スペインの海岸(角田篤志)

2002年11月のこと。スペインの西沖に沈没したタンカーから重油が流出し、ガリシアの海岸を汚した。1997年の事故で福井県の海岸が汚染された時とまったく同じ光景が伝えられた。漁民、ボランティアの人々が手作業で重油を除去した。

汚染が広がるスペイン北西は、乾燥した平原の景色で想い浮かべられるスペインとまったく異なり、巨岩の連なる山塊がそびえる。ピコス・デ・エウロパ(ヨーロッパの頂)=2648メートル=のような高い山をもつカンタブリア山脈に踏み込むと、雲をつく岩石の迫力に圧倒される。これらの山々は、八世紀、イベリア半島を北上してきたイスラム教徒軍の侵入を阻み、キリスト教徒を守った。

カンタブリア山脈の南面を縫って、東のピレネー山脈から西のサンティアゴ・デ・コンポステラへと「巡礼の道」が続いている。というのも、九世紀初め、北へ追いつめられたキリスト教徒たちはこの地に、十二使徒の一人、聖ヤコブ(スペイン語でサンティアゴ)の墓を見つけたからである。彼らは、パレスチナで殉教したヤコブの遺骸が小舟に乗せられ、地中海を漂流し、大西洋のガリシア海岸に流れ着いたという伝承を持っている。今、タンカーが沈む地は聖ヤコブの遺骸が漂着したと言われる海岸沖である。

サンティアゴ(聖ヤコブ)の象徴はホタテガイ。彼の棺にはホタテガイがびっしり付いていたとされている。こうして星のサンティアゴは、中世ヨーロッパにおいて、ローマ、エルサレムに並ぶ三大聖地のひとつに数えられるようになった。今もなお巡礼者は杖をつき、ホタテガイを首にかけ、ほぼ一カ月、東のバスクからガリシアへの巡礼の道を歩き通す。

巡礼の道に沿って、カンタブリア山脈の北の海岸ぞいに重油が流れ着いている。千年前、サンティアゴはキリスト教徒の守護聖人となった。現代スペイン人は、ホタテガイを覆う黒い重油に、どのような物語を作るのだろうか。神は死んだのか、神はエネルギーの浪費に怒っているのか。


角田篤志
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