one visa は現在カンボジアに教育施設「 one visa Education Center」を開校し、人材の教育事業を行っています。
その背後には one visa と産学連携を結び、カリキュラムの作成から現地での教員研修までを担う関西大学 池田研究室の存在があります。
本記事では カンボジアでの教育事業に参画した思いと、プロジェクトを通じて実現したい世界について関西大学の池田教授にお話を伺いました。
世界観への共感と研究対象としての興味で参画を決意
one visa と産学連携を結ぶことを決めた理由を教えてください
前提として、人材本人に経済的な負担を強いることなく、海外人材が日本へ来て活躍できて、教育からその機会を作るという one visa が目指す世界観に共感したというのがあります。
また、研究の対象という意味で非常にピュアなサンプルが集まるという面白さも魅力的でした。
大学の日本語教育の現場で日本語を教える場合は、学習者が何らかの形で日本語を学習したことがあったり、教室の外でも日本語を使ってアルバイトをしていたり、自分で学習をしているケースが多いです。また、言語習得において学習者の母語は非常に大きな変数となりますが、これもバラバラです。
なので、効率的な日本語の学習方法を研究しようと思った時に、何をしたらどのように日本語能力が伸びるのか調べようとしても、綺麗なサンプルを集めて検証することが非常に難しいんです。
統計的なノイズを排除してある程度綺麗にしたとしても、完璧にピュアなサンプルを集めることはできません。
一方で、Education Centerで取り組んでいる教育の現場では、ほぼすべての学生が0から日本語の学習を始めていて、クメール語という同じ母語の人たちが集まっていて、インプットするものもこちらが用意したものしかインプットしないという環境なので、非常にピュアなサンプルが集まります。
何をしたら日本語能力が効果的に伸びるのかを研究するにあたって、この環境は非常に魅力的でした。
現地の先生に対しては「体験して理解してもらうことが必要」
現地の先生に教授法を教える際に、日本でのやり方とのギャップはありますか?
ギャップ、非常にありますよ。日本語教師を目指している日本人に対して教授法を教えるのと、学習者として日本語を勉強していて、教師をすることになった人に教授法を教えるのでは大きく違います。
まず、対カンボジア人の先生の場合、日本語という外国語を媒介語として聞いていることもあり、抽象的な概念を伝えてもなかなかピンと来ないようです。
通常教授法を教えるときは、言語をどのように学ぶと人間は効率的に学習できるのか、という抽象的な概念を理解してもらうのですが、現地の先生に対しては視点を変えて、どうすれば上手く教えられるか、という風に変換して伝えないとなかなか理解してもらえません。
例えば、「単語を教えるときには文脈を作って教えた方が良い」というのを教師に教える時に、教員を目指す日本人に教えるときには概念的になぜそうしたほうがいいか、というのを伝えていました。
同じことをカンボジア人の先生に教えると、口では「はい、わかりました!」というのだけれど、模擬授業や実際にクラスで教えている様子を観るとその通りにやってくれないんです。
ではどうするかというと、
「Aのグループはある単語を何回も繰り返しクメール語に訳す、Bのグループは単語を見せて、1つの単語につき3つ例文を作らせる。Aのやり方とBのやり方はどっちが覚えやすいかな?」
という問いかけをするんです。そうすると「Bですよ!」って絶対言うんです。
結果教えている教授法は同じなんですが、理解に繋げるためにはアプローチを変えないといけない、というのを学びましたね。
その際に、どういう風に教えたら効率的かというのを、身をもって体験してもらわないとなかなか伝わらないので、グループワーク形式にして体感してもらうなど工夫が必要です。
先生たちに生徒役になってもらって、ゲームをやってもらって、「楽しい!」と感じてもらって初めてこれをやらなくてはいけないと理解してもらえる。そういう感じです。
より教授法の本質を理解した上で、体験型学習をしてもらうというのが大事だなと思っています。
持続可能な未来を作るためにあえて”茨の道”を進む
お話してきたように、現地の日本語人材に教授法を教えて先生になってもらうというのは、非常に手間もかかりますし大変です。
日本人の先生を採用して現地へ送り込むほうが簡単ですが、それが持続可能かというとそうではないと思っています。世界的に日本語を教えることができる人材は希少ですからね。
また、日本語を教えるという仕事を通じて現地の人にやりがいを作っていくという意味でも、現地に雇用を生み出したほうがいいですよね。
茨の道ではあるのですが、SDGs*1的な観点でも、現地の先生をトレーニングするというやり方がベストだと思っています。
*1:SDGs:Sustainable Development Goals(持続可能な開発目標)
2015年9月の国連サミットで採択された「持続可能な開発のための2030アジェンダ」にて記載された2016年から2030年までの国際目標です。持続可能な世界を実現するための17のゴール・169のターゲットから構成され,地球上の誰一人として取り残さない(leave no one behind)ことを誓っています。
出典:外務省
one visa が取り組む ”海外で行うJSL教育” は今後重要性が増していく
日本語を教えるという文脈での one visa Education Center に特異性はありますか?
通常、海外で日本語を教えるときは、学習者の日本語を学ぶモチベーションが「日本語という言語を学びたい」「仕事に活かしたい」など様々なんです。一方で one visa Education Center の場合は「日本が仕事がしたい」というのが学生全員のモチベーションなので、ベクトルが揃っていますよね。
専門的な用語でJSL( Japanese as a Second Language:第二言語としての日本語)とJFL(Japanese as a Foreign Language:外国語としての日本語)という分け方がされますが、この違いは理解しておかなくてはいけないです。
通常海外ではJFLなんですが、Education CenterはJSLを教えている点が特殊ですね。
学術的にはこれまで大きく捉えられてきませんでしたが、これから海外で行うJSLの重要性はどんどん高まっていくでしょうね。
想定外の出来事、大きな挑戦が続き「学ぶことの連続」
プロジェクトに関わる中で、先生ご自身の楽しさのようなものはありますか?
Education Center で取り組んでいる教育は、これまで日本でやってきたものとは異なる部分が多く、現地にローカライズしていかないといけないんです。
このローカライズの過程は走りながら学んでいる部分が大きくて、「そう来るか!」っていう予想外なことが発生するのがしょっちゅうじゃないですか。
私は海外でのプロジェクトも比較的多く重ねていますし、大体のことに予測は立つようになってきているんです。それでも one visa Education Center のプロジェクトでは予想外の出来事が非常に多いので、チャレンジングですね。
先生自身もプロジェクトに携わって学ばれていらっしゃるということですか?
学びますよ!学ぶことの連続です。
気分は受験生の母!日本社会という大海へ漕ぎ出す前に「汎用的な問題解決能力を身につけてもらいたい」
池田研究室 one visa Education Center 訪問時の様子
以前、受験生の母親みたいな気分とおっしゃられていましたよね
そうですね(笑)
全く日本語ができないところから育て上げるので成長もわかりやすいですし、母親気分で学生に愛着も湧きますよね。
彼らは日本で働くことを目標にしているので、日本語を勉強している段階ではまだゴールではありません。将来的に日本という大海に一人で漕ぎ出していかないといけないので、余計に母親の気分ですね。
子育てと同じで、生まれてからずっと育ててきて、小学校、中学校、高校と見てきているような、その人の人生のフェイズに寄り添っているような気持ちです。
それが今度は会社に属すという高い壁がそびえ立っているわけですから、余計に応援と不安の気持ちです。
日本に来る前に、言葉をどれくらい習得できるかというのが、スムーズに日本での生活に順応できるかどうかの重要な要素になるので、責任を感じますよね。
当然、カンボジアにいる段階でできる限り上手になったほうがいいですし、テストに受かるだけじゃなくて、ちゃんと話せて運用できるようになってほしいです。
その点では、海外にある一般的な日本語学校ではなくて、日本での生活を見据えているので、使えるようになるという点に関してはこだわらないといけないですね。
一方で、過去教育に携わってきた経験から、人材育成において完璧な能力を身に着けさせることは難しいと思うんです。なので、何か問題が発生した時に自分が持っている汎用的な能力を応用して対応できるように、地力と精神力を養ってあげることが必要だと思っています。
どんな問題に直面するかは、その人達の人生なのでわからないわけで、それを予測することはAIでもできないと思います。
何があっても乗り越えられるような調べる力とか、人に頼る力とかをつけてあげることが、準備教育期間の要となると思います。
カンボジアの現場で教育をリードする人材を募集
one visa は「世界から国境をなくす」というミッションを掲げ、現在カンボジアで教育事業を進めています。海外で日本語教育に携わりたい人、一度お話しませんか?