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初音ミクの16年を振り返って~初音ミクの生みの親たちへインタビュー~

当社キャラクターの初音ミクは2007年8月31日に歌声合成ソフトウェアとして誕生して以来、多くのクリエイターの手により、音楽・イラスト・動画・CGなど様々なジャンルの作品として創作されてきました。

パッケージに描かれているキャラクターとしての『初音ミク』は、ブルーグリーンのツインテールが特徴的な、16歳の女性バーチャル・シンガー。設定年齢と並ぶ特別な「16歳の誕生日」を迎える2023年は、これまでの軌跡を振り返りながら、創作文化の未来を育むプロジェクト「初音ミク Happy 16th Birthday -Dear Creators-」を実施しております。
こちらの記事では、彼女の16年を当社代表の伊藤と開発に携わった3名と共に振り返っていきます。


(特別映像「初音ミク Happy 16th Birthday -Dear Creators- Anniversary movie」)


(写真左より、目黒、佐々木、伊藤、熊谷)

伊藤博之:クリプトン・フューチャー・メディア株式会社代表取締役。北海道大学に勤務の後、1995年7月札幌市内にてクリプトン・フューチャー・メディア株式会社を設立。DTMソフトウエア、音楽配信アグリゲーター、3DCG技術など、音を発想源としたサービス構築・技術開発を日々進めている。No Maps実行委員長、北海道情報大学客員教授も兼任。2013年に藍綬褒章を受章。

佐々木渉:2005年入社。音声チームマネージャー。初音ミク、鏡音リン・レン、巡音ルカを企画立案。歌声合成関連プロジェクトをリーディング。セガから発売された「Project DIVA」「Project mirai」シリーズや、セガとColorful Paletteよりリリースされた「プロジェクトセカイ」の立ち上げなどにも積極的に参加。

熊谷友介:2002年入社。ライセンスビジネスBチームマネージャー。携帯向け着メロなどのモバイルコンテンツについて従事したのち、初音ミクのライセンス展開の企画提案に関するチームを取りまとめている。「初音ミク Happy 16th Birthday -Dear Creators-」のプロジェクトを統括している。

目黒久美子:2007年入社。ライセンスビジネスAチームマネージャー。初音ミクの企画立案に携わり、「SNOW MIKU」や『初音ミク「マジカルミライ」』の立ち上げに参加、その後音楽関連事業や中国でのライセンス展開を担当したのち、現在は各種イベントやグッズ展開など初音ミクをはじめとしたキャラクターのライセンスを扱うチームを取りまとめている。

-この度は改めて振り返りというところですが、何からお話を伺ったらよいか緊張しております…まずはリリース当時のお話をお伺いできますでしょうか。

伊藤:2007年8月31日に「VOCALOID2 初音ミク」をリリースしてから、クリプトンには多くの変化が巻き起こりました。当時は1,000本売れれば大ヒットといわれる音楽制作ソフト市場で、初めの2週間程で3,000本程度の本数が売れました。当時の社員数はアルバイトを含めて25名程度で、初音ミクを担当する者ばかりではなく、他の事業を行ないながらも社員総出でパッケージを梱包して発送しての作業をみんなで汗をかきながら行なっていました。我々も当時、このようなヒットを予想しておりませんでしたので、まずはユーザーのもとに届けるところからして精一杯でした。

佐々木:2006年の後半にYAMAHA剣持さんよりVOCALOID2の紹介をいただき、初音ミクのソフトの開発が本格化したのは4月頃だったと記憶しています。リリース直後もドタバタで、リンレンを作りながら9月末にはセガさんや沢山のお取引先さんから連絡が入るという流れを思い出します。

熊谷:伊藤社長の話にもありました通り、私も当時は携帯電話向けのコンテンツ事業との兼任という形でプロジェクトへ参加しておりました。初音ミクのシナジーを活かし、リリース後は声優さんを起用した着信音ボイスのサイトの運営やコミケへの企業出展など、明らかに業務の幅が広がりました。


(写真:2007年前後の社内の様子)

-目黒さんは初音ミクのキャラクター要素について検討をしている時にアルバイト入社したんですよね?

目黒:はい、面接でアニメイトさんの袋を伊藤社長が持ってきて「これ知ってる?」と尋ねられたことを覚えています。私は音楽制作をしていた背景はありませんでしたが、同人活動をするくらいキャラクターやサブカルチャーについては好きだったので、その趣味の知見を活かして彼女が生まれるところに関わることができ、こうして長年彼女と共に成長してきたので、まさに人生を変える出会いでした。



-当時はどのような気持ちで初音ミクの拡がりについてご覧になっていましたか?

佐々木:ニコニコ動画に集っていた、新しいもの好きのクリエイターさんたちを中心に創作活動の輪が拡がって、イラストと音楽、歌や踊りを繋げていくミクを、自分自身も楽しみながら拝見させていただいておりました。歌とビジュアルから、大喜利的に楽しんでいる皆さんの想像力や妄想力のたくましさに圧倒されていましたね。

伊藤:当社がプロモーションして、広告展開をして、一般的に認知をされるようになったというよりも、ミクは本当に沢山のクリエイターの作品によって活躍の場を拡げていただいたことは言わずもがなです。振り返るのであれば、そういったクリエイターの方々やファンの方々に感謝の気持ちしかありません。

-その後グッズ展開などがはじまったのはいつ頃からなのでしょうか?

目黒:アニメショップに並ぶようなグッズを最初に商品化して発売していただいたのは、コスパさんだったと思います。Tシャツ・マグカップ・バッグなどの定番アイテムで、KEIさんのパッケージイラストをアレンジしていただいたデザインで。当時、©(まるしー)表記や監修の仕方など未経験の業務でしたので、先方の担当者さんに細かく質問しながら、社内でも佐々木さんと相談しながら、何もわからないなりに手探りで監修していました。また、翌年の3月にはグッドスマイルカンパニーさんから初めての立体物として「ねんどろいど 初音ミク」が発売されましたが、お声がけから商品化までが相当早かったですね。その後、幾度となく再販いただき、こちらも異例の大ヒットとなって、各社から怒涛の商品化依頼をいただけるようになりました。



-現在では『初音ミク「マジカルミライ」』や「SNOW MIKU」などのイベントも例年大きく展開しており、組織としての機能やノウハウも蓄積した状態ですが、未経験の業務も多い中で当時はどのように新しい展開に取り組んでいたのでしょうか?

熊谷:とにかくやるしかない、という形で常にチャレンジングな状況でした。社長以外のここにいる3人は社会人経験も立派にあるバックグラウンドでクリプトンに入社したわけではなかったので、ほぼ新卒レベルの経験値で体当たりしていたというのが正直な表現です。当時は伊藤社長も今よりも若く尖っていらっしゃったので(笑)、社長直々にしっかり教育していただきました。

目黒:初めての「SNOW MIKU」では冬の北海道の寒い中、地下鉄の駅に長蛇の列が出来て、そこでフィギュアの予約販売を行なったことなども懐かしいです。札幌市さんにグッスマの担当者さんと一緒に「雪ミク」のねんどろいどを持ってお伺いして、『雪まつりを応援したいんです』というお話をしてみたり。今では雪まつり資料館に雪ミクが紹介されるまでになりました。また、最初の「マジカルミライ」は立ち上げから実施まで本当に時間がなく、イベント名がGWくらいに決まって、そこからイラストやグッズ、展示や出展ブースなどの対応に動きましたが、正直記憶がないくらい忙しかったです。でも、当日会場がお客さんで埋まってペンライトの海を見た時には目頭が熱くなりました。

熊谷:海外のイベントでは英語も喋れないのにファンの方のブースでの体験に対応して「ネクストチャレンジャーカモン」で乗り切りました…。

伊藤:今は社会的に初音ミクが一定の知名度を獲得することができて、企業としての信頼性も大切になりましたので、当時とは状況が大きく異なりますが、みなさんそう考えると初音ミクと共に立派に成長しましたね(笑)



-初音ミクの展開については色々な転機があったと思いますが、振り返って大きいポイントと感じるところはありますか?

佐々木︰音楽リズムゲーム「Project DIVA」から3DCGライブ展開に至る流れや、GoogleさんとのCMなど色々とありましたが、ニコニコ動画、PiaproからPixiv、YouTubeなどのサイトと、そこに集うクリエイターさん達との繋がりを大事にしてきた地道さが良かったのだと思います。

-率直に、このように全世界的にクリプトン・フューチャー・メディアの名を知らしめよう、というのは伊藤社長の想定とする範囲だったのでしょうか?

伊藤:もともとは私の音楽の趣味からの起業なので、そもそもこのようなキャラクターのビジネスもする会社になるとは創業当時には思っていませんでした。インターネットを通して全世界と北海道から繋がるという点については当時から志していたところでしたが、そういった意味ではミクは大きな架け橋になってくれたように認識しています。そしてクリエイターを支えるサービスを展開できる後ろ盾にもなっているので、ミクのおかげで新たな技術やサービスに関わることができるところもあります。



-最後に、今後の初音ミクの展望についてそれぞれのお考えをお伺いできますでしょうか。

目黒:初音ミクとともに多くのクリエイターさんの作品を皆さまにお届けできる活動のお手伝いを、今後も様々な角度からできれば…というのはまず大前提としてありますが……素晴らしい作品たちも、聞いていただけるリスナーさんやミクたちのファンとして応援してくださっている方々、我々の展開やミクにまつわる周辺のムーブメントを楽しんでいただける方たちが一緒に居続けてくださるからこそ、この面白くも不思議な現象が続けられていると日々感じています。私自身もそうなのですが、自分ひとりでは何か素晴らしい作品や企画は生み出せなくても、クリエイターさんたち、作品を輝かせることのできる場所、そしてそれを応援して、何より楽しんでいただける方たちがいてこその現在だと思いますので、この先の未来もそんな素敵な夢が続いていくように、当社のメンバー一丸となって支えていくことができれば嬉しいです。

熊谷: 設定年齢と同じとなる誕生から16年を迎え、年明けからコンテストやイベントなど様々な企画を行ってまいりましたが、まだまだ通過点の1つと思っておりますので、この先20年30年と続くよう、皆さんの創作活動を応援する様々な活動をしっかり行なっていきたいなと考える次第です。

佐々木:今後もネットでは様々な流行があると思います。クリエイターさんたちの創りたい気持ちとネットで作品を発表していく流れ、リスナーの方々の音楽やクリエイティブを楽しみたい愛したいという気持ちに、ミクが寄り添っていけるよう、16年前の初心を忘れずに自分たちもクリエイティブ文化を楽しみたいと思います。

伊藤:毎日たくさんの新曲を歌い、毎日たくさんの姿をイラストや動画の形で魅せてくれる初音ミクですが、その背後には必ずクリエイターさんがいらっしゃって、自分のありったけの想いを作品に込めている。当事者として、初音ミクが生まれる前から、それ以降をずっと見てきたわけですが、「人の創造力はすごい!」と、いつもそう思ってきました。人は、何かを表現したり創ったりせずにはいられないし、そうして創った作品だから、人は感動するのだと思います。初音ミクは、創作活動するクリエイターの皆さんが自由に表現できるシンボルであり続けたいと思いますし、そうすることでまた初音ミクも生かされていくのだと思います。
当社は、クリエイターの皆さんと初音ミクとのこの共存関係を維持するべく、今後も活動を継続してゆきます。そのために必要な技術開発等にしっかりと取り組んでゆきながら、「メタクリエイター」の役割を今後も全うするだけです。

-みなさま、ありがとうございました!



クリプトン・フューチャー・メディアは今後もクリエイターの創作活動を応援し、活躍の場を広げる取り組みを行なってまいります。これからの初音ミクと当社を、みなさま引き続きどうぞよろしくお願い申し上げます。


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