Mediiでは、「誰も取り残さない医療を」というミッションの原点に立ち返る場として、社内イベント「Medii Patient Voice」を定期開催しています。医師の先にいる患者さんの存在を強く意識し、私たちが解くべき課題をチーム全体で共通認識として持つための大切な時間です 。
今回は、一般社団法人てくてくぴあネット代表のうえやまみかさんをお招きしました。うえやまさんは、1歳で小児リウマチを発症。現在は悪性関節リウマチと向き合いながら、2人のお子さんを育てる母親でもあります。
本記事では、診察室の数分間には映らない患者さんの日常と、そこにある葛藤や社会課題についてお届けします。
病とともに生きるということ
物心つく前から、うえやまさんの人生は病とともにありました 。1歳で発症して以来、小中学生時代も入退院を繰り返す生活。教室で友達と笑い合い、校庭を走り回るという「当たり前の日常」は、うえやまさんにとっては遠い存在でした。
うえやまさん:
「周りのみんなは楽しい学校生活だったり将来のことを考えている最中、私は痛みや体のしんどさを抱えながら、病院のベッドの上で天井を見つめながら毎日を過ごしていました。」
高校入学直後に病状が再燃し、1年間の入院を余儀なくされた際も、医療スタッフや家族に支えられながら、通信制高校に切り替えて一歩ずつ前を向いてきました。
大きな転機は大学生の時です。自分に合う薬(生物学的製剤)に出会い、長年苦しんできた痛みがコントロールできるようになったことで、世界が変わり始めました。
うえやまさん:
「体調が安定すると、すごく気持ちが軽くなって、自分の将来に対して前向きになりました。自分は何がしたいのか、どんな自分でありたいのか、未来に目を向られるようになりました。」
この経験から「薬の開発に携わる」という夢を抱き、外資系製薬会社へ就職。臨床開発の仕事にやりがいを感じていたうえやまさんでしたが、結婚し、次のライフステージである「妊活」を考えたとき、大きな決断を迫られます。
うえやまさん:
「このまま仕事を続けると体調も落ち着かないし、妊活には入れない。妊活を優先するなら、まずは体調を整える必要がありました。大好きだった仕事でしたが、主治医や夫と相談し、一度退職して妊活に進むことを決めました。」
産後、赤ちゃんと共に流した涙
仕事を辞め、体調を整えて臨んだ妊活と出産。しかし、親になったうえやまさんを待っていたのは、それまでの悩みとは全く別の、新たな過酷な現実でした。
うえやまさん:
「産後に数日赤ちゃんのお世話を続けただけで、手がとっても痛くなってしまいました。子どもが泣いていても抱っこができないし、授乳も手首に負担がかかって激痛が走る。ミルクを作ろうとしても、粉を入れるために缶の蓋を開ける作業すら、手首を使うから痛くて痛くて……。『自分は何もできない』という情けなさで、赤ちゃんと一緒に泣いていました。」
身体的な痛み以上にうえやまさんを苦しめたのは、社会システムの隙間、そして「親としての日常」を維持することの難しさでした。
うえやまさん:
「自分の治療のために病院にいきたいと思っても、難病を診る大きな病院には小さい子どもを連れていけません。子どもの一時預かりは予約がいっぱいで、ファミリーサポートもマッチングできない。主人は出張が多くて休みが取れない。今ある行政や自治体の子育て支援サービスだけでは、病気を持っている親が利用したい時に利用するのは難しいのだと、育児を通して痛感しました。」
この状況に疑問を抱いたのは、一人目の出産から5年後、二人目のお子さんを出産された時のことでした。
うえやまさん:
「5年経っても、驚くほど状況が変わっていなかったんです。これって、誰かが声を上げないと変わらないんだな。だったら、ちっちゃい声でもいいから私が上げていこう。そう思ったのが、活動を始めたきっかけでした。」
その想いが、同じ境遇にある親たちが知恵を繋ぎ、孤独を解消するための団体「てくてくぴあネット」設立のきっかけとなりました。
診察室の2、3分以外の時間にあるリアリティ
うえやまさんは、患者さんが診察室でつい口にしてしまう「大丈夫です」という言葉の裏側に、もっと目を向けてほしいと静かに語ります。
うえやまさん:
「診察室にいるのは数分でも、その外側には様々な日常での悩みがあります。朝の準備が痛みのせいで進まず子供の用意に時間がかかったり、家事が回らなくて毎日落ち込んだり。自分の通院で子どもの生活に影響が及んだり、経済的不安であったり。いろんなことがオーバーフローな状態で過ごされている方は多いんです。」
それほどまでに苦しい状況にありながら、なぜ患者さんは「大丈夫」と言ってしまうのでしょうか。
うえやまさん:
「先生に言ってもどうにもならないかもしれない。忙しそうな先生に迷惑がかかる。そんな葛藤や諦めの中で、つい言葉を飲み込んでしまう。病院に行く時は、せめて外出時くらいはと、無理しておしゃれをしていい状態を見せようとしてしまうこともあります。その言葉の裏にある、患者さんのリアルを知ってもらえたら嬉しいです。」
医療だけでは届かないQOL
うえやまさんは、QOL(生活の質)の向上は医療だけでは完結しないと語ります。
うえやまさん:
「病気になったら病院にいって先生に診てもらう。この今の社会システムのなかでは、患者のQOLを押し上げるのには限界がきていると感じています。患者のQOLは、治療もあれば、介護や育児も家事も教育もあって、すべてが作用して繋がっているものだからこそ、医療以外の領域もどんどん参入して、人の生活そのものを底上げしていく必要があると考えています。」
そこには、情報の偏りという大きな壁も存在します。
うえやまさん:
「今は、情報を自分から拾いに行かなければならない。知らないと、それだけで取り残されてしまうんです。生活と医療の間にある『情報のポケット』に一度落ちてしまうと、自力で這い上がるのは非常に困難です。でも情報が繋がっていくことで、解決策が見つかることもあります。」
今はまだ、患者さん自身が必死になって情報を探し回らなければ、必要な支援にたどり着けないのが現状です。患者さんがたった一人で「情報のポケット」から這い上がるのを待つのではなく、そっと支えの手が届く。その人が困っているタイミングで、必要な情報が自然と届けられる仕組みの必要性を強く考えさせられました。
Mediiとして、大切にしていきたいこと
Mediiは、医師の意思決定を支援するプラットフォームの運営を通じて、全国の医師の知見を繋いでいます。それは、医師がよりスムーズに、より適切な判断を行えるようサポートすることが、結果としてその先にいる患者さんの日常を守ることに直結すると信じているからです。
知見が届かないことで、誰かが取り残されてしまうことがないように。
病気のせいで何かを諦める人を、一人でも減らすために。
私たちはこれからも臨床現場で尽力する医師のパートナーであり続けるとともに、その先にいる患者さんの人生に想いを馳せ、誰も取り残されない医療を目指していきます。
うえやまさんが代表を務める「一般社団法人てくてくぴあネット」では、疾患を問わず、闘病しながら子育てをする方々のリアルなエピソードが多数掲載されています。ぜひ、併せてご覧ください 。
闘病子育てエピソード:https://tekutekupeer.com/article/episode
てくてくぴあネットnote: https://note.com/tekuteku_pn
うえやまさん、貴重なお話をありがとうございました。