3ヶ月で日本市場にリリース——SMA患者と神経内科医をつなぐアプリをゼロから設計した話
2023年秋、Biogen Digital Healthから依頼を受けました。
脊髄性筋萎縮症(SMA)という希少疾患の患者向けに、症状の変化を記録するモバイルアプリを設計してほしい——そして、3ヶ月以内に日本市場でリリースしてほしい、と。
短い案件でしたが、責任の重さは並みではありませんでした。
なぜこのアプリが必要だったか
SMAは、筋肉を動かす運動神経が徐々に失われていく進行性の疾患です。Biogenは効果的な治療薬を提供していましたが、治療の負担が大きく、患者がより手軽な競合製品に乗り換えるリスクが日本市場で高まっていました。
Biogenが選んだ対応は、治療を簡略化することではありませんでした。治療の価値を、患者自身が目に見える形で把握できるようにすることでした。
「自分の体の変化を、時系列で記録し、 神経内科医との診察に具体的なデータを持っていける」——そういうツールを作ることが、このプロジェクトのミッションでした。
まずFigmaを開く前に
私はSMAについての知識をゼロから持っていませんでした。だからこそ、設計を始める前にやるべきことがありました。
科学論文を読み、臨床レポートを調べ、そして最も重要なこととして、SMAを専門とする日本の神経内科医と話しました。
その会話で明らかになったのは、患者が症状の変化を正確に認識するのが難しいという問題でした。「以前の自分がどういう状態だったか」という基準がないまま、少しずつ悪化していく変化に気づけない。そして、気づいていても、診察室でうまく言葉にできない。
この会話が、その後の設計のすべての基盤になりました。
-5から+5という設計判断
アプリの中心的な機能はシンプルです。月に一度、患者がいくつかの質問に答えます。
「スマートフォンを難なく操作できますか」「コップを持てますか」「廊下の端まで歩けますか」
答えは-5から+5のスケールで表現します。0が変化なし。プラスが改善。マイナスが悪化。
この数値がグラフになることで、患者も神経内科医も、数ヶ月単位の変化を一目で把握できます。この-5から+5というスケール設計が、設計上の最も重要な判断だったと今でも思っています。
もし0から10のスケールにしていたら、患者は「悪化している」という実感をうまく表現できなかったかもしれません。プラスの方向にしか進めないスケールは、暗黙的に「よくなっていくはずだ」と前提しているからです。SMAの現実は、そうではありません。
この設計判断は、神経内科医との会話なしには生まれませんでした。
3ヶ月、3スプリントでリリース
コンセプトをFigmaでインタラクティブプロトタイプとして構築し、医療アドバイザーと検証した後、開発チームとの協働に移りました。
2週間スプリント × 3回。医療アプリを3ヶ月で日本市場にリリースするのは、決して余裕のあるスケジュールではありません。スコープのすべての判断が、直接タイムラインに影響しました。
それでも、アプリは予定通りにリリースされました。App StoreとGoogle Playで日本のユーザーに届いています。
このプロジェクトで学んだこと
希少疾患のユーザーのために設計するのは、ふつうのプロダクト開発とは種類の違う責任があります。
ユーザーは、チェックアウトフローが使いにくいことに苛立っているのではありません。体のほぼすべての動きに影響を与える疾患と向き合いながら、医療システムの中で自分の声が届かないと感じている人々です。
タイムラインが短いとき、ドメイン知識を学ぶステップを省略したくなる誘惑があります。
でも、このプロジェクトで確かめたのは逆のことでした。専門家と話してから設計を始めることが、最終的に最も時間を節約する方法だということです。そして、プロダクトを「正直なもの」にする唯一の方法でもある、と。