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なぜレッド・オーシャンのなかビジネスチャットを Wantedly は作っているのか

こんにちは。Sync のエンジニアリングリーダをしている岩永です。

Slack, HipChat, Skype, ChatWork, Facebook Messenger, Works Mobile...

このリストに Wantedly のビジネスチャット Sync が加わったのは今年の1月のこと。

様々なチャットアプリが乱立する中、後発のサービスであるがゆえに、
「正直、今さら負け戦でしょ」といった声も聞こえます。

私はそうは思いません。

今日は Wantedly がなぜビジネスチャットを作っていて、
何を目指しているのか、
そしてどのようにして今まで作ってきたのかについて話したいと思います。

Why ― なぜつくっているか

時代の流れ

自分の親の世代は、定年まで1つの会社にいることに何の疑いもありませんでした。

でも最近では、転職をして新たなことに挑戦したり、独立してフリーランスになったりと、特定の会社や組織という枠組みに収まらない働き方が一般的になってきています。

こうなってくると組織の境界は薄れる一方で、一つプロジェクトでも組織の壁を越えたコラボレーションが必要です。また、個々人のつながり(人脈)が個人の力に変わり、個人が力を持つ時代になります。

そういったシゴトの多様化から、外部とのつながりを強化するツールを作ろうと思ったのです。

シゴトでココロオドル人をふやす

Wantedly のビジョンは「シゴトでココロオドル人をふやす」ことです。

では、「ココロオドル」とはどういうことでしょう?
一言だとモチベーション3.0で働くことですが、Wantedly では4つの言葉で定義されています。

自律、意義共感、成長実感、関係

それぞれ見ていきましょう。

「自律」とは、Ownership があるかということです。
事業を自分ごと化し、自ら決定し、それに対して責任を感じられるかが大切です。

「意義共感」とは、Steve Jobs が “The only way to do great work is to love what you do.”と言ったように、事業や自分がやっていることに共感することができれば、より多くのことに気がつき、より多くの成果を出すことが出来ます。
Wantedly の募集が Why / How / What というフォーマットになっているのも、この「共感」を重視しているからなのです。

「成長実感」は、スキルと挑戦のバランスのことで、自分の持っているスキルより少し難しいことに挑戦しているかということです。
このようなときは私たちは「フロー」を体験します。フロー(状態)とは、何かにのめり込んでいる状態のことです。
「集中しすぎてご飯を食べるのも忘れていた」というのは誰もが経験したことのあるフロー状態です。

「関係」は、信頼やコミュニケーションなど、人間関係のことです。
また、社外の人を巻き込んだエクスキューションも含まれ、前章の内容はここにも関連しています。

はたらく人すべてのインフラとして

日本の労働人口は6000万、その中で転職する人は年間6%と言われています。
Wantedly はこれまでこの6%を変えようとマッチング事業をやってきたわけですが、
転職を考えていないひとも「シゴトでココロオドル」世界にしていきたいという思いがあります。

“揺りかごから墓場まで”エクスペリエンス

であう → つながる → つくる

仕事ではこの3つのフェーズがあります。
会社に遊びに行って、お互いのことを知って、入社して一緒に仕事をする。

「であう」を担うのが、Wantedly のマッチング事業で、
「つながる」「つくる」を担うのが Sync です

最初は Sync Search という、つながりを管理サービスとしてはじまった Sync ですが、
単に人とつながるだけでなく、3フェーズすべてを Wantedly のプラットフォーム上でサポートできるようにとチャットを作ることにしました。

How ― どうやって作っているのか

Sync のコンセプト

ある時、チームメンバで「Sync の価値は何なのか」について話し合いをしました。

Sync とは何かを言語化するにあたって、まず一人ひとり Sync のイメージに合う単語を列挙していきました。
そして、ある程度出尽くしたところで、全体を見ながらそれぞれが良いと感じた単語にマークを付けて行きます。

その後10分間、各自でマークのついた単語を組み合わせて短い文を作りました。

面白かったのが、ほとんどが「A が B する C」という構文で考えていたところ、
一人だけは全く違うテーストで書いてきたところです。

このようにして、お互いの文を見ていきながら議論をすること数時間、
最終的にこのようなコンセプトにたどり着きました。

Perceptive <知覚の鋭い、明敏な>

1. Essential ー コミュニケーションの体験を研ぎ澄ます
コミュニケーションを重要な事項のみにフォーカスし、
プロジェクトを成功に導くために本当に必要なことに集中する。
Syncはそのためのシンプルに洗練された手段を提供します。

2. Intelligent ー 知的クリエーションを加速する
集中すべきことは、より知的で、生産的な仕事。
Syncは知的生産に集中するための、賢い手段を提供します。

3. Empowering ー メンバーに力を与える
プロジェクトを成功に導くための原動力は「人」です。
Sync はチームメンバーに焦点を当て、気持ちのよいコミュニケーションを通して
個々人が存分に力を発揮できるようにすることで、プロジェクトを成功に導きます。

Sync は Perceptive なビジネスチャットです。それは、コミュニケーションを洗練し、あなたを重要なことに集中させます。

そして一番重要なのは「人」にフォーカスしていることです。

Sync は「気持ちのよいコミュニケーション」をするためのツールで、プロジェクトを成功に導くのは Sync というツールではなく、あくまで「人」だという考え方です。

個の流動性 ― Slack と Sync は真逆の思想?

Sync は社外の人たちとコミュニケーションすることを前提として設計されています。
これが、他のチャットアプリと大きく違うところで、社外のメンバーが招待しやすい強みを持っています。

私はよく Slack と Sync の違いを「個の分離」と「個の移動」という表現を用いて説明しています。

Slack は、
- 組織 (organization) ごとにアカウントを作る = 個の分離
- 組織が中心で、この下に、ユーザやグループ (channel) を持つ
-「組織 > グループ」という、ヒエラルキーがあることで、流動性に欠ける

一方 Sync は、
- アカウントは1つで、組織を超えて移動できる = 個の移動
- 人が中心で、その下にグループや組織を持つ
- Slack のような階層的な概念を作らずに、
  “分類”に近い概念で管理をすることで、流動性がある

この思想の違いが、大きく反映されているのが、3月にリリースされたチーム機能です。
チーム機能は、チャットグループを組織や部署ごと「チーム」という単位にまとめて管理できる機能ですが、Slack と比較すると以下のような差があります。

- 個人でグループを作る
  → Slack で言う、Private channel を作る
- グループをチーム「Wantedly」に共有して、Wantedly 社員が出入り出来るようにする
  → Slack で言う、Organization「Wantedly」内に Channel を作る
- さらに別のチーム「Cookpad」に共有すると、両方の組織でのやり取りに使える
  → Slack ではできない

このように、Sync と Slack は真逆の思想のもと設計されています。

Wantedly Way

「Wantedly Way」と言われる3つの行動指針があります。
Wantedly ではプロダクトを開発する中でよく、「Code winds arguments でやろう!」とか「これは Simple じゃないよね」といった発言が飛び交います。

1. Code Wins Arguments

議論するより、実際に動くものを作って評価する

Sync では、リーン的に MVP を作り、社内で dog fooding をしつつ、改善サイクルを回していくスタイルをとっています。

また、何がベストか分からない時などは、複数のパターンを実装して実際に触ってみてベターなものを選択するようにしています。

最近出した、iOS の検索改善の施策でも、検索結果の内容やスクロールしたときの挙動など多くのパターンを実際に実装して、 ベターだと思うものをユーザに提供しています。

また、月一でそれなりに大きめの新機能をリリースし続けることができるのも、
「爆速で動いていく」という文化があるから可能なのです。

2. User First

ユーザ体験を損なうようなことをしない

ユーザのためにしなければならないことを、UX Workshop や discussion を通じて、
メンバーが同じ意識を持って開発できるようにしています。

ユーザテストやヒアリングも、特にユーザの体験が大きく変わる機能をリリースするときに行い自分たちの仮説を検証するようにしています。

また、小さな体験の積み重ねで「なんとなく使っていいて心地よい」となることがかなり重要だと思っています。 Photoshop や Illustrator のファイルが Sync 内でプレビュー出来る機能もなくても別に良いかもしれませんが、「かゆいところに手が届く」心地よさを体験してもらいたいと思い開発するに至りました。

3. Simple is Not Easy

作る側が使う側のことを徹底的に考えぬく

Antoine de Saint Exupé いわく、

“Perfection is achieved not when there is nothing more to add, but when there is nothing left to take away.”
何も付け加えるものがなくなった時ではなく、もう何も取り去るものがなくなった時、「完璧」は達成される。

戦略とは何をしないか」です。

例えば、Sync に独自のタスク管理機能や独自のカレンダーが搭載されていたらどうでしょう。機能の集約は良い所もありますが、基本的に UI が複雑になるだけで、複雑なものは使いこなせません。

余談: チャットに求められる「あたりまえ」

チャットというプロダクトは、表で見える以上に複雑なことをしています。
たとえば、送ったメッセージがリアルタイムで相手にちゃんと届く、スクロール時にカクつかない、アプリがクラッシュしない、どれも「あたりまえ」に思えますが、 それだけでも実はかなり大変なのです。

特に、既に存在する LINE などチャットアプリのクオリティはかなり高く、
みんながそれに慣れているので他のアプリにも同様の水準が求められます。

Sync も公式リリースをする前まで、社内で dog fooding をして「あたりまえ」が「あたりまえ」に出来るようにすることをまずは最低限のゴールにしていました

特に iOS の UI のパフォーマンスチューニングや、サーバのレスポンス速度など、水準と同等になるように開発してきました。

よくある質問

なぜ無料なのか?

コミュニケーションを阻害する要素をいれたくないからです

社内向けに設計されたサービスは、社外の人を入れようとすると課金が発生します。
こういったハードルを下げるために、Sync は社外とのやり取りを前提にして気軽に入れられるようにしています。

また、Slack のように1万件のメッセージしか見れなかったり、Chatwork のようにグループ数に制限したりしてしまうと、社内のコミュニケーションにも支障が生じてしまいます。

それ以外に、他サービスとのちがいは?

まず、LINE や Facebook とは違い、ビジネス用にデザインされていることです。

これらのサービスはプライベートユースから広がったサービスゆえビジネスでの利用を好まない人もいるので、プライベートとの切り分けられるアプリは必要です。

また、LINE のように「コミュニケーション自体を楽しむためのもの」ではありません。
あくまで、プロジェクトをすすめるためのツールなので、ファイル共有 / メンション / メッセージ検索、などの機能が Sync にはあります。

最後に、特定の職種に特化しないことです。

エンジニアなら問題ないかもしれませんが、一般的に英語の UI はハードルが高いです。
Slack は良くも悪くもエンジニア向けなので、ビジネスの人も使えるツールにしたい思いが Sync にはあります。
また、メッセージを書くときに Markdown 記法に完全に対応していない理由もここにあります。

さいごに

“People don't buy what you do; they buy why you do it.” ― Simon Sinek
人はあなたが「何をやっているか」ではなく「なぜやっているか」に動かされる。

すでに、Sync のコンセプトに共感してくれるファンがいます。

Sync の一番の強みは何か。

それは、Sync が Sync の思想を信じるチームによって作られ、
Wantedly のビジョンや文化がそれを支えていることです。

私たちがなんとなくチャットを作っているのであればそれは間違いなく負け戦でしょう。
ですが、「なぜやっているか」を強みだと思っている以上、それは負け戦ではありません。

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