【エッセイ】冬支度
いよいよ寒くなってきた。 お風呂上がりの肌は一瞬でひび割れたオアシスの如く乾燥して、水滴のついた髪の毛がじとっと張り付いては熱を奪う。 朝には温かいココアなんかが飲みたくなる。 これでまだ秋。 これからやってくる冬本番の寒さを想像して憂鬱になる。 何度も冬を経験しているはずなのに、どうしてか毎年冬がどれだけ寒いかを忘れてしまうし、果たして自分は昨年どんな風に冬を乗り越えたのか、頭からすっかり消え去っていて、あれだけ冬になれと願っていたのに、今ではあの地獄の風呂釜のなかのような夏が恋しい。 それで夏が来たら来たで冬を欲してしまうのだから、四季にうまいこと転がされてるなあと美しい季節の円環が恨めしくもなる。 そんな肌寒い季節の気配を感じ冬への恐怖に慄いた私は、母に頼み冬用のシーツと枕カバー、布団カバーを買ってもらった。 全体的に水のようにやわらかな生地で、撫でるとつやつやと光沢を放つ。巨大な猫のお腹を撫でたらこんな感じではないだろうか。わらび餅にも似ている。 せっかく買ってもらったものだし、なによりその手触りに舞い上がった私は、さっそくそれらを布団に装着した。 これで冬を安心して迎えられる。 安心感に昂るほどけそうな身体をベッドに沈めた私は、猫と戯れる穏やかな夢に誘われて眠りについた。 朝。 何とも言えぬ違和感を感じながら目を醒ました。 昨日の夜、あれだけ心地よく眠りについたのに、裸足に触れるシーツの感触が、今朝には気持ち悪かった。 例えて言うなら、自分になぜか無理をして気を遣ってくれている友人のようなよそよそしさが、肌に巻いてずっと見つめているような感じだ。 足先でどれだけまだ触れていないひんやりとした部分を探そうと見つからなくて、際限なくもふもふした温もりが足を覆うだけだった。 途端、元のシーツが恋しくなる。 冷たさを求めてしまう自分に驚かされながらも、きっと雪が降るぐらいに寒くなれば、 この寝具にしておいてよかったと、また途方もなく思うのだろう。 早く冬にならないかな 足に絡みつく時期尚早のやさしさに、あれだけ恐れていた冬が少しだけ楽しみになった。