「心理的安全性」という言葉に、ここ数年注目が集まっています。
チーム内で気兼ねなく発言できる、挑戦して失敗しても人間関係を損なわないという安心感がある。そしてそれが、生産性向上の秘訣である……。
明確な定義があるわけではないですが、よく言われているのはこんなところでしょうか。
役職による上下関係がないティール型組織を目指すNPでも、社員一人ひとりの心理的安全性を高めることを重視しています。そのために、コーチングの専門家「かずさん」をお呼びして、お互いの価値観や人となりを共有し合うワーク、「かずさんワーク」を開催しています。
今回は、「かずさん」こと株式会社グローバルコーチングの大村和広さんと、NPの人事担当の片桐大輝との対談をお届けします。なぜ心理的安全性をここまで重視するのか、また研修ではどのようなことが行われ、何を大切にしているのかなどを語ってもらいました。
ありのままの自分を受容してもらえる安心感
(左)片桐大輝 (右)大村和広さん(通称:かずさん)
ーまずは軽く自己紹介をお願いします。
かずさん
「旅するコーチ」の大村和広です。経営者向けコーチングや、組織の活性化を目指した企業での研修、対話の場づくりなどを行っています。
片桐
ネットプロテクションズ新卒5年目の片桐大輝です。人事グループに所属してからは2年ほど経ちました。新卒研修をおこなったり、心理的安全性が社内で広まるようさまざまなコンテンツを企画したりしています。
ー「心理的安全性」をどのように捉えていますか?なぜ社内に広めたいと思うようになったんですか?
片桐
「自分が受容してもらえる安心感」ですね。仕事をしていると「仕事用の顔」になるのが一般的であって、普段のありのままの自分を出すことってないですよね。でも「仕事用の顔にならなくては」という縛りがあると、その人の自然な考えや言動を抑え込まなくてはならない場面も出てきます。こんなこと言ったら否定されるんじゃないか、馬鹿にされるんじゃないかという不安も抱えることになる。心理的安全性は、そういった不安を抱えることがない、ありのままの自分を出しても全部受け止めてもらえる、という安心感だと思っています。
かずさん
なるほどねぇ。ぼくも同じように考えています。普通、会社という組織の中で出すのは自分の一部だけ。自分の「強み」や「仕事に関係のある能力」を出しますよね。
でも心理的安全性の高い組織内では、自分全体をありのままに出せる。その人の全体性を会社内で表現できるんです。
個々人が本音を出しやすく、やりたいことを相互理解できる風土を目指して
片桐
2年ほど前までのNPは、事業を前に進めようという雰囲気が強い時期でした。だから「仕事の会話」の比重が高く、個人的なことや感情は出しづらかった。でも最近、事業フェーズの変化や会社の拡大などによって、みんながやりたいことにチャレンジできる機会が増えてきました。そうなると、個々人が本音を出しやすく、やりたいことを相互理解できる風土が必要になります。そこで全体的にもう少し会話を柔らかくしたり、コーチングのエッセンスを取り入れたりできたらと考え、心理的安全性に注目するようになって。当初は社内にコーチングの知見を持つ人がいなかったので、NP社員とつながりのあったかずさんにオファーを出しました。
かずさん
まずはマネジメント層がコーチング的な手法で若手を育成できるように、マネージャー向けのコーチング研修を実施しました。 また、新卒社員がスムーズに同期や先輩社員と信頼関係を築けるように合宿を実施したり、部署や役割を一旦取っ払って人と人として関わり合う「3rd Space」という場を不定期で開催したりしました。心理的安全性って、一方通行じゃなくて相互に信頼し合えることが大切。だからできるだけエッセンスが全員に行き渡るように、いろいろなワークを実施しています。
片桐
現在のNPではマネージャーという役職を廃止して、よりフラットな組織体にするための人事制度を導入しています。上辺だけの制度にならず本当に協調し合うためにも、「心理的安全性」という言葉が独り歩きせず、ひとりひとりが大切にできるようになることを目指しているんです。
ワークの内容は、お互いの人となりや価値観の共有がメイン
ーかずさんワークってどんなことをするんですか?どんなことに気をつけて実施していますか?
かずさん
かずさんワークって言われると恥ずかしいですね。それぞれのワークショップにはタイトルがあるんですが、共通している内容としては、お互いの人となりを共有することや、話を聴くための練習をすることです。
普段仕事で接する人でも、その人が今までどんな人生を歩んできたのか、どんなことが「喜び」、「悲しみ」なのかを知る機会ってなかなかありません。だからワークでは、各々のライフストーリーを話したり、「今までなにかチャレンジをした経験」などといったテーマでひとりひとり語ったりして、大切にしたい価値観を聴きあっています。
実際のワークで使われた、ライフストーリーのグラフ。自分にとってインパクトの大きかった出来事や、感情の揺れなどを共有し合う。
そしてその人の大事な部分をしっかり扱えるように、傾聴の練習をします。ビジネスでの会話では、「話をきく」ということを、分析や議論のためにおこなうことが多い。だから聞き方としても、事実や原因にフォーカスを当てることになります。
しかし相手を受容するため、受け止めるためには事実や原因だけでなく、感情や背景にあるものまでを受け取るような聴き方が必要になる。相談や悩みを打ち明けられたときにもビジネスのような話の聞き方をすると、相手も大事な部分を出しづらくなってしまいます。
そういった聴き方のトレーニングって、学校などではなかなか受けないんですよ。でも相手に寄り添おうというスタンスを持つだけで、傾聴力はグッと上がります。だからいろいろなワークを通して、練習を重ねるんです。
傾聴に焦点を当てたワークの様子。かずさんから傾聴のエッセンスを教わった後、実践のパートが設けられている。
「ビジネスの場」とは違った空気感づくりにも気を配っている
片桐
ワークをするとき、空気感づくりにも気を配っていますよね。
かずさん
そうですね。「ペース」や「場所」を、いつもの「ビジネスの場」とは意図的に変えるようにしています。
「ペース」に関して言えば、ビジネスの現場は速いし忙しい。みんなちょっと前のめりでロジカル、ついつい話も白熱しがちです。それはビジネスの場では必要なことだし、大事なことです。しかしペースが速いままだと、感情や気持ち、その人の大事な部分は扱いにくい。出しても否定されたり、切り返されたりするんじゃないかと不安になってしまうんです。だから一時間半のような短い時間ではなく、半日から丸一日、たっぷりと時間をかけて行うようにしています。
「場所」についても、普段の会議室とは雰囲気を変えることを意識しています。古民家のような場所で座布団に座りながらワークをしたり、合宿も自然豊かな場所に移動したり。そうすることで、五感を刺激して自分の感情にもアクセスしやすくなったりします。普段は、話さないようなことも非日常の中にいるとぽろっと話したりします。それもちょっと狙いだったりします。
このときの合宿は、山梨県まで移動して行われた。チームごとのワークでは、屋外に出て話すチームも多い。
片桐
ファシリテーションをする上で盛り込んでいるエッセンスもあります。例えば、グランドルール。「ワーク内で話されたことを他言しない」「相手も自分も尊重する」など、気持ちよくワークに臨むために、これだけは守ってほしいというルールを定めます。またワークの初めに、そのとき感じていること、気がかりなことなど、なんでもさらけ出す「チェックイン」という時間も設けていますよね。チェックインを行うことで、「ここでは何を話しても、何を出しても大丈夫だよ」という安心感を抱いてもらいやすくなります。
かずさん
チェックインの効果のもうひとつ大切な要素が「今ここにいる」という実感をもってもらうこと。話をしているときや聞いているとき、心ここにあらずの状態を誰もが経験しますよね。でも、それってもったいない。
だから、そのとき自分が感じていることに意識を向けることで「今ここにいる」ということを実感してもらえるようにもっていく。自分の内側をクリアにして、自分のいるところに注意を向けやすくするという効果がチェックインにはあるんです。忙しくて乗り気でなかった人も「本当によかった」と言って帰っていく。
ーワーク中の雰囲気はどのようなものですか?
かずさん
何をするかわからない状態で参加するから、はじめはザワザワしているんですよね。不安と期待が入り混じっている。
でもワークが進むにつれてみんな集中するから、ある場所では活気が出てきたり、別の場面では静かになったりして、最終的には満たされた気持ちで帰っていきます。
「会社ではこういう会話はなかなかできなかった」「人と人とでこういう話をするのは大切なことなんだ」というのを心で感じてもらえるようです。
チェックインが始まる前の様子。ワークの内容は、事前に明かされないことがほとんど。
片桐
ワークが始まる前、忙しい人は特に乗り気でない状態で参加していることも多い。どのワークも半日や丸一日など時間をかけますから。
かずさん
チェックインで「忙しいのに、時間取られて嫌だなぁという気持ちで来ています」って言うからね(笑)。
片桐
そうそう(笑)。そういう人でも、最後には「本当に良かった」と言って帰っていくんですよ。
感動する体験を得て、短期間でも変化が見られる
かずさん
新卒社員と先輩社員の関係性にも変化が見られたこともあります。はじめのうち先輩社員は「仕事だから、新人の面倒を見なくちゃ」と思っていた。でも丸一日のワークを終えて相互理解が深まってくると「人として応援したい、という気持ちに変わった」と言っていました。
片桐
短期間でも、すごい変化が見られますよね。
かずさん
傾聴の練習でもそうですね。「聴く」というトレーニングを受ける前は、話を聴いているつもりでも自分のことを考えていることが多い。でも、自分の頭の中身は一旦脇に置いておく、という練習をして相手の全体を受け止めるような聴き方ができるようになると、今度は話を聴いてもらった側が「聴かれるってこんな感じなんだ」と感動する体験を得られて、他の人に対してそれを実践しようとする。ワークの最中から、変化が起き始めるんです。
ワークを実施したことで、お互いがより踏み込める関係性に変わった
ー数々のワークを実施して、社内にはどのような変化が起きていますか?
片桐
関係性の質が変わりましたね。NPには、業務で関わりの深かった人たちから半期に一度、評価コメントをもらう制度があるんです。これまでは自分に向けて書かれたコメントには、表面的なことが多く書かれていた。でも最近では「もっと~できるはず、~してもらいたいな」とリクエストもされるようになってきました。
お互いがより踏み込める関係性に変わったからこそ、言いづらいことも言えるようになってきたんでしょうね。それまでは、相手との関係性を壊さないよう相手へリクエストを伝えられないこともあったように思います。今ではむしろ「自分のことをよく見てくれている! 自分のことを考えて言ってくれている!」と、リクエストがあるのが嬉しくなってくる。
かずさん
痛いんだけど嬉しい、という感覚ですかね。心理的安全性が生まれたからこそ、相手への期待を伝えられる。相手もリクエストされた内容を「自分に期待してくれているんだ」とポジティブに受け取れるようになったということですね。
片桐
「心理的安全性」は、人の全体性を受容することだと冒頭でお伝えしましたけど、それはあるがままでいいから何もしなくてもいい、ぬるま湯に浸かっていればいい、というのとは違うんですよね。お互いに良く思っているし、良くなってもらいたいと思うから「今はできていないけど、きっとできるようになるはずだ」と期待していることも伝えられる。
だから誰もが疑心暗鬼にならず、安心して仕事をしていくのに、心理的安全性は重要な要素なんじゃないかなって考えているんです。
そしてきっとこう思っているのは僕だけではなくて、共感している人も増えている。
実際にワークを受けた人がそのノウハウ、エッセンスを持って帰って、自分の部署で同じようなワークを主体的に実施する動きも見られているんです。
かずさん
お互いを受容するための対話の場を作って心理的安全性を重視し続けることで、ますます社員ひとりひとりにとって居心地の良い、強い組織になっていくんでしょうね。
片桐
「心理的安全性が担保されていたほうが、みんなの意見が出やすく仕事を進める上で合理的だ」という考えだけではなくて「人として通じ合える、温かい組織でありたい」という願いもこもっています。今後も聴く、受け取るといったエッセンスを社内に広めつつ、より深い関係性を築けるように工夫を重ねていきたいなと思います。
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