行政や医師会とのコミュニケーションを担う川田さんに「X-Tech」を支える仕事について聞いてみた

メドレーが提供する医療に関わるプロダクトは、関連する法律などをもとにした適切な開発や運用が必須です。しかし「オンライン診療」などの全く新しい領域においては、明確なルール作りを同時並行で進めながら業界が出来上がることもあります。

こうした業界の下地づくりをするために、行政や医師会などとのコミュニケーションを担っている医師・川田に、実際どんなお仕事をしているのか、「X-Tech」において関係各所との連携がどう重要なのかなどについて、聞いてみました。

患者さんが、そもそも治療を必要としない世界を目指して厚生労働省へ

平木:「私がメドレーに入社した理由」の連載に、初期研修の2年が終わった後、厚生労働省の医系技官になったとありましたよね。医師って、初期研修後は専門科を決めて後期研修に進むものだと思っていましたが、臨床現場への興味はあまりなかったんですか?

川田:いえ、後期研修は形成外科に進もうかなと思ってました。命に直接関わることは少ないかもしれませんが、生活の質を高める医療に興味があって。形成外科で、乳がんの術後の乳房再建などがやりたかったんです。手術のあとが気になって温泉とかに入れない、というような方の力になりたいと思ったんですよね。

平木:それでも、厚生労働省に行くことを決めたと。何かきっかけがあったんですか?

川田:生活の質を高めるという意味では一緒なんですが、全体的な話としてどうやったら多くの人がワクチンを打ちにいくんだろうとか、体に悪いと分かりつつ味の濃いものを食べる人の行動を、どうしたら変えられるんだろうとかにも興味があって。

平木:自分で言うと、体に悪いとわかっててもタバコを吸い続けているとかですね(笑)。

川田:そうです(笑)。詳しい経緯はブログにもありますが、ある授業で、100人の高血圧の人のうち、なにもしないと1人が脳卒中を発症してしまうという設定で、全員が降圧薬を服用する費用と、脳卒中を発症した1人に治療を行う費用を試算したことががあって。その時、個人的に「脳卒中の治療」よりも「脳卒中を発症しないで過ごせる仕組み」の方に興味が湧いたんですよね。

でもその研究者は、「学問では試算はできるけど、同程度の費用がかかる場合、どちらを採用するか決めるのは行政だ」と言っていたんですよ。それで、科学的な証拠と世の中の価値観を調べながら、結果的に多くの人が幸せに過ごせる施策を選ぶ仕事に就きたいと思って、厚生労働省に興味を持ちました。

平木:そうやって聞くと、選択の根底として考えていたことは、形成外科と厚生労働省で変わらない感じがしますね。

川田:形成外科は目の前の人、厚生労働省は顔が見えない大勢を救う仕事ですよね。どちらに進もうか悩んでいたら「違うと思ったら戻ってきなよ」と病院の上司が後押ししてくれたんです。それで厚生労働省の「医系技官」(医師が行政官として働く専門職種)に転職しました。

平木:医系技官になる医師ってどのくらいいるんですか?

川田:医師全体の0.1%行かないくらいで、すごく少ないです。2年やってみて合わなかったら臨床に戻ろうと思って飛び込みましたけど、集団に対して働きかけていく厚生労働省の仕事は楽しくて、結局3年ほど働きました。

平木:それでもメドレーにきたのはなぜなんですか?

川田:きっかけは、たまたま知り合いになった(メドレー代表取締役医師の)豊田から、厚生労働省の仕事に関して小さな相談事を受けたことでした。そこで自分の興味関心などについても話していたら、オンライン診療アプリ「CLINICS(クリニクス)」の普及に興味がないかと誘われたんです。禁煙や生活習慣病などの通院継続を支援できるという面で、予防医療という自分の興味とあっていたこと、民間企業に行くことで、より一歩踏み込む形で多くの人の行動を変える取り組みに関われるのではと思ったことで、決めました。

複雑で多様な関係者と、業界のあるべき姿を議論する

平木:普及に携わるといっても、メディアとやりとりする、いわゆる広報活動とは違いそうですよね。今は、具体的にどういうことをしてるんですか?

川田:行政をはじめとした関係各所とのやりとりを担っています。大きくは3つの仕事をしていて、まずは厚生労働省などの関係省庁や、医師会など関連組織とのやりとり。次に、CLINICSを導入する医療機関の方に業界の最新情報をお伝えすること。最後に、研究機関と協力して、オンライン診療の医学的な効果などをまとめるというものです。

平木:国や医療機関とのコミュニケーション全般に携わるイメージですかね。難しそうな印象ではありますけど、具体的にここが難しいとかありますか?

川田:厚生労働省一つとっても、組織構造は複雑です。例えば私がいた健康局という部署は、がんや感染症などの病気ごとにチームがわかれています。でも医政局という部署は、医師、薬剤師、看護師などの職種や病院の機能ごとにチームがわかれていたりするんです。

平木:縦割りの基準が、部署ごとに違うと。

川田:そうなんです。それで、厚生労働省の中でも、局ごとに考え方が違います。厚生労働省と経済産業省と大きな単位になると、さらに考えていることが違います。医師会と厚生労働省もまた違う。しかも皆さんの意見は、それぞれの立場で正しいものなんですよね。こうした状況の中で、その業界のあるべき姿を議論するのはやっぱり難しいですね。

平木:X-Techと言われるような、ベンチャーが新たなプロダウトで業界を変えて行くという動きは、どの領域も国のルールとの調整が必要でしょうから、医療に限らず同じ苦労はありそうですよね。

国もX-Techが起こす変化を後押ししてくれている

平木:川田さんが入社した時期から、オンライン診療の診療事例が増えてきて、国としても具体的な運用ルールづくりが進み始めましたよね。このルールづくりに向けた行政とのコミュニケーションも、色々やってるイメージです。

川田:そうですね。国としても一番足りない情報は「現場で何が起きているか」だったりするので、医師や患者の実際の活用事例や、こういう状態になれば適切な業界づくりが進むのではという意見をお伝えしていきました。

平木:オンライン診療は、厚生労働省が「全国で実施しても問題ない」という通知を2015年に出してから2年と少しで、保険診療のルール(診療報酬)の中にも「オンライン診療料」などの項目が新設されました。これってかなりスピード早い動きだと聞きましたが、やっぱりそうなんですか?

川田:通常、診療報酬の改定って、2年間色々議論してようやく1点上がる、というような世界なんです。そんな中で、全く新しい項目が設置されたのは、やはり画期的なことだと思います。私は厚生労働省時代、診療報酬の担当ではなかったですけど、国として新しい枠組みを作るというのが大変ということは知っているので。

平木:おお、やっぱりすごいことなんですね。CLINICSにエンジニアとして関わって思ったのは、X-Tech的な業界って、プロダクトだけを広めようとしてもダメで、まず関連する業界全体の下地ができることが大事ですよね。自社だけでなくて業界全体として理想となるビジョンを関係者とシェアして行く必要があるのかなと感じてます。

(1対1の意見交換だけではなく、医師会や学会などでオンライン診療について講演することも)

川田:X-Techのような新しい動きを国と連携して作る動きは、最近はやりやすくなっていると思っています。国としても法律的に想定されていなかったりグレーな状態のものを、まずはやってみようという取り組みも進めているんですよね。サンドボックス制度などの具体的な施策も出てきていますし。

平木:なるほど。技術や運用的にはいけそうと確認した後に、法律的な側面が後追いで検討されていくのかもしれませんね。

川田:正式にルールが整備されるのは後追いにならざるを得ませんけど、変わる準備ができてきたぶん、そのタイムラグは短くなっているのかもしれません。

ベンチャーから、医療の未来をつくる

平木:ちなみに休日は何してるんですか?

川田:休日……料理してますね。

平木:おお!

川田:平日は全然しないんですけど(笑)。最近ストウブっていうすごい重い鍋を買って、煮込み料理にハマっています。

平木:ストウブ、気になるんですよね、いいなあ。って言っても、自分が料理するときは、全部材料を買ってきて手間暇かける漢の料理になるんで、ほとんどやらないですけど(笑)。

川田:私は、夫と料理のレベルがあんまり変わらないので2人で料理してる感じです。

平木:そういうの良いですねえ。診療報酬とかの話から、一気に日常感が出てきました。いや、でも今回川田さんの話を聞いて改めて、行政や医療機関と協力しながら、実際に業界の未来が作られている最中にいるのだなと実感します。

川田:ルールってネガティブに思われることもありますが、こうして具体的なルールができることで、新しい仕組みが発展しやすくなると思うんです。新しいことって、既存のものとの整合を取らないと、業界内でもぶつかっちゃうじゃないですか。省庁は国レベルでその調整をしてくれる存在なのかもしれません。

平木:なるほどなー。

おわりに

メドレー社内でも、かなり珍しい仕事をしている川田さん。ぶっちゃけどんなことを日々やってるんだろう?と思って話を聞いてみることで、医療xインターネットが起こせる変化の可能性を改めて知ることができました!

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