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Wantedly Journal | 仕事でココロオドルってなんだろう?

Special

現代における落語のあるべき姿とは? 落語家 瀧川鯉斗の見据える落語界の未来

二ツ目昇進から7年。次世代の落語界を切り拓くためにできることとは

2017/03/14

落語家の瀧川 鯉斗(たきがわ こいと)さんにインタビューしています。前編では、元・暴走族総長である鯉斗さんが落語家を目指すこととなった経緯と、修行時代のさまざまなエピソードについてお話しを伺いました。

前編▶︎暴走族の元総長が、落語に落ちた日-落語家 瀧川鯉斗が語る、人生の舵の切り方とは

後編では鯉斗さんが落語家という職業をどう捉えているのか、そしてどのようなビジョンを持ってお仕事されているのかに迫ります。

落語界に新しい風を

前座を4年務めたのち2009年に『二ツ目』となった鯉斗さん。二ツ目になると毎日寄席に通う必要もなくなり、師匠の家や楽屋での雑用もなくなる一方で高座の数も減ります。そして同時に、自分の責任で高座(仕事)を探さなくてはならなくなるという特徴も。

−二ツ目になることはプレッシャーではありませんでしたか?

「そういう人もいるみたいなんですけど、僕は『わーやった〜!』という感覚でしたね。当時は二ツ目と言っても前座の延長くらいにしか思っていなくて、プレッシャーというよりはただただ嬉しかった。

でも、お客さんの見る目が変わったなというのは本当に感じました。前座時代は、噺の間もお弁当を食べながら見ていたりするのに、二ツ目になったらすごく真剣に聞いている。すごく見られているんですよ。ある意味品定めされているのだと思います。あと、4年間の修行の動作が染み付いているので1、2ヶ月は全然習慣が抜けなかったですね。高座でも、自分で座布団をひっくりかえして戻っちゃったりしていました」

※前の演者が終わったあと次の演者が上がる前に高座へ出て座布団をひっくり返し、羽織や湯呑みがあれば片付け、次の演者の 「めくり」(演者の名前を書いた紙の札)をかえすまでを「高座返し」といい、前座がおこなう。

−二ツ目になって8年目ですが、心持ちに変化はありましたか?

「今はようやくやりたいことができているという感覚です。二ツ目というのは要するに個人商売なので自分のビジョンさえしっかりあればちゃんとそっちに向いて行くと思っていて。一緒に前座時代を乗り越えてきた仲間たちと切磋琢磨してお互いに引っ張り合っていきたいという思いもあるので、今は二ツ目としての責任を感じています」

−ご自身のビジョンというところについてもう少し詳しく教えてください。

「落語の世界は狭いため、どうしても閉鎖的な側面がでてきてしまいます。なのでもっと広くいろいろな人に知ってもらうためにはどうしたらいいかというところを考えるようにしています。歌舞伎など他の伝統芸能もどんどん新しいことをやって変わっていってる。だから落語でももっと何かできることはないかと模索しています。

たとえば渋谷には“初心者でも楽しめる”と銘打った『渋谷らくご』という落語会があって、若い人がふらっと立ち寄ってくれるようなところなんです。そこで落語をするときは、とっつきにくいものじゃなくてわかりやすい噺を選んだり、落語は初めてという方が多そうだったら小話を入れながら噺をしたりしています。気軽に聞いて帰ってくれたら嬉しいですし、落語は敷居が高いものじゃないんだよって伝えたいんです。

もちろん伝統的な部分も大切にしたいので、歴史ある寄席で落語をするときは、オーソドックスな噺を選びますね。お客さんの年齢層も違うのでそれぞれに合った小噺をはさめるように工夫しています。そうやって伝統を守りつつ、新たな領域も開拓していくということをやりたいんです」

−落語界に新しい風を呼び込みたいということですね。

「やはり時代が変わればいろんなことが変わると思うんです。今の時代にあったことを落語として伝えていきたいなって思います。僕は、そうやってどんな工夫ができるか考える過程が楽しくて。小遊三師匠のまた師匠の遊佐師匠が『一生勉強だ』って言っているんですが、本当にそうだなと。これが一生続くんだろうなと思います。

ただ、ずっと同じことをやっていくということではありません。たとえば去年自分がやっていたことと今の自分のやっていることって、おそらく全然違うと思うんです。でもそれって、目標はぶれていないんですけど、それにむかってプラスになるなと思うものがあれば寄り道もするし、挑戦しているということなんですよね」

現代に迎合する落語界のあり方とは何か。それを模索する中で、ぶつかる壁もあると鯉斗さんは続けます。

「今までのやり方を守っていくほうがいいという意見もあります。それは昔も今もあることで、かつて小遊三師匠がそうやって新しいことをやっていたとき、まわりからすごく怒られていたということを聞きました。

僕のまわりには、そんな中でも新しい挑戦を続けている人ばかりです。先輩の落語家たちもすごく試行錯誤していますが、彼らは今の感性もわかるし昔のことも知っているのですごく勉強になるし励まされます。

幸いなことに、同門では僕らが今やっていることは暖かく見守ってもらっています。この先さらに下の世代ではまたいろいろと状況が違ってくると思うんですけど、僕もそのときは、新しいことにチャレンジしている人を応援したいと改めて思いました」

ラスボスは「師匠」

二ツ目としても順調にキャリアを重ねてきた鯉斗さん。落語界に飛び込んだかつての自分と比べて、どんなところが変わったと感じるのでしょうか。

「謙遜することを覚えました(笑)。昔は“オラオラ”で向かうところ敵なしみたいな状態だったので、師匠にも常々『謙虚さが無い』と言われていました。でも師匠についてまわっているうちに、師匠の腰の低さがうつったんですよね。師匠は僕に謙虚さを与えようとして、身をもって示してくれたのだと今はわかります。

暴走族だったときもそうなんですが、正直落語も最初は勢いでやっていた節があって。でも当たり前ですが、今はもう違います。落語という文化を誤解なく伝えるためにもきちんとしなくてはという意識がつきましたし、仕草などもひとつひとつ気を使うようになりました。

そしてどうしたら伝わるか、どうしたら楽しんでもらえるかというのを考えるようにしています」

−今は落語の文化を守り育てたいという使命感があるのですね。

「はい。あとは、最終的な目標に『師匠に勝つ』というのもあります。失礼を承知で言うと、師匠もある意味ライバルなんです。落語に関して、師匠はラスボスですね。勝つためにはどうしたらいいんだろうということを常々考えています」

−既に「ここは勝っているな」という部分はありますか?

「背の高さくらいですかね(笑)」

−(笑)次に目指すは真打ちですね。二ツ目の間に成し遂げたいことはありますか?

「もっと世間に自分の存在を知ってほしいです。前に小遊三師匠がぼそっと言った『お前が60、70歳のときに寄席ってあるのかなあ』という言葉がすごく頭に残っていて。それまではそんなこと考えたこともなかったんですよ。確かに今落語を取り巻く環境のことを考えたら、本当に頑張らないといけないんだよなあって。そのためにはやはりもっと世間に知ってもらう必要があると気づきました」

瀧川鯉斗にとっての「落語」

たとえばライターであれば、原稿を書いて納品すれば仕事として成立するわけなのですが、落語家というのは成果物が目に見えるわけではありません。良い仕事ができたか、できなかったかというのはどのように判断するのでしょうか。

「落語はライブなので、その場で『良かったよ』と言われればそれで成立します。それに会場の空気でお客さんが楽しんでくれているかどうかはある程度わかりますね。もし何かだめなことがあっても、次で巻き返せるのもライブの醍醐味と言えると思います」

−鯉斗さんにとって落語は“仕事”という感覚なのでしょうか?

「仕事という感覚とそうじゃない感覚、両方あります。こういうときは仕事だなと思うのは、舞台に上がるときですね。お金をもらっている以上は落語をフルに出して落語界を盛り上げなくてはいけないという責任感がありますし、単純にお客さまが笑ってくれたらいいな、感動してくれたらいいなということも考えます」

「あとはもう、生活の全てが落語につながっているので、そういう意味では仕事という感覚はないですね。寄席に行くのも、家族に会いに行くような感覚ですし。師匠や先輩たちの話を聞いているだけでいろんなことが勉強になるし楽しい。落語が生活そのものなんです」

さらに、プライベートの時間も全て落語に返ってくるのだと続けます。

「たとえば師匠は、普段仕事で関わることのないようなお客さんから、いろいろ話聞いたり話したりしたことが枕になっていたりします。そういう姿を見てきて、落語家とはなんぞやというところを学んだんですよね。

僕の場合は趣味でサーフィンをするんですが、そういう遊びの時間も枕のネタになったりします。渋谷らくごに来るような若い方にはサーフィンネタも楽しんでくれるのでいろいろチャレンジできます」

−イケメンであることを取り上げられる機会は多いかと思うのですが、ご自身としてはどういった落語家像を目指していますか?

「やっぱり噺がうまいなって思われたいです。もちろんイケメンと言われることは嬉しいことですが、僕は最終的に師匠のようになりたいので。師匠は、とにかく表現力がすごいんですよ。そこに尽きます」

−鯉昇師匠は噺だけでなく表情だけで笑わせることもありますよね。

「そうですね、顔もあんなふうになるのが最終目標ですね…(笑)師匠の研究熱心な姿をずっと見てきているので、そういう姿勢も含めて目標です」

師匠をライバルと言いつつ、最終的な目標であるとも語る鯉斗さん。これまで師匠の背中を見つめながらここまで一心不乱に駆け抜けてきた鯉斗さんならではの発言だと思いました。

お話を伺っていて感じたのは、鯉斗さんは本当に竹を割ったような気持ちの良い方だということ。きっと多くの人が足踏みしてしまうような局面も、自らの信じる道であればすたすたと歩みを進めていくような方なんだろうと感じました。鯉斗さんの切り拓く落語界の未来はどのようなものになるのか、とても楽しみです。

Information

『鯉斗五十番勝負』Vol.5

出演:瀧川鯉斗、柳亭市弥(ゲスト)
日時:3月26日(日)15:30開場、16:00開演
会場:楽器cafe http://gakki-cafe.com/access/
入場料:2,000円( 1 ドリンク付き)
チケット購入方法 / 予約方法:
http://bit.ly/2mZebG9 
公演のお問い合わせ先:03-5577-4108(楽器cafe)

瀧川鯉斗がこれまで稽古をしてきた50席の演目から、会場にお越しいただいた、あなたのリクエストを演じる「鯉斗五十番勝負」!!
Vol.5は「紺屋高尾」を披露!ゲストは話題のイケメン噺家・柳亭市弥!!

落語初心者で、演目の内容を知らない方も大丈夫!
50席の簡単なあらすじを書いたリクエスト表を当日お配りします!

瀧川鯉斗ファンのあなたも、そうでないアナタも、お好きな演目を鯉斗に語らせてください!
※当日はCS放送『寄席チャンネル』の収録が行われます。


Interviewee Profiles

瀧川 鯉斗(たきがわ こいと)
落語家。公益社団法人落語芸術協会所属。愛知県名古屋市出身。高校時代からバイクに傾倒し、17歳で地元暴走族の総長となる。2002年、役者になることを夢見て上京。新宿の飲食店でアルバイトをしているときに現在の師匠瀧川鯉昇の落語独演会を見て感銘を受け、すぐに弟子入りを直訴する。2005年に前座。2009年4月、二ツ目昇進。伝統的な落語を大切にしつつも、現代において落語はどうあるべきなのか模索奮闘中。

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