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『決断力はすべてを制さない』

グラフィコ直販部の仕事を知りたい。そして、その部の長の熊澤さんの人となりや考え方を知りたいと思ってはじめた対談も4回目になりました。最初は、直販部の仕事と、熊澤さんの人となりを紹介し、2回目以降は熊澤さんの仕事に対する向き合い方を記事にしてきました。今回は第2、3回目に続く内容になります。今回のテーマは「決断」です。

過去の選択か、未来の選択か

―今回は、新しい一歩を踏み出すために、踏み出すことを「決める」プロセスについて聞きたいと思います。判断して、決められないと、踏み出せないですよね。

(熊澤)
前回、「判断について話をする」と言ったんですけど、あらためて自分なりに勉強したりして、「判断」と「決断」は決定的に違うことであると認識しまして。

―ほう。

(熊澤)
「判断」と「決断」。どちらも何かを選択するという意味では共通しているんですが、ふたつの言葉の違いについて勉強したうえで、自分なりにあらためて定義づけてみました。それは、「判断は過去の選択、決断は未来の選択」ってことなんです。

―「判断」と「決断」は別物だということですね。

(熊澤)
ええ。まず「判断」はこれまでのデータや経験、知識などを並べて、その中から選んだり組み合わせたりして、よりベターな選択をすること。

―過去の情報を選ぶ、と。

(熊澤)
そうです。で、「決断」は、これから先どうするかを選択すること。やるのかやらないのか、右に行くか左に行くか、AにするかBにするか。

―たしかに未来のことですね。

(熊澤)
だから、「ある判断をもとにして、決断が行われる」というプロセスだと思います。たとえば値段が安いことを基準にお店を選ぶ場合、A店とB店のどちらが安いかという判断がまずある。過去の経験でA店のほうが安い回数が多かった。だから安い確率が高いのはA店だろう、と判断する。さらに、ひょっとしたらB店がセールをやっているかもしれないが、たぶんこの時期ではないだろうという判断も加わったりする。二つの判断を並べ、総合的な結論としてA店に行くことを決断し、実際にA店に行く。

―なるほど。

判断力があっても決断力がない場合とは?

(熊澤)
ですので、判断力はあっても決断力がイマイチ…というパターンもあるし、その逆もあると考えています。

―たとえば?

(熊澤)
ここに2種類の崖があるとします。Aの崖は下が深い池になっています。Bの崖は下が固い地面です。この先へ進むためには、どちらかの崖を飛び下りないといけない。崖の下は見えない、という状況におかれているとしましょう。

―はい。

(熊澤)
決断力はあるけど、判断力がイマイチという人の場合、何も検討せず、ためらわず飛び込んでしまいます。

―もしBの崖を選んでしまったら…。

(熊澤)
想像したくないですよね(笑)。逆に、判断力はあるけど決断力がない人は、他の人が飛び込む様子を観察して、「Aの崖の下はどうやら水なのではないか」と推測し、飛び込むならAの崖だと判断します。しかし、どうしてもBの崖の下が水であるである小さな小さな可能性を否定できず、Aの崖の下が水だと100%証明できるまでは決断できない。結果として足が一歩も動かない。どっちだと思う?と質問するとAと答えられるのに、Aの崖に飛び込むことは永遠とできない。

―判断はしても決断ができない。他人からすると「で、どうする?」と思わず突っ込みたくなる状況ですね。

(熊澤)
そうですね。それで今回は、この2つの言葉のうち、僕が重要だと思っている「決断」について話をしていきたいと思います。

「決断」に必要な三大要素

(熊澤)
僕は決断する際、三つの要素が重要だと思っています。それは、①「体力(エネルギー)」、②「時間」、③「軸」です。

―へえ~、体力ですか。

(熊澤)
体力、重要だと思うんですよ。物事を決めるときは体力を使うんです。ある調査によると、人は一日で9000回の決断をするそうです。

―そんなにですか。たしかに朝起きて何を着ていこうとか、今晩どのテレビを見ようかなどを考えると、それくらいの数になるのかもしれないですね。

(熊澤)
ここで重要なのは、体力は有限だということです。人間、疲れると体力がなくなって決められなくなっちゃうんですね。いや、決められなくなるというより、どうでもよくなる感じなのかな。たとえば山に登って、疲弊した人は、決断を人にあずけるようになる。どっちの道にするか、どこで休憩するか、ルートをどうするか、自分で決められなくなり、人に決めてほしくなってしまう。どっちでもいいから決めてくれ、と。

―わかる気がします。

(熊澤)
仕事で考えると、会議が延々と長引いた場合、参加者が体力を消耗します。結果的に最後はいい加減な形で終わってしまうことがある。その日に決めなきゃいけないのに「じゃあこの件についてはあらためて…」と先送りするとかか、冷静な人が聞いたら「何でそっちに決まったの?」と驚くような結論になっちゃうとか。あれも完全に体力切れってパターンがありますよね。

―自分が何かを決断するときに、体力の有無をしっかり把握したほうがいい。そういうことですね。

(熊澤)
もちろんです。なので、とにかく「決断には体力が必要である」と自覚することが大事だと思います。コンディションがよくないと、ね。体力を浪費しないように、決断の回数を減らす工夫をしている人もいます。スティーブ・ジョブスやマーク・ザッカーバーグがいつも同じような服を着ているのも、いちいち着る服を決めることで生じる決断コストをなくすためという話です。あとは、食事、通勤ルートなどをある程度ルーティーン化することで、決断の回数を意識的に減らしている人もいますよね。

―なるほど。

(熊澤)
ちなみに、外ではバリバリ働いている人が、家のことになるとまったく決められない、というのもよく聞きますよね。ひょっとしたらそれは、家のことに興味がないのではなく、仕事で決断にかける体力を使い切ってしまっているからかもしれませんね。べつに家のことに非協力的な人をフォローしているわけではありませんが…。

―これを言い訳につかってはいけないですね(笑)。

時間をかければ究極の選択になる

(熊澤)
続いて、②「時間」が重要だと思います。すごく重要。決断に要する時間は可能な限り早い方がいい。それは長い時間をかけると体力が消耗してしまうのもありますが、それだけではありません。

―体力がなくなってしまうこと以外にも重要、と。

(熊澤)
たとえば、飛行機などのチケットに「早割」ってありますよね。早い時期に購入するとそれだけ安く買えるというチケット。

―ありますね。

(熊澤)
旅行を計画して、チケットを購入することになった。早割の金額もわかり、席もある。ですが、人の心理として、他にも格安チケットがあるんじゃないかとか、もっと安く行ける航空会社があるんじゃないかとか、もっとお得なプランがあるんじゃないかとか、ちゃんと比較しなきゃと思って探し始めたりします。

―まさしく私ですね。

(熊澤)
それでどんどん迷って決めないでいるうちに、早割チケットがなくなってしまうことがある。

―まさに私はその経験があります。

(熊澤)
そして、そのためにもっと残念なことが起こるんです。決断を遅らせた結果、選択の範囲が狭くなってしまい、より難しい決断をしなければいけなくなる。もうAとBしか残っていない、どちらも定価より高い、どうしよう…それなら今回は中止にするか? とか。

―早く決断していれば、旅行のプランを練ったり、準備したりするところに時間がかけられるのに…。

(熊澤)
そうなんです。同じことに必要以上に時間を使って、大事なところにかける時間を奪うことになるわけです。そして、決断が遅くなればなるほど、選択肢が狭まり、条件も悪くなる。子どものころ、友達とよくやった「究極の選択」状態になりやすい。「幽霊だらけの家がいいか、ゴキブリだらけの家がいいか」のような。

―あ、それやりました。

(熊澤)
流行りましたよね(笑)。さすがにそこまでの究極の選択はないにしても、イメージとしてはそんな感じです。きっと決断を先延ばしにしてしまうのは機会損失を恐れているんでしょうけれど、よほど誤った決断でなければ実際はたいした損失にはならないはずです。

―実感としてわかります。

(熊澤)
仕事でも同じことが言えると思います。決断を先延ばしにした結果、窮地に追い込まれた経験をした人って、意外といるんじゃないでしょうか。

―早いうちに上司に相談する事を決断していれば、大ごとにならなかったのに、その決断を先延ばしした結果、上司ともども社長説明をしなければいけなくなったとか…。

(熊澤)
そう、決断は早い段階でしたほうがいい。そのほうが決断するのも簡単なんですよ。事態がまだ小さいし、失敗してもやり直しがきくし。

―なるほど。

(熊澤)
決断が早い人っていますよね。もちろんその人の頭の回転というのもあるかとは思いますが、それよりも、決断しなければいけない物事に対して、早いポイント、いわゆる簡単に決断できる状態のときに決断しているのではないかと思います。パパっと必要な判断材料をそろえて選択した上でね。

―そうでしょうね。

(熊澤)
アメリカのCEOを対象にした調査があって、CEOは50%の選択を平均9分以内に下していて、1時間以上かけて下す決断はたった12%だそうです。難しい選択は誰だって難しいから、難しくなる前に決断しちゃったほうがいい。また、早く決断できる人はきっと決断することより、その後の実行することに重きを置いていると思います。

―未来を選択して、それを実行しないと決断したことにはなりませんからね。

(熊澤)
「決断」という言葉の響きが重く感じますが、意外と「決断」自体はそれほど重いことではないと思います。そう考えたほうが気持ちも楽になりますし。その後の実行の方がはるかに重要。

―なるほど。

(熊澤)
ちょっと違う意味で時間と体力の関係について言うと、大きな決断は、一日の早い時間にしたほうがいいと思います。体力がたっぷりある、くりかえしになりますが体力はとても重要なこと。

―はい。

(熊澤)
そして、たとえば重要な会議を遅い時間に設定すると、一日ずっとそのことについて気を揉まなきゃいけなくなって、それだけで体力をかなり浪費します。会議が始まったころには体力が残っていないとなれば最悪です。だから重要なことを決めるときは、例えば午前中とか早い時間のほうがいいと思います。体力も満タンな状態ですから。

―体力があるうちに物事を決めたほうがいいということですね。

「決断」自体に意味はない?

(熊澤)
最後に、③「軸」。決断する軸ですね。これってシンプルなことで、何を大切にしているのかが明確であれば、軸があるということになり、決断も容易なると思います。大切なことってそんなにコロコロ変わらないですから。

―「あの人はコロコロ変わるからわからない」っていうのは“職場あるある”じゃないですか。

(熊澤)
そうですね。もちろん決断しなければいけないことをさまざまな角度からみると、なかなか決断し難いこともでてきます。上の立場になればなるほど、考えなければいけない要素は増えるのは当然です。でも、軸がぶれるというのは、きっと大切にしていることがあまり意識できていないか、本当に大切だと思っていないんじゃないかと思います。

―ちなみに熊澤さんはいま何が大切だと意識されているのでしょうか。

(熊澤)
現在のわれわれのフェーズでいうと、生々しい話ですが、目先の売上よりも、次の事業の柱をつくるっていうことを大切にしています。仮に直近で売上が多少低迷しても、次の事業の柱になりそうだと判断できることがあれば、迷わずそちらに時間を使うことを決断します。あくまで現在のフェーズでは、その方が事業として強くなると思っているので。

―ほかに何か熊澤さんにとっての軸ってあるのでしょうか。

(熊澤)
自分が楽しいかどうかですね。

―自分が楽しいことを知ることは重要ですね。熊澤さんは何が楽しいですか。

(熊澤)
僕は自分にいま足りていないことを知り、それを埋めることが楽しいですね。埋めるために、学んだり、自分に投資している状態が楽しいなって感じます。小さいころ手品をして、人を驚かせたり喜ばせたりしたいって思ったんですよ。でも、手品ができないから、いろいろ本を買ったり、ビデオを観たりして簡単な手品を覚えました。最後には手品の専門店を見つけ出したりもしました。東京駅八重洲口のロータリーの向かいの立派なビルに、小さな手品専門店があって。今でもあるのかな。

―インターネットがない時代に必死で情報を探されたんですね。

(熊澤)
手品が好きだというより、手品を知っていく、できるようになっていく過程が楽しかった。その感覚はいまでもあります。

―決断することに対して、他に何か意識していることはありますか。

(熊澤)
参考になるかわかりませんが、僕は何かを決断する時、最終的に2択にするようにしています。2択にして、どっちが楽しいか、あるいは、どっちが成長するかという理由で選ぶ。

―AかBにする、と。

(熊澤)
正直な話、未来のことって誰にもわからないんですよね。結果論として後でいろいろ言えますが、どうなるかなんて決断するタイミングの時は誰もわからない。そうであるなら、「どちらを選択するか」を悩むよりも、決断した後どうするかが重要なんです。そうすると、どちらを選択してもそんなに変わらないと思えたりもしてきます。選んだ方で全力を尽くせばいいやと。決断自体の重要性が低下するんです。

―そうですか。

(熊澤)
たとえばプロポーズをされて、それを受けるかどうか、決断しなければならなかったとします。とても大きな決断で不安もよぎります。ですが、要は「自分が幸せに生きていきたい」わけなので、どちらを選択しても幸せにならなかったらダメなわけです。「どちらを選択してもそんなに変わらない」と言ったのは、選択したその先が大事だと思っているからです。

―なるほど。ちょっと肩の力が抜けますね。

(熊澤)
そうですね。それでも、「決める」ってどうしても力んでしまいがちですね。力むからこそ逆に「決められない」というジレンマもでてきたりします。なぜなのか。決断には「責任」というものがついてくるからだと思います。

―おお、責任ですか。

(熊澤)
はい。「責任」についてもいろいろと思うところがあるので、次回またお話しましょう。

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