆音を消すための防音室にエンジンを入れる必要があったため、空冷のエンジンを水冷化する必要がありました。そのため、防音ボックスに収められ、完全水冷化された150ccのカブエンジンという世にも奇妙な装置が出来上がりました。また、排気や排熱の処理のための触媒なども開発していました。

しかし、どんなに排気処理や排熱処理を頑張ったとしても、どうしても室内には流せない排気(そもそもどんなに浄化しても二酸化炭素濃度などが高い)と膨大な排熱が発生してしまい、開発はスランプに陥りました。このとき、会社に電気系のスタッフや高度な流体設計ができるスタッフが入社し、電気自動車などで使用されているBLDCモーターを採用し、電源としてバッテリーを使用する案が浮上しました。電気自動車用のモーターは非常にハイパワーでコンパクトであり、近年の電気自動車化の流れから、非常にコストが安くなっていました。また、バッテリーを使用することで、家庭用コンセントで夜間に少しづつ充電し、昼に一気に風洞に電力を供給することで、どんな場所でも手軽に風洞が使えるというコンセプトも維持できました。

これらの電化の研究開発と同時並行で、風洞のそもそもの効率を極限まで引き上げる研究も進みました。独自開発のスクリーンやガイドベーンにより、これまでは4、5層あった金網の層を省略することができるようになるなど、各問題が徐々に解決され、風洞は全長3m、2m、1mとみるみる小さく、軽くなっていきました。文頭で紹介した、問題1と問題2両方に対して解決する技術を開発することで、風洞はどんどん夢のカタチに近づいていきました。

細かい試作も数えると300回以上、正式なプロトタイプを数えると6回のプロトタイピングの末、世界最小の風洞は実現されました。もちろん、「実現されました」とは言いましたが、開発の余地は無限にあるため、6世代目のモデル「Aero Optim-Cell」を正式に量産開始したあとも、よりコンパクトで高性能な風洞を目指し、開発は続きます。また、そもそも弊社の風洞はこれまで風洞を使えなかった顧客層を切り拓くものであるため、膨大な数のオプション品や測定機器など、これから開発しなければいけないものも山積しています。弊社で開発をされたい方は「もう開発は終わったのか」と気を落とさず、どんどんご応募ください。

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