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今こそ「世界第2位の経済大国」という幻想を捨て、世界に立ち向かえ。〜名目GDP編〜

日本は、世界2位の経済大国なんかではない。

ちょうど阪神淡路大震災が起こった頃、小学校の社会の授業で日本経済について習っていた。先生は「貿易摩擦」という言葉を教えるためだったか、記憶は定かではないが確実に下記のように説明していたことを覚えている。

「皆さんが住んでいる日本は、GDPでいうと世界第2位の国なんです。」

当時の私はその凄さは確認していなかったが、幼心に誇らしさを抱いたのを覚えている。当時利用していた教科書には、まるで対比をするかのように、腹水に苦しむアフリカの子供が掲載されていたりして、自分たちがいかに恵まれているのかを感じた記憶もある。幼い頃から勝負事が好きだった自分は、世界2位の日本が世界1位になったらいいなと小さな夢を持った。

一方、次のようにも続けて言われた。

「BRICsは急速に発展していて、中国のGDPは20年後くらいに日本のGDPを上回るという予測も出ています。」

この時のGDPとは、恐らく名目GDPのことを取り扱っていたのだろう。当時BRICsは、ブラジル、ロシア、インド、中国のみを指し、南アフリカは含まれていなかった。自身も小学生だったので、20年という月日は遠く感じ、「自分が大人になったら中国という国は、日本よりも強くなる可能性があるんだな」と遠い遠い未来のことのように考えていた。おまけに、

・ブラジルは、ストリートファイターのブランカの印象で、アマゾンみたいな国。

・ロシアは、すごく寒くて、アメリカと喧嘩している怖い国。

・インドは、ダルシム。人が火を噴く。

・中国は、なんか汚そう(完全に教科書の昔の中国の絵の影響)。またはチュンリー。

という大変失礼な、そしてそれから20年経って海外進出コンサルタントをやっているとは思えない感想だけを持っていた。本当に、外国は遠く、想像にも及ばない世界だった。

そしてそれから月日はたち、2016年になった。実感はさておき、日本の名目GDPは7年も前の2009年には中国に抜かれてしまった。アメリカを超えてNo.1になりたい、と思っていた夢はどこへやら、2015年のデータ(『Google public dataより引用』)によると3倍以上の開いてしまっている。

私はどこかで信じていた。「様々な指標を用いれば、まだ日本は、世界で比較しても良い位置にいるのではないか」と。実感ベースでは、そんな貧乏な国になった気はしないし、小学生だったあの頃思い描いていたよりも、よほどいい暮らしが出来ているような気がする。「日本は、このままでも、まだまだイケる。」と。

だが、本当にそうだろうか。その疑いは自身の大学生活、サラリーマン(リクルート)生活、そして今のコンサルタントとしての生活を経て、時間が経てば経つほど色濃くなる一方であった。私と同世代、なので20代から30代に差し掛かろうとしている我々世代こそ、何となく捨てきれていない「日本は、まだまだ強い。」という幻想を捨てなければ行けないのではないだろうか。


日本の現状は、自分自身の富だけを考えて、そんなにのんきに構えていられるようなものじゃない。

・大好きな日本はもう、世界第2位の経済大国なんかじゃない。
・90年代の日本と今の日本を比べるのではなく、今の日本以外の海外諸国と日本を相対的に見れば、全く世界で戦えていない。
・これから労働人口が急速に減少するのではない。もう急速に減少しはじめている。
・一人当たりGDP、一人当たり生産性、どんな指標で見ていっても、今の日本は世界的に見て高い位置と言える状態じゃない。

これが今の日本。定量的にデータで見るとわかる、我々日本の立ち位置だ。

日本は、先進国の中でも成長していない国

日本が何やらまずいらしいということは、上記の拙い説明でなんとなく概要は感じて頂いたと思うが、まずいのは本当に日本だけなのだろうか。アメリカの景気が危ういとか、EUの崩壊が始まっただとか、巷では色々な記事や噂が立ち込めている。もっと言えば、そもそも名目GDPという指標がそんなに重要なのか?という疑問さえ出てくる。そこで勝たなくても、それ自体が豊かさを図る指標にはならないだろう、という考えもある。だからこそ、もう少し定量的に、現実を把握しなければならない。下記は、1995年と2015年の名目GDPのランキングを示した表だ(2016年を使わずに2015年を利用している理由は、データのソースとなっているGoogle public dataの数値が2015年迄となっているため。)。

小学生でも作れそうなこの表だが、これだけの情報でも重要な事は見えてくる。

(1)日本は世界トップ10の中で唯一、名目GDPの総額が減少した国

まず、大きな点は、1995年と2015年を比較すると、日本は世界トップ10の中で唯一、名目GDPの総額が減少した国であるという点だ。ドイツ・イギリス・イタリア・ブラジル・韓国と言えば、ニュースでも経済状態について物議が醸されている国だが、これら全ての国共に成長している。成長が鈍化しているから物議を醸すのと、マイナス成長しているから物議を醸すのは大きく違う。我々日本はマイナス成長した国なのだ。

(2)アメリカ合衆国は依然世界トップで2.26倍に成長

記憶に新しい現トランプ大統領が候補時代に掲げたスローガンは何だったか。"Make America Great Again"。そう、「偉大なアメリカを取り戻す」だ。圧倒的な世界No.1のGDPであり、世界経済の中心にいるあの国は2倍以上ものGDP成長をしながら、「取り戻す」という表現を使った。Apple、Alphabet(Google)、Microsoft、Berkshire Hathaway、Exxon Mobil、Amazon.com、Facebook・・・。世界トップ10の時価総額の企業全てを独占するあの国は、これだけの成長をしながら、依然世界No.1のGDPを誇っていながら、過去の栄光を「取り戻そうとしている」のである。

(3)中国は、20年間で14.8倍もの成長を遂げ、GDPは日本の2倍に。

幼い頃思い描いていた未来より、現実は刺激的なものだった。明確に、"Japan as No.1"の時代は終焉し、経済大国第2位は変わったのだ。「2009年に名目GDPが抜かれた」というだけではなく、既に2倍以上の差がついている。「人口が多いのだから、名目GDPの総額は高くて当たり前だ」という声が聞こえてきそうだが、確かにそれはその通りだと思う。最もインドがまだ世界6位であるように、人口だけが全てではないが、人口が多ければ名目GDPを作り出すために有利なことは確かだ。中国は一人当たり名目GDPベースでは2015年に76位なので、決して高いとは言えない。だがこれは逆説的には、日本にも言えることなのだ。2015年、日本の一人当たり名目GDPは26位。日本自体も、1.3億人の人口の下支えで名目GDPが世界有数となっているに過ぎないのだ。

優秀な若者は、今すぐ筋トレをやめ、試合に出て欲しい

現実は手厳しい。私も含めた若者は、もっと現実を受入れ、今日にも動き出さなければいけないレベルの話になっているのだ。名目GDPを少しもじったデータだけで、それが伝わる。私の感じる、このデータの裏側にある怖さとしては、「日本人は勤勉でとても良く働く」とか「道にそれたり、悪に手を染める事が少ない」という私自身が本気で抱いている思いの部分にある。

本当に勤勉でリスペクトすべき日本人

2012年にTRYFUNDSを創業して依頼、実に300ものプロジェクトを行ってきた。創業当初、日本がグローバルで活躍できない原因には、「一人ひとりが頑張っていない」ことや、「本気じゃない」というような事も原因になっていて、その辺りを刺激する立場になることで、日本の生産性は向上するのではないか、という仮設を抱いていた。また、シニア層の中に、自分はもう引退だから・・・と業務から一歩引き事業を客観的に見ている人があふれんばかりにいるのだろうとも思っていた。しかし、現実は違った。

我々が一緒に頑張らせて頂いたどの会社でも、若輩者の自身が思い描いていた何倍も、何十倍もイケてる会社が多かったのである。みんないい製品を作っているし、考えうる限りの仮設は考えているし、その実現のために本気になって働く姿勢があったのだ。未来の技術ロードマップから、未来の製品作りを行ってみたり、グローバル戦略に向けた取り組みを開始していたり、最先端の取り組みをしようとしていたり、予想に反して、日本人の勤勉さは想像を絶するレベルであった。さらに、再雇用中のシニア層であっても目を輝かせ、まだまだ世界に通じるアイディアを作り出そうという方々と何人も出会ってしまった。これには大変に困った。逆に言えば、「業務を通じて取り組んだ他の58カ国のどこの国よりも真面目に取り組んでいて、それなのに結果が出ていない」という状態なのだから。全ての企業とはいえないのは理解できるが、それだけの人員(国民)を擁していながらも、日本のトップ企業でさえ世界の時価総額トップ20を取れていないという現実が有ることも、また一つ、感じる所がある。

唯一感じたのは、若手人材の試合初出場の遅さ

そのような中で、唯一「これが原因かも」と思えたのは若者の試合初出場の遅さだ。これは自分同様の20代〜30代の若者のことを指しているが、立ち上がりが遅いということを言っているわけではない。「立ち上がりも早いし、筋トレして筋肉はムキムキについているのに、いつまでも試合に出さずにいるからパフォーマンスが上がらない」という点だ。

海外諸国では、その辺りははっきりしている。まず先進国であれば仮にMBA取得をした場合で長期的に学業のキャリアを積んだ場合には、いきなりマネジメントにアサインされることがあるなど、出場する試合のランクが高まる事が多い。また一方で、新興国で言うと、30代と言えばそれが平均年齢に当たる国も有るくらいで、ビジネスで言えば1軍として登用されている可能性も高い。新興国は、「出来る出来ないではなく、まずやってみる・やらせてみる」というロジックが働いていると感じる。挑戦したい人は、自由に挑戦できるのだ。

でも、日本はどうだろうか。私なんかよりも数段優秀で、英語も第二外国語も堪能な友人は、まだトレーニー期間だったりする。既に身につけているスキルを活かすことなく、「これでいいのだろうか」と数年間悩んでいたりする。私の尊敬するコンサルタントの先輩は、その戦略コンサルティングの技能を封印して、自分のパフォーマンスを還元できていないような気がする。最近は人材斡旋や面接で沢山の人に会うが、自分のキャリアから「満足していないしだめだと思っている、けど抜け出せない」という人に多く会う。

一方で、インターンシップ生にも関わらず、ナショナルクライアントに満足して頂けるような実務ができたり、社員を凌駕するような活躍をする子もいる。そんな子の一人は、既にクライアントに案件をデリバーしながらも、これから新卒として日本のコンサル会社に入社したりする(新卒が大手に一度入ることは会社としてはすごくお勧めしています)。この子に、数年内に活躍の場を与えてくれるのだろうか。

我々が創りだす未来

ここで感じるのは、「個人にとってはいいだろうが、日本にとってはもったいない」ということ。ただそれだけだ。個人の人生なのだし、それについて何か言うことは出来ない。それに試合に出ることだけが正解なのかは立証できない。「高く飛ぶために、足を曲げる事は必要」という理論も十分に理解できる。しかし、自分の乗り込んでいる舟を意識すれば、自分が今思い描いている安定した未来は、意外と来ないかもしれないということも言える。

下記は、2012年に21世紀制作研究所が発表した2030年、2050年の名目GDP予測。私がTRYFUNDSを起業した2012年、一番最初に見た資料でもある。

ここでも日本は、GDP減少の一途を辿るという予測がある。見て分かる通り、1位の中国、2位のアメリカ合衆国、3位のインドとはかなり大きな差がついている。生産年齢人口が減少するのだから当たり前といえば当たり前だ。4位は4位でも、1位〜3位群と4位以下の群は別の括りになるくらいの差がある。3位のインドは日本の3倍以上、1位・2位とは実に6倍の差がつくと予想されている。他にもCity bankやPwCの調査では、日本がもっと名目GDPランキングで後退するという説もある。

むしろ人口減少を考えると、一人当たりGDPは高まっている可能性はあるので、今回の趣旨である全体の名目GDPのみを扱っての概況分析だけを通して見えない背景も有るだろう。

しかしなんだろう。私個人としては、(平面的な数字の議論では有るが)この未来は出来る限り受け入れたくない。データを見る限り、日本のGDPはこれからも微減してゆく推定になっているが、少なくとも微量であっても成長していたい。人口が少なくなろうと、出来る限り食らいついている未来に変えたい。全体の名目GDPベースではない指標も在るとは思うが、ここでも何かプレゼンスを発揮していたい。

この話は、どこかの知らない国の話ではない。この予測されている未来を受け入れるのか、変えに行こうとするのかは、他人事ではなく、まさしくこれを呼んで頂いている個々人の手にかかっている。客観的に見て批評する種のデータではなく、今20代〜30代に当たる我々は、自分事として捉えなければならない。私たちはもう、遠い未来を夢見ていた小学生じゃないのだから。

今、小学生の子供達は、日本の20年後を何と言って説明されているのだろうか。日本の暗い未来予測が直接伝えられている?それとも、少し青写真的な話が伝えられている?教育概要がどうであれ、数値分析がどうであれ、まず私は、明るい未来を教えてあげたいと思っている。そして、それを思い描ける同志と、その未来を創って証明してやりたいと思っている。

今、日本が対峙している問題は他人事ではないのだから。

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