北海道の冬、灯油は暮らしを支える生活インフラです。雪の中、各家庭のタンクへ灯油を届け続ける配送の現場を、IoT残量センサー「GoNOW」で持続可能なものに変えようとしているのが、札幌発のスタートアップ・ゼロスペック株式会社。
今回話を聞いたのは、1人目営業として入社して6年、灯油配送の効率化に向けた提案と導入後の伴走を担う神大地さん。時には「レガシー」と呼ばれることもある業界に向き合い続けて学んだことを尋ねると、こんな答えが返ってきました。
「正しさだけでは、現場は動かない。」
肩書きは営業。けれど語られたのは、職種の枠を越えて仕事を広げていく話でもありました。この言葉にたどり着くまでの6年間を、本人の言葉で振り返ってもらいました。
神大地(じん・だいち)/北海道帯広市出身。2020年6月、ゼロスペックに1人目営業として入社。灯油配送の効率化に向けた提案活動や導入後の伴走を担当。生活協同組合・JAグループ・エネルギー事業者など、地域の生活インフラを支えるお客様と向き合っている。
雪の日も、暮らしを止めない仕事——新聞販売店の家に生まれて
神さんは、メディアで広告やイベントの営業・企画を経験したあと、日本語教師や外国人材紹介の仕事にも関わってきました。コロナ禍で事業環境が大きく変わる中、次に本気で向き合えるテーマを探していた時期に出会ったのが、総務省の地域ICT事例として紹介されていた、灯油配送の実証実験でした。
「IoTセンサーで灯油タンクの残量を見える化して、経験と勘に頼っていた配送を効率化する。実証では給油回数が約20%、配送日数が約36%削減されたとありました。これだけ価値があるのに、なぜまだ広がっていないんだろうと。それなら、自分がその普及に関わってみたいと思ったんです」
そこには、個人史も重なっていました。
「私は新聞販売店の家に生まれました。目立つ仕事ではないかもしれませんが、雪の日も吹雪の日も、朝になれば当たり前に新聞が届いている。地域の日常を止めないために動き続ける仕事です。灯油配送も、北海道では生活インフラそのもの。普段は意識されにくいけれど、止まると暮らしが止まる。そういう仕事をテクノロジーで少しでも持続可能にできることに、強い意味を感じました」
もっとも、最初からきれいな物語を描いていたわけではない、と神さんは笑います。
「1人目営業として入社してから、商談だけでなく、現場対応や運用整理、お客様から出てきた課題の整理まで、必要だと思うことは自分で拾って進めてきました。
その中で、『自分がここまで関わる意味は何か』と考えることは何度もありました。自分の仕事が誰かの役に立っていると胸を張れること、社会に必要とされる仕事に向き合うこと。そういう実感が、結果的に自分を支えてきたのだと思います」
「DIYはできますか?」——IT企業のつもりが、初日からセンサー交換の現場へ
最初の接点は、代表の多田さんとのオンライン面接でした。
「強く入社を勧められるというより、『入りたいかどうかは、あなたが決めてください』というスタンスだったことが印象に残っています。会社に選ばれるというより、自分も会社を選んでいいんだと思えたことが、入社を考えるうえで安心材料になりました」
その後、「事務所のメンバーにも会ってほしい」と言われて足を運ぶと——。いまから6年前、2020年当時の事務所には、思いがけない光景が広がっていました。
「人工芝が敷いてあって、机とパソコンがあって、エンジニアの2人がちょこんと座っているだけ。事務所のボイラー工事も自分たちでやったと聞かされて、『DIYはできますか?』と質問されました。IT企業の選考を受けているつもりだったので、面食らいましたね。僕は学校の技術の授業でネジを折るタイプの人間だったので(笑)」
それでも入社を後押ししたのは、エンジニア責任者・若松さんとの会話でした。
「技術者と近い距離で働くのは初めてだったので、営業と開発が同じ目線でお客様に向き合えるかどうかは、大事にしていたところでした。若松さんと話す中で、職種を越えて率直に話し合える雰囲気を感じたんです。1人目の営業として入る自分にとって、『入社してもいいんだ』という後押しになりました」
入社初日に向かったのは、商談の場ではなくセンサー交換の現場。タンクを見て、センサーを触って、お客様の業務を知るところから仕事は始まりました。
「入社当初は、機械や工具に詳しいタイプではありませんでした。それでも現場でタンクやセンサーに触れ続けるうちに、仕組みを見て、自分の手で確かめることへの抵抗がなくなっていきました。
そこから、仕事以外でも自分で手を動かして工夫することが増え、いまではホームセンターに行ったり、車まわりのものを自作したりすることも好きになりました。
現場から始まった経験が、自分の仕事の見方だけでなく、物事との向き合い方も変えてくれたと思います」
打順が終わっても、試合が終わるまで帰らない——お客様と「仲間」になるまで
入社1年目、神さんは石川県のお客様と、導入後の運用について何度も対話を重ねていました。
「『残量を見て配送に行くことが本当に正義なのか』『ゼロスペックの言う効率化とは何なのか』。センサーを入れて終わりではなく、正解だったと言える状態を一緒に探していました。業界の方々は何もしてこなかったわけではなくて、現場で試行錯誤を重ねた末の落としどころを持っている。そこに僕らが一石を投じたわけですから」
出張に行けば、打ち合わせだけで終わらせず、現場を見て、日々の業務の流れを教えてもらう。お客様の部署の連絡の輪に入れてもらうほどの距離感で、やり取りは続きました。当時の担当の方とは今でも交流があり、先日はバイクで石川県から北海道まで会いに来てくれたそうです。
なぜそこまでの関係を築けるのか。神さんの答えは、営業のノウハウではありませんでした。
「人に好きになってもらうことや、信頼してもらうことに、仕事とプライベートの明確な線引きはあまりないと思っています。仕事だから急に別の自分になるわけではなくて、相手が何を大事にしているのかを知りたいし、自分のこともちゃんと伝えたい。都合のいいことだけを言うのではなく、できることも、できないことも正直に話す。そうやって一人の人間として向き合ってきた結果、関係性ができていったのだと思います」
そして、こんな比喩を続けました。
「野球で、自分の打順が終わったからといって、先に帰る人はいないじゃないですか。最終回、ゲームセットまでベンチにいて、最後に一緒に並ぶ。同じチームってそういうことだと思うんです。お客様との関係もその感覚で、売って終わり、導入して終わりではなく、成果が出たと言えるところまで一緒にいたいんです」
導入して終わりにせず、成果が出たと言える状態まで伴走する。この仕事はそのまま、ゼロスペックがこれから組織として強くしたいCS(カスタマーサクセス)の原型になっています。
正しさだけでは、現場は動かない——現場の判断を、データで支える
お客様一社一社と深く向き合ってきた神さんですが、業界全体への提案では、データだけを根拠に「変えましょう」と言うことには慎重です。
「データを見ると、『この配送は減らせる』と言える場面はあります。でも、それを外から来た人間が『非効率です』とだけ言っても、現場は動かないと思うんです。現場の方々は、灯油切れを起こさない、お客様を不安にさせない、暮らしを止めないために判断してきた。その責任を理解しないまま、数字だけで変えようとするのは違うと思っています」
ベテランの判断は、業界では敬意を込めて「勘ピューター」と呼ばれることがあります。「この時期は減りやすい」「雪が降るとこの地域は行きづらい」。一見すると感覚的に見える判断の中にも、長年の経験から積み上がった理由があります。
「僕らがやりたいのは、現場の勘を否定することではありません。むしろ、その勘や経験の中にある合理性をデータで見えるようにすることです。ベテランの判断を一部の人だけのものにせず、次の世代にも引き継げるようにする。少ない人数でも地域の暮らしを守れるようにするために、データを使いたいんです」
6年の間に、業界の空気は少しずつ変わってきました。かつては「いいものだけど、まだ早い」と言われることもありました。いまは「この先を考えると、必要になる」と言われる場面が増えています。ただ、その変化をゼロスペックだけでつくったとは、神さんは考えていません。
「正直、何度も自信を失いました。それでも、『センサーがなかったらやってこられなかった』と言ってくださるお客様がいた。僕らが業界を変えたというより、お客様に支えられながら、少しずつ一緒に進んできた感覚の方が強いです」
お客様の理想に近づくために、できることを増やしてきた
生成AIを活用しながら、モバイルアプリのフロントエンドの実装を自ら進めています。
「お客様は大きな投資をして、その先の理想を一緒に描いてくださっています。その実現を少しでも早めるために、僕にできる範囲は僕がやろう、と」
開発への挑戦は、階段を一段ずつ上ってきた結果でした。入社半年で、在籍していたAIエンジニアに学びながらデータ分析を習得。そこからノーコードツール、Pythonと毎年できることを増やし、土台を積み上げてきたからこそ、生成AIの登場で「これなら開発までいける」と踏み出せたのです。
「いきなり飛んだわけではなくて、必要なものをそのつど取りにいった結果、できることが増えていった感覚です」
そしていま、その延長で取り組んでいるのが、営業という仕事のやり方そのものを、AIを前提に組み直すことです。出来合いのツールを入れるのではなく、自分たちの営業に合う形を自分で作っています。
起点にしたのは、AIに何を読ませるか、でした。読ませる対象に選んだのは、自分自身です。
案件ごとの経緯、誰が意思決定に関わっているか、導入を止めていた制約は何か、なぜその提案をしたのか。6年分の商談と、そのときどきの判断とその理由を遡って、AIが探して読める一つのリポジトリに集めていきました。1人目営業として作ってきた型が、少しずつ、会社が参照できる記録に変わっていきます。
相談すると、AIがその記録の中から関係するものを探し、根拠を示しながら答える。
その上に、営業の工程が乗ります。商談の前は、思い出す作業から、記録を引き当てる作業に変わりました。商談の後は、その日の動きが記録に残り、動きの止まっている案件が向こうから出てくる。見積や発注書のように手順の決まった事務は、そのつど考えるのをやめ、決まった処理として動かしています。
そして、それは個人技で終わっていません。
「『こうやればできるよ』と見せると、営業メンバーも生成AIを使いながら、データ分析をやってくれたり、プロダクトのモックアップを作ってくれたりするようになりました。経験の浅いメンバーでも、一定水準の商談準備やフォローができる状態にする。ベテランの判断をデータで支えるという、お客様に提案してきたことと同じことを、営業という職種で自分たちも変えていきたいです」
いいことも、つまずきも共有する——お客様同士で答え合わせできる場へ
昨年夏に始まった「IoT配送合理化会議」と、その地方開催版である「スマートセンサー勉強会」。導入企業のお客様同士が、うまくいったことだけでなく、つまずいたことも含めて共有し合う場です。
「最初は怖さもありました。営業としては、お客様との関係は個別に築くものですし、会社同士には競合関係もあります。ただ、人手不足、配送員の高齢化、若手への引き継ぎなど、どの会社も似た課題を抱えています。現場で得た知見がそれぞれの会社の中だけに閉じてしまうのは、もったいないと思ったんです」
ゼロスペックが一方的に「こうすれば効率化できます」と話すのではなく、実際に使っているお客様が、自分たちの言葉で語る。そこに、この場の意味があります。
「お客様同士の言葉だからこそ届くことがあります。うまくいったことも、うまくいかなかったことも含めて共有し、お客様同士で答え合わせをしてもらう。その方が、僕らも胸を張ってお客様に向き合えると思っています」
会議をきっかけに、お客様同士の交流や視察の引き合わせも増えました。一社ごとの営業活動に閉じず、灯油配送のこれからを、現場の方々と一緒に考える動きが少しずつ生まれています。
個人の力を、組織の力へ——これから迎えたい仲間
導入は着実に広がっています。JAグループや生活協同組合といった大きな組織にも使われるようになり、北海道では大規模なお客様への導入も始まりました。エンジニア2人と人工芝のオフィスから始まった会社は、いまではフルタイムメンバー14名、業務委託やアルバイトの方を含めると27名に。神さんの所属する営業チームは7名です。
それでも、ビジネスサイドの組織としての自己採点を聞くと、返ってきたのは「10点満点中5点」という率直な答えでした。
「強い個人や、現場に入り込む力はある。でも、誰が入っても一定の品質で再現できる状態には、まだ伸びしろがあります。お客様とどう信頼関係を作るか、現場の声をどうプロダクトに返すか。それを個人技で終わらせず、会社として再現できる形にしていく必要がある。もうひとつ足りないのは、契約、請求、採用、広報といった、事業を支える土台です」
だからこそ、迎えたい仲間の像は明確です。
「整っていないことを前向きに受け止めて、そこから仕組みを作れる人。混沌をただ否定するのではなく、『ここは仕組みにできる』『もっと良くできる』と気づいて、自分から動ける人です。コーポレートなら、単なる管理部門というより、事業を前に進める土台を作る人。新規事業なら、机上の分析だけでなく、お客様の現場に入り込んで本当の困りごとを掴める人と一緒に挑戦したいですね」
もうひとつ、この1年で変わった前提があります。
「ただ人数を増やして仕事量を増やす、という考え方を前提にしていません。AIで代替できる作業はどんどんAIに寄せて、人はお客様との対話と、重要な判断に時間を使う。だから、AIを使いこなす前提で仕事を組み立てられる人、あるいは今できなくても抵抗なく取りにいける人と働きたいです。僕自身も、営業からデータ分析、Python、アプリ開発と、そのときどきで必要になったものを覚えてきただけなので」
これからの3〜5年で目指すのは、GoNOWが灯油配送の現場で「業界の当たり前」になることです。
「センサーを売ること自体がゴールではありません。GoNOWを使ってくださる会社が、人手不足や配送コストの上昇の中でも続いていける。ベテランの経験をデータで支えて、次の世代に引き継げる。地域の生活インフラを支えている人たちが、無理をし続けなくても続けられる仕組みを作りたいんです」
——正しさだけでは、現場は動かない。だからこそ、人としてお客様に向き合い、現場と一緒に変わっていく。神さんの6年間は、その積み重ねでした。
ゼロスペックでは、CS・コーポレート・新規事業など、ビジネスサイドの仲間を探しています。
整いきっていない組織を、現場とお客様への誠実さを起点に、一緒に形にしていきませんか。働き方はコアタイムありのフレックス制・リモート併用勤務。選考はカジュアル面談から始まります。少しでも興味を持っていただけたら、まずはカジュアルにお話ししましょう。