今回は、一休のデザインを牽引するチーフデザイナー、河村さんに話を伺いました。
「好き」から始まったデザインキャリアの道のり
インタビュアー:本日はありがとうございます。さっそくですが、河村さんのキャリアのスタートが、Webデザインとは全く違う分野だったと伺って驚きました。
河村さん:こちらこそありがとうございます。最初はインポート子供服の卸小売会社で、帝国ホテル店に配属され、高級子供服を富裕層のお客様に販売していました。
インタビュアー:異業種から、デザインのキャリアに入られたのは意外です。
河村さん:はい。帝国ホテルでの経験の後、設計事務所や飲食店の広報も経験しました。いずれも「伝える」ことや「見せ方」を追求する仕事でしたね。その後、結婚・出産を経て、熱心なユーザーだった大好きな一休で働きたいと、未経験から画像加工のアルバイトとしてジョインしました。
インタビュアー:未経験からのスタートだったとのことですが、具体的にはどのような業務から始まったのですか?
河村さん:最初は、宿泊施設の写真の切り抜きや画像加工が主な業務でした。地道な作業ですが、誰にも負けないよう、とにかくスピードとクオリティの両立を徹底しました。一枚の写真にも宿の魅力や空気感が宿ると思っていたので、「どう切り取れば“上質さ”が伝わるか」を常に考えていました。
インタビュアー:そのこだわりが認められ、徐々に業務の幅が広がっていったのですね。
河村さん:はい。写真加工から、バナーやLPのデザインも任せてもらえるようになり、少しずつデザイナーとしてのキャリアを築いていきました。
「上質さ」の原点。贅沢さを感じさせる“静かな豊かさ”
インタビュアー:過去のご経験が、今の一休のデザインにも繋がる「上質さの原点」になっていると伺いました。特に活かされていることはどんなことですか?
河村さん:アパレルや広報の経験を通じて、単に情報を並べるのではなく、「空気ごと届ける」という美学が身につきました。「どう見せるか」「どう感じてもらうか」という視点は、後のWebデザインにも共通する大切な原点になっています。
インタビュアー:なるほど。見せ方だけでなく、どう感じてもらうかという視点は面白いですね。UIデザインを担当されるようになってからは、「余白」や「引き算」について、どのようなこだわりを持って取り組まれていますか?
河村さん:一休のデザインで大切にしているのは、"上質さ"を見た目だけでなく、体験として感じてもらうことです。宿を選ぶ時間は、ユーザーにとってー特別な時間の入口ーですから。
インタビュアー:特別な時間の入口ですか。
河村さん:はい。だからこそ、できるだけ「詰め込みすぎないこと」を意識しています。
情報をそぎ落とし、余白に呼吸を持たせることで、画像の美しさが際立つ。
一見シンプルでも、その中に“静かな豊かさ”が息づく。
そんなデザインこそ、一休らしい「上質さ」だと思っています。
河村さん:はい。以前の一休のデザインは、各デザイナーの感覚やセンスに委ねられている部分が大きかったため、チームで議論を重ね、そうした感覚的だったデザインを「上質な体験に没頭できるデザイン」として言語化しました。
インタビュアー:具体的なキーワードがあれば教えていただけますか?
河村さん:その根底にあるキーワードとして、"粋" "クリア" "信頼感" の3つを掲げています。このガイドラインを軸に、プロジェクトごとにブレることなく、一貫した世界観を保ちながらデザインを磨き続けています。
多職種連携で守り抜く「上質な体験」— デザインとビジネスのせめぎ合い
インタビュアー:デザインを形にする過程では、マーケティングディレクターやエンジニアとの協業が不可欠ですよね。多職種連携の中では、意見がぶつかることもあるのではないでしょうか?
河村さん:はい、調整も含めてデザイナーの仕事だと思っています。開発の効率化とデザイン品質の間で意見がぶつかることは良くあります。日々の改善はマーケティングディレクターと二人三脚で進め、その後の実装フェーズではエンジニアとディスカッションを繰り返します。
インタビュアー:例えばどのようなケースがありますか?
河村さん:一つはUIの差分に関する議論です。エンジニアからは「PCとSP(スマートフォン)でUI差分をなくしたい」という意見が出ますが、一休のお客様が体験するシーンはデバイスごとに違います。PCではじっくり比較検討しますが、SPでは移動中にサッと探すことが多い。その文脈の違いを無視してはいけない。「開発・運用のしやすさ」と「上質な体験を守ること」の両立を目指し、ー本当に必要な差分ーを見極める議論を重ねています。
インタビュアー:なるほど。両立が重要な意思決定のポイントになるのですね。写真の枚数表示をなくしたという「引き算」のエピソードもありましたよね。
河村さん:はい。運用側から写真の枚数表示を求められていましたが、画像を最大限きれいに見せたいので、画像の上に情報を乗せたくありませんでした。そこで、スワイプした時に一瞬だけ枚数カウンターが現れてすぐに消えるというデザインに改善しました。運用上の都合ではなく、ユーザー体験を優先し、余白を守り抜きました。
Before:写真枚数の表示あり ⇒ After:枚数表示をスワイプ時のみに修正
デザインを超えて、未来を創る挑戦とCTOとのビジョン
インタビュアー:常にサイトの改善を続ける中で、課題に感じていることはありますか?
河村さん:プロダクトは改善を止めた瞬間から、少しずつ古くなっていくものだと感じています。トップページ、検索ページ、施設ページと、予約までの体験はここ数年大きな変化がありません。
今一度、ユーザーが没頭できるような体験をどう提供できるかを、日々考え続けています。
インタビュアー:未来に向けたチャレンジとして、「AIネイティブなプロダクト」になることを目指していると伺いました。具体的にどのようなビジョンを描いていますか?
河村さん:CTOの伊藤直也さんとも議論していますが、今後はユーザーの宿の探し方が変わると思っています。自然言語での検索が主流になり、AIが宿を決める手助けをする時代が来たら、一休は、ユーザーの「予約」の体験自体をどう再定義するかが問われます。サイトを漂うように楽しむ体験を残すのか、それともよりスムーズに予約できることに特化するのか。AIと共創しながら、一休がどうあるべきかを今まさに考えているところです。
インタビュアー:AIを「考えるパートナー」として活用し、未来の予約体験そのものに挑戦されているのですね。仕事の価値を発揮するには、どのような姿勢が求められますか?
河村さん:デザインには明確な正解がなく、AIもまだ未知数です。だからこそ、曖昧さを受け入れながらも、自ら方向を定め、進めていく力が求められると思います。受け身ではなく、自ら考え、動き、形にしていく――その主体的な姿勢は、デザイナーに限らず、すべての職種に必要な力だと感じています。
インタビュアー:最後に、お子さんが3人いらっしゃると伺いました。仕事と家庭の両立で意識していることを教えてください。
河村さん:子どもたちには「ママは仕事が大好きで、仕事をしていると楽しい」という姿勢を言葉と背中で伝えています。働くことはポジティブなことだと感じてくれたら嬉しいですね。
デザインを採用することはありませんが、「どっちの色がいい感じだと思う?」と聞くと、意外と鋭い意見が返ってくるんです。一緒に考える時間を持つことで、子どもに参加している感覚を持ってもらえるし、自分の意見を言葉にする練習にもなっていると思います。
家庭と仕事を完全に分けるのではなく、少しずつ重ねながら、どちらの世界にも良い影響が生まれるようにしたいと思っています。
インタビュアー:仕事と家庭、そしてデザインの世界で「上質さ」を追求し続ける河村さんの姿勢、大変参考になりました。本日は貴重なお話をありがとうございました!
この対談を通して、当社のカルチャーや目指す方向性について、より深く理解していただけたでしょうか?
この想いに共感し、共にレストランや宿泊業界の未来を創っていく仲間を心待ちにしています!
プロフィール
宿泊事業本部 プロダクト開発部 ユーザー向け第三開発チーム
チーフデザイナー
河村 恵
2015年 株式会社一休 入社
2021年 株式会社一休 チーフデザイナー 就任(現任)