多種多様な個性やカルチャーが交差するFIKAで、日々生まれる「予期せぬ出会い」にスポットを当てるインタビュー連載。今回登場するのは、UNPLAN Village Hakubaの立ち上げに携わり、現在はFIKAの関連会社ヤマアイクルーの代表として、白馬を舞台に新たな体験づくりに挑む板谷良子さんです。
アルバイトとしてFIKAに加わり、その後正社員となり、白馬へ移住した板谷さんは、コロナ禍での手探りの施設運営や、地域を巻き込んだプロジェクトを経験しながら、少しずつ仕事のフィールドを広げてきました。
白馬という豊かな土地で、人と人が自然につながり、何度でも「おかえり」と迎え合える場所を目指す板谷さん。その歩みや仕事に込める思いなどについて伺いました。
「英語と接客、その両方を叶えられる場所がFIKAだった」──アルバイトからはじまったキャリア
ー板谷さんは、FIKAが運営するカフェ「Gather by UNPLAN神楽坂」でのアルバイトを経て、正社員になったそうですね。なぜFIKAで働きたいと考えたのでしょうか?
板谷:「Gather by UNPLAN神楽坂」で働く以前、オーストラリアでワーキングホリデーをしていたこともあり、英語を活かせる環境で働きたいと考えたのがきっかけです。また、大学時代に居酒屋でアルバイトをした経験から、接客の仕事にも魅力を感じていました。その二つを叶えられる場所を探している中で出会ったのが、FIKAだったんです。

実際にGather by UNPLAN神楽坂で働いてみると、雰囲気がすごく心地よくて。当時は別の飲食店でもアルバイトをしていましたが、お客さまとの関わりはその場かぎりになることがほとんどでした。
でもGather by UNPLAN神楽坂では、ホステルに宿泊中のゲストといろんな場面でコミュニケーションが取れるんです。「行ってらっしゃい」「おかえりなさい」と自然に声をかけられる場所はなかなかありません。そうした距離の近さがとても新鮮で、次第に腰を据えて働きたいと考えるようになっていきました。
ー正社員になったタイミングで「UNPLAN Village Hakuba」の立ち上げを任されることになったと聞いています。土地勘のない場所へ移り住むことに戸惑いや迷いはありませんでしたか?
板谷:もちろん不安はありました。でも、それ以上に知らない土地で暮らせるワクワクのほうが大きかったですね。

私は大学進学を機に上京したのですが、満員電車で通勤するような慌ただしい生活よりも、いつかは自然のある場所で暮らしたいという思いが漠然とあったんです。とはいえ、仕事もないまま地方へ飛び込む勇気はなくて。
だから「白馬をオープンするから行ってみない?」と声をかけてもらったときは、仕事と一緒に地方へ行けるのはラッキーだなと思いました。もし自分に合わなければ、そのときはまた引っ越せばいい。そのくらいの気持ちで飛び込みました。

ー白馬で暮らすようになって変化したことはありますか?
板谷:ストレスをため込んで、一気に発散することがなくなりました。東京にいた頃は、忙しくなると自然を求めて旅行へ行ったり、海へ行ったりしてリフレッシュしていました。でも白馬では、少し外へ出るだけで山が目に入ります。その景色を見るだけで気持ちが切り替わるんです。日常の中で自然に癒やされるようになったのは大きな変化だと思います。
「コロナ禍でできることをやり切ろう」──白馬の魅力を、ゲストと一緒に見つけた日々
ー白馬に着任してから、特に印象に残っている仕事や忘れられない出来事はありますか?
板谷:やはりコロナ禍ですね。UNPLAN Village Hakubaは2019年12月末にオープンし、翌年2月頃にはようやくオペレーションも落ち着いて、お客様も増えはじめて「これからだ」というタイミングでした。
ところが、コロナ禍がはじまり、自粛の影響でスタッフも東京へ戻ることになりました。それまでの賑わいが嘘のように静かになってしまい、今でもあの光景は忘れられません。
ー宿泊業は特に大きな影響を受けましたよね。
板谷:本当に。しばらくはマネージャーと二人で、「今できることをやり切ろう」と話しながら、一つひとつ新しい取り組みを考えていました。
まず取り組んだのが、自家製グラノーラの商品開発です。オンラインでも届けられる商品をつくろうと、シェフと一緒にレシピやパッケージを考え、ふるさと納税の返礼品として販売しました。
次に長期滞在プランの実施です。当時は海外旅行が難しい一方で、自然の中で過ごしたいというニーズが高まっていました。そこで長期滞在サービスを提供する会社と連携し、学生やフリーランスの方に白馬へ滞在していただく施策を実施したんです。その取り組みには多くの方が参加してくださり、施設にも少しずつ賑わいが戻ってきました。そのときに来てくださった方の中には、今でも定期的に白馬へ遊びに来てくださる方もたくさんいます。
ーコロナ禍を生き抜くために共有していたことはありましたか?
板谷:スローガンのようなものがあったわけではないのですが、「自分たちも白馬のことを知らないんだから、まずはゲストと一緒に楽しんでみよう」という話はよくしていました。業務の合間にアクティビティへ参加させてもらったり、仕事が終わったあとに一緒に食事へ行ったり。仕事とプライベートをあまり分けず、自分たちも白馬を楽しむようにしたんです。
その中で「こんなに魅力のある場所なんだ」とあらためて気づかされることがたくさんありました。振り返ると、あの時期に試行錯誤を重ねた経験が、その後の施設づくりにもつながっていると感じています。
「クルーが輝ける場所をつくりたい」──代表になって広がった視点
ー板谷さんは現在、FIKAの関連会社である「ヤマアイクルー」の代表を務められていますよね。どのような経緯で就任することになったのでしょうか?
板谷:最初のきっかけは、コロナ禍で「地域へもっと還元できる事業をやっていこう」という思いから、白馬にFIKAとは別の法人を立ち上げたことでした。その後、事業が広がっていく中で会社としての方向性をより明確にしていくことになり、2年ほど前に「ヤマアイクルー」へ社名を変更し、同時に代表を引き受けることになりました。
ー代表になったことで、自身の中で変化はありましたか?
板谷:地域の方から「ヤマアイクルーの板谷さんですよね」と声をかけていただく機会が増えたことで、「なぜ白馬でこの事業をやるのか」「どんな地域を目指したいのか」を自分の言葉で伝える場面が多くなったんですね。それに伴って会社や地域全体を見ながら考えるようになりました。
ー現在はどのような業務が中心なのでしょうか?
板谷:現在は、新しい拠点や空間をつくれそうな場所を探したり、スキー場や地域の事業者の方々へ「一緒にこんなことをやりませんか」と提案したりしています。

ーもともと志望していた接客から経営へと役割が変わる中で、やりがいにも変化はありましたか?
板谷:最初は現場を離れることにジレンマがありました。自分が直接ゲストを喜ばせられなくなることが、少し寂しかったんです。でも、クルーがお客さまと楽しそうに話していたり、喜んでいただいたりしている姿に触れるうちに、「自分は、その光景を見ているだけでもうれしいんだ」と気づきました。
今は、自分がゲストと直接関わる機会はほとんどありませんが、ゲストとクルー、あるいはクルー同士の間に自然と新しい出会いが生まれている空間をつくれていること自体が、いちばんのやりがいになっています。
「白馬をまた帰ってきたくなる場所に」──1年を通して愛される地域を目指して
ーこれからFIKAでどんなことに挑戦していきたいですか?
板谷:これまでは、決まった施策を形にして売り上げにつなげる役割が中心でした。でもこれからは、「白馬での滞在をどう楽しんでもらうか」をもっと主体的に考えていきたいです。
その根底にあるのは、「また帰ってきたくなる場所をつくりたい」という思いです。私は「おかえりなさい」と言える瞬間がすごく好きなんですね。だから、旅の間はもちろん、旅が終わった後も「また来たよ」と気軽に立ち寄ってもらえる場所を増やしていきたくて。
それに、白馬というとウィンターシーズンのイメージが強いですが、実際は季節ごとにまったく違う景色や魅力があります。冬だけでなく、1年を通して訪れたい場所にしていくためにも、地域の事業者のみなさんと連携しながら、新しい体験や滞在の楽しみ方を提案していきたいです。

ーちなみに、板谷さんが「おかえりなさい」という瞬間を大切にされているのは、どうしてなんですか?
板谷:FIKAに入社して最初に教わったのが、「ゲストが戻ってきたら『おかえりなさい』と言おう」ということだったんです。
もしかしたら、海外からのお客さまには言葉の意味まで伝わらないかもしれません。でも、「戻ってきてくれてうれしい」という気持ちは伝わると思います。それに「おかえりなさい」という一言をきっかけに自然に会話がはじまって、その日の出来事を楽しそうに話してくださることもあるんですね。そんな会話のきっかけになるこの言葉がすごく好きなんです。

ー板谷さんの温かい思いが、言葉の端々から伝わってきました。最後に、これからどんな予期せぬ出会いをしていきたいか教えてください。
板谷:アルバイトとして働きはじめた頃は、今の自分の姿をまったく想像していませんでした。でも振り返ると、ここまで来られたのは、小さな出会いの積み重ねがあったからだと思います。
「この人たちと一緒に働きたい」と思える仲間に出会えたことや、「また来てくれるゲストのために頑張ろう」と思える関係を築けたこと。その一つひとつが、今の自分につながっています。だからこそ、これからも目の前の出会いを大切にしていきたいです。
そして、一緒に働くクルーたちにも、思いがけず自分の未来を広げてくれるような出会いをたくさん経験してほしくて。そのきっかけとなる場所をもっと増やしていけたらと考えています。
(文:村上広大/編集:藤村侑加)
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