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開かれたエコシステムのために:1.ウィーン、東京

ウィーンの憂鬱

アジア圏のスタートアップをウィーンに招致するアクセラレーター・プログラム、GoAustria(http://www.gin-austria.com/goAustria.html)に採択され、二週間ウィーンに滞在した。クリムト、エゴン・シーレ、オスカー・ココシュカといった世紀末ウィーンを代表する芸術家の作品が生で見られるというのはとても贅沢だし、ウィトゲンシュタインの足跡をたどれる(といってもウィトゲンシュタイン・ハウスというウィトゲンシュタインがデザインした家や文学館を見て回るくらいしかないけれども)のもなかなか無い機会なので、仕事とは別の面での期待値は当初からかなり高かった。

(クリムトのベートーヴェン・フリーズ。これだけを見るために分離派会館に人々が集まる。圧巻。)

一方で実際のプログラムに関しても、ウィーン入りする一か月前から週一回メンターとのスカイプでのセッションが行われ、事前に現地企業との打ち合わせが設定されるなどメンタリングに関してはかゆいところまで手が届く内容だった。僕らのメンターはウィーンで20年近くベンチャー・キャピタリストとして活躍するクリストフさん。懇切丁寧なメンタリングはピッチデックの修正やオーストリアの企業文化に関するレクチャーにまでおよび、非常に有益だった。そして何よりも貴重だったのは、彼のおかげで現地企業や政府機関との打ち合わせの場ももつことができたことだ。海外展開の際にメンターを持つことは本当に大切で、いきなり現地とのコンタクトをとることなど余程のことがない限り不可能だ。これはドバイでもアメリカでもすでに痛感していたことだったので、クリストフさんのサポートは本当にありがたかった。

しかし、メンターのサポートには非常に助けられたものの、実際にウィーンでプログラムに参加して気が付いたのはスタートアップを取り巻くエコシステムがウィーンではまだ未発達であることだった。大企業とスタートアップの共創文化はまだはじまったばかりであり、オープン・イノベーションなどの取り組みは実践段階にない。何よりも、そもそもローカルのスタートアップの数が圧倒的に少ない。こうした状況はテック・カンファレンスにおいても露見していた。かつてはヨーロッパ最大規模のテック・カンファレンスであったPioneers' 18では地元オーストリアのスタートアップが圧倒的に少ないだけでなく、オーストリアの大企業の存在が極めて希薄であった。多くのゲストは海外から呼ばれており現地オーストリアのスピーカーはほとんどおらず、アメリカ流のカンファレンスのひな型を無理やりオーストリアに当てはめただけの、何の面白みもないカンファレンスだった。

(Pioneers' 18のメイン・ステージ。開催地であるホーフブルク宮殿は見事なんだけれども、、、)

Pioneers' 18で僕らのアクセラレーターが用意してくれたブースには電源もなく、スタートアップごとに机が与えられることもなく、当然デモなど不可能な状況であった。バナー・ロールを立てることも禁止され、いったい何のためにアジアから10社もスタートアップを招致してきたのか、理解に苦しむブース構成に僕は憤り、アクセラレーター側に真意を問いただしたが、納得のいく回答は得られなかった。これではアクセラレーターが単にアクセラレーターの真似事を行うことに終始しているだけだ。本気でスタートアップとの関係構築をする気なんで少しもない。そう感じざるを得なかった。

GoAustriaプログラムの大半は巨大アクセラレーター施設weXelerateで開催された。建物に入って感じるのは圧倒的な人の少なさだ。そもそも入居しているスタートアップは極めて少なく、それがゆえに施設にほとんど人がいない。オープン・スペースで他のスタートアップと交流しようにもそもそも誰もいないのだから、ここから何か生まれる予感はほとんどなかった。

こうした状況に辟易しはじめた頃、さて、日本は、東京は、ウィーンのことをとやかく言えるほど豊かなスタートアップ・エコシステムを持っているのだろうか?という問いが頻繁に脳裏をよぎるようになった。僕らは他人をとやかく言えるような状況にはいない。

国際性:英語話者と日本語話者の埋まらない断層

たとえば国際性に関してはウィーンの方が東京よりも進んでいる。前述のPioneers' 18でもローカルのミートアップでも使用される言語は英語だ。したがって僕のようなドイツ語を話せない外国人がやってきても、なんとかコミュニティに混ざることはできる。また、今回僕らが参加したGoAustriaプログラムなど、プログラムそのものの質はどうあれ、海外のスタートアップ誘致に関してもオーストリアは積極的であり、積極的に門戸開放を進めている。ローカルのスタートアップはまだまだ少ないとはいえ、海外からも精力的にスタートアップを呼び込むことで多様なスタートアップが参画するエコシステムの構築を狙っており、海外からのスタートアップに刺激されローカルのスタートアップが増える可能性は今後十分にある。また、地理的にも歴史的にも東欧諸国との結びつきが強く、隣国への展開が比較的容易ではある。

僕はPioneers' 18には本当にがっかりした。けれども英語を用いた同規模のカンファレンスを仮に日本で開催したとしたら、来場者も出展者の数もPioneers' よりもはるかに少なくなるだろう。Slush Tokyoなど英語を用いたカンファレンスは日本でも開催されているが、日本から参加するスタートアップの多くはまだ英語を使って展示をしたり商談をすることになれているとは言えないし、ピッチに関しても何を言っているのか分からないといったこともままある(これは決して言語だけの問題ではない。Slush Tokyoのピッチ・コンテストで日本のスタートアップが優勝したことは一度もないのだ)。

これはカンファレンスだけの問題ではない。英語で参加できるスタートアップのミートアップ・イベントは諸外国と比べて日本では圧倒的に少ない。東京ではTokyo Startup Pitch NightやFuck Up Nightなど多くの人が集まるイベントも存在はするがその数は極めて少ない。また、こうした英語で開催されるミートアップの参加者が日本語だけで開催されるミートアップに参加することは無く、結果、英語話者が集まるミートアップと日本語話者が集まるミートアップの間には大きな断層が生じ、両者が交わることはない。せっかく同時代の同じ空間に多様な才能を持った人間が集まっているにも関わらず、両者が共有できるコミュニティを形成できないことは甚だしい機会損失である。

ローカル・コミュニティの欠如とスタートアップ間の連帯の必要性:知識と経験の脱秘教化

何よりもそもそもミートアップを含めたスタートアップをめぐるローカル・コミュニティの欠如の問題が大きい。国際的に開かれたローカル・ミートアップを開催する以前にそもそも地場のコミュニティが無いのだ。この点に関してはコーディング・ブートキャンプを行っているフランス発のスタートアップ、Le WagonのPierre Sylvanさんによる以下のMediumの記事が参考になる。

記事全体は東京のスタートアップのエコシステムを外国からの新規参入者の視点から概観するものとなっており、非常にわかりやすく良くまとまっている。そして、この記事の一番のポイントはそもそも東京には参入しうるエコシステムなどないのではなないか、という問題である。というのも、Sylvanさんが最初に指摘しているのは東京における大規模な企業家コミュニティの欠如であるからだ。これでは知識や経験が企業家同士で伝達されない。個人的にも資金調達などは他の先輩企業家からアドバイスを聞けていればVCの情報や資料作成のコツなど、もっとスピードをあげてクロージングまでたどり着けたはずだと思っているし、こういったコツはどんどんスタートアップ間で共有されるべきである。有益な情報や知識が一部の閉じたコミュニティの中で秘教化されてしまったらエコシステムなど形成される余地はない。いま、日本のエコシステムに必要なのは縦軸の連帯ではなく、スタートアップ同士の横軸での連帯である。そのためにもスタートアップ同士がもっとお互いの顔を知るべきであり、自らの失敗や成功を共有していくべきなのだ。スタートアップ間の連帯はセーフティ・ネットにもなり得る。スタートアップの生存確率など極めて低いのだから、スタートアップ間でチームの再編成が起きることで、新たなスタートアップを再創出する可能性も高まるからだ。

大企業やVCまで含めた包括的なエコシステム形成に関してもSylvanさんの記事は示唆に富む。コミュニティは存在しているものの、それらは他のコミュニティから独立しており、点と点がつながらないままなのだ。ここでも一部のコミュニティが単に秘教化していくだけでは知識も経験も閉じたものとなってしまう。またVCや大企業が主催するイベントやコミュニティではどうしても彼らの利害関係が前面に出てしまうので、知識や経験が囲い込まれてしまいがちである。だからこそ、横軸でのスタートアップ同士の連携が必要なのだ。よほど事業領域が重なった競合同士でもない限り、スタートアップ間での利害関係は対VCや対大企業よりもはるかに少ないといえる。そうしたフラットな関係性こそ、知識や経験を開かれたものにしていく。日本のスタートアップのエコシステム形成の第一歩はスタートアップ同士の横のつながりであるべき理由はここにある。

スタートアップ間の連帯のために:Tsumugu、The Startup Podcast

スタートアップ間の横の連帯を構築するために、僕らが始めたことは二点ある。一つはTsumuguというミートアップ・イベント、もう一つはnnf CEOの菊川くんとやっているThe Startup Podcastだ。

Tsumuguではこれまで音声、コミュニティ、ヘルスケア、人工知能といった特集を組んで各分野に精通したスタートアップ関係者にプレゼンを行ってもらっている。まだまだ50人程度が集まる小さいコミュニティではあるが、Tsumuguを通して知り合ったスタートアップ同士で飲み会を行ったり、お花見をするなど、スタートアップ間が仲良くなっていく点にこのイベントの醍醐味を感じている。また、あくまでスタートアップである僕らEmpathがイベントを主催をすることによって、大企業やVC主催のイベントとは違い、利害関係とは別のフラットなコミュニティを創造しやすくなっている。オーガナイザーである私自身が日本にいない時間が増えたため、現在なかなかイベントの開催ができていないが、これからもスタートアップが主体であることを前面に出しながら他のイベントとも交わり、日本のスタートアップ・コミュニティ形成のための一端になりたいと思っている。本当は単に飲みたいだけでもある。

また、そもそもスタートアップ界隈には素晴らしい奇人・変人が跋扈しており、そうした人たちの魅力を伝えることでもっとスタートアップ自体の面白さを世に知ってもらうため、nnfの菊川くんと毎月Podcastの番組配信を行っている。ここでは各ゲストの人柄を掘り下げることで一般の人にもスタートアップ界隈の人間を面白がってもらうことを目的としているから、番組の大半はたわいもない「雑談」に終始する。その「雑談」の中から通常のメディアには表れないゲストのパーソナリティが立ち上がってくるところがこの番組の魅力である。そのうちリアル・イベントもやる予定だ。本当は収録のあと、ただゲストと楽しく飲みたいだけでもある。

僕らはオフィスを5月に渋谷に移転した。新しいオフィスにはオープン・スペースがあって、誰もがふらっと立ち寄れる場所になっている。ただコーヒーを飲みに来るもよし、雑談にふけるもよし、渋谷の薄汚い虚空を眺めるもよし、スタートアップに関わる人が気楽に来れる場所になれば何でもいいと思っている。かしこまらない、たわいもない会話から、連帯は生まれるからだ。

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