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新幹線にゆられて温かいコーヒーをすする話

現在受け持っているお客様が関西方面なので、出張する機会が増えた。
一度出張するとなると、運悪く先方が午前中に会議を入れてしまうと朝の6時とかに家を出ることもある。そうやって一日会議や調整などを行って19時に終わって帰路につくと、新幹線の中ではくたくたのオジサンができ上がっている。
早起きのせいですっかり重くなったまぶたに列車の細かな振動はより荷重をかけてくる。開いているのか閉じているのかわからないような目で窓の外をのぞいてみると、過ぎ去ってゆく電柱の明かりが妙にもの悲しさを感じさせる。繰り返される無機質な明りの並びは、まるで宇宙船がどこかにワープしているような錯覚をもたらす。無意識にコーヒーを口に含むと、苦みで現実に戻される。
そんな風に列車に揺られていると、ふと仕事への取組み方を反芻することがある。

クロス・コミュニケーション(以下CC)は比較的自由な社風だと思う。リーダーである社長の性格もそうだが、メンバーもわりとオープンな人が多い。やりたい仕事に手を挙げれば基本的(他の仕事で手が回らないとかでなければ)にやらせてくれるし、仕事の仕方に対してああだこうだいちいち細かく言ったりもしない。もちろん、品質やスケジュールを守るために助言をもらうことはあるが、一方的に仕事内容を決めつけられたりはしない。
CCに入って学んだことは"やる気がある人はやりたいことができる"ということだ。
当たり前と言えば当たり前のことなのだが、今までの会社はそういうことができていなかったのではないのかな、とあくまで個人的には思っている。もちろん、会社のせいだけではなく、自分自身の努力ややる気も足りなかったこともあるだろう。ひとつだけ確実に違うのは、同じ人間が今までは気づけなくて、ここでは気づけた、ということだ。
その違いは何かというと、自分のやりたいことを口に出して言う機会があったかどうかだと考えている。
仕事をしている中で、自分がやりたいことを誰かに伝えたことがあるだろうか?
それを聞いた人は、そのやりたいことに対する手助けをしてくれるだろうか?
今のCCには、そういう部分を受け止めることができる度量はあるのではないかと思うし、僕自身も後輩たちとの面談の中で彼らの課題に対して同じように一緒に考えて効果的なアプローチを試みている。
特に新卒やジュニア世代はまだこれから吸収していくものが多いし、情熱に燃えることが多いだろうから会社としてもそんな人たちの要求を受け止めやすいし、そんな熱量を待っている。これが中途の世代にかかってくると、何をいまさら?といった形で、当事者本人も諦めて、時に忘れてしまいがちだ。
しかし、"やる気"さえあれば会社はその思いを受け止めてくれる。CCはそんな会社であると今のところは感じている。
では、この"やる気"というのはどういうものなんだろうか?
ここでいう"やる気"というのは、仕事をコツコツと真面目に正確にこなすことを指しているわけではない。与えられた仕事に対して、意欲的・積極的にこなすことはもちろん"やる気"のひとつだが、僕が言いたかったのはそういう"やる気"ではない。
むしろ、この"やる気"を取り違えてしまったため、僕は社会人となって大きく回り道をしてしまったと反省している。
僕が言う"やる気"とは、自分が人生の中でどういう人間になりたいか、その目標に向かって歩んでいるか、そもそもその目標を見つけられているか、ということだ。
僕の場合、まず目標が見つけられていなかった。というより、目標を見つけるということを放棄していたといっても過言ではない。
普通の人は仕事をしないと生きていけなくて、つまり生きていくことと仕事をするということは密接に関係している。自分の人生の目標は仕事を無視しては立てられないはずなのだ。ここが見落とされがちで、仕事の目標というのも、何も仕事に関係した事じゃないとダメだなんていうルールはどこにもない。
例えば、目立つのが好きな人がいるとする。とにかく人生晴れやかに注目を浴びて生きていきたい。世の中に目を向けると、AppleのSteve Jobsはとにかく注目を浴びる人物だった。一番目立ってわかりやすいのは彼のプレゼンテーションの巧みさだろう。では、自分がああやって注目を浴びたいとするなら、まずはプレゼンテーションをうまくなろう、という目標を立てるのでもいいと思う。では、Jobsのプレゼンはどうして人を魅了するのか、そういった部分をひとつひとつ解剖し、自分の仕事に落とし込んでいけばいいのだ。そうやって考えると営業職は毎日がプレゼンの連続になっている。こういうところでそういった技術を磨くことはできるだろう。ここで磨いたことはプライベートで女性を口説くときにも使えるだろうし、趣味のTRPGのロールプレイで一味違う演技ができるかもしれない。そんなことができると遊んでいても楽しくなるし、ハッピーな時間が増える気がする。
他にも、とにかくお金持ちになりたいと思う人がいたとする。では、お金持ちになるためには何をしたらいいのか?まずはお金のことを勉強することから始めなければならないだろう。つまり金融だ。金融のことを勉強していくうちに、その仕組みをより深く知ることが必要になるかもしれない。もしくは、その技術を勉強したいと考えるようになるかもしれない。そこからは千差万別で、自分の考える道に進んでいけばいいだろう。そうして目標に向かっていれば人よりもお金に詳しくなる。そうすれば金を増やすことも人より簡単になるだろう。すると確実に人生の目標に近づくことができる。
とにかく趣味に没頭したい、という人もいるだろう。その趣味にお金がかかるとするならば、その趣味が楽しめる最低限の稼ぎが無いといけない。そのためには、どれくらい給料がもらえればいいか、ということを考えてその通りに仕事をすればいい。大事なのは、それを会社に伝えることだ。自分はこういうことをしたいから、そのためにこの曜日は残業できない、であるとか、こういった責務を与えないでほしい、といったことをしっかりと意思表示しないと、会社の期待と自分の"やる気"にギャップが生じ、お互いに不幸な結末を招いてしまう。会社はそうした意思を確認できれば、それなりの対応をしてくれるはずだ(少なくともCCはそうであると信じている)。もちろん、仕事に打ち込んでいる人より給料は上がらないだろうし、期待もされないだろう。しかし、それをしっかりと会社から意思表示されてそのように扱われるのと、もしかしたら評価されるかも、となんだか中途半端に思って仕事に取り組むのとでは雲泥の差があると言える。
目標の内容だって何だっていい。家族に誇れる仕事をしたい、目立たなくても世の中をしっかり支えたい、新しいサービスを作り出して世の中を変えたい、とにかく異性にもてたい。
とにかく自分が本当に"やる気"を出せる目標…いや欲望を見つけて、そこに向かって進んでいくことが大事なのだ。
こういうことが、人生が豊かになるということではないだろうか。自分の人生の目標(欲望)と仕事の関係を考え、人生の一部である仕事との均衡をはかる。
ぼんやりと幸せになりたいと誰しもが思うだろうが、そこに幸せを判定する基準=目標があればより実感しやすくなるだろう。
勿論、そんなものがなくても生きていけるし、仕事と自分の人生を全く別物だと考えることだって可能だ。
だが、これに気づいてから自分の中で確実な納得感と、確かに自分の人生を生きているという感覚が生まれた。そのため、仕事に対してもしっかりと目的意識を持ってより意欲的に取り組むことができるようになった。今までのなんとなくこなして、何となく乗り切る仕事とは見た目は一緒かもしれないが中身が違うのだ。
そこに気が付くことができた僕はラッキーだと思う。
そうした気付き、というのは残念ながら自分で気づくしかない。どんなに正しいことを言われても自分の中で納得しないと気づきにはならないのだ。この内容もきっとどこかで聞いたことがある内容だろう。しかし、それでもまだ自分の中に靄がかかっているのならば、まだ本質に手がかかっていないのかもしれない。
CCで僕はそれに気が付けた。少なくともCCにいる間はこの気付きを周りのみんなにこの体験を共有していきたいと考えている。なぜなら、これが僕の人生の目標の一部なのだから。

小田原駅を通過した車内アナウンスで自分の世界から再び現実に戻った。
ふと右手を見てみると温かい紙コップに入っていたはずの飲み物は、冷たく無表情な缶に変わっている。
そう、そもそも僕はコーヒーなんて苦くて飲めない。この微睡もきっとこの右手のアルコールのせいに違いない。上に書いた文章にまとまりが無いのもそのせいだ、きっと。

もうすぐ品川に到着する。
明日からも仕事を頑張ろう。
あー…家族に頼まれていた漬物をお土産で買うのを忘れた…。

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