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【セミナーレポート】欧州発のサステイナブル戦略デザインガイド『SiD』

ニューロマジックでは、SX(サステナビリティ・トランスフォーメーション)にも力を入れています。

SXワークショップセミナーも開催しており、今回はサステイナビリティ・トランスフォメーションの手法『Symbiosis in Development』の日本版ガイドブックの発行記念で開催されたセミナーレポートをお送りします。

ニューロマジックが取り組む「持続可能性」のプロジェクト、是非ご覧ください!
※この記事はSERVICE DESIGN BLOGの転載です。

2021年10月14日(木)に「欧州事例でみる『ほんとう』のSX 〜オランダ発サステイナブル戦略ガイドSiD入門 発行記念セミナー〜」を開催しました。このセミナーではNeuromagic Amsterdamクリエイティブ・ディレクターの吉田と、オランダのサステイナビリティを専門とするEXCEPT Integrated Sustainability ディレクターのTom Bosschaert氏をお招きしました。

このセミナーは、EXCEPT Integrated Sustainabilityが開発したサステイナビリティ・トランスフォメーションの手法『Symbiosis in Development』の日本版ガイドブックの発行記念で開催されました。この記事では、セミナーのハイライトをお伝えします。なお、Symbiosis in Developmentガイドブックの詳細についてはこちらからご覧ください。無料でダウンロードいただけます。


■Tom Bosschaert氏
EXCEPT Integrated Sustainability 創業者。長期的な視点でのサステイナビリティのために、世界中でイノベーティブなプロジェクトに取り組んでいる。


オランダにおけるサステイナビリティの背景

まず始めに、吉田より日本とオランダのサステイナビリティに関する背景の違いをご紹介しました。


「日本ではサステイナビリティというとSDGsを頭に浮かべる方も多いかと思いますが、ヨーロッパでは2015年に採択されたパリ協定が重視されることが多いのです。また2019年には欧州委員会で欧州グリーン・ディールが掲げられ、ありとあらゆる企業や組織がこの達成に向けシフトしています。

また、欧州での大きな特徴は、サステイナビリティが成長分野としてみなされていること。日本ではCSR(Corporate Social Responsibility)の延長線として、足枷になるけれどもやらなければならないこと、と思われがちなところが大きな違いです。

北欧諸国もサステイナビリティの分野では先進的であることで有名ですが、オランダは商売人気質があり、どちらかというとビジネスの儲かる分野として取り組まれているというのも1つのポイント。日本の皆さんも、サステイナビリティの捉え方を変えて、今後ビジネスを成長させるための戦略と認識すると、いろんなことが変わって見えるかもしれません。」

パネルディスカッション:サステイナブル戦略ガイドSiDとは?

Except社 Tom氏とNeuromagic Amsterdam吉田のパネルセッション形式でサステイナビリティとSiDについて理解を深める対談を行いました。

SiDとは?

まず、SiDとは何か。Tom氏は20年以上この分野で経験をもつ専門家ですが、長期的なサステイナブルプロジェクトに取り組むにあたり、必要に迫られて作成したツールだと言います。

「20年前に科学者、デザイナー、ビジネスパーソンたちと一緒に開発したもので、SiDは、

  • サステイナビリティについて理解するための理論
  • 実践的なメソッド
  • さまざまなステークホルダーと共にプロジェクトを進めるためのプロセス

の3つの要素を含んでいます。これまでにSiDを使って数百のプロジェクトを世界中で取り組んできました。」


SiDの特徴

「SiDは、他のサステイナブル・トランスフォメーションのフレームワークとは異なり、次のような特徴をもっています。」

  1. システム思考と統合思考:エネルギーや環境問題といったサステイナビリティの一つの側面だけをみるのではなく、あらゆる側面を考慮する。
  2. 共通言語:SXは1社、1人で取り組むことはできず、多くのステークホルダーが必要になる。こうしたリサーチャー、デザイナー、エンジニア、ビジネスパーソンなど異なる分野のステークホルダーの間で共通認識を生み出す。
  3. 実践的なメソッド:理論だけでなく実行にもフォーカスを当てており、小さなプロジェクトから大きなプロジェクトまでに応用することができる。

やらなければ良かったと後悔するプロジェクトをなくすために

Tom氏はSiDを開発した背景として、自身の失敗談を語りました。

「EXCEPTをはじめ、サステイナビリティに取り組み始めたのは19歳の時。世界に良い影響を与えたいと考えていました。

最初に行ったプロジェクトの1つは、公共住宅で、照明を省エネの照明に取り替えるというプロジェクト。省エネになるし、人々がエネルギー利用について考える良い機会になると思っていました。しかし、このプロジェクトの後、この照明はとても毒性の高い水銀を使用しているということが判明。良かれと思って行ったプロジェクトだったが、エネルギー消費を減らすということの代償に、自然に悪影響を与えてしまったのです。やらなければ良かったと後悔しました。

この時、世界が本当にサステイナブルになるために、自分たちのすることが世界にどんな影響を与えるのかを注意深く理解するフレームワークが必要だと感じたのです。これがSiDを開発し始めた理由でした。」


「開発していくにあたり、これが自分がやっていることの影響を理解するだけでなく、イノベーティブで新しい機会を見つけるための手法でもあるということに気がつきました。SiDはどんなネガティブな影響を与えてしまうかを事前に把握するだけではなく、これまでに気づかなかった新たなソリューションの可能性を見出せるツールでもあるのです。」

表面的な変化ではなく、根本的な変化を

Tom氏の経験談にもあったように、サステイナブルになろうとして意図せずに悪い結果を呼び起こしてしまうことは、頻繁に起きる現象なのでしょうか。Tom氏はこう語ります。

「世の中には、ポジティブな影響を与えようと取り組んでいるプロジェクトが多くありますが、残念ながら過去の過ちを繰り返しているものがほとんどです。これは、誰の特にもならない。私たちのもつ資源ーお金や時間を最大限に生かすには、表面的な変化ではなく、根本的な変化を起こさなければなりません。

では根本的な変化を起こすためには、何から始めたら良いのでしょうか。

新たな視点にオープンになること。全てが繋がっていることを理解することです。何か一つの変化を起こすと、これが繋がっている他のどこかに影響を及ぼします。もし全体像を見ていないと、意図していなかったネガティブな影響を起こしてしまうことになる。私たちは皆、繋がっているということを理解しなければならないのです。」

SiDの特徴にもあった、システム思考、統合思考が真のサステイナビリティにはいかに重要かということですね。

サステイナビリティプロジェクトで陥りやすい罠

Tom氏はサステイナブルプロジェクトに取り組む際、人々がよく陥ってしまうのは以下の2つのポイントだと言います。

「まず第一に、人は事前に考えた、こうなるべきだという結果のアイデアから始めてしまうことがほとんどです。完全にオープンになって、都市や企業、システムを変えるための最善の方法は何か?と探る前に、たいていはソリューションをすでに頭に描いています。このように事前に結果のアイデアが心の中にあると、より影響力のある変化を起こすための機会を失うことに繋がってしまうのです。

もしハンマーだったら、全てが釘のように見えるという英語の諺があります。例えば、もし建築家であればソリューションは建物のデザインを考えますよね。でも、実際に問題のソリューションは建物である必要はないかもしれません。Outside of the Boxで考えることが重要なのです。

第二に、エネルギーや環境などサステイナビリティの限られた側面しか見ない人がほとんどだということ。文化や経済などの側面も包括的に考えたり、ステークホルダーと共に取り組むことを忘れてしまうと、良い機会を失ってしまったり、意図しない望まれない結果を引き起こしてしまう可能性があります。」

サステイナビリティプロジェクトで陥りがちなポイント

  1. ソリューションの先入観をもつことで、より良い影響を与えることのできる変化を起こす機会を失ってしまう
  2. サステイナビリティの一定の側面しか考慮せず、ステークホルダーを巻き込まないことにより、意図していなかった望まれない結果を起こしてしまう。

サステイナブルなモノは存在しない

実際に、SiDを使ってサステイナブルプロジェクトに取り組むとしたら、どんな風になるでしょうか。例えば、サステイナブルな飲料をつくる、というプロジェクトだとしたら、どのように取り掛かれば良いのでしょうか。

「最初に認識しておかなければならないのは、サステイナビリティはモノではなく、社会に属するものだということです。『サステイナブルな飲料をつくる』を『飲料が社会にどんなサステイナブルな影響を与えることができるか』というふうに考え方をシフトしなければないのです。

ここから始めると、飲料の製造プロセス、製造に関わる人、輸送…というふうに、エネルギー、自然、経済、文化などのさまざまなレイヤーが関わってくることがわかります。これら全ての要素がどのようにシステムに関わっているかを明らかにし、どのようなネガティブなインパクトとポジティブなインパクトが起きるかを分析するのです。」

「例えば、コカコーラを見て『これはサステイナブルか?』という質問を考えるとき、誰が作ったのか、どこで作られたのか、原料は何か、飲んだ時に人々の健康にどんな影響を及ぼすのか、経済にはどのような影響を及ぼすのか、などさまざまな側面を考えなければならなりません。だから、実際に考えたいのは、コカコーラのサステイナビリティではなく、コカコーラが及ぼす社会のサステイナビリティ。この視点の転換が重要です。」

プレゼンテーション:世界各国企業・自治体のSiDを利用したサステイナブルトランスフォーメーションの事例

セミナーの最後には、EXCEPT社 Tom氏がSiDを活用した事例を紹介しました。

IKEAカタログから印刷業界全体をサステイナブルに

「このプロジェクトは、IKEAがカタログをサステイナブルにしてほしいと相談してきたものです。7年前に始まり、IKEAカタログが廃止になるまでEXCEPT社がずっと手がけていました。」


「まず最初に、カタログが生産される過程のサプライチェーンを全て分析しました。システムの中でどこに介入したら、サステイナビリティを向上できるかを判断するためです。」


「そして、分析の中で意思決定のボトルネックとなっている箇所を発見しました。それは、どのサプライヤーに製紙してもらうか、そしてカタログを印刷してもらうかの意思決定をするポイントです。IKEAのカタログは世界中で最も出版されている本だったので、私たちはこれを改善するということは世界中の製紙、印刷システムに変革を起こす機会だと捉えました。」


「そこで、私たちはあらゆるサプライヤーのサステイナビリティパフォーマンスを自動的に計測するツールを開発しました。どのサプライヤーが良いパフォーマンスを出しているのかを可視化できるようにしたのです。これにより、サステイナビリティレポートを完全に自動で作ることに成功し、サプライヤーたちは、自社が競合と比較してどのポジションにいるのかを見ることのできるようになりました。」


「黄色や赤のようなパフォーマンスの低いサプライヤーは、投資をしてパフォーマンスの改善を約束しなければならないことになりました。こうした仕組みをつくることで、IKEAのカタログだけでなく、製紙、印刷業界全体のサステイナビリティパフォーマンスに貢献することとなりました。

結果として、毎年285,000 バレルの石油が採掘されずにすむというインパクトのほか、50万ユーロ以下のプロジェクトで、5,000万ユーロ以上のコストを削減したという結果を生み出しました。」

「この事例を見てわかるように、システム思考を取り入れることで、小さな変化でも非常に大きなインパクトを与えることができ、さらにこの影響が年々増えるのです。」

終わりに

サステイナビリティとはモノではなくシステム全体の状態を指す、またそれはサステイナビリティの特定の側面だけをみるのではなく、総合的に捉えることで実現できる、ということがおわかりいただけたでしょうか。非常に複雑なサステイナビリティですが、SiDではトランスフォメーションを実現する方法をわかりやすく解説していますので、よろしければ日本語版ガイドブックをご覧ください(こちらより無料でダウンロードいただけます)。

このレポートではIKEAカタログの事例のみご紹介していますが、セミナーではこのほかにサステイナブルな食糧生産、コミュニティと建築、サステイナブルな都市の3つの事例もご紹介しました。ご関心のある方は、ぜひお気軽にお問い合わせください。

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