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シリコンバレーに勝ちに行く -MAMORIO CTO滞米日記-①

こんにちは、MAMORIO株式会社でCTOをやっている高野です。

9月18日から1週間、カリフォルニア州のサンフランシスコで開かれる展示会「DisruptSF」とJETROさん主催のシリコンバレーの投資家とのマッチングイベント「TechMatch」に行ってプレゼンをしてきました。

目的はMAMORIOの海外販売に向けて現地の感触を探ってくることと進出を助けてくれるディストリビューターや投資家を探してくることだったのですが、営業でも海外担当でもなく留学経験も一切ない私が真っ先にプレゼンをしたいと手を上げた理由には開発者としてのシリコンバレーへのあこがれがあります。

世界で台頭 巨大ベンチャー「ユニコーン」勢力図
「ユニコーン」と呼ばれる非上場の巨大ベンチャーと予備軍を国・業種別に探り、世界のビジネスの流れを読む「新・産業創世記」。
https://vdata.nikkei.com/prj2/ni2015-globalunicorn/

シリコンバレーから生まれたユニコーン企業の時価総額の合計は北米はもちろんその他の地域のそれを上回っています。「スタートアップから見た世界はシリコンバレーとそれ以外」と言うことすら可能です。

サンフランシスコは全米で6位の都市ですが、金沢市くらいの規模のいち都市がなぜこれだけのイノベーションを生み出し、世界のテック業界に今もなお圧倒的な影響力を持ち続けているのでしょうか?

スタートアップに関わる人間として、私は現地でその理由を確かめたかったのです。

0.事前準備でシリコンバレーの猛者達から言われたこと

今回のアメリカ滞在は日本の輸出振興機構であるJETROさんが呼びかけたものでした。日本全国から海外進出を希望するベンチャー企業を募り、審査ののちに選ばれた8社が無償でトレーニングとアメリカ市場への挑戦のチャンスを与えるというものです。

会社の説明やなぜ自分たちの製品が優れているのかといった必要事項を英語で書き、審査に提出してから1ヶ月後無事合格の報せが届いたのですが、その時点で私は正直に言うと「楽勝だろう」と思っていました。我々はすでに国内でKDDI∞ラボで観客賞を頂いたりAmazon Launch Padで6ヶ月以上一位を獲得するなど実績があったからです。

しかし、秘伝タレのように社内で共有されなんども使われてきたプレゼンテーションを英訳し、自信満々でトレーニングに臨んだところ、その予想はあっさりと裏切られました。

JETROさんが講師として招いたのは、ただの英語教師ではなく、US Market Access Centerという外国企業のアメリカ進出を助けるコンサルティング会社のコンサルタントたちで、全員シリコンバレーで起業し自分の会社をバイアウトした実績があり、かつ今も企業のCo-CEOや投資家として現役でビジネスを行っている猛者たちでした。

ですので、

「君たちのプレゼンは息子自慢だ」

「販売チャネルとプロダクトロードマップのないプレゼンなんてあり得ないな。もしかして今まで考えたことが無かったんじゃないか?」

安い、早い、質がいい、はトリレンマだ。3つ揃ったソリューションなんて嘘だし、逆にいえば、そのうち二つを満たしていなければ製造プロセスに問題がある。君たちの製品は安くないしリリースが遅い

などと痛いところを見透かされてしまいました。

また、一番きつかったのは、こちらが心血を注いできたプロダクトのコンセプトやデザインを説明してもそんなのは金でなんとかなると一蹴されてしまうことでした。

「他のアプリとは違ってバックグラウンドで動き続けることに特化している?そんなのは君の会社のアプリエンジニアを引き抜かれたら終了じゃないか(笑)

「『世界一小さい』だとか『バッテリーが一年保つ』みたいな技術的なアドバンテージだって競合が100億円持ち出して君達の製造者を買収すれば一発で覆されるよね?

私は思わず「そんなことあるかいな」と叫びたくなったのですが、一方でテスラの引き抜きやApple社による巨額の買収は有名ですし、また、シリコンバレーの大手企業間の秘密の引き抜き禁止協定に対して裁判所がノーを突きつけたのは記憶に新しいです。

引き抜き防止訴訟で、Apple、Googleらに4.15億ドルの支払い命令 | TechCrunch Japan
合衆国地方裁判所のLucy Koh判事は今日(米国時間9/2)、シリコンバレーの引き抜き防止協定訴訟で、 4.15億ドルの和解成立を認めた。この金額は、 以前の和解金3.24億ドルが少なすぎる として却下されたのを受けたものだ。 ...
http://jp.techcrunch.com/2015/09/04/20150903apple-google-other-silicon-valley-tech-giants-ordered-to

若者が頑張っている姿とポテンシャルを見る日本のプレゼン文化とは異なり、彼らは「シリコンバレーにはうなるほどお金があるし、あらゆることが起こりうる」というシニシズムを容赦なくぶつけてきます。

なので私は「相手にいくらお金があってもどうにもならない、交換不可能な我々の価値はなんだろうか?」という問題を長い時間考えました。

そして、どんなにお金があっても切り替えることが不可能な我々が製品に用いている通信規格と、一人二人を引き抜いたところで模倣が難しいOEM生産や都内主要路線へのMAMORIOゲートウェイのノウハウと実績をもとにプレゼンを作り直し、また、事前に相手から質問されそうな20個の質問とその回答を用意してアメリカに望むことにしました。

1. アメリカは我々に対してWelcomeなのか?

ブートキャンプが終わってから2ヶ月後の9月、私とCOOの泉水とディレクターの桶本がサンフランシスコに向かうメンバーに選ばれました。

アメリカン航空での行きの17時間のフライトの中で、私は講師達から言われたことを思い出しました。

「シリコンバレーは君たちのような若者を待ち望んでいるよ。シリコンバレーの起業家の中で外国出身の非ネイティブは40%に登る。それに対してニューヨークは10%にすぎない。

「英語は学ぶべきだがネイティブのようになる必要はない。ダライ・ラマの英語を思い出せ

東京の外国人住民の割合は3%程度ですが、東京の全企業のCEOの40%が外国人で皆が彼らが完璧ではない日本語で語るトークと製品発表に耳を傾けている、といった状況を想像するのは難しいです。

寛容で、なりふり構わない人達であり、遥か未来の世界のように思えます。

しかし一方で、アメリカの話題のトランプ政権は我々のような外国人が挑戦しにやってくることをあまり好ましく思っていないようです。

How to earn 'points' under Trump's immigration plan
The plan mimics systems used by Australia and Canada, which Trump has often praised, in awarding points to potential immigrants based on broad categories. The 140,000 visas available annually under this system would be distributed to the highest point-get
http://edition.cnn.com/2017/08/02/politics/cotton-perdue-trump-bill-point-system-merit-based/index.html

もし上記の記事が正しければ、「若くて独身で英語ペラペラで年収1500万以上のオファーを受けている理系の研究者以外の人間はアメリカに来るな」と言われているようにも思えます。

「もしアメリカに進出したら自分たちは現地でやっていけるのだろうか?」

そして、プレゼンを書き直し、それでも時間が余ったので映画を2本見、くたくたになってサンフランシスコ空港に降りると、さっそく手荒い歓迎が我々を待ち受けていました。

「これ、Tileじゃないですか!!」

同行していた桶本がそう言ったので駆け寄ると、そこにはアメリカ家電量販店大手のBest Buyの自販機が。そして、その中にはMAMORIOの競合製品である落とし物防止タグのTileが売られていました。

競合のTileに関してはすでに「欧米で累計1000万個を売り上げている」という情報を得てはいたのですが、「欧米」という地域が曖昧でかつ累計の個数であり、またIOT家電や落とし物防止タグというマーケットにどれくらいポテンシャルがあるのかも未知数だったため、具体的にどの程度人々に普及しているのかはよく理解していませんでした。

「すごい、自販機の下にもバッチリTileの広告が入ってますね!」

「アメリカって日本の駅と同じくらい空港があるんですよね?こんなのが全部の空港にあったら僕らが入っていく余地ってなくないですか?」

InMotionという空港内の家電量販店でもスマートウォッチや音声アシスタント機と並んでTileが売られていました。

我々の想像以上にアメリカ市場ではIOT家電が認知されており、また、価格が安くすぐに使える22ドルのTileはその代表格としてあらゆるところに普及しているようでした。

「海外で競合他社が既に地位を占めている」という事態に対しては「であれば我々は進出すべきでない」と「だからこそ我々はこちらに来られる前に現地で勝たねばならない」という二通りの捉え方ができますが、いずれにせよ日本にはアメリカの流行が3年遅れでやってくるという状況は私達の業界においても健在であり、それは現地に行かないとわかりませんでした。

それらを目の当たりにした我々は「今回の滞在ではアメリカで流行っているサービスを使い、アメリカ人が買っているものを買い、アメリカ人ライクに過ごすことをコスパよりも優先しよう」と決意しました。

②に続く

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