スタートアップの採用戦略|勝つために活用すべき手法を紹介

アメリカのIT関連企業が集まるシリコンバレーにて広がっていった「スタートアップ」。日本でもスタートアップは新たな価値創造や経済成長の大きな原動力となりつつあります。そして、人材採用面でもスタートアップの台頭はめざましいものがあります。

2019年にはスタートアップに約4,000億円近い資金が投下されたこともあり、多くのスタートアップ企業が積極的に採用を行うことができるようになっています。

働く個人の価値観の変化もスタートアップにとって好材料です。若者を中心に、あえて大手企業では出来ない経験を求めてスタートアップに飛び込む人も増えました。

この記事では、スタートアップならではの採用戦略にクローズアップします。具体的に採用で“勝ち組”となったスタートアップが活用している手法に注目して、紹介していきたいと思います。

スタートアップで採用をする際に知っておきたいこと

多くのスタートアップは「採用」というハードルに苦戦しがちです。

「こんなに会社は勢いがあるのに、なぜ良い人材が採用できないんだ…。」と嘆くことがないよう、まずはスタートアップを取り巻く採用の現実を知っておきましょう。

そもそも採用が難しい状況である

前提として、スタートアップの採用は大手や中小企業に比べると、ハードルが高く難しい傾向にあります。採用にかけられるリソースやコストが潤沢にあるわけではありません。知名度や労働条件も大手企業と比べると劣ってしまいます。

大手企業と同じ採用戦略では勝てない自覚を持つことが、スタートアップの採用成功の第一歩になるのです。

転職潜在層へのアプローチがカギ

少子高齢化による労働人口の減少により、採用市場では有効求人倍率の高止まりが起き、人材の獲得競争が激化しています。転職を直近で検討している転職顕在層は、大変な争奪戦になるため、スタートアップは「転職潜在層」へのアプローチも効果的に行なっていく必要があります。

転職潜在層とは「良い会社があれば転職したい」と思い転職サイトに登録などはしているものの、自ら応募をするなどの能動的なアクションを取らない層です。

考え方を変えると転職潜在層は対象者数も多く、宝の山ともいえます。今の会社でも十分力を発揮しているものの、より自分のビジョンに近く、成長が見込める企業があれば、飛び込んでみたいと思っている逸材が眠っている可能性があるのです。

ミスマッチの影響範囲が大きい

事業拡大期のスタートアップは少数精鋭で事業運営をしているケースがほとんどでしょう。新しい戦力の採用に成功すれば、事業拡大にとってパワフルなエンジンとなります。しかし見方を変えると、資金や体力が乏しいスタートアップが採用でミスをしてしまうことの負のパワーも大きいといえるのです。

人材アセスメントの世界では「積極的誤り」と「消極的誤り」という概念があります。

積極的誤りとは、本来自社にマッチしない人材を採用してしまう誤りで、コストやパワーを無駄にしてしまいます。一方、消極的誤りとは、本来採用すべき人材を採用しない誤りで、享受できたはずの事業成果などを逃してしまいます。

いずれの採用の誤りもスタートアップにとっては致命的となるため、できるだけ避けたいミスでしょう。

とりわけ「積極的誤り」のミスマッチは資金などのリソース面だけでなく、職場の士気低下を招きかねません。ましてや早期退職をしてしまった場合は、組織の規模が小さいだけに、教育・受け入れパワーの負担など現社員への精神的ダメージもはかり知れません。

スタートアップが採用で勝つために活用したい手法

スタートアップが採用で勝つためには、転職潜在層へのアプローチがカギとなります。

以下では転職潜在層に効果的にアプローチできる採用手法を紹介しています。

リファラル採用

リファラル採用とは英語で「紹介」という意味があるreferralをもとにした、自社の社員に人材を紹介してもらう採用手法のことです。

リファラル採用のメリットは、手軽に始められてコストがかからない点です。候補者のスキルや実績を見極めやすいため、選考体制が整っていない創業初期の採用には非常に有効です。

一方、良い人材が獲得できるかどうかは偶発的で、なおかつアプローチできる母数が少なくならざるを得ない点がデメリットです。

そのため、事業が成長~安定期に進んだスタートアップでは、事業の成長スピードに対してリファラル採用だけでは社員の充足が追いつかなくなります。事業成長期には必要な採用人員計画を達成するため、リファラル採用だけに頼るのではなく、新たな採用手法を加えていく必要があります。

採用広報 

採用広報とは、求める人材からの応募を促すための企業広報活動のことです。

自社サイトでの情報提供やSNSでの情報発信、ミートアップの開催など、採用を目的として行う発信活動は、広義の意味ではすべて採用広報と考えて良いでしょう。

応募者は数社で入社を迷った際には、多方面から情報収集を行います。応募した企業サイトの他に、退職者や転職者の口コミを参考にする人も多く、あらゆるルートから企業情報を収集しています。

そのため、企業自らが自社の情報を積極的に発信し、採用広報をする重要性は高まっているのです。

広報活動は地道なものが多く、成果が出るのに時間がかかる傾向があるため、情報発信が頓挫しがちなのが課題です。しかし長い目で見ると、採用広報は入社だけでなく、入社後定着にも効いてくる活動です。自社のありのままの姿を情報発信することで、応募者の自社理解が高まるからです。

広報活動をおろそかにすると、入社した後に「想像していたイメージと違う」というギャップが生まれて早期離職を招きかねません。

採用広報とは?メルカリ、マネーフォワードなど急成長企業の事例を紹介
労働人口の減少による求職者の母数の減少が拍車をかけ、各企業にとって優秀な人材・最適な人材を採用する難易度が上がっています。難易度があがる採用市場の中で、間口を広げつつ自社に適した人材を確保するために注目されている手法が採用広報です。今回は、採用広報の役割と重要性、やり方や発信すべき内容を成功事例と合わせて詳しく見ていきます。

ダイレクトリクルーティング

企業自らが候補者にアプローチするのが、ダイレクトリクルーティングという手法です。対象者を絞って効率的な採用ができるため、スタートアップではよく活用されている手法といえます。

ダイレクトリクルーティングでは、転職顕在層だけでなく、転職潜在層にもアプローチすることができます。転職潜在層には「良い会社があれば転職を検討する」という層が80%ほど存在するという心強い調査結果もあります。アプローチしたい対象者を地道に見つけた上で、スカウトメッセージを送りましょう。(LinkedIn Japan 「今どきの採用担当者ガイド」

アプローチをする際は、受取側の心理状態に注意をしてください。特に転職潜在層は転職ニーズが強いわけではありません。そんな状態の時に一方的な自社アピールだけをしても、なかなか良い反応はもらえないです。

「ぜひうちに来て欲しい!」という熱い想いはもちろんですが、必ず対象者の登録情報について「何に興味を持ったか」を伝えるようにしてください。誰しも自分に目をつけてくれたことに悪い気持ちはしないため、前向きに話を聞くスタンスになりやすいです。

またスカウトの次の流れですが、いきなり面接となると返信の心理的なハードルが上がってしまうため、カジュアルな面談の場を提案するステップがおすすめです。

ダイレクトリクルーティングとは?
ダイレクトリクルーティングは企業から候補者へ能動的にアプローチする採用手法です。本記事では「ダイレクトリクルーティングとは何か」をはじめ、向いている会社の特徴、サービスの比較などを紹介します。

転職顕在層向けの採用手法について

ここでは転職顕在層向けの採用手法について、スタートアップならではの観点で有用性を見ていきます。

人材紹介

人材紹介は、転職エージェントに求職者を斡旋してもらい、採用ができたタイミングで成功報酬支払いが発生する手法です。

「初期費用を抑えられる」「母集団を集める工数が削減できる」などの理由で、成功報酬型の人材紹介を魅力に感じる企業も多いでしょう。特に初めての採用活動の場合、人材紹介にとりあえず頼むケースは多く見受けられます。 

条件面で不利になりがちなスタートアップは、人材紹介を活用する場合、担当者とのリレーションが特に重要となります。企業の魅力や、欲しい人材を明確に共有することを意識しましょう。ここが不十分だと、なかなか候補者を紹介してもらえなかったり、ミスマッチな人材ばかり紹介される、ということが起こりえます。

また、採用決定者の年収の35%ほどの手数料が発生するため、自社が採用コストをどの程度確保できるかも確認ポイントとなります。

求人広告

転職サイトに求人を掲載し、登録した転職希望者からの応募を待つ手法です。メジャーな手法なので、採用を考えた際に真っ先に脳裏に浮かぶのではないでしょうか。

求人広告を検討する際には、そのサイトに掲載された企業名をまっさらなユーザー目線で眺めるのがポイントです。例えば、広告予算が潤沢な大手企業が目立つバナー広告を掲載している画面で、自社の求人がどれほど目を引くことができるでしょうか。

またサイトの掲載情報は運営元がフォーマットを固定しているため、サイトの掲載枠で自社ならではの魅力が伝わりやすいかもチェックが必要です。スタートアップが魅力を訴求しやすく、候補者に発見してもらえる媒体を選定しましょう。

媒体によって、「エンジニアなどのIT人材の登録が多い」「20~30代の登録が多い」など、登録しているユーザー層が変わってきます。そのため、自社の採用ターゲットにマッチした媒体を選定するのもポイントです。

求人広告の掲載にかかる料金は?|無料から有料まで一覧をまとめ
現在、採用活動を行うにあたり企業が利用できる求人広告には、さまざまなモデルが存在しています。求人を掲載する前に、どのような求人広告が存在しているのか、どのようなサービスがあるのかを確認していきましょう。

スタートアップの採用ターゲットはどのような人か?

最後に、スタートアップがターゲットとしやすい人材要件をご紹介します。

もちろん詳細な人材要件はスタートアップ各社で異なります。あくまで自社ならではの人材要件を作る際の参考にしてみてください。

成長志向

絶えず変化するスタートアップに身を置くことは、働く個人も成長し続けないといけないといえます。

したがって、現状に満足せず自分に足りないスキルを補い、成長する志向がスタートアップの社員には必要となります。自分と向き合い、常に上を目指して自己研鑽し続けられる人材はスタートアップには馴染みやすいですし、長く活躍することができます。

自分で意思決定ができる

スタートアップは常に前例のない判断が求められる環境に晒されているといっても過言ではありません。また、盤石な組織体制がないスタートアップでは「上の人に聞いてから判断する」ことが難しい状況が多く発生します。

スピード感のある市場の中で、ライバルに負けないように素早く自分で意思決定する力がスタートアップの社員には求められます。

自分で判断する状況を「怖い」と思わず「面白そうだからやってみよう」というスタンスの人材がスタートアップにはフィットしやすいでしょう。採用の際には、応募者の過去の意思決定エピソードや問題が起きた際の対処方法などを確かめてみてください。

ミッション、ビジョンへの共感

スタートアップで活躍するためには、ミッション・ビジョンなどの企業文化への共感は不可欠といえるでしょう。

スタートアップの現場では少人数体制でトライ&エラーを行うケースが多く、決して楽な環境とはいえません。事業の仮説検証を繰り返すプロセスが発生するため、環境変化も多くなりがちです。このような環境で何らかの問題やトラブルが発生したとしても、企業のミッション・ビジョンに共感していれば、「自分が何とか現状を打破しよう」という踏ん張りがききやすくなります。

ミッション・ビジョンへの共有がない場合、業務を自分ごととして捉えにくくなり、「なぜこんなことをやっているのか」という不満に転じやすくなります。最悪の場合、「この風土にはフィットしない」と感じ、早期離職されてしまうリスクもあります。

その企業のミッション・ビジョンへ共感している人材は、スタートアップの事業展開を支える原動力になるため、必ず採用時に確認したいポイントと言えます。

注目のスタートアップ企業の採用事例

スタートアップにおいて、採用は最優先事項。ビジネスを軌道に乗せるため、即戦力人材が求められます。しかしすでに紹介したように、知名度や採用リソースの面で苦戦しがちです。優秀な人材を採用するためには、どのような施策や工夫が効果的なのでしょうか。以下ではスタートアップならではの採用戦略を取り入れ、成果をあげている企業の事例を紹介します。

1年で10名から23名への急拡大を可能にした採用戦略 株式会社EventHub

・ビジネスチームを拡大するために、3ヶ月で700通以上のスカウトを送信。

・ビジョンを伝えるために、1次面接では共同創業者であるCEOもしくはCTOが対応している

・内定者からのアドバイスを参考に、採用広報活動を強化

シード期の採用で私が心がけたこと|NEXT UNICORN RECRUITING #1 EventHub CEO山本理恵氏
『NEXT UNICORN RECRUITING』では、注目のスタートアップ企業の採用にフォーカスし、各フェーズにおける戦略や実際の取り組みについて聞いていきます。第1回は、1年でメンバーを10名から23名に増やした株式会社EventHubのCEO山本理恵氏に、シード期の採用について伺いました。

マーケティング思考を採用に取り入れる 株式会社カミナシ

・転職潜在層にアプローチするために採用広報を強化。noteやWantedlyで3ヶ月で20本の記事を発信

・「弱さも含めて社内外に発信していく」という方針のもと、社内の課題などをオープンな姿勢で発信

・ターゲットを明確に定義して採用イベントを開催

マーケティング思考で採用を制す。IVS優勝を実現した組織成長戦略|NEXT UNICORN RECRUITING #4 カミナシ COO河内佑介氏
世間から注目されるスタートアップにインタビューを行ない、各フェーズの戦略や取り組みを紹介していく『NEXT UNICORN RECRUITING』。今回は、昨今急激に注目を集める同社に、未だスポットが当たっていない企業の裏側、組織・採用戦略についてインタビューを実施しました。破竹の勢いで成長を続ける同社を支える「人材」は、どのように集まっているのでしょうか。2020年7月に同社執行役員COOの河内佑介氏に詳しく話を伺いました。

著者プロフィール

松本久美子

Writer

ライター兼経営者。早稲田大学卒業後、リクルートに入社。20年間、企業人事部門に採用・人材開発・制度設計などHR全般のコンサルテーションを提供。自身もマーケティング部門の管理職として、最大13名ほどのメンバーマネジメントを担う。フリー転身後はシニア再就職本など出版も多数。

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