ぼくの本棚(山崎編)
こんにちは、コンサルティング事業本部の山崎です。
2018年に入社し、2年目になります。
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今回私が紹介させていただくのは
『経営戦略全史』三谷宏治著
です。
あまり本を読まない私が、ハードブックと電子書籍両方で購入することとなり、たぶん大学時代で一番読んだ本です。
本書は、学術書やビジネス書というよりも、歴史書に近いと思います。各学説の誕生が時代背景を交えながら、ドラマティックに描かれます。
当時の人々の営みの中で、どういう経営上の問題や行き詰まりがあり、どういう願いのもと、だれが奮闘したのかが描かれており、その奮闘が次の世代でどのように引き継がれるかまでが描かれています。
在学当時は経営学を各論で学ぶことが多かった私は、経営学が生まれて今までどういうバトンをつないできたのかを知ったとき、衝撃を受けたことを覚えています。
以下では、特に私が感銘を受けた、経営学の父フレデリック・テイラーについて少しだけ触れさせていただきます。
フレデリック・テイラーが活躍したのは、今から約100年前の時代です。彼はハーバード大学法学部に入学したものの、目を悪くし退学し、ポンプ工場の見習い工として就職します。19歳のことでした。
22歳の時、ミッドベール・スチール社に転職した後は、機械工からすぐに職場の組長に取り立てられ、生産性向上に努めます。
当時のアメリカは産業革命真っ只中で、電気の利用も始まり、街角や工場に、夜も明かりがつくようになりました。生活はどんどん便利に快適になっていきましたが、工場の中には、怠業と不信、恐怖にあふれていました。
単純な出来高払いの給与体系だったので、働くだけ給与はあがるはずでしたが、給与が増えると管理者側が勝手に賃率を下げたので、手取りは変わりません。働くだけ、無駄だと組織的怠業が蔓延し、「頑張る奴は迷惑」という同調圧力までかかる始末で、管理者側はそれに対して「精進と奨励」説くだけでした。
若き日のテイラーは、現場でそれを目の当たりにし、なんとかしたい、これではだれも幸せになれないと思いました。
テイラーは現場の生産性の向上のために様々な実験、研究をします。ストップウォッチを使って、作業の時間分析をしたり、メジャーを使って移動距離を調べたり。それまでの「目分量方式」での作業の割り振りではなく、ちゃんと計算して作業を配分しました。
彼の職場では、毎日400~600人の作業者がショベルを使って鉱石や灰をすくって運ぶ仕事をしていました。日によってすくうものの重さも形もさまざまなのに、作業者は好きな大きさ・形のショベルを選んで仕事をしていました。
当然楽したいものは小さめを選び、力自慢は大きめを選びましたが、途中でばてたりし、また作業方法もいろいろで実に不効率でした。
テイラーは地道な分析の結果、ショベルのサイズ、ショベルの差し込む速さや角度、すくったものを投げる時間まで最適化し、賃金体系もよりインセンティブが働くよう、作業量に応じた段階性にしました。
結果として、作業者一人あたりの作業量は3.7倍となり、作業者が受け取る1日平均賃金は63%上昇しました。労使ともに大いに得をしました。
このテイラーの「科学的管理」のメソッドは時代にマッチし、テイラーはそのノウハウを惜しみなく、普及させていきます。工場の生産性は飛躍的に上昇することとなります。
彼の著書『科学的管理法の原理』の最初でテイラーが述べている言葉に感銘を受けたのでご紹介します。
「管理の目的は労使の最大繁栄にある。そして従業員の繁栄とは賃金だけではなく、
生来の能力のゆるすかぎり最高級の仕事ができること」
悲劇なのは、労使の最大繁栄を望んだ彼の願いは、実は、彼の存命中には実現されることはありませんでした。彼のメソッドは生産性を向上するために大いに役に立ちましたが、管理者側の搾取を増大するために使われることが多かったのです。
彼は労働者から非難を浴びながら、1915年、60歳で亡くなります。労働者の幸せを願っていたテイラーにとって、皮肉な最期でした。そして、10年後、彼の科学的手法をつかいながら、新たな学説を展開するオーストラリア人のエルトン・メイヨ―によって労使の最大繁栄というバトンは引き継がれることになります。
私が感銘をうけたのは、まず、使用者階級が搾取の限りを尽くしていた時代、自身も管理者の立場でありながら、労働者の幸福を願い、活動していたという点です。
ポンプ工場の見習い工という単純労働に従事していた経験から、現場で働く人々の気持ちがよく分かったのだと思います。
次に、彼の願いは叶わなかったですが、彼の思いは、次世代に受け継がれ、今日の経営学を支えているという点です。
テイラーが叶えられなかった夢を、経営学部である自分は叶えることを期待されていると思うと胸が熱くなったのを覚えています。
気になった方は、ぜひ読んでみてください!