「ディレクターとプロデューサーは、どう違うのでしょうか?」
そう問われて違いを明確に言語化できる人は意外と少ないのかもしれません。ディレクターやプロデューサーは、会社によって担う業務範囲や重視されるスキルは大きく異なります。「ディレクターやプロデューサーに挑戦してみたい」と思っても、会社ごとに求められる役割が異なるため、「思い描いていた仕事内容と異なっていた」と感じることもあるのではないでしょうか。
デザインコンサルティングファーム・SEESAWでは、ディレクターもプロデューサーも「プロデュース部(通称:P部)」という部署に所属し、企画から制作まで広い領域で案件に携わっています。
本記事では、SEESAWにおけるディレクター/プロデューサー像を紐解くため、プロデュース部 部長の白尾と、リーダーの井戸による対談を実施。それぞれの役割や責務、求められる能力について、二人の視点から語ってもらいました。
白尾 佳也 取締役兼プロデュース部部長(取材記事はこちら)
2009年国立音楽大学音楽文化デザイン学科卒業。その後、映像制作会社の株式会社ロボットでプロダクションアシスタントの経験を経て、ドイツ・ベルリンへ渡欧。2015年ベルリン芸術大学サウンド・スタディズ学科修士課程を修了し、2018年4月より株式会社SEESAWにプロデューサーとして参画。
井戸 隆文 プロデュース部リーダー(取材記事はこちら)
早稲田大学社会科学部卒業。出版社での実用書編集プロデューサー、デザイン制作会社での企業広報に関するWeb/グラフィックツールの企画・編集・ディレクションなどの経験を経て、 株式会社SEESAWに入社。
ディレクターは方向を示し、プロデューサーは人や事業に向き合う
── まずお二人が考える「ディレクター」と「プロデューサー」とは、それぞれどのような役割で、どのような違いがあると考えていますか?
井戸:ディレクターは、プロジェクトの制作進行として円滑に進め、期限内に完成・納品までをやりきるというところが責任領域だと考えています。プロデューサーは、制作が始まる前段階から、クライアントが抱えている「課題」の特定や、誰に・何を・どのように届けるか「ワークデザイン」から携わっているイメージがあります。クライアントの「何をすればいいかわからない」という状態から、一緒に創る感覚でしょうか。
ディレクターは「制作」に向き合い、プロデューサーは「課題」に向き合う役割だと私は考えています。
▲プロデュース部リーダー 井戸 隆文
白尾:大きな方向性としては、井戸さんと同意見です。そのうえで私は、ディレクター、プロデューサーに加え、「制作進行」を含めた3つの役割に分けて考えています。制作進行は、とにかく納品物を納期までに納めることに重点が置かれている。井戸さんが言及していたディレクターの役割が制作進行に当たるかなと。
では、ディレクターの役割は何かというと、本来の意味である「direction=方向」を示せることだと考えています。例えば「AIの台頭でSEOはどう変わりますか?」という質問を受けたときに、「AIO*が一般化してくるので、こういう対策をした方がいいです」と方向性を示せる。そのためには、日々知識を蓄えることも重要です。
*AIO=AI Optimization:AI最適化。生成AIが回答を生成する際、自社サイトが情報源として引用されるための対策
SEESAWで「ディレクション」と「制作進行」がセットで語られがちな理由は、ディレクター1名体制で進行するプロジェクトが多いからでしょう。そのため、納期までのスケジュール管理する「制作進行」と、クライアントが判断に迷った際には適切に方向性を示す「ディレクション」を、同時並行で担うため、セットで語られがちです。
プロデューサーは、「その人にとってなにがベストか」「この事業はどうあるべきか」といった人の感情や概念に対峙してアプローチする役割だと考えています。制作進行やディレクターは、制作物という目にみえるものを扱っていますが、プロデューサーが向き合う「感情」や「事業」は、形のない抽象的なものだからこそ、扱う難易度が高いと感じています。
── 一つずつお聞かせください。まず、「人の感情」に対峙するとは具体的に、どういうことでしょうか?
白尾:例えば、「人の感情」に向き合うことを意識した取り組みとして、サイトリニューアルのご依頼をいただいた際は、依頼書や仕様書に目を通すことはもちろん、その背景にある担当者の立場や想いについても、できる限りお伺いするようにしています。
私たちにご依頼いただくまでには、リニューアルを決断した背景やSEESAWを選んでいただいた理由、サイトをどのようなものにしていきたいのかといった、さまざまな経緯やストーリーがあります。依頼内容だけをもとに対応するのではなく、クライアントの想いや置かれている状況まで理解することで、本質的な課題に寄り添った、より良い提案につながると考えています。
──次に「事業」に対峙するとは、どういうことでしょうか?
あくまでとてもシンプルで分かりやすい例を挙げると、「猫カフェをやりたいのですが、どうすればいいでしょう」と相談された際に、「今は猫カフェよりも豚カフェの方が注目されていますよ」と、市場動向を踏まえながら、事業構想の段階からアドバイスを行うようなケースです。
SEESAWでいうと取締役の成田さんは、そのような「プロデューサー的な動き」が上手いです。「あの人に聞けば、物事が前に進む」とクライアントから頼られており、それはプロデューサーとしての1つの強みだと思います。
どこまでがディレクター?どこからがプロデューサー?あえて線引きしないSEESAWのスタンス
──現状、SEESAWではディレクターもプロデューサーも「プロデュース部(通称:P部)」に所属しており、両者の役割を明確に切り分けていません。そのため、案件によってはWebディレクターという肩書きのメンバーが、プロデューサーのような動きを担うこともあります。そのような体制にしている理由を教えてください。
白尾:現状の体制に対して、しっかりした思想があるわけではありません。「ディレクターとプロデューサーをしっかり分けないと、業務がしづらい」という声が高まったら、新しい体制を考え始める可能性は高いです。
私自身、約9年ほどSEESAWで働く中で、「クライアントに求められた役割で動く」というスタイルになりました。個人的に、肩書きは何でもいいと思っています(笑)。
とはいえ、P部に入社したメンバーは、働く中で「今やっている業務はディレクターなのか、プロデューサーなのか?」と迷う瞬間があると思います。そういう時は、「今はプロデューサーとして動こう」と、自分の中で役割を定義しながら進めてよいと考えています。また、「ディレクションを極めたい」といった意向がある場合は、1on1などで共有してもらい、ディレクション力を伸ばせそうな案件へアサインするといった調整も可能です。
──上流工程を担うプロデューサー的な動きができる人の方が、ディレクターより重要度が高いという考え方なのでしょうか?
白尾:どちらが偉い、という評価はしていないです。ディレクターとして制作物のクオリティを突き詰め、良いデザインを作り上げる役割も、プロデューサーと同じくらい重要です。また、ディレクターが制作物だけを見ているかというと、決してそうではありません。
「より良いものを作りたい」「クライアントの要望を正しく捉えたい」と考えて動くという点では、ある種プロデューサー的な視点も持ちながら仕事をしているとも言えると思います。
── 「ディレクター的に動く」か「プロデューサー的に動く」というのはどのように判断しているのでしょうか?
井戸:最も大きい判断軸は、受けているものが「依頼」なのか「相談」なのかだと思います。「これを作りたいので、見積もりをください」という依頼であれば、制作物に向いてディレクター的な動きが必要になります。「何から始めたらいいか」という相談であれば、その人の悩みを伺ったり、事業の課題を伺ったり、よりプロデューサー的な動きを意識します。
例えばSEESAWへの問い合わせで、「新規事業を考えていて、コーポレートサイトやパンフレットなどを作って、PRもやっていきたいです」といったご要望をいただくことがあります。このような場合、「制作物を作ること」を目的にディレクションとして関わるべきなのか、それともプロデュース視点で事業戦略から踏み込んで考えるべきなのかを判断する必要があります。戦略から入る場合は、「従来のプロモーション施策を行うよりも、クラウドファンディングを実施してPRと資金調達を同時に行った方がよいのではないか」といったように、施策の前提から提案することもあります。
このように、クライアントと向き合う中で、状況に応じて役割や立ち回りを柔軟に変えながら進めています。
白尾:制作物の依頼をいただいたクライアントも、深掘りしていくと、事業戦略がどれだけ練られているかがみえてきます。ロジックがしっかり固まっているケースもあれば、「なんとなく全員に愛されるサービスにしたい」など曖昧な状態で進んでいることもあります。
後者の場合は、事業戦略そのものに提案できる余地が生まれるため、一緒に戦略を整理していくような提案をすることが多いですね。
枠を超えて動いた、それぞれのプロデュース現場
── それぞれがプロデュース力が発揮できた事例を教えてください。
白尾:とある飲食店の案件が印象に残っています。さまざまな事業構想を持つ中で、「コーポレートサイトを作りたい」というご相談をいただきました。ただ、その会社はかなりユニークなカルチャーを持っていたので、一般的なコーポレートサイトの作り方がフィットしないだろうと感じたんです。「クライアントが求めているコーポレートサイトは何なのか」を探るために、ヒアリングを重ねました。
結果として、ブランドにはミッションやビジョンは存在している一方で、「バリュー」が定義されていないことに気付きました。そこで、「まずはバリューを整理・確立したうえで、そこからサイト制作を進めましょう」と提案し、ご賛同いただきました。
バリューを策定するにあたり、まずは代表の想いや言葉を丁寧に引き出すためのインタビューを実施しました。テーマごとに区切りながら、約3時間にわたってお話を伺い、そこで出てきたキーワードをもとに4つのバリューを整理してご提案したところ、とても強く共感していただけました。
「自分たちは、まさにこのバリューに従って動いている」とも語っていただけて、そこから社内のアートディレクターにバトンを渡し、アニメーション表現へと落とし込んでいきました。結果として、ブランド全体が非常に綺麗にまとまり、そのご縁から現在まで長くお付き合いが続いています。
──井戸さんはいかがでしょうか?
井戸:私は、教育系Webサイトのリニューアルが印象に残っています。
当初ご相談いただいたのは、Webサイトのリニューアルと、クライアントが運営するセミナーの申込システムの改修でした。申込システムについては、既存システムの老朽化によるセキュリティ面への懸念に端を発した改修でしたが、当初はWebサイトと同一ドメイン上でのフルスクラッチ開発を希望されていました。
しかし、ヒアリングを重ねながら要件や運用体制を整理していく中で、実は必ずしも同一ドメインであることやフルスクラッチで開発しなければならない理由はなく、「セキュリティが担保され、必要な機能を十分に備えた申込システム」であることが重要ということが分かりました。
そこで、同一ドメインやフルスクラッチという前提を取り払い、コストパフォーマンスに優れた複数のSaaSサービスをチームメンバーとともにリサーチし、既存システムで利用している機能を代用・維持しながら、セキュリティや信頼性を担保できるサービスを提案しました。結果として、その提案をほぼそのまま採用していただけました。
──クライアントの要望をそのまま受け取るのではなく、本質的な課題から見直して提案していったんですね。
さらに、自分自身が保護者という立場でもあったので、クライアントの事業内容など専門的な情報をある程度理解できていたのも大きかったです。そのため、クライアントからこと細かに説明をいただかなくても、ユーザー視点での情報優先度や適切な情報設計などをある程度想像しながら伴走していくことができました。そうした積み重ねが信頼につながり、「これからも一緒にやってほしい」と言っていただける関係性になりました。
──お二人が感じる、プロデューサーという仕事のやりがいを教えてください。
井戸:「クライアントから信頼してもらえているな」と感じる瞬間は、この仕事をやっていてよかったと思えますね。特に、「新しい事業の立ち上げを検討していて、構想段階からSEESAWに伴走していただきたい」という相談をいただけるのは、デザイン会社という枠を超えて、事業の上流から期待していただけていると感じられて嬉しいですね。
白尾:私も井戸さんと同じですね。クライアントから「本当にSEESAWさんに依頼してよかった」と言っていただけるたびに、ありがたいなと感じます。ディレクターは、Webサイトやロゴが公開された瞬間にやりがいを感じることが多いかもしれませんが、プロデューサーはより“人”に向き合う仕事です。だからこそ、そうした言葉が特に心に響くんですよね。
素直さと好奇心が活きる、SEESAWで働く面白さ
──SEESAWのディレクター・プロデューサーに向いているのはどんな人でしょうか?
白尾:対話力と素直さのある人ですかね。まず大切なのは、聞かれた質問に対してまっすぐ向き合い、自分の言葉で返せる「対話力」。そして、その土台になるのが、プライドにとらわれず相手の意見を受け入れられる「素直さ」だと考えています。相手の言葉を必要以上にネガティブに受け取ってしまったり、自分を大きく見せようと発言してしまうと、本質的な対話は難しくなってしまいます。
井戸:一方で、クライアントから「Aにしたい」と言われて「わかりました、Aですね」と返すときも、「BやC、Dなどの選択肢を吟味した上でAという判断があったんだ」と理解するのと、何も検証せずに返事をしてしまうのでは全く異なります。そのような考えができる人こそ、SEESAWに来てほしいなと思います。
──最後に、SEESAWで働く面白さを教えてください。
白尾:私は3つあります。1つ目は、さまざまな事業領域に関われることです。多様な事業やサービス、会社の話に触れるたびに知識と経験が増えて、戦略や提案の引き出しが広がっていく。事業会社にはあまりない面白さだと思っています。
2つ目は、最終アウトプットまで携われることです。コンサルティング会社だとレポートを提出して伴走が終わることも多いと思います。SEESAWはデザインを内製しているからこそ、Webサイトや動画などが完成するまで立ち会える。デザインの案が並んだときの高揚感や、納品したデザインが世に出た際の達成感は、デザイン会社でしか得られないものがあると感じます。
3つ目は、対応力がつくことです。私はSEESAWで9年間、様々な案件を経験してきたからこそ、相手の状況をイメージしながら「今どう立ち振る舞うべきか」を判断できるようになったと感じます。経験を重ねるたびに、「どう判断すべきか」「どう振る舞うべきか」という引き出しのカードが増えていった気がします。
井戸:クライアント側で作りたいものが決まりきっていなくても、自ら考えながら一緒に作っていけるところに、面白さを感じています。
必ずしもクライアント自身が答えを持っているとは限りません。だからこそ、ただ制作物をつくるのではなく、「クライアントの次の一歩を創るために何ができるか」を考え、そのプロセス自体を楽しめる人がSEESAWには向いているのではないかと思います。
また、好奇心を持って、知らない領域にも飛び込んでいける人には、特に合っている環境だと思います。SEESAWが新規事業の支援を得意としているのも、そうした未知の領域を楽しめるメンバーが集まっているからかもしれないです。
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