日本財団が行なった18歳の意識調査の国際比較では、「自分の人生には、目標や方向性がない」「自分のしていることに目的や意味がない」「将来の夢がない」「自分は他人から必要とされていない」と感じている18歳は、いずれも約40%を占めています。これは、多くの若者にとって、人生と社会には「生きる価値がない」ということです。多くの若い人たちがそんな絶望を胸に抱いているのは、現在の社会を作ってきた大人たち、作ったという認識がなければ容認してきた大人たち、容認した認識さえもなければ無知で無責任な大人たちの責任ですが、一方で、抗いたくても抗えないというのもまた大人たちにとっての真実です。
カール・ポランニーが指摘したように、現代の人間社会は市場経済システムに埋め込まれてしまっています。つまり、私たちが市場経済システムに依存しすぎているために、市場経済システムが社会システムそのものになっていて、市場経済システムを変更しようとすると、日々の生活の安定が脅かされてしまう。市場経済システムが社会システムそのもので、しかも、その市場経済システムを、それが「生きるに値しない社会そのもの」だとしても、人間は変更できない。これが現代社会の根源的な問題です。そして現代の資本制市場経済システムは、誰かが地面を指して「これは俺の土地だ」と宣言する暴力によって私有財産が生まれ、農民の共有耕作地を羊毛生産のために領主が囲い込んで農民を追い出し、追い出された大量の農民が都市で工場の賃労働者となり、賃労働者からの搾取によって蓄積された資本が植民地を求め、グローバルに展開した資本が金融制度の変更によって単なる数字として無限に増殖できるようになった、そういう長い歴史の蓄積として手が付けられないほどに巨大化したのです。
ただ、市場経済システムが物質的な安定と繁栄を地球全体にもたらしたことは紛れもない事実ですし、いまなお、市場経済システムほどに効率よく物質的な繁栄をもたらす経済システムはありませんから、市場経済システムを全否定したり、革命を標榜することはあり得ません。現代社会は、精神的にディストピアだとしても、物質的には充足しているユートピアです。また、革命的にどんなに素晴らしい変化だとしても、その変化が抗えない力によって急速にもたらされるのだとすれば、多くの人々は混乱し、対応できません。
私たちは、市場経済システムを全否定するのではなく、市場経済システムを補完する新しい経済システムを創造し、自らの意思で新しい経済システムに生活の重心・人生の重心を移動させていく必要があると、私は信じています。新しい経済システムは、市場経済システムが壊してきたコミュニティ、生態系、自然環境、労働の喜び、人間の精神といったものを回復できるものでなくてはなりません。ですから私は、穀物やエネルギーや住居といった生活に必須の商品の供給力を担保とした時間とともに減価する貨幣を、これまでにこども夢の商店街とおむすび通貨で築いた信用とネットワークとキャッシュフローをベースに生み出すことで、皆さんの意思で参加できる新しい経済システムを創造します。
この構想はあまりに壮大ですが、私はあえて、私と家族が暮らすこの標高400mの村から、私の家が建っている山の購入から始めました。自給的な暮らしの経験と、まだまだ強靭な私の手足と、私が住民としてこの中山間地で20年かけて築いた信用が、この壮大なプロジェクトを構想から実行へと移行させるのです。
私は世界初といわれた米本位制地域通貨を日本の各地で流通させました。最初の7年間はたった一人で何千件もの商店を訪問し、ときには詐欺師だと陰口を言われ、どこまでも垂直にそびえる高い壁をたった一人で登り続けるような感覚で、それでも諦めずにおむすび通貨とこども夢の商店街を続けていたら、コロナ禍が過ぎ去った頃に高い壁の頂上が少し見えた気がしました。今またこうして新しい事業を始めるにあたって、それを発信することを長い間躊躇していましたが、自分自身の決意を確認するためにもこのストーリーを書いています。
皆さんも応援してください。
できれば協力してください。
今できなくても、いつかしてください。
ー世界がぜんたい幸福にならないうちは個人の幸福はあり得ないー
農民芸術概論綱要 宮沢賢治