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「やさしい人」になるために。インフォバーンで10年働く男の15,000字インタビュー

インフォバーンで働く社員へのインタビュー企画。今回はINFOBAHN DESIGN LAB.(以下IDL)でデザインストラテジストとして働く遠藤さんのインタビューをお届けします。


遠藤さんはクライアントのマーケティング・コミュニケーションを支援するエクスペリエンス部門から、事業や製品のサービスデザイン支援を行うIDLに異動し、インフォバーンの中でもめずらしい経歴をもっています。


そんな遠藤さんは今年の10月でインフォバーン歴10年。よって、今回の取材は期せずして記念すべきものになりました。同じ企業に10年勤めると人はどのように変化し、なにを考えるのか。最近発売された『スプラトゥーン3』を夜な夜な一緒にプレイする採用広報担当・松永が伺いました。


ラップもDJもできない俺はレコード会社に入るしかない


ーー遠藤さん本日はよろしくお願いします。事前に記事を確認いただくので喋ってまずいこととか気にしなくていいですよ。


もう全然、原稿チェックナシでいいよ。


ーーそれは困ります(笑)。


ちょっと前レコード会社にいた時に音楽雑誌の編集者とよくやりとりしてたんだけど、原稿チェックさせてくんなかったよ。今回はそのスタイルでいこう。


ーー嫌です。レコード会社にいたんですね。


そうそう。20年前ぐらいかな。やばい「ちょっと前の話」とか言って20年前だ。


ーー人によって「ちょっと」もいろいろなのでいいと思いますよ。


当時、日本語ラップが最初の隆盛期だったんだよ。YOU THE ROCK☆さんとかが深夜のテレビに出まくってて。ストリートのラッパーがメジャー契約しだした時代で、めちゃくちゃ売れてたんだよね。いまはいまで別の売れ方してるっぽいけど。俺も担当しているアーティストのカセットを聞いてもらうためにラジカセかついで(笑)、ラップ専門ではないメジャーな音楽雑誌の編集部に持ってったりしてた。


時代的には『DA.YO.NE』とかの後だよね。KICK THE CAN CREWがデビューした前後とかの時代で、餓鬼レンジャーとかも売れてた。2000年くらいかな。こんな話で大丈夫? あと72時間くらいできるけど。


ーー72時間は困ります。レコード会社には新卒で入社したんですか?


いや新卒では入ってない。就職活動自体あんまり真面目にしなかったから。そもそも働きたいと思ってなかった。でもまあそんなことも言ってられないから、せめて自分の好きなことを仕事にしたいと考えた時に出てきたのが「レコード会社に入りたい」だったんだよね。


中学からラップばっかり聞いてたし、高校なんか昼飯抜いてレコード買うような生活してたから。ラップ/ヒップホップの世界って映画とかドラマでもフィーチャーされてるけど裏方がラッパー並みに表立って紹介されててカッコいいんだよ。


A&R(Artists and Repertoire)っていう職があるんだけど、時にアーティストとぶつかったり、時に私生活までサポートして。その人たちがとにかくカッコよかった。だから結構早い段階で「俺ラップもできないしDJもできないから裏方目指そう」って高校生の時ぐらいから思ってた。


当時メジャーレコード会社は数社しかなかったんだけど、いわゆる就活ではその数社しか受けなかったんだよね。けど、当時のレコード会社って狭き門で。年に一人か二人しかとらないとか言われてたの。でもレコード会社以外で働く気がなかったからとりあえずさっきの数社だけ受けたら当たり前のように全滅して。


でも当時、渋谷のスクランブル交差点のとこにあるSHIBUYA TSUTAYAでオープニングスタッフとしてバイトしてたんだよ。あそこはレコード会社の人がよく来るしなんかあったら入れんじゃねえかなって思ってとりあえず卒業してもそこでバイトしてたんだよね。


ーーすごい(笑)。


大学出てから半年後くらいかな。何気なくバイト募集の求人情報誌を見てたら「夏のブラックミュージック特集」って載ってて。これは本当かどうかわかんないけど、そこに後にレコード会社で上司になる人が冗談で募集を出してたのよ。で、それを真に受けた何百人かが応募したらしい。でもあくまで冗談で出したから実際に採用面接はやってなかったっていう(笑)。


だけど掲載してからしばらく経つとバタバタ人がやめていったらしく、「このままじゃやばい」と焦って応募してきた人たちに片っ端から電話して、その中で受かったんのが俺ともう一人だった。


ーー電話が来たんですね。


そうそう。電話がきて面接して「こんなラップが好きです」みたいな話を延々したっていう。詳しくは書けない感じのひどい雇用契約だったけど。キャリアっていう意味だと、最初に念願成就しちゃった。キャリアのスタートでマジで好きなことを仕事にしちゃったんだよね。


ーー期間はどれぐらいやったんですか?


2年かな。入ってすぐに新人ラッパーのA&Rを担当したんだけど、誰も仕事のやり方を教えてくれない。しばらくあれこれ「背中を見ろ」的なのに従ってたらいきなり「今度新人と契約するから一緒にきて」みたいな感じになって。何もかもわからないままはじまったんだよね。けどそのラッパーのA&Rとしてシングル4〜5枚くらいとアルバム2枚出したかな。


担当したラッパーとは第一印象は住む世界が違いすぎて仲良くなれねえなと思ってたけど、最後にはめちゃくちゃ仲良くなっちゃった。A&Rってなんでもやるのよ。スタジオ入って曲作りもそばにいるし、こうしたいああしたいを受けてCDのアートワークつくったり。できたものを雑誌やラジオ、テレビで取り上げてもらうための宣伝もするし、販売店回りもする。


ちょっと演歌っぽくもあるなと思ってたけどラッパーを売り込むために夜な夜なクラブにも行くのよ。海外のレーベルともつながったところだったから毎週のようにプロモレコードが手に入って、それを持って火曜、金曜、土曜と渋谷のクラブに行ってDJにレコード渡すときにラッパーの宣伝もして、みたいな。そのあとしこたま飲むから起きたら毎度渋谷の路地裏ですごい恰好して寝てたよね。


モヒカンの男、ボウズに戻る


ーー「よね」と言われましても。転職も多いと聞きましたけど、その次の会社は?


その次は紙の雑誌を作ってる会社に編集者と記者っていうポジションで入社した。ロングでモヒカンとウルフが混ざったみたいな髪型にしてて、某国の大使館のそばの出版社だったから、朝出社するたび警察に職質されてた。顔覚えてほしかったなあ……。


というのはどうでもいいのだが、レコード会社でA&Rやってたときに、担当の売り込みをあちこちにするために当人や曲のどこがよいとか、宣伝資料をたくさんつくって。メディアでの取材を受けたり出演に立ち会ったりする機会もたくさんあったんだけど、その時に「編集っておもしろいな」って思って出版社を受けたんだよね。


そこではテレビ番組を扱う週刊誌の編集部にいた。番組情報を少しでもオリジナリティのある内容で伝えるために、テレビ局に張り付いて、それこそ記者室みたいなのがあるんだけどプロデューサーにつきまとったり。ドラマの特集記事を作ったりもしてたんだけど、スポーツが好きでそっちを担当させてもらえて、オリンピック開催時は別紙作りと速報を反映させるための徹夜作業でめちゃくちゃ大変だった。


タレント取材も多くて、某有名アイドル事務所のグループも担当してた。デビューしたての頃からインタビューをやったんだけど、テープ起こし聞いたら6人組のどの声が誰だかさっぱり分からなくて困った思い出が(笑)。


ーー(笑)。


でもそこで今の基礎を叩きこまれたよね。編集を。大手だったし校正も厳しかった。当時は公称100万部かつ週刊誌だったから経験値も半端なかった。個人としてはそんなおもしろいもんは作れなかったけど、まあ古き良き編集を経験できた最後の世代ですよ。0時過ぎてオフィスの人が減ってくるとみんな狂いはじめてたし、ここじゃ言えないような話もたくさんあるよ。


ーー『ウルフ・オブ・ウォールストリート』みたいな感じですかね。


さすがにあそこまではないけど(笑)、ひどいところもあった。でもそこでのちの妻と出会ったんだよね。妻も朝5時くらいまですげえ辛そうな感じで原稿書いてたから「早く辞めた方がいいんじゃない?」ってずっと言ってた(笑)。


ーーいい出会いですね。インフォバーンに入る前がその会社ですか?


いや、あと2つある(笑)。やばいね。今日インフォバーンまでたどり着かないかも。


紙の編集をやってたんだけど今後のキャリアを考えた時にデジタルやらないとまずいなって思ったんだよね。2006年くらい? そこで次はデジタルメディアを運営している会社に転職した。


あ、ちょっとまって紙編集時代最後の仕事の話していい?  テレビ番組だけじゃなくてアーティスト特化型の雑誌にも関わらせてもらって、それが最後の仕事でめっちゃおもしろかったのよ。スチャダラパーとかコーネリアスに取材したりNIGO家に行ったりして。で、最後の最後に志村けんさんのグラビアを撮ったの。


「アイーン」していただいて写真を撮りたかったんだけど、そのお願いをするのがめっちゃ怖くて(笑)。やっぱ気を使うじゃん。けど勇気を振り絞って「スミマセン、あれ、お願いしていいすか?」って伝えたらやってくれた。誰か言わないといけないからね。それがその会社での最後の仕事。志村さんの訃報を聞いたときはめっちゃショックだったし、いまでも悲しいな……。


ーー言わなきゃいけないけどボールを誰がもってるかわからない時って難しいですよね。


そうそう。で、話は戻るけど(笑)、その仕事が終わった後にデジタルメディアを運営している会社に転職。15年前ぐらいかな。当時紙の編集からデジタルの編集への移行期だったからすごい勉強になったね。


SEOをめっちゃ強化してる会社で、サイト構造とかを学ばせてもらった。だからデジタル編集の基礎はそこで身につけられたのかな。それまでのレコード会社と出版社はそれぞれ2年の在職だったんだけど、そこには4年いた。


ここに来るまでの働き方はある意味堅気じゃないというか尋常じゃなかったから。昼夜逆転してたし飯とかも全然食わなかったから体重も50キロ台とか痩せきってて。さらに昔やってたボウズに戻してたんだけど。


▲当時ではなく、インフォバーンでボウズにしていた頃の遠藤さん。「カメラ映えが良すぎて取材時のテスト撮影の写真をカメラマンさんが必ず送ってきてくれる」とのこと(本人提供)


ーーボウズは関係なくないですか?


まあそれはそうか。んでまあ3社目の会社はちゃんとした会社で、朝出社して夜帰るような生活になったわけ。普通のことなんだけど。まともに生活するようになって居心地もよくなって長居した。けど居心地が良すぎて4年間で20キロ太っちゃって(笑)。


そうすると今度は「このままでいいのか」という悩みが出てきた。仕事も安定してたんだけど、モラトリアムというか、30歳前後ってあるじゃんそういうの。で、たまたま知り合いに「もうちょっとデジタルメディアを格上げしようよ、4マスに風穴開けようよ!」みたいな勢いある人がいて、その人に誘ってもらって4社目の会社に行ったの。そこも主にデジタルメディアをやってた会社。


ーーアツい展開ですね。


だけど入って3か月くらいで誘ってくれた人が転職しちゃって(笑)。これはあるあるだからまあいいとして、東日本大震災が起きたのよ。当時新宿のビルの25階にいたんだけどクッソ揺れて、ビルのしなり具合が半端なくて、社員の悲鳴とか、マジ忘れられないトラウマになった。


それがあった後に価値観が変わっちゃった。仕事もそうだけど、震災がきっかけで生き方もいろいろ考えて。そこに来てここでのキャリアが1年半くらい経った時に子どもが生まれることになったの。


ーーおお。


震災があって原発も大変なことになって、あまりにも一拠点で住むのはリスクが高いんじゃないかと考えるようになった。俺は東京生まれヒップホップ育ちなんだけど(笑)、妻が京都に縁があったので「東京と京都で二拠点あっていいんじゃないか」と夫婦で話して。


その時たまたま見つけたのがインフォバーンだったの。京都に支社を出して一年経ったくらいで、編集のポジションがたまたま空いてて。実はその前の職場でいまでいうオンラインサロンみたいな勉強会運営を手伝ってたのだけど、そこでメディアの未来を考える回があってゲスト講師がこばへん(代表取締役会長:小林 弘人)だったんだよね。「すげーおもしれえなこの人」と感動してた。


だから「この人の会社ならいいな」って思って応募して入社して今に至るって感じ。2012年かな。京都移住とインフォバーン転職をこの年にやった。そこから今年で10年だね。おお、やっとインフォバーンにたどり着いた!


違和感で気づき、好奇心で進む


ーーインフォバーンに入社して最初の仕事って覚えてますか?


覚えてる。一つは今でいえばサスティナビリティにかかわるから花形っぽいけど、とある会社のCSR報告書を作ろうって話。正直、その仕事はあんまりいい思い出ないから割愛する(笑)。


ーー(笑)。


もうひとつ同じ時期にやったプロジェクトがすごかった。とある京都の大学で産官学のいろんな人が集まってそれぞれの知見を共有して未来を描くプロジェクトで、いわゆる「フューチャーセンター」を作ろうっていうやつで。


発注元の担当者は京都の有名大学出身の二人ですごい博識。今でこそ共創やイノベーションというキーワードが浸透してて、フューチャーセンターや産学連携とかって耳馴染みあるけど、これ2012年の話だからね。圧倒的な知識量と問いのレベルの高さに「マジで何言ってんだこの人たち」って思ったよね、最初。


やべーとこ来ちゃったなって思ったよ。だけどフューチャーセンターって当時の日本にはあまり例がないけどすでにオランダとかでは実装されてて、調べるとたしかにおもしろかったんだよね。「たしかにこれは多数決とは違う民主的なアプローチだ」「すげーこれ、なんだこれ」って。それまでは「PowerPoint使うの苦手です」ってくらいのレベルだったんだけど、フューチャーセンターとかを勉強するうちにいろんな思考のフレームワークやテンプレを知って、見よう見まねで資料作ったりしてたよ。


正直ついていくのに必死だった。最初は編集のキャリアが活きる記事制作とかど真ん中編集的な仕事するんだろうなって思ってたから。わけわからないな、合ってるのかなとか考えてたけど、今思えばめちゃくちゃおもしろかった。結局そのプロジェクトは、諸事情あって唐突に終わっちゃったんだけどね。いや諸事情思い出せないな(笑)。


ーーなんと。


マジか。と思った。あまり経験なかったからこれがクライアントワークか……と洗礼を受けた気がした。でも全然今までと違う仕事だし、課題解決や価値創出といった仕事のおもしろさをまず体験できたのは良かったのかもしれない。


それまでは編集者ってクリエイターに近い立場だなと思ってて。企画してゼロイチで作っていく。どっちかっていうとライターとかカメラマンとかの側にいる人間だと思ってたんだけど、インフォバーンに入ってその意識は変わったと思う。


そこから「インフォバーンといえば」、なオウンドメディアの仕事もガンガンやっていくんだけど、あくまでも主人公はクライアントじゃん? だから編集者が主導するというよりも、クライアントにいかに主体となってもらうか、そのためにどう巻き込んでいくのかを重視するようになった。クライアントのオウンド(所有する)メディアだからね。


そのためにはクライアントのことを知らないといけないし、クライアントにとって意味あるものにしていかなきゃいけない。そのプロセスはクリエイターの視点だけでもないし、読者だけのことを考えるのともまた違って。その辺の観点は経験したことがあんまりなかったから勉強になった。かつプロジェクトによって毎回視点が違っていて、そこがおもしろかったから飽きることなく10年も続いた理由のひとつかもね。


ーー編集者の仕事の定義が変わった10年でもあったんですね。


企業のオウンドメディアを作るのと雑誌を作るのとでは根本的に違いがある。企業のオウンドメディアは作ること自体が目的じゃなく、コミュニケーションを媒介するためにある。何のためにそれがしたいのか、それを使ってどうしたいのか、ってところが一番重要なんだよね。そういう意味では編集の意味を自分の中でアップデートするきっかけになったと思う。


あと、オウンドメディアを作りはじめたときからPVやUUを追いかけるタイプの仕事をしなかったんだよね。数字を追いかける仕事もしたけど、それが意味のあるものだとはあまり思えなかった。もちろん、広告を出して多くの人に届けるのは大事だけど、ひとつひとつの数字がどういうもので、そこにどんな意味があるかを考えなくちゃいけないよね。


ーーなるほど。いろいろな仕事を経験してきた上で、変わらずに大切にしているものってありますか?


2つある。1つは違和感。違和感はアンテナだと思っていて。自分が日々、本を読んだり映画を見たりマンガを読んだり、普通の生活もそうだし、仕事をしているときだったり、「あれ?」と思う瞬間を大事にしてる。その違和感が何かのきっかけになって気付いたり発想することがある。企画を考える時なんかは日々感じていた違和感がヒントになるんだよね。


そもそも「こうでなきゃいけない」っていうのがすごい嫌で。本当にそうなの? それ以外の方法もあるんじゃないの? ってのが自分の中にずっとある。それが企画とかに繋がってると思う。「再現性」の重要さは承知の上で、同じものを作ってもつまんねえじゃんってのもあるんだけど。


もう1つは好奇心。さっきの違和感がアンテナだとすると好奇心はエンジンだね。違和感を感じても興味が持てなかったら全然ダメになっちゃう。そこをおもしろがれるかが自分の中で重要なんだと思う。俺は音楽やテレビ、元々興味のあったエンタメ寄りの仕事ができてきたわけだけど、インフォバーンのクライアントは業種業態も幅広く、自身の興味関心だけだと一件かけ離れた製造業のBtoBマーケとかを担当することがある。


その時に表層だけを見るんじゃなくて、そこにどんな人がいてどんなストーリーがあって、っていうのを見つけていくのが楽しい。よほどのことでないかぎり、いちミリもおもしろくないってことはそうそうないんですよ。どんな業界もどんな会社も興味をもてるポイントがある。違和感で気づいて好奇心で進んでいく。インフォバーンではそれを続けてこれたから10年もいるんだろうな。


ーーいい話なんですけど時間が……。次のミーティングがあるんで今日はこのへんで。


ほら1時間じゃ足りないじゃん。


ーーほらと言われても。あと71時間あるってことですね。


そうだね(笑)。いや〜でも楽しく話させてもらったわ。次も楽しみにしてる!




ここで一回目の取材は終了しました。「一回目」と書きましたが、通常社員インタビューは「一回」のみ。しかし、人が10年働いた歴史を一時間の取材で聞ききるのには無理がありました。


ここまで読んでいただき「なんかおもしろいな」と思ってもらえたなら後半もきっと楽しめると思いますので引き続きお付き合いください。ちょっと疲れてしまったらブラウザバックしてYoutubeを見るなり飲み物でもとってくるなりしていただけるとありがたいです。


後半はインフォバーンでの仕事についてと、編集をやってきた遠藤さんがデザインの仕事をするようになって感じていること。そして一緒に働きたい人について。具体と抽象、自然科学と人文知の間を行き来するような遠藤さんの話は聞いていて楽しかったです。それではどうぞ。


言葉にできないものを掘り下げる


ーー遠藤さんはクライアントのマーケティング・コミュニケーションを支援するエクスペリエンス部門から、事業や製品のサービスデザイン支援を行うINFOBAHN DESIGN LAB.(以下:IDL)に異動されたインフォバーンの中でもめずらしい経歴をお持ちです。最近はどのようなお仕事をされてるんですか?


オオモノシャケをしばいて金イクラを納品するだけの簡単な……。


ーーサーモンラン(『スプラトゥーン』内のゲームモード)ですね。そうそう、あれは簡単なお仕事で……じゃあないんですよ。


いや松永君にこうしてインタビューされるの変な感じというか、毎週夜な夜なゲームしてる間柄だし触れておかないとこの先の話でもそわそわしちゃいそうだったから……(笑)。でもめっちゃ楽しいよね『スプラトゥーン3』。インフォバーン内でもやってる人けっこういるし、これを読んでる人の中にもいたら一緒にプレイしたい。


ーーそれはたしかに。


ね。会社対抗戦とかもやりたいから、これを読んでる企業のスプラプレイヤーの方、ご連絡お待ちしております。


ーーしております!


オッケー、言いたいこと言ったからちゃんとした話をする。


今はIDLでデザインストラテジストとして働いてます。IDLはサービスデザインとかビジョンデザインとか、何か目に見えるものだけではなくサービス全体の仕組みや、もっと手前のビジョンやコンセプトといった抽象的なものを手掛けることもあって、俺もそういった仕事をすることが多いです。


リサーチをして、ワークショップをファシリテーションして、形にしていく。サービスやプロダクトを改善するためのプロトタイプを作ったりもしてる。IDLに来て2年半くらいだけど、いわゆるデザイナーとしてのレクチャーを受けたわけではなく、一緒に働くメンバーの姿を観察しながら身につけていった感じ。


けど、編集として身につけた力が今でも役に立ってるんだよね。たとえば編集の仕事でもインタビューは非常に大きな割合を占めてるじゃん? デザインリサーチでもインタビューは重要な機能のひとつ。ユーザーの行動を深く理解するために行うデプスインタビューなんかをやるときに編集としての経験やスキルがすごく役に立った。


ーーたしかにそこは編集の経験が生かされそうですね。


ただ全く同じかと言われるとそうではなくて”お作法”が違う。メディアや記事向けのインタビューはコンテンツとして外に出すことが前提で、その先に存在する読者を意識して作ると思うんだけど、デザインにおけるインタビューは(いろんなパターンがあるけど)必ずしもそうじゃない。


まず、今あるサービスをより良くするものや今ないものを作るための気づきやヒントを発見したい、といった目的がある。そのためにユーザーがどんな風に考えていてどんなものをほしいと思っているかを知りたくてインタビューする。


けど、そういった潜在的なニーズって言語化するのが難しい。例えば「スプラトゥーン3を早くやりたくてたまらない」とかは口にできるけど、まだ見ぬ欲しいもの、身の回りにあって当然のものに対する欲求とか、口にするのって難しいじゃん。本人が意識できていないことをインタビューで掘り下げるのは本当に難しい作業。だから掘り下げ方にも独特のスキルやアプローチがあるんだよね。


IDLに来てそういうところを学べた。インタビューだけでなく、ファシリテーションやコミュニケーションそのものにもいままでやってきたことを広げる感覚があった。


メディアの価値はプロセスにある


今話したような、編集で培ってきたスキルを活用してIDLで新しく作ったサービスというかメソッドがある。「Design through Media(以下:DtM)」っていうサービス。


編集者としてたくさんオウンドメディアを手掛けてるんだけど、そこであらためて気づいたのがコンテンツをアウトプットするまでの“プロセスの価値”だったんだよね。編集としてコンテンツ制作にかかわっているとよく「編集者冥利に尽きる」みたいな瞬間があるというのは聞いたことあると思うのだけど、俺にとってその瞬間のほとんどはプロセスにある。


具体的なプロジェクトでいうと中部電力さんとご一緒させていただいたプロジェクト。オウンドメディアをプロモーションやマーケティングに使うんじゃなくて、クライアントと一緒に地域にどんな課題があるかを探索・発見して、それをどうすれば解決できるのかみんなで考え、専門家や技術者、生活者と対話をしにフィールドに出る。


そうやって多様なステークホルダーを巻き込んで新たな価値創造を目指すプロセスをメディアを通じて展開した。PV・UUといった目に見える数字を追い求めるのではなく。最終的にそのプロジェクトは子育て世帯向けの地域情報アプリの制作というアウトプットまでたどり着くことができた。けど、一番の価値はさっきも言ったように答えを一緒に考えてくれたプロジェクトメンバーやステークホルダーとのつながり、そして答えに辿りつくまでの会話すべてが成果だったと思う。


ーーメディアを運営する価値はアウトプットされたコンテンツだけでなく、それが生まれるまでのプロセスにこそ存在する、ということでしょうか。


その通り。例えば記事を作る前に企画のリサーチをすると思うんだけど、あの作業そのものに価値が宿ってる。ああいうのってコンテンツの担当者が日夜リサーチしてリスト作って、そこから選ばれた10案のうち1つだけがコンテンツになる。けど、選ばれなかった9つの企画案がテーマを理解するのに必要な知識だったりする。


取材対象者との時間も価値だよね。取材させてもらうような人なので多忙な中時間をつくってもらうんだけど、取材の時間って限られてるし、記事になるのって本当に一部じゃん。けど、取材以外で過ごした時間とか事前の打ち合わせを経て育まれた関係性って、記事には表現されないし、その場で「また何かあったら~」と必ずされる会話を形式的なものにしないでちゃんと継続させていくと、記事にするための関係から思わぬプロジェクトが生まれたりするんだよね。それを偶然にするんじゃなくて意識的に行うというのができるんじゃないかと。


こういったコンテンツができ上がるまでのプロセスの価値に注目し、その価値を最大化しながら新たなプロジェクトや関係性やコミュニティを生み出していくのが「DtM」。編集での経験をデザイン領域で展開したユニークなサービスになっていると思う。続ければ続けるだけ知見やノウハウ、ステークホルダーが膨らんでいく。個人的にはこばへんが10年前に出した『メディア化する企業はなぜ強いのか?』っていう本があるんだけど、それへのアンサーでもあります(笑)。



ーー遠藤さんならではのサービスですね。


だと嬉しいね。編集の力はデザインの領域で生きると感じてるよ。少し大きな話になるけど、今って世の中がどんどん不確実になってきていて「今までこうだったからこれでいけるっしょ」みたいなのがなくなってきてるんだよね。計算が成り立たなくなっている中で、今ないものを作らないといけないときに慎重だけど大胆な発想が必要になってきている。


そこでSFの文脈を使った「SFプロトタイピング」と呼ばれる手法なんかがでてきている。これは未来をプロトタイプしてそこからの逆算で製品やサービスをデザインしていく手法なんだけど、これを実行するためにはいろんなことを知っているかとか、発想の幅が広いかとか、ストーリーを編むための素養が必要になる。つまり編集力が求められるんだよね。


典型的なデザインプロセスにならってリサーチ、ペルソナを作ってカスタマージャーニーを作成したその先で、じゃあ実際そういう世界ってどんな世界なんだろうって考えて参加者みんなでSF短編小説を書いたりしたね。


ーーそれは読んでみたいですね。


小説を書くといえば「クリティカル・ストーリー・メイキング」っていうプログラムも作った。参加者が「こんな世界を作ろう」「世の中こうしたほうがいい」といったビジョンを描き、それが実現した世界ってどんな世界だろうっていうのをみんなに書いてもらうワークショップ。ひとりひとりが書くことに意味がある。


「これからの世の中こうしていきたい」みたいなビジョンは今いろんなところでいろんな人が描いてると思うんだけど、本当にそのビジョンが実現した際、場合によっては誰かを傷つけてしまう可能性がある。社会がこれだけ多様化してきた中で、自分たちが正しいと思ったものが絶対的なわけじゃないから。


だから自分たちのビジョンに対して批判的な素点を持つことはとても大切なんだよね。ここでいう批判は非難ではなくてクリティックな意味の批判ね。デザイナーにはこの批判的な眼差し、つまりクリティカルシンキングが必須の要件だと思うんだけど。


ーー前回お話しいただいた「違和感」にも通ずる話ですね。


そうそう。「クリティカル・ストーリー・メイキング」でなんで物語を書いてもらうのかというと、物語を詳細に書いていくと「本当にそうなのか?」って自分の中に問いが生まれるんだよね。


例えば「雷がない世界を作ります」みたいなビジョンがあったとするじゃん。雷の音が気にならない世界を作りたい。怖いから。


ーー遠藤さんは雷が苦手って言ってましたね(笑)。


まじで怖い。俺みたいな雷が怖い人を主人公にして、そんなやつが雷を気にしない世界ってどんな世界なんだろう?っていうのをみんなで考える。世界観を作るためのアイディエーションをやってくんだよね。その人はどこに住んでて、どんな仕事をしている人で、どういう思いを抱えているか、みたいな。


大まかな概要を作って、あとは個人でストーリーを作ってもらうわけ。家の中で雷が鳴ってるときに主人公は部屋のどこに座ってて、どんなことをしているのかを考えてもらう。「ヘッドフォンで雷の音を防ぐのはどうだろう?」みたいなアイデアもね。


そうやってストーリーを紡いでいくと、描写が細かくなっていく。そうなると解像度も上がって「このアイディアはこの場面じゃ使えないな」とか「ここだったらこんな使い方あるかも」みたいに自分たちのアイディアとかビジョンを批判的に捉えられるようになる。これが「クリティカル・ストーリー・メイキング」。


こんな風に編集の経験をデザインの領域で生かしてきた2年半だった。40歳を過ぎてからデザインチームに入ったから「ゼロから全てを学びます!」ってわけにはいかないのよ。新しいことを学びながらも自分が今まで培ったモノをどれだけ生かせるかを考えつくったのが「DtM」と「クリティカルストーリーメイキング」って感じかな。


求む、やさしい人


ーーなるほど。IDLのメンバーは遠藤さんの他にも他職種からデザイナーになっている方がいますよね。みなさん遠藤さんのようにそれまでのキャリアを生かして働いている印象があります。遠藤さん的に「こういう人にIDLの仲間になってほしいな」という方はどんな人でしょうか?


……やさしい人かなぁ。


ーーおお、やさしい人。


これまで「違和感を見つけて好奇心で行く」とか強めなこと言ってるんだけど、主体的に働くってそもそもそうさせてくれる土壌がないと無理でしょ。主体的に働く人たちを邪魔しない、後押しできるような感じでありたいんだよね。違和感とか好奇心で仕事をするためには自由に発想できるための環境が必要で、結局そういうのってやさしさがないとできなくない? みたいなね。


ーーは~。


想像力って、特にSFっぽい文脈だと顕著なんだけど、テクノロジー起点の未来を描くものって思われがちじゃん。でも“人の心を思いやる”ってのも想像力だからね。そういう意味では自分は想像力が足りてなかったって思う場面がインフォバーンでたくさんある。


ーー(笑)。


松永くん(インタビュアー)もあのとき一緒のチームだったから一番よく知ってると思うんだけど、とあるプロジェクトのリーダーをやってるときに、急にメンバーがプロジェクトから離れたことがあって。


俺は突然裏切られた感じがあってめちゃくちゃ辛かったんだけど、そのメンバーの中にどんな辛さがあったのか想像できなかったといまは反省してる。すげえ反省してるんだよ。人のしんどさって相対化できないことをこの時の俺は知らなかったんだよね。


ーーいい話だ。


あの年、本厄ってのもあって超しんどかったんだけど(笑)、そのしんどさに気づいてくれたのは実はそのメンバーだったんだよね。「遠藤さんは好奇心を完全に失ってる」って言われて。「遠藤さんが好奇心を失ったらやばいでしょ」って。そういうのに気付けるのってすごいことで。


つまり、我々がやってる仕事って想像力やクリエイティビティとかを発揮しながらデザインや編集をやっていくんだけど、まずはそういうことができる状態であることが非常に重要だと思うんだよね。


人が何に抑圧されるかっていうのは正直わからない。それは会社の制度かもしれないしお客さんとの相性かもしれないし、上司や同僚との関係性かもしれない。そういうのってすぐに変えられるわけじゃないけど、「何かに抑圧されてるかもしれない」と他者に想像力を働かせられるのは“やさしさ”を持ち合わせてないと無理なんだよ。


自由に発想したり自由により良いものを想像していけるやさしい世界を作りたい。そういう風に思っている人と一緒に働きたいかなっていうのはある。今はね。昔はそうじゃなかったと思う。


ーー反省できる大人は偉いですよ。


昔はスパルタとか鬼軍曹とか言われてたけど「そういうもんじゃん」って思ってやってたからね。今では考えられない。正直恥ずかしい。「その時、俺は本当にクリエイティブな仕事してたのか?」と疑問に思うわけよ。人を抑圧してた人間が本当に世の中とか会社のためになることを想像できたのかなって。今すごい思う。


ここまで読んでくれた奇特な人は気づいてると思うけど、結構イケイケな感じでやってきてて、自分でもこんな風になるとは思ってなかった。なんでだろうなって考えてたんだけど、たくさん傷ついたんだよね、俺。ここ数年特に。それはまあいろんな理由があるんだけど、自分が傷ついたこと、自分の弱さをちゃんと受け入れたら目に映るものも変わった気がする。


ていうか、こんなに不安定で、デタラメもあちこちにあって、こんな社会で何かしら傷つくなんて当たり前だと思う。全然かすり傷なんかじゃないでしょ。誰しもがそういう社会で生きてて、仕事でも趣味でもなんでもいいけど、それを通じて自分たちの暮らしや社会が少しでもよくなったらって思ってやってるのが前提にある。そんな風に考えるとやっぱり、やさしい人と一緒に働きたいね。


ーーいいですね。主語をデカくすると資本主義って遠藤さんが今言ったような「やさしさ」みたいなものを排除する方向で進んできて、けど、なんとなく今その風潮が変わってきているしている気がしています。「やさしい」という表現はあまり聞いたことないので素敵な言語化だと思いました。


誰かの本で読んだけど、これから右肩上がりの経済成長が難しくなって経済活動を一定のところでとどめて分配していくときに、労働力の余剰が発生していくじゃない? 自分たちで今まであくせく働いてた利益活動としての業務だけじゃなくて、趣味でも何でもいいんだけど領域を広げて個人が何かを作ったり発信していくようになる。そこで新しい経済圏が生まれるっていう話。クリエイターエコノミーなんて言葉が流行るのもそういう兆しなんじゃないかな。


まあ片方で「みんながみんな何か作り出したいというわけでもなくない?」というそもそもの話はあるんだけど。でも、個人での創作や発信が当たり前になりつつある今、何かを作って非難されたりするのも前提のリスクになってるわけでしょ。そうなると、何かを作ろうという気持ちそのものがなくなることもある。創作は余裕とか安心感とかがないとできないからね。


だとしたらみんながやさしくないと。作ったら個人の自己責任です、とかじゃなくね。「あ、いいね。でももっとこうした方がいいんじゃない」みたいなコミュニケーションが生まれる世界がいい。許容するというか抱擁するというか。少なくとも我々の会社はそうありたいよね。10年間いろいろと浮き沈みあったし、自分が真逆のことしてた時期もあるんだけど、未だに枯れずにいるのはインフォバーンで働く人たちがやさしかったんだろうなって思うな。


体育会系だと思われている人も意外とやさしい気がするな。本物の不良は誰よりも優しかったりする。だからこれからはもっともっとみんなでやさしく……。何言ってんだろう俺(笑)。


ーー(笑)。


「インフォバーンは本当に変化できる会社だから」


だから「こういうスキルのこういう考え方の人にきてほしい」っていうよりは、やさしい人がいいな。あと、人のいいところを発見できる人がいい。


編集者やデザイナーってまずはいいところを発見するのが第一歩だからさ。まだまだ世に見つかってないけどもっと広まったほうがいいものを発見する。すべてはそこから。人材においてもそうだよね。


その人のいいところを見つける。いい人を見つけるってよりは、一緒になってからその人のいいところを見つける、でもいいと思うんだよ。俺なんか10年たったら見た目も中身も別人だぜって。10年たったら人なんて変わるんだから、今はどこかが合えばいい。どこかがあってやさしければいいと思う。


ーー遠藤さんはモヒカンからボウズになって今はBTS風カットですもんね。


そう、人と髪型は変化するから。あとそうだね、変化も大事。変化を楽しむ。インフォバーンは本当に変化できる会社だから。


俺もクライアントワークで喜びを感じるのは変化を感じる瞬間だなっていうのがあって。オウンドメディアやっててもデザインワークしててもそうなんだけど、一番「あっ」って思うのが、メンバーのボキャブラリーが変わったなと思う瞬間。


どんなプロジェクトも最初はクライアントとの共通言語がないところからはじまる。デザイン文脈の言葉を持ち込んで相手に伝わらないこともあれば、クライアントの言葉をこちらが理解できないこともある。


それでも同じ方向を決めてやっていくんだけど、その中でお互いにいろいろ理解して同じ言葉を使うようになる。それはモノの見方が変わることでもあるんだよね。クライアントの変化を促し、自分も変化するのがクライアントワークと言えるかもしれない。だから自分も変化するし、周囲の変化を受け入れそこに喜びを見出せるような人がインフォバーンに向いてるんじゃないかな。


ーー変化を受け入れられるし、人の変化に喜びを見出せる人。それができるのは「やさしい人」ってことかもしれないですね。


そうかもしれない! いいね~こういう瞬間が好きなのよ~!


ーー(笑)。では時間になりましたので取材はここまでとなります。遠藤さんありがとうございました!


いや〜ま~じで気持ちよく喋れた。ありがとう! これを読んでピンときたやさしい方がいたらぜひカジュアルにお話しましょう!



▼遠藤さんに仕事以外の話を伺ったポッドキャストはこちらから

https://open.spotify.com/episode/1mstUzDxeJFF10rmmjLh8N

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