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「これより、救出作戦を開始する!」

--- この物語は6割方フィクションです ---

僕は、2年来の友人のヤブモトさんに誘われ、
ちょうど転職活動中だった僕は「株式会社ジオロジック」に入社することにした。
今日は初出勤日だ。

僕の胸中は希望で満ち溢れていた。
ただ一つ心配だったのが、10日ほど前からヤブモトさんと連絡が取れなくなっているという点。
まあ、オフィスに行けばいるだろうと思っていたので、楽観視をしていた。

ビルに入り、エレベータに乗る。
「3」の数字を押して、3階についた。

初出勤。
はじめてのオフィス。
そこではどんな出会いが待っているのだろうか。

ドアをあける。
「こんにちは。今日からお世話になるかろてんです」

そのオフィスにはエンジニアが3人いた。

なぜか、うつむきがちにコーディングをしていた。
誰一人として声を上げない。響いているのは、パチパチとキーボードを叩く音。
控えめに言って、お通夜みたいだった。

そのうちの1人がこちらを向く。

「ああ、、、かろてんさんですか。。。。」
「話は聞いております。。。」

そのガタイの良い男はスズキ、と名乗った。
僕は背があまり高くないので、スズキと話すときは基本的には見上げる形になる。
胸板がアツい。背筋を伸ばしたらさぞかし体格に圧倒されるだろうとおもう。
でも、今の彼は猫背だ。心なしか小さく見える。

奥にエンジニアがもう二人いた。

一人は肩下まで届く長い髪をしていて、黄色いTシャツをきていた。
彼は顔をこちらに向けないまま、名乗った。ナカニシというらしい。
長い髪に隠れて手元が見えない。ただ、キーボードを叩く音だけは聞こえている。

もう一人はヤマグチというらしい。頭を抱え、ぶつぶつ独り言を言っていた。
「位置情報…緯度経度…ジオハッシュ…」
画面には無数の文字と抽出されたレコードが並んでいる。
進捗は芳しくないようだ。

総じて、お通夜みたいだった。

これはヤブモトさんから聞いていた話と違う。
「キャラが濃くて優しく、ノリの良いメンバーばかりだよ」
「驚くほど仲がいいよ」
そう聞いていたのに。なんだろう、この覇気の無さは。

「あの。。。何か、あったのですか?」
僕はスズキにそう訪ねた。

「実は、、、リーダーのヤブモトさんが、10日前から帰ってこないのです」
「え…!?いったい、どういうことですか?」

話によると、10日ほど前、帰り際にヤブモトさんはこう言ったそうだ。
「奥穂高が、俺を呼んでる」 ※奥穂高...日本で三番目に高い山。3190m
そういって、それ以降、連絡が全く取れなくなったそうだ。
しかし、毎日12:00、一瞬電波が通じる時がある。
スズキさんによると、
「奥穂高の山頂にいるのだと思う。そこなら電波が通じるらしいから」とのことだった。
※ 山は基本的に電波が通じないが、山頂だけは通じることがある

ヤブモトさんは山好きで、よく山登りをしている。
今回は何かに取り憑かれて、山から戻れなくなったということなのだろうか?
毎日決まった時間に山頂に登り続けるなんて、かなり狂っている。

「それ以来、オフィスはこんな感じです」
「早く戻ってきてほしいのですが、、LINEやSlackだと連絡が取れなくて」
「どうやったら連絡がとれるのか…」
彼は、一体何に取り憑かれてしまったのだろうか。

僕はどうしたら良いのかわからなくなった。
初出勤で、僕を呼んでくれた友人がいない。
「位置情報広告」という、こんなにも面白い現場に来れたのに。
こんなのって、、、悲しすぎる。

…位置情報広告?

「ちょっといいですか」
僕はスズキに声をかけた。

「位置情報広告って、位置情報をもとに広告を表示できるんですよね?」
「できますよ。スマホなどから位置情報を集めてきて『ある地点から半径1km以内』とかに広告を表示できますよ」
「ほんとですか!?あ、でもリアルタイムに『今、この地点から500m以内にいる人に広告を配信』とかってできるんですか?」
「できますね。去年ヤブモトさんが作ってくれました」
「すごい!それなら…」

「もし、もしですよ、」
僕は息を吸った。そして言った。
「奥穂高の山頂から、100m以内にいる人に、広告を出せたならどうでしょう」
「彼は山頂で山アプリを必ず開きます」
「そのアプリの広告枠に、僕たちのメッセージが入っている広告をねじ込むことができれば」
スズキは目を見開いた。
「ヤブモトさんが戻ってくる、かもしれない…!」

気づくと、この会話をエンジニア全員が聞いていた。
先程まで弱々しかった皆の目に、光が戻ってきている。

「これに、かけてみるしかない…!」

エンジニア全員が一斉にMacの方を向いた。
そしてスズキが言った。

「これより、ヤブモトさん救出作戦を開始する!!」

瞬間。
キーボードを叩く音がオフィス全体を包み込み始めた。

速い。

速すぎて、まるで部屋中に五月雨が降っているように聞こえる。

ヤマグチがブラウザでMapを開く。
奥穂高岳をMapに移し、半径100mの円を一瞬で描く。
「今回のターゲットを完全に特定した」ニヤリと笑う。
プロフェッショナルだ。

スズキはpythonを書いていた。
真っ黒な画面に、無機質なコードがどんどん積み上げられていく。
バックライトに照りかえされるスズキの顔。
画面から目を離さずこう言った。
「enterキーは上腕二頭筋。tabキーは三角筋で押すのがコツさ」
これも間違いない。プロだ。

今度はナカニシが背筋を伸ばした。
その時、五月雨のような音が響くオフィスに、ある楽器の音が鳴り響き始めた。
彼の手元にはキーボード。それは長方形の白と、細長い黒が並んでいた。
つまり鍵盤であり、シンセサイザーであり、それがMacにつながっているのであった。
画面にはJavaScriptのコード。鍵盤を打鍵するたびに、コードが音楽のように構築されていく。
そのとき彼が着ているTシャツがちらっと見えた。「JS」と書いてある。
彼は呟いた。
「世界は、JavaScriptで記述されている」
何を言っているのか分からない。これはもう間違いない。プロだ。

楽器の音に呼応して、スズキのキーボードがリズムを刻み始める。
tabとenterキーで力強いリズムを刻んでいく。
tabで一定のリズム。enterキーはアクセントだ。
ナカニシがそれに答える。また新しい音楽が生まれる。

信じられない。

コードを書きながらセッションをしている。
部屋全体が音楽に包まれる。
僕のかかとは自然と上下し、リズムを刻み始めた。
前奏からAメロ、Bメロ、、、音楽理論にもとづいて、
正確無比に音楽が展開される。たった今サビに入った。
ついにヤマグチが歌いだした。

僕はヤブモトさんのある言葉を思い出していた。
「キャラが濃くて優しく、ノリの良いメンバーばかりだよ」

ノリ。

ヤブモトさんが言っていたのは、雰囲気のノリじゃなくて、音楽のノリ。
これだったのか。

セッションが佳境を迎えはじめる。
ものすごい勢いで連打されるtabキーとenterキー。
白と黒の鍵盤を這う手は速すぎて残像すら見えない。
ヤマグチの歌はもうハイトーンシャウトが混じり始めていた。

後少し。

後少しで山頂に、
ヤブモトさんに、
僕らからのメッセージが届く。

「ヤブモトさん登頂まであと10秒です!」スズキは叫んだ。
「入稿準備できました!」ナカニシが応えた。

9, 8, 7,
ヤマグチ「あとは任せとけ!」

6, 5, 4,
スズキ「この一瞬に、かける!」

3, 2, 1,
全員「いけーーーーーー!!」

0...

ヤマグチ「入稿、Done」

戦いが、終わった。



---- あれから二週間がたった。

お通夜だったオフィスは見る影もない。

オフィスには活気が満ちていた。
僕らの決死の入稿作業は実を結び、無事ヤブモトさんは帰ってきた。

僕は今日も、楽しく仕事をしている。

※ 実際にヤブモトさんが奥穂高に登った時の画像 。TシャツのロゴはScala。



株式会社ジオロジックのエンジニアたちは、キャラが濃くて優しく、ノリの良いメンバーばかりです。

3000m超えの山に登りまくるエンジニア、
音楽理論のプロ、
筋トレの鬼、
作家

などが在籍しています。
このように弊社では、エンジニアの多様性を大切にしています。

もちろんキャラが濃いだけではありません。

GISのスペシャリスト、
Scalaのスペシャリスト、
JavaScriptのスペシャリストなど、

それぞれの分野にプライドを持っているスペシャリストたちばかりで、
僕も毎日、大変刺激を受けています。

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