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日本企業からイノベーションを生み出したい - 代表取締役 吉村 慎吾 -

なぜ、今イノベーションなのか?


かつてレコードプレーヤーを作っていた企業があった。技術開発を繰り返してターンテーブルの回転精度の向上とアームとカートリッジのピックアップ能力の向上に専念した。しかし、この企業がCDプレーヤーを生み出すことはなかった。そして、そのCDプレーヤーもアップルのiPod&iTunesの登場で市場からの退場を余儀なくされている。

どのようにすれば、レコードプレーヤーを作っていた会社が、自分たちのビジネスを破壊しながら、CDプレーヤーを生み出し、さらにiPod&iTunesを生み出すことができたか? レコード業界同様の轍(てつ)を踏まないことが、重要なテーマである。

イノベーションが生まれるために重要なことは何だろうか? イノベーションを生み出すワークショップの冒頭でこの問いを投げかけると「既成概念を捨てること」、「過去の成功体験を捨てること」、「常識を疑うこと」等々の回答が出てくる。間違ってはいないがまったく不十分である。

イノベーションが生まれるための必要十分条件?

それは……。

「イノベーターがいることである!」

この答えを聞くと、ワークショップの参加者は「それ、ずるい!」と一瞬ずっこけるが「あなたはイノベーターですか?」と数名の方に問いかける。全員が「う~ん。どうですかね……」とクビをかしげる。会場には深刻な空気が流れだす。

そう、大企業にはイノベーターがいないのだ。イノベーターがいない企業からイノベーションが生まれることはない。

古今東西、イノベーションが生まれたその陰には必ずイノベーターがいた。白熱電球を生み出したエジソン、電話を生み出したベル、自動車を生み出したダイムラーとベンツ……iPhoneを生み出したスティーブ・ジョブズ氏といった創業者イノベーターたち。しかしサラリーマンも負けていない。ホンダが生み出したエアバッグ、セブン‒イレブンに代表されるコンビニエンスストア業態、ソニーのプレイステーション、トヨタのプリウス等々、サラリーマンが生み出したイノベーションも枚挙にいとまがない。ただそこにイノベーターがいたことは疑いのない事実である。

では、イノベーターとはどんな人なのだろう? こう問いかけると「変わり者」、「おたく」、「執念深い人」、「信念のある人」、「世界を変えられると本気で信じている人」等々、結構良い線を行く答えが出てくる。

そして、「さて、そんなイノベーターはどこにいるのだろう?」と問いかけると突然答えに詰まる。イノベーターとは起業家である。大企業におけるイノベーションとは企業内起業のことである。そう、起業家はすでに街に飛び出して起業している。大企業に入社してくる依存体質なサラリーマンはすでにイノベーターとしての資質に欠けているのだ。

ワークハピネスのテーマは起業論ではない。企業からイノベーションを生み出す、つまりサラリーマンをいかにしてイノベーターに変えるかがテーマである。

イノベーションはカオス(混沌)から生まれる

イノベーションはカオス(混沌)から生まれる。既成概念の破壊、既存秩序の破壊が必要なのである。オーダー(秩序)とコントロール(指示命令)からは何も新しいものは生まれない。そこにあるのは現状維持と衰退である。

戦後の焼け野原の中、日本には多くのイノベーターが現れた。世界のホンダを創った本田宗一郎氏しかり、ソニーを創った井深大氏しかりである。敗戦で焼け野原になり、財閥が解体され、公職追放で経営の上層部も消え、日本から秩序や権威が破壊され、カオス(混沌)が生み出された。そのカオスの中から志を持った若者たちがイノベーションを起こした。

彼らの頑張りで日本は経済大国となった。そして秩序と権威が構築された。ものが溢れ飽食の時代となり、若者はハングリーさを失い、自然の流れで秩序と権威に組み込まれた。企業に入社してくる新入社員は夢も欲望もない。主体性が低く、指示待ち前例踏襲のサラリーマンが量産され日本からイノベーションが生まれなくなった。

現在の環境は日本人を保守的なサラリーマン集団へと導いている。この環境に抗わなければやがて日本の経済力は地に落ちるであろう。権威あるイギリスの経済雑誌「エコノミスト」の経済予測によれば、二〇五〇年に日本のGDPは世界第八位に落ち、世界経済に与えるインパクトも三%以下になるとの推計もある。

そんな時代が来たら日本の世界に対する発言力は消失し、私たちの子どもたちを取り巻く環境は今とは激変しているであろう。

日本の経営者はイノベーションに疎い

経営学の巨人と言われるピーター・ドラッカーは「企業の基本的な機能はマーケティングとイノベーションである」と喝破した。ところが、私の知る限り日本の経営者は驚くほどイノベーションに疎い。

その理由は二つある。

一つ目の理由。それは、日本の現代の経営者の多くが、自身、優秀なオペレーターだということにある。企業はイノベーションで立ち上がる。そして標準化と効率化で事業が拡大する。論理と分析に優れたMBAホルダーのオペレーターたちが標準化と効率化は押し進め、やがて彼らは業績を伸長させた褒美として昇進し役員となる。そして大企業の経営陣は論理と分析に優れたオペレーター集団となり、彼らは善意でイノベーターたちを潰していく。世界初の革新的価値のある製品を作っているのに「顧客ニーズは?」、「開発期間は?」、「利益予想は?」等々、絶対に答えられるはずのない質問を投げかけてイノベーターたちから挑戦と創造の意欲を奪っていく。

大衆車「T型フォード」で産業と交通のイノベーションを起こしたヘンリー・フォードはこう言った。「人々に何が欲しいか? と尋ねたら『もっと速い馬が欲しい』と答えるでしょう」と。マーケットリサーチをして論理と分析で製品企画をしてもそれは二番煎じの陳腐なものにしかならない。

イノベーションには標準化と効率化を良しとするオペレーションとは真逆の発想が必要だ。イノベーションはムダな「遊び」が生み出す。就業時間後、工場の片隅の試作スペースで楽しみながら生み出した試作品が、ソニーの「ウォークマン」となって世界を「あっ」と言わせたのである。

ところが、バブル崩壊後の長引く不況の中、企業は効率化、リストラ、ダウンサイジングを繰り返し、イノベーションを生み出す「遊び」を削り続けてきた。そして二番煎じのプロダクトやサービスを生み出し続け、顧客から飽きられ、さらに利益を縮小させ、さらに「遊び」を削り取り……。社員から目の輝きが消えていった。アメリカのコンサルタント会社ケネクサの調査によれば、エンゲージメントサーベイ(やる気測定)を取ると、日本は世界でダントツの最下位だ。

日本の経営者がイノベーションを正しく理解できなくなったもう一つの理由はイノベーションが「技術革新」と訳されてしまったことにある。

音楽業界のあり方に革新をもたらしたアップルのiPod&iTunesの中身は、すでに存在していたMP3プレーヤーと音楽のダウンロード管理ソフト、そして音楽ソースを提供してくれるレコードレーベルの組み合わせにすぎない。技術的に何一つ革新的なものはない。ただそこには「世界中のあらゆる音楽をいつでもどこでも即時に楽しめる」という革新的価値創造があった。そして、iPod&iTunesによって私たちの音楽ライフは格段に快適になった。

こだわるべきは自社が持つ技術ではなく顧客に提供する価値なのだ。顧客に革新的な価値をもたらしたい、世界中の人々の生活に革新的な変化をもたらしたい、そう真に望めば、技術が自前であることへのこだわりは簡単に捨てられる。

バブル崩壊後の二十数年間、日本の経営者は何を考えてきたのか? 基本戦略は、「頑張っていればそのうちまたバブルが再来する」との神頼み戦略なのではないか? 二期四年の任期を大過なく過ごすことを望み、社長室の神棚に柏手を打ち「神風が吹きますように……」と願掛けをする。そして、アベノミクスという神風が吹いて一安心。

安心している場合ではない。私たちはオリンピックまでの六年間のモラトリアムをもらっただけなのだ。戦後最大の不況は、昭和の東京オリンピック後にやってきた。山高ければ谷深しである。二〇二〇年をピークに必ず不況がやってくる。今、手を打たなければオリンピック後にあなたの会社は消滅してしまう可能性が高い。安穏とせず、アベノミクスの幸甚が生み出した利益を真のイノベーションに注ぐ時である。

ワークハピネスのミッションとは

多くの企業は変化の予兆を感じながらも、過去の成功体験にとらわれ、身動きがとれないままただただ不安をつのらせている。私たちの仕事は、こういった大企業からのイノベーション創出を支援することだ。

レコードプレーヤーを作っていた会社はなぜ消滅したのか?

どのようにすれば、自分たちのビジネスを破壊しながら、CDプレーヤーを生み出し、さらにIPOd&ITunesを生み出すことができたかのだろうか?

1つの答えは、自社のミッション(存在意義)定義にある。

「レコードプレーヤーをつくる」ではなく「音楽のある豊かな人生を増やす」と定義していれば、自分たちのビジネスを破壊しながら、イノベーションを生み出し続けることができたかもしれない。

イノベーション成功の鍵は、勝つまでやめないことだ。

勝つまでやめたくなくなるドメイン、つまり「自社が存在意義をかけて不退転でやるべき領域」を発見できた時、その成功確率は飛躍的に高まる。

そしてもう1つは、イノベーターの存在だ。イノベーションを成功に導くまでには、多くの困難が待ち受けている。

イノベーター達を駆り立てるもの、それは責任感や義務感ではない。「これを成し遂げたい」という想い、心の底からくる絶対価値だ。

「何をやりたいのか?」「なぜそれをやりたいのか?」「自分の存在意義は何か?」

この問を突き詰めた先にその答えがある。

イノベーションの鍵となるのは人と組織の“ミッション”

私たちは人と組織の真のミッションを支援することで、日本企業からイノベーションを生み出すイノベーションコンサルティングファームとして、日本のワクワクした未来を切り拓いていきます。

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