MVVは「どう使われるか」が大事。MVV設計でカルチャーリーが“最初に決めた前提”とは
多くの企業がMission・Vision・Values(以下、MVV)を掲げています。採用ページやコーポレートサイトで、その会社の考え方や姿勢を伝える役割を担うものとして、当たり前の存在になりました。
一方で、その言葉が日々の意思決定や現場の行動とどうつながっているのかは、会社ごとに状況はさまざまです。MVVは掲げているものの、実際の判断の場面では、うまく参照されないままになってしまうケースも少なくありません。
カルチャーリー代表の金澤も、さまざまな企業のMVVに触れるなかで、「言葉はあるが、実際の判断や行動の軸として機能していない」「Valuesの解釈が固定されて、思考や行動の幅を狭めてしまっている」と感じる場面を見てきました。
そこで、カルチャーリーがMVVを定めるにあたり重視したのは、「どんな言葉を書くか」よりも、「その言葉が、どんな場面で、どう使われるか」という点です。
この記事では、カルチャーリーがMVVをどのような考えのもとで設計してきたのか。代表・金澤の問題意識や検討の過程を交えながらお伝えします。
自分たちを縛る言葉にしたくない。「避けたい使われ方」から始まったMVVづくり
カルチャーリーがMVVをつくるにあたって最初に定めたのは、「どんな言葉を掲げるか」ではなく「どんな使われ方だけは避けたいか」でした。
それは、金澤自身が現場で目の当たりにしてきた、Valuesが本来の役割から外れて使われてしまうことにあります。
- 「会社のValues的に違う」という言葉で議論が止まり、別の解釈や意見が出にくくなってしまう
- Valuesの意味や使い方が、立場の強い人や発言力のある人の解釈に引っ張られてしまう
本来は問いや軸であるはずのValuesが、「黙らせるカード」や「踏み絵」になってしまう怖さを何度も見てきた、と金澤は言います。
金澤が、カルチャーリーのMVVをつくる際に強く意識していたのは、まさにこの状況を生まないことでした。そこで私たちは、MVVを設計するうえでの基準を明確にしました。
- 将来の自分たちの判断を縛らないこと
- Valuesの解釈が、特定の誰かに寄りすぎないこと
言葉のインパクトや響きのよさよりも、実際の意思決定の場面でどう機能するか。対話を閉じるためではなく、対話を続けるための軸として使えるか。
その観点で、一つひとつの言葉を検討してきました。
カルチャーリーにとってMVVは、人を評価・選別するための物差しではありません。迷いが生じたときに、「自分たちはどこへ向かおうとしていたのか」を確かめ直すための拠りどころでありたいと考えています。
Mission|カルチャーではなく「居場所」をゴールにした理由
「誰もが、『自分の居場所』を見つけられる社会へ。」
私たちカルチャーリーは、「企業文化」を扱う会社です。しかし、Missionにはあえて「カルチャー」という言葉を入れていません。
この選択には、金澤の中で明確な理由がありました。
まず会社のMissionを考えたとき、「(自分らしく)働ける場所」と「自分でいられる場所」という言葉が浮かびました。しかし、この2つは似ているようで全く異なります。
「働ける場所」は、条件やスキルの面では問題なく働けるかもしれませんが、「ここにいる自分が好きか」と問われると言葉に詰まってしまうこともあるでしょう。そんな「働ける場所」には、“何か”が足りないのです。
そして、その“何か”を埋めるための手段がカルチャーです。つまり、カルチャーは目指すべきゴールではありません。だからこそ、Missionは「どんなカルチャーをつくるか」ではなく、「働く人の想いはどうなのか」に振り切ることを決めました。
こうした考えを重ねて、Missionは少しずつ絞られていきました。
「自分でいられる場所」という表現を使った案や、「働ける場所」との対比を強調した案。いくつか候補があがりましたが、声に出して読んだときのリズムや、「職場」が主語になりすぎて働く人の想いから少し遠くなる点など、少しでも違和感があれば修正し、丁寧に向き合い検討しました。
結果的に、「自分でいられる場所」という言葉に込めた意味や感覚を「自分の居場所」という表現にまとめ、「見つけられる」とすることで、自ら探しにいくという“行動”と出会いや巡り合わせといった“偶然性”の両方を含む表現に落とし込みました。
こうして最終的に選ばれたMissionが、「誰もが、“自分の居場所”を見つけられる社会へ。」という一文です。
カルチャーリーのMissionは、人を枠に当てはめたり、選別したりするためのものではありません。ここに身を置く人が、「ここなら自分でいられるかもしれない」と感じられる状態を、社会のなかに増やしていく。そのゴールを、このMissionに込めています。
Vision|カルチャーを「勝ち筋」に置く、という決断
「カルチャーを、企業の勝ち筋に。」
Missionで定めたのが「働く人の想い」だとしたら、Visionで向き合うのは「会社として、どう勝ち続けるか」。私たちのなかで、MissionとVisionは役割がはっきりとわかれています。
Missionは「人・居場所・安心感」、Visionは「企業・構造・戦略としてのカルチャー」です。
だからこそ、Visionは「カルチャーを、企業の勝ち筋に。」としました。
もちろん、その過程ではさまざまな案もでてきました。
- カルチャーを、組織最大の戦略資産に。
- カルチャーを、組織最大の武器に。
- カルチャーを、組織最大の価値に。
- 文化が戦略になる社会を。
どれも方向性としては間違っていませんが、カルチャーリーとしては、どこかしっくりこない感覚が残ったのです。
「最大の資産/武器/価値」はマウント感やパワーワード感が強すぎるうえに、「武器」は競争色が強く、カルチャーリーの世界観と少しズレてしまいます。また、「〜社会を」はコピーとしては美しいのですが、プロダクトとしての実行感が薄いと判断しました。
最終的に「勝ち筋」という言葉を選んだのは、「戦略の議論にも、現場の会話にも無理なく馴染むリアルな言葉だったこと」。そして、「カルチャーが“おまけ”ではなく、勝ち方そのものだ」と、自信をもって言い切れる表現だったことです。
Missionが「誰が安心して働けるか」を守り、Visionが「その組織はどう勝つのか」を示す。
こうすることで、カルチャーリーは「人の居場所」と「組織の勝ち方」の両方に向き合う会社として立ち上がりました。
Values|「行動プロセスそのもの」を言葉にした
MVVを考えるにあたり、Valuesづくりには、最も多くの時間とエネルギーを注ぎました。
とくに重視したのは、「どんな行動をすればいいか」ではなく「どんな行動が欠けたら、カルチャーリーは確実に失敗するか」を徹底的に考え抜くことです。
失敗につながる行動をすべて洗い出し、意味が被るものや抽象度が高すぎる表現を削ぎ落とし、「現場で本当に使えるか」という観点で何度も検証する。そして最後にそれらを行動の流れに沿って並べ替えました。
こうして最終的に残ったのが、次の7つです。
- 違和感を見過ごせない。
- 優しく、正しく、事実を伝える。
- 意図をもって、仕組みに落とす。
- 一瞬ではなく、その後をつくる。
- わかったつもりで、止まらない。
- 遠くへ行くなら、ともに行く。
- 人の尊厳を、データより先に。
そして、Valuesの並び順そのものが行動の順番になっており、一つひとつがつながってループするように設計されています。
「Valuesは、カルチャーリーがクライアントと一緒に回していきたい行動プロセスそのもの」と、金澤は語ります。
また、検討の過程では採用に至らなかった言葉もありました。
たとえば「曖昧さに抗う」という案です。方向性としては「違和感を見過ごせない。」と近いものの、「抗う」という言葉には、やや戦闘的なトーンが残ります。私たちが目指したのは、大きな声で主張する強さではなく、小さな違和感を静かに、誠実に言葉にする姿勢でした。
同様に、「文化は設計できる」「人間の解像度でつくる」といった表現も検討されましたが、抽象度が高く、すぐに行動に落とし込みにくいと判断。
最終的には「優しく、正しく、事実を伝える」「意図をもって、仕組みに落とす」といった、より行動に移しやすい表現へと着地しました。
「人の尊厳を、データより先に。」をValuesとしてあえて明示した理由
実は、7つ目のValue「人の尊厳を、データより先に。」が加わったのは、他の6つのValuesが固まった後の段階でした。最後に足りないピースとして浮かび上がってきたのが「倫理」だったのです。
カルチャーリーは、人と組織のカルチャーをデータとして扱い、スコアやラベルによる可視化や、AI・解析を前提とした価値提供を行う会社です。その構造上、「倫理」や「尊厳」を明示せずに進めることは、リスクになり得ると判断しました。
そこで生まれたのが、7つ目のValueです。
このValueは、他の6つとは少し性格が異なります。行動指針でありながら、それ以上に「憲法」に近い位置づけとして置かれています。
ここで定めているのは、「何をするか」だけではありません。「何をあえてしないか」「どこまで踏み込まないか」も含めた、判断の軸です。
- データはあくまで補助線であり、人そのものではない
- スコアやラベルを、その人への“判決”にしない
- どう分析しないか、どう表現しないかまで含めて設計する
こうした判断の基準を、あらかじめ明文化しておく必要がありました。
「カルチャーを数値化する会社が、そのプロセスでもっとも文化的に乱暴だった。そんな本末転倒だけは、避けなければならない。」
そういった金澤の意思を、Valuesのなかに組み込みました。
Valuesを“武器”にしないために、あらかじめ決めたこと
Valuesは、言葉として掲げるだけでなく、どう使われるかによって、その意味が大きく変わります。
そのため私たちは、Valuesを設計する段階から「どう使ってほしいか」だけでなく、「どう使わないか」までを含めて言語化することを意識しました。
ここで意識していたのは、Valuesが“武器”になってしまわないことです。あくまで考えるための軸であり、対話や判断を前に進めるための拠りどころであること。その前提を崩さないために、次のような線引きをしました。
- 「違和感がある」という言葉で議論を止めないこと
- 「仕組みにないから」という理由で、新しい発想を潰さないこと
- 「ともに行く」「協力する」といった言葉を、同調圧力のカードにしないこと
これらは、Valuesを守るためのルールというよりも、Valuesが人や意見を押し込めてしまわないための前提条件です。
「Valuesは、使い方次第で事業を前に進める力にもなるし、逆に、人のウェルビーイングを損なってしまう危うさもある」と、金澤も話します。
だからこそカルチャーリーでは、Valuesを人に向けて振りかざすものにはしない。行動や判断を支えるものとして使われる状態を前提にしています。
MVVを迷ったときに「立ち返る場所」に
振り返ってみると、MVVを定めていくプロセスそのものが、Valuesのひとつである「わかったつもりで、止まらない。」を実践する時間でした。
- 「これでいいかもしれない」と思ったあとに、一晩おいて読み返す。
- 言葉のリズムや長さ、実際に使われる場面、そして数年後の自分たちが感じるかもしれない違和感まで想像しながら、何度も検討する。
- 完璧を目指すのではなく、「いまの自分たちにとって、いちばん誠実なベスト」でとどめる。
私たちは、カルチャーを測り、言語化するサービスを提供する会社です。だからこそ、その作り手である自分たち自身が、自分の言葉を一度で決めつけず、立ち止まり、考え直すプロセスを踏めたことは、会社として大きな経験だと考えています。
カルチャーリーのMVVは、いわゆるスタートアップ的な「Move Fast」からは、少し距離があるかもしれません。しかし、それは成長を否定しているわけではなく、「人の居場所と尊厳を守りながら勝つための“OS”を、先に組んでおきたかった」と、金澤は言います。
- 売上や条件の面では魅力的でも、文化やスタンスの観点で立ち止まって考えたくなる案件に出会ったとき。
- 採用の場面で、能力や経験だけでなく、本当に一緒に仕事をする相手かどうかを慎重に見極めたいと感じたとき。
- プロダクトの機能追加において、その選択が誰かの尊厳を損なう可能性はないかと考えるとき。
そんな場面で、一度立ち返る場所として、このMVVを置いています。
また将来、カルチャーリーのメンバーになるかもしれない人が、このMVVを読んだときにどう感じてほしいか、金澤は次のように話しています。
「このMVVなら、自分も一緒に守りたい」と感じてもらえたら嬉しいですし、「ここは自分とは合わないかもしれない」と思ったとしても、それは正直で健全な判断だと思います。
どちらにしても、この言葉たちが、人を縛るルールではなく、居場所を選ぶための材料になってくれたら本望です。』
カルチャーリーとしては、このMVVを「つくって終わり」ではなく、「迷ったときに立ち返り、しっかりと使われるもの」にできるよう、これからの事業づくりで証明していきたいと思います。
(編集協力:金井みほ )