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イノベーションの現場は「批判できるデザイナー」を求めている。“自分を疑う力”はIDLでなぜ重要なのか?

技術の発達や社会情勢、地球環境の変化とともに人々の価値観が変化し、社会全体が大きな転換期にある中、デザインが果たす役割は一層重要になっています。答えのない問題に立ち向かうために、デザイナーはどのような存在たりえるのでしょうか。

今回は社歴8年で、現在IDL(INFOBAHN DESIGN LAB.)にてデザイナーとして活躍されている、岩﨑祐貴さんに話を聞きました。

「そもそも何をするか」から考える

ーーまずは、岩﨑さんが所属しているIDLの役割について教えてください。

その名の通りインフォバーンのデザインチームなのですが、単なるクリエイティブ集団ではありません。ユーザーリサーチや共創/創発のプロセスに基づくサービス体験の設計から、企業の新規事業開発支援、はたまた自治体を含む多様なステークホルダーと連携した社会的なアプローチでのデザインの実践など、「デザイン」を幅広く解釈し、クライアントの新たな価値の創出を支援しています。

コンサルティングの要素が強いですが、編集、デザイン、エンジニアリングの知見があるメンバーが揃っているので、抽象的な結論だけで終わらせることはありません。文章にしたり、映像やストーリーボードにしたり、プロトタイプを作ったり。“触れられるもの”として形にして、そこからのフィードバックを受けてさらにブラッシュアップしていきます。

ーー最近はどんなプロジェクトを担当されたのでしょう?

株式会社日立ハイテク様の新事業創生プログラム「INC(INnovation Challenge program)」のブランディングやプロモーションの支援を担当しました。

INCは日立ハイテク様の全社員を対象に、アイデアのタネから実際に事業化を実現できるよう支援していくプログラム。イノベーションのチャンスをより多く生み出すために、応募数を増やしたいという想いがありました。そのために、まずは経験者へのインタビューからINCの持つ価値と抱えている課題を探索するところからはじめました。その結果をINC運営メンバーのみなさんに共有。数回のワークショップを通して、これまでの活動や想いを整理し「INCが提供する価値とアイデンティティは何か?」を一緒に見直していきました。

そこから「どんな人にコミュニケーションしていくべきか?」「どんなコミュニケーションが適切か?」「最適なツールは何なのか?」といったことを、サービスデザインの手法を使いながら明確化。最終的に、応募資料の全面リニューアルやイントラネットのプログラム紹介ページの改修、応募者に向けたメッセージムービーの制作、マインド形成のためのイベント企画といった形でご支援しました。

インタビューや撮影、編集までをワンストップで担当したことで、当初の思いを純度の高い状態でアウトプットできたと感じています。

現在、一度運用した結果を受けて、応募要項をさらにブラッシュアップするプロジェクトも始まっています。作って終わりではなく、都度見直しながらよりよくしていく体制が作れているのは嬉しいことですね。

ーー「そもそも何をするか」を考えるフェーズから、最終的に形にするところまで関わっているのですね。

はい、「こういうものを作る」と要件が決まっている状態だと、そこから離れないよう、狭い範囲で考えてしまいがちです。「そもそも何をするか」の議論から参画することで、デザイナーが本来持っているポテンシャルを発揮できると思うんです。

デザイナーに求められる「一石を投じる装置」としての役割

ーー今はIDLのメンバーとして日々奮闘している岩﨑さんですが、入社時の職種はデザイナーではなかったと聞きました。

そうなんです。大学を卒業してからアルバイトでWeb編集者アシスタントとして入社しました。でも、小学生の頃からの夢であるデザイナーになりたいと強く思っていて、「デザインの仕事があればください!」と周囲に言っていたんです(笑)。

それを面白がってもらえたのか、当時提供していたモバイルアプリの開発に参加することになり、UIや画像素材などデザイン周りの業務を担当するようになりました。そこから発展した3Dスキャンサービスでもサービスに関わる多種多様なデザイン業務を担当し、その後はロゴなどのVI開発や書籍の装丁などのグラ‌フィッ‌ク‌デザイン‌、メディアやブランドサイトなどのWeb‌デザイン‌を経てIDL‌に異動し、今この部署で4年目になります。

ーー多様な領域のデザインを経験されてきたんですね。IDLでサービスデザインの‌視‌点‌を‌持‌って‌働いてみて、いかがですか?

まず、デザインする領域が広がったのが単純にすごく楽しくてワクワクしますね。まだ“何を作るべきか?”が決まってない段階からプロジェクトに参加し、それを形にすることができるのは、とてもやりがいを感じます。

今までのデザイナーの仕事は、ものづくりの工程の終盤に位置付けられることが多かったように思います。営業が案件を取ってきて、プランナーが大枠を決めて、ディレクターが仕様を決めて、エンジニアとデザイナーがそれを実装する、というように。するとデザイナーは、どうしても「決められたものを作る」という狭い思考になりがちです。

でも、デザイナーがもっと初期の段階から“プロジェクトをデザインする”ことができれば、サービスの意味からクライアントと一緒に考えられますし、「本当に必要なんですか?」とすら言える可能性があるんです。

イロ・モノ・カタチという狭義のデザインの専門家としてだけでなく、“サービスの意味”からデザインを考える視点を持てると、より豊かで深い発想ができ、専門領域の強みもより発揮できると思います。

ーー今の時代、そうした“サービスの意味”から考える視点を持ったデザイナーは求められていると思いますか?

そう思います。よく、“デザインは課題解決”と言われていますが、すでに素晴らしいものが溢れている現代においては、個別の課題をただ解決するだけでは足りません。自ら課題を探索し、生み出そうとしている製品やサービスが「どんな意味を持つのか?」を考え、それを形作っていくことが必要です。

今までは、そこまでタッチしないデザイナーも多かったと思います。しかし今は、多くの企業がイノベーションの創出に積極的です。いままでのやり方が通用しない状況で、デザイナーには「膠着した状況に一石を投じる装置」としての役割が期待されていると感じます。

ーーこれからのデザイナーは、イノベーション創出にも貢献する必要があるんですね。

そうですね。僕はデザイナーのいいところって、変なことを言っても許されることだと思っているんです(笑)。「変なことを言う」とは、「批判的な視点で場を撹乱する」ということです。

昨日まで信じられていた価値が、次の日にはガラリと変わってしまう現代においては、常に現状を疑い、自ら問題提起するような、批判的にものごとを考える力が求められています。クリティカル・シンキング(=批判的な思考)やスペキュラティブ・デザイン(=問題提起するデザイン)が近年注目されているのもそんな背景があるのではないでしょうか。そして多くのデザイナーは、意識的にせよ無意識にせよ、普段の仕事の中ですでにその素養を身につけていると思います。

これまでデザインの眼差しを持たなかった人々が決めていたことを、批判的で創造的な視点を持って問い直す。そうした試みができる環境にいることは、今後デザイナーが自分の力を伸ばしていくうえで一層重要になってくると思います。

クライアントと“特殊な距離感”だから、批判的な視点を養える

ーーデザイナーとして批判的な視点を磨くう‌え‌で、‌インフォバーングループの環境はどうでしょうか?

編集の土壌があるからか、カルチャーに対して貪欲かつオープンで、多様な興味や趣味を持っているのも特徴です。僕はヘヴィメタル、中でもエクストリーム・メタルが好きで、夏はバンドTシャツを着ていたりするのですが、マイナーなバンドに反応してもらえた時は感動しました(笑)。会社の近くにライブハウスがたくさんあるので、同僚と一緒にライブに行ったり、会場で鉢合わせることがあったりするのも面白いです。

また、音楽や映画の話をしたかと思えば、組織論や社会問題の話に発展したり、文学はもちろん、スポーツ、グルメ、テクノロジー、美術、アニメや漫画、変わったところではバイオハックについて詳しい人がいたり。話題の幅が広く、ユーモアに溢れて物事を深く考えるタイプの人が多いなと感じます。

こうした環境にいると、自然と多面的なものの見方ができるようになります。プロジェクトを進めているときは、別の観点から意見をもらえてありがたいですね。部活として有志でグラフィックレコーディングの活動もしているのですが、そこでも多様な話題が流れ込んでくる環境が役立っています。

ーーデザイナーには、自社サービスのデザイナー、制作会社のデザイナーなどさまざまな働き方がありますが、IDLで働く最大のメリットは何だと思いますか?

クライアントとの間に“特殊な距離感”を持てることだと思います。IDLの仕事は、自社サービスを作ることでも、クライアントの依頼通りに作ることでもありません。そのため、クライアントとは「すごく近い距離にいるけれど、全く想定外のことを言っても許される」ような、特殊な関係性です。こうした付かず離れずの距離感だからこそ、デザイナーとして自由に批判的に考える力を鍛えられるんだと思います。

ーーIDLで働くのに向いているのは、どんな人でしょうか?

取り扱う領域が抽象度が高いのはもちろん、幅広い話題が飛び交うので、それを楽しんで深めていく好奇心と探究心が旺盛な人。同時に、相手の言葉に耳を傾け、気持ちを理解することを諦めない人が向いていると思います。

あとは、“へそ曲がり”の人。単なるはねっかえり者では困りますが(笑)。「これをやって」と言われて機械的に処理するのではなく、「何故だろうか?」と考えるなど、自分のやることに対して疑問を持つことのできる人が向いていると思います。

ーー岩﨑さんも仕事をするなかで、自分のやることに対して疑問を持つことはありますか?

もちろんです。特にデザイナーとして自分のアウトプットを疑うことは大事にしていますし、“自分を疑ってよりよいものを模索すること”はとてもクリエイティブな行為だと思っています。

仕事をしていると、「本当にこれでいいのかな?」と違和感を持つ瞬間があると思います。そのときにやり過ごすのではなく、「なぜ違和感を持ったのか」を追求する。必要があれば検証し、確かめて、さらにブラッシュアップしていく。そこに面白さや価値を感じられる人だと、IDLの仕事にもすっと馴染めるのではないでしょうか。

IDLにおける「デザイン思考」の考え方や取り組みについて、以下の記事ではIDL部門長・井登友一さんとクリエイティブフェロー・木継則幸さんがお話ししています。ぜひご覧ください。


また、現在IDLでは、多様な背景を持つメンバー(=IDLists)が、IDLの活動や国内外のデザイントレンド、日々感じているちょっとした「問い」や「気づき」を様々なメディアで発信しています。こちらもぜひチェックしてみてください。

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