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なんでもない大学生だった僕が、起業して顧客の成功にこだわるようになったワケ

Photo by Annie Spratt on Unsplash

techners株式会社 CEOじゃっきーです。これまでいくつかの記事で顧客価値を大事にし続けたいこと、事業に誠実に向き合っていきたいことを書いてきました。


顧客の成功に伴走する|techners株式会社
いきなりですが、個人的に"カスタマーサクセス"という職種の表現があまり好きではありません。 直訳すると「顧客の成功」ですが、そもそも顧客の成功は特定職種が担うことではなく、会社で一丸となって取り組むべきものです。 顧客の成功を言い換えれば、エンジニアリングでもあり、デザインでもあり、ビジネスであるとも言えます。 ...
https://note.com/techners/n/nb710e70e675b

現在はこのような考え方を持って日々誠実に事業に向き合っている自負がありますが、実は昔からそうであった訳ではありません。節目節目に良い出会いがあり、「事業とはこういうものだ」と真正面からぶつけてくれた人生の先輩がいて強く影響を受けてきました。

今回の記事は若い方(15歳~25歳くらいまで)に読んでもらえると嬉しいなという内容にしています。

起業してみたいとも一切考えたこともない生き方をしていましたが、自分の手で事業を通じて顧客の成功に真正面から取り組んでいこうとなるまでの個人的な体験記です。気軽に読んでもらえると嬉しいです。

大学1年生での困惑

遡ること14年前、東京大学に入学して半年くらい経った頃でした。医者になるぞ〜と張り切って大学に入学したものの、1年生夏の病院実習を経てやりたい事ではないかもしれないとぼんやり感じていた頃でした。

振り返ってみれば、当時は何に取り組めば良いのかがよくわからず、社会で良いとされる規範に盲目的に従っていたように思います。しかし同時にそれがどこか正しいとも思えず、やりがいを探しているような時期でした。

そんな中でとある本を読んでいてショックを受けました。「ゴールドマンサックスという会社は平均年収が6000万円を超える」との内容に強く衝撃を受けました。しっかり目の貧乏家庭で育っていた僕は経済的な自立に強く関心を持っており、この内容があまりにもストレートに響いてしまいました。

「一体どんな会社なんだろうか。この会社はどうしてそんなにも待遇が良いのだろうか。ここに入れば自分の人生も変わるのではないか。」

今思えばとても不純な理由ですね…wしかし当時の自分には十分すぎる衝撃で、ゴールドマンサックスという会社に強く関心を持つようになりました。

そして自分の周囲にゴールドマンサックスに関連する人に会ってみたいと言いふらし始めてすぐ、東大の修士課程に在籍している方が働いていたらしいと聞きつけました。友人の留学生のTAをしているとのことで、さっそく紹介してもらいお茶をさせていただきました。

彼との出会いは今でもよく覚えています。彼のことはYさんと記載させてください。Yさんは非常に温和な方で、正直なところ全くもって不純な動機で話の場を持ちたいと思っていた僕にも非常に誠実に対応してくれました。

「なぜゴールドマンに入りたいのか」と問いかけられ、僕のこれまでの生い立ちを話した上で、経済的な困窮に対する恐怖心や自立に対しての強い願望も伝えました。

そんな中でYさんに、まっすぐ目をみながら質問されました。

「君は、お金をもらわなくてもやりたいと思えるような、熱中できることはあるの?」

僕は回答ができませんでした。何もないな、と感じたのをよく覚えています。何もない気がする、とYさんに返事をしてから彼はまた優しく言葉を重ねてくれました。

「確かにお金をたくさん稼げるということは魅力の1つだと思う。ただ、それ以上に自分がお金をもらわなくてもやりたいと思えることを見つけて、そしてそれに毎日没頭できていることは、それ以上の魅力だと思う。ゆっくりでいいから、君なりの何かそういうものを見つけてみたら良いんじゃないかな?」

この日以来、僕は「お金をもらわなくてもやりたいことは何か?これはそれくらい熱中できるものなのか?」と自問自答し続けることになりました。

”スタートアップ”との出会い

少し時間が経ち、僕は大学4年生になりシンガポールに交換留学で訪れていました。Yさんからの言葉にはまだ答えが見つからない中でも、ちょっとだけレールに外れるようなことも実践しながら自分なりに興味関心にまっすぐに進んでいたら、シンガポールにいました。

1学期目が終わり、2学期目の始まりまでおおよそ3ヶ月ほどの夏休み期間がありましたので、現地で起業された日本人の方のもとでインターンをさせてもらいました。

今振り返ってもとてもいい経験をさせてもらえたと感じています。情報感度が高い"おじさん"達の中年起業という感じで、日本の起業家を世界に羽ばたかせて盛り上げよう!と言ったテーマでいくつかの事業を動かし始めていました。

最初の1ヶ月で取り組んでいたことは、投資事業を始めるかもしれないので投資に値するような会社を発掘することでした。その前段の調査として、Crunchbaseから2012にUSで1million USD以上の出資を受けているスタートアップを全てリストアップし、なぜこの会社が出資を受けたか、どのような投資家が入っているのか、競合はどこか、事業の優位性は何か、などをひたすらに調査することになりました。

教養課程ではどっぷり学問に浸かり、経済学部に進学したもののビジネスについてはからっきしわからない状態でしたので、スタートアップ?投資?という中でのリサーチ業務でした。右も左も全くわからず、そのビジネスの何がどうすごいかなど一切わかりませんでした。

さらには"おじさん"起業家達の若者いじりは非常にパワフルで(良い意味です…!)、どう考えても終わらないじゃん…と言った量の追加課題を出されていました。指定のメディア(日本、US、東南アジアをカバーしているいくつかの経済メディア)をRSSに登録し、全て片っ端から読んで理解することを求められ、朝起きたら未読記事が400あり、読み終わるまでにはご飯を食べん!と決めて読み始めると読み終わる頃にはお昼過ぎ。ランチを食べ終わったら未読がまた200貯まる…そして読み終わってからリサーチ業務に着手し、と部屋から徒歩5分の談話室でリサーチしていたのに部屋にも戻れないで談話室で寝泊まりするような生活をしていました。

しかしとにかく刺激的で楽しい日々でした。宿題は膨大でハードだし、調査レポートも遠慮なくコテンパンにやられ凹む日々。それでもしれば知るほど、世界を変えている会社がこんなにもあるのか!こんなにも若い人がこんな大きな事業をやっているのか!と毎日本当に新鮮で、自分がゆっくりと生きていたことを反省しっぱなしでした。
※余談ですがSnap創業者のEvan Spiegelを1つ年齢が上だと言うだけで勝手にライバル視して、こなくそ負けてたまるか…!と奮い立たせてました。

当時はスマホをギリギリ"持っているだけ"のどアナログ人間でしたが、「ITってすごい」「若い人でも世界を大きく変えている」「何億、何十億のお金を調達してビジネスってできるんだ」とスタートアップの世界観にどっぷりと浸かって、そしてその"魔力"に囚われていました。

「事業舐めんなよ」とのお叱り

そんなこんなで1ヶ月ほどしごかれていると、当時のスタートアップ環境には非常に詳しくなりました。「このVCはこういうテーマが好きらしい」「今のトレンドはXXXだよね」「シリーズAでXXの調達は妥当かな」など、頭でっかちで、振り返ればだいぶ痛い大学生へと仕上がっていました。

リサーチ業務もひと段落し、次にお題として渡されたのはシンガポールでピッチイベントを開催するにあたって、起業家と投資家を集めることでした。起業家が事業アイデアをピッチし、投資家がそこに出資することで事業を支援できる!そんな内容に強く興奮していました。

"スタートアップ"に燃えていた僕にはヒットした業務内容で、Producerという謎の肩書きだけが記載された名刺を片手にシンガポール中のVC、インキュベーションオフィス、起業家イベントに突撃をしていました。

スタートアップに関連しそうなキーワードで片っ端から検索し、大学生という身分をフル活用してアポを依頼して飛び込みお誘いをする日々。持ち前の行動力を発揮して、台湾のアクセラレーターにも声かけしてアポを取り付け、単身台湾に日帰り出張したりと行動量こそスタートアップ!なイキリ散らかしながら、同時に充実感がありました。

そんな中で、シンガポールである日本人の起業家の方に出会います。彼は東大を卒業後、官僚や外資系のコンサルティングファームを経て起業されていました。「東大の後輩です!!!時間ください!!!」と図々しい理由で30分の時間を頂きピッチイベントに来てもらえないかな…と内心期待しながらお話させていただく機会をいただけました。

意気揚々とピッチイベントの概要を伝え、こんな投資家も来るかもしれない、起業家として資金調達をする良い機会に必ずする、と今考えれば恥ずかしい限りに自信満々で話していたところ、優しく静止され、そしてそっと諭されました。

「金君(補足:僕です)。わざわざ言う必要も別にないんだけども、君は東大の後輩だからあえて伝えてあげる。資金の調達をしたところで何が変わるんだ?顧客の価値にどう繋がるんだ?資金調達よりもお客様に届ける価値をしっかり作り込んで、そしてそれを持続的に続けられるよう収益性を担保してはじめて事業を作っていると言えるんじゃないか?資金調達よりももっと大事なことがあるんだよ、事業を舐めるな
※実際にはもっと丁寧に紳士的な伝え方だったのですが、自分の受け止め方として以下のように記憶しているので、自分なりの屈折した強い表現での記載をしています。悪しからず…

火の玉ストレートでした。そして当時の僕にはスッと受け入れられる内容でした。

スタートアップ!資金調達!と頭でっかちになり続けていたものの、顧客の価値づくりに関しては全くの無知で、どこか事業って違うのではないか?とのモヤモヤが実はありました。きっとそこを見抜かれて、ズバッと伝えていただけたのだと思います。

そこから急速に、僕はスタートアップへの興味を失いました。メディアで賑わいを見せるような、資金調達や斬新なビジネスモデルには一切興味を持てなくなりました。そこに手触り感がなかったからです。派手な内容が多く取り沙汰されている中で、それのどこに顧客価値があるのか、そしてそれは持続性があるものなのか、と自分自身の興味関心がもっと現実的で手触り感のあるものへと変わっていきました。
※僕個人としてスタートアップメディアにあるような内容に関心が薄くなっただけで、スタートアップの取り組み自体を否定しているものではないです。根本にある考え方が違い、それは取り組んでいる課題の性質によるからだと整理しています。

そしてたった30分の時間でしたが、個人的には人生を大きく変えた機会の1つです。短い時間でも事業にかける熱い想いを語っていただき、そして大事にされるものを勝手に受け取りました。アストロスケール社CEO岡田さんにひっそりとここで感謝をさせていただきます。

心の底からやりたいこと

そんなこんなで時間も経ち、僕はDeNAでのエンジニア、REAPRAでの投資先経営支援を経て起業しました。

これまで多くのことを学んできた自負もあり、そこそこの成果は出していたため自信もありましたが、事業を0からスタートしていくと全て打ち砕かれました。もう本当に、、、圧倒的な無力感です。これまでに積み上げてきたことは美容業界では役に立たないのだろうか、、、というかたってない。改めて自分自身で再学習をして、1歩ずつ前に進む必要がありました。

数年もすると事業が順調に立ち上がってきて、お客様にも価値提供が多少はできるようになってきました。そんな中で会社買収の話が飛び込んできました。あえて機会を拒む必要はないので、話を聞いてみることにしました。

当時はSaaS企業の評価も吹き上がっている頃でしたので、そこそこの評価をしてもらえたようでした。とんとん拍子で話は前に進み、想像するに個人的な経済的なリタイアはできるだろうなとの内容になりそうだなとの状態になりました。

僕は起業を始めてから、僕個人としていくつか大きなリスクがあると思っています。そのうちの1つに、自身が経済的な自由を獲得してしまうリスクです。自由になった結果、事業に前のめりに取り組めない可能性があると自分自身を疑っていました。

近しい知人にも何人か事業がある程度のところまで成長すると、途端に事業に向き合えなくなる人を見てきました。そして僕自身が経済的な困窮を経験して育っているため、もしかすると人一倍そのリスクがあるのではないかと考えていました。

「良いプロダクトを通じて業界に貢献したい」と当時よく話していましたが、それもお金の前には無力になるのではないか…とひっそり怯えていたのは事実です。お金がないから、そう言って自分を奮い立たせているだけなのではないか?実際にお金を手にする機会があれば、飛びついてしまうのではないか?

今回の買収の話はそこに正面から向き合うことを要求されるいい機会でした。

非常に興味深いことに、話を進めていく中で僕は会社売却に対して全くの魅力を感じないと実感できました。1ミリくらいは揺れてもいいはずですが、1ミリも揺れてませんでした。

冷静に可能性を検討するためにも仮に会社を売却し、落ち着いてからまた何をやろうかな?と考えてみたところ、頭に思い浮かぶのは美容業界の情報インフラづくりでした。つまり、今やってることがまたやりたいことだったのです。そうであればわざわざ会社を売却する理由はありません。

この体験を経て、冒頭のYさんの話が自分の中で繋がり、生きていく中での幸福度と充実感が1つ違うステージに上がった感覚があります。

「君は、お金をもらわなくてもやりたいと思えるような、熱中できることはあるの?」

この問いかけに対して、僕は今やっていることがまさにそれだと回答できます。

「顧客への価値提供に誠実に取り組み、テクノロジーを通じて美容業界の情報インフラとして社会に貢献すること」

何をすれば良いかわからなかった大学1年生の頃から、スタートアップにかぶれて頭でっかちになり、そしてガツンとお灸を据えられて、そして自信に満ちた鼻っ柱を折られて今があります。

顧客の課題を解決し、そして自分たちが望むより良い社会に向かって全力で歩みを進めることは、本当に充実感があり毎日が幸せです。遊びのように仕事をし、もっと良くするには…と毎日が楽しくて仕方がありません。

まだ何者でもないあなたへ

偉そうな見出しで恐縮です…僕も何者でもありません…。ただ普通の大人の1人です。これまでたくさんの失敗を繰り返して来ました。時には全社的に怒られるようなミスも引き起こし、また自身の未熟さから多くの人に叱られることも多くありました。ただ、毎日楽しく生きています。とても充実した人生を今歩めています。

この記事を通して、僕はあなたに(特に18-25歳の若いあなた!)伝えたいことがあります。

どんなことであれ、自分が真っ直ぐに信じられることに取り組んでください。背伸びをしなくても良いです。自分が誠実だと思うやり方で、一生懸命に取り組んでください。

そして同時に、お客様への価値提供に全力で頑張ってください。必死になってお客様に価値を届けようとするあなたのことを、きっと見てくれている人がいます。そして全力で頑張っているあなたを支えてくれる人はたくさんいます。

お客様に価値を届けることは本当に大変です。全然うまくいきません。失敗をたくさんします。めげそうになる日がほとんどで、憂鬱になることもたくさんあります。ここでは書けないことだらけですが、僕も多くの失敗をしてきました。失敗のたびに大きく凹み、それでも周りに支えられて立ち上がって前を向いてきました。

お客様に目を向けず、先輩や上司、会社に目を向けたほうが楽なことが多いです。でも、そうではありません。お客様に目を向けましょう。お客様のために全力で頑張りましょう。そしてそれが持続できるような"事業"として成立できるよう、必死に頭を使って行動しましょう。そして、一緒に頑張れる仲間と手をとっていきましょう。

この記事では僕自身も大事にしている言葉をいくつか書きました。僕にとって本当に大事な言葉であり、人生を大きく変えてきた内容です。わざわざ言う必要がない言葉であるにも関わらず、かっこいい先輩達から発された言葉でした。

だからこそ、まだ自分に不相応な内容だと思いつつも、ちょこっとだけ先輩ヅラをして皆さんにも投げかけたいと思います。

「事業舐めんなよ」

起業してから一貫して顧客価値の提供にこだわり続け、同時に事業として持続するためにも堅実に事業を作り上げてきました。顧客の成功を前提に、同時に1円でも多く売上を上げ、1円でも少なくコストを削減し、煌びやかな生活とは無縁に実直で手触り感のある事業体制を作ってきました。そして今は持続性がある事業体で、同時に大きな夢に向かって打席に立つことができています。

もしあなたが事業に全力で取り組みたいと思っていただけたら、ぜひご連絡をください。一緒にヒーヒー言いながら前に進める仲間を探しています。一杯やりましょう(あんまりお酒飲まないのでお茶で🍵あと、偉そうにいっぱい書いてますが、基本時にはワイワイ冗談言いながら生きたいので緩めに🍵)
https://twitter.com/jackie_techners


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